真実「わたし、もう一度旧校舎に行きたい!」
 真実がこう言い出すのも、当然と言えば当然の事だっただろう。そして、この一言が、ボクを摩訶不思議な世界へと引きずり込むことになるのだった…。

摩訶不思議探偵局〜続・7つ目の惨劇〜外伝

真解「やめろ、真実。妙なこと考えるな」
真実「え〜、だってさぁ、あの幽霊みたいな子、どう見ても本物だったじゃない! あの時は怖くてみんなして逃げ出したけど…会いたい! 幽霊に!」
 前から思ってたけど…真実って結構わがままなところあるよな…。
 ここはボクと真実の部屋兼摩訶不思議探偵局。ボクら4人は、いつものようにここに集まって、和気藹々と遊んでいた。そこで突然、真実がこんなことを言い出したのだ。「旧校舎に行きたい」と。
謎事「さすがのオレも、さすがにアレは…」
謎「・・・・・・・・・・・・・」
 メイはもはや、恐怖に凍り付いている…。真実、やめろよ。
真実「わたしは、なんとしてでもあの幽霊の子の正体を暴きたいのよ!」
真解「あれは…」
 やっとこさ、口をはさむ隙が出来た。
真解「あれは確かにトリックだろう。だが…」
 やめた方がいい。なんとなく直感でそう感じるのだが、そういう前に真実が言った。
真実「トリックなら、なおさらその正体を暴かないと!」
 こう言われると、ボクはもう反論できない。
真解「……………わかったよ。行けばいいんだろう」
真実「やった! 謎事くんは?」
謎事「いや、オレは…。ほら、メイちゃんだって行きたくないだろ?」
謎「え、ええ……」
謎事「だから、オレはメイちゃんと2人で真解たちが帰ってくるの待ってるよ」
謎「…別に、“2人”で待っている必要はないのでは?」
謎事「え?」
謎「ほら、行くのは夜でしょう? わたしも謎事くんも、家に帰っておいた方が…」
謎事「あ、ああ、なんだ、そういうことか」
 どうやら謎事は…「わたしは待ってるから、3人で行ってきてください」と言われると思ったらしいな。
真実「大丈夫よ、ほら、8人もいるんだから!」
真解「待て。8人って…あいつらも連れて行く気か!?」
真実「ダメ?」
真解「あ、いや…あの4人が良いって言えばいいけど……」
謎事「でもたぶん、良いって言わねぇんじゃないか?」
真実「ん〜…たぶん、真澄ちゃんは来ると思うんだけど…」
真解〔あと、澪あたりも来そうだよな…〕
真実「とりあえず、全員に電話して聞いてみる。で、メイちゃんは…来る?」
謎「わたしは……遠慮しておきます」
謎事「オレもやめて…」
真実「謎事くんはダメ。来るの」
謎事「そ…そんなぁ!!」
 謎事…哀れだ。

 事の起こりは去年の夏。どちらかと言うと夏の終わりだが、同級生の那由他 真直がボクらに話しかけて来た。彼とは以前に修学旅行で同じ班だった事もあって(そしてそこで事件に遭遇したこともあって)、親友と化している。そして、真直の提案が「遊学学園の七不思議を解こう」と言うものだった。ボクらが通っている遊学学園は、名前こそ最近改名したがその歴史は古く、明治時代初期からあるため、旧校舎もあるし、何らかのウワサも生まれるわけだ。まぁ、学園の話はどうでも良くて、話を元に戻す。それで、真直の提案をボクが拒否すると、同じく同級生の江戸川 真澄、霧島 澪、高麗辺 澪菜が登場。彼らも真直と同じく一緒に修学旅行に行ったメンバーで、いまではすっかり親友だ。彼らの巧みな説得により、ボクは思わずその提案に乗ってしまったわけだ。そして、その日の夜。ボクらは7つのうち6つのナゾを解き、いよいよ最後の7つ目を解こうとしたら、どう見ても本物の幽霊と遭遇してしまい、慌てて逃げ出した…というわけだ。その7つ目の不思議と言うのは…。
「夜中に旧校舎付近に立つとどこからともなく可愛らしい少女の笑い声が聞こえ、旧校舎の2階の西端の窓に可愛らしい少女の霊が映る」
 かなり長いが、こういう不思議だと言う。そして、ボクらは間違いなくこの少女を見た。青白く光っていて、少し透き通っていて…いま思い出しても寒気がする。真実は、この少女のナゾを解こうと言っているのだ。まったく……。
 詳しくは、「七つ目の惨劇」をお読み下さい。

その日の夜。
真解「で…なんで8人来てんだよ?」
 ボクは思わず7人の顔を見て言った。
 真実、謎事、メイ、澪、真澄、澪菜、真直……立派に、あのときの全員が集合している。
真直「だって、『元はと言えば、あなたが言いだしっぺでしょ?』なって言われたら、断れないじゃないか!」
 真実…結構賢いな…。
 ボクはため息をつきながら頭をかいた。まぁ、何人いたって別にいいだろう。…しかし、なんでメイまで来れたんだ?
謎「だって…皆さんが行くのに、わたしだけ待っていると言うのは寂しいですし…」
 まぁ、それもそうか…って、なんでボクの考えが読めるんだよ!?
 ボクはまたため息をついた。
真実「それじゃ、みんな準備いい?」
 真実は7人の顔を見渡した。おそらく、ここで「よくない」と言っても、強制決行されるだろう。
真実「それじゃしゅっぱ〜つ!!」
 真実が既に閉まっている校門を乗り越えた。ボクらもそれに続いて乗り越える。ああ、いま警備員に見つかったら、すごいことになるだろうな…。

旧校舎前
真解「前回はこの辺に立ったとき、少女の声が聞こえたんだよな?」
真実「そう」
 ボクら2人だけの会話だ。他の6人は震え上がっている。
真実「早く聞こえてこないかなぁ?」
 なんでこんな元気なんだよ、真実は…。ボクですら、今すぐ逃げ出したいぐらいだぞ…?
 そう思ったときだ。あのときの、あの声が聞こえた。
「クスクスクスクス…」
全「!?」
 ボクらは一斉に、旧校舎の2階の、西端の窓を見た。するとそこには…
真解「『可愛らしい少女』…?」
 また現れた。青白く光り、少し透き通っている少女…。白い、半そでのワンピースを着ていて、屈託のない、ちょっといたずらっぽい笑顔でこちらを見ている。もしも人間の少女なら、かなり可愛い部類に入るに違いない。
 と、少女が消えた。
澪「き…消えた…?」
 ボクらは全員、足がすくんだ。メイなんか、失神寸前だ。
真解「あり得ない…」
 ボクはそう呟いて、歩き出した。
真澄「ど…どこ行くの?」
 聞いてきたのは真実ではなく真澄だった。…どっちにしろ、一字違いだが。
真解「決まっている。旧校舎の中だ。あれは絶対、何らかのトリックだ! 霧の中に映写機で映像を映す…どこか遠くから、窓ガラスに映写機を使って映す…方法はいくらでもある! そのトリックを…暴いてくる。絶対に!」
 オレは、更に足を進めた。
真解「みんなはここで待っていろ。オレ1人で…暴いてくる!」
 オレはドアを開けて、中に入った。バタン、とドアが閉まると、中は真っ暗で…そして、恐ろしいほど静かだった。だが、逃げ出したい気にはならなかった。不思議なことに。

旧校舎2階西端
 オレは懐中電灯を振り回し、辺りを見ていた。誰もいない。映写機も見当たらない。窓から下を見ると、真実たちがこちらを向いている。7人ちゃんといる。オレは視線を室内に戻した。さっき幽霊が見えたのは、この辺りのはずだが…。
「クスクスクスクス…」
真解「!?」
 オレは声に驚いて振り返った。するとそこには…。
真解「な…」
 紛れもない『可愛らしい少女』がいた。なんとなく青白く光り、透き通っている。窓の外が覗ける。懐中電灯の光を当ててみたが、薄くなったりはしない。映写機説はこれで消えたことになる。
少女「懐中電灯なんて、しまって」
 喋った。それにあわせて、ちゃんと口も動く。
真解「しまったら、真っ暗じゃないか」
少女「大丈夫だよ」
 少女は懐中電灯に手を伸ばした。オレはさっと身をひるがえして、聞いた。
真解「誰だ? お前は誰なんだ?」
少女「その前に、お前こそ、誰だ? この学校の生徒か?」
 可愛らしい声で、横暴な言葉を使う…。おてんばお姫様、とでも言うべきか…?
真解「オレは、実相 真解。この学校の中学2年だ」
少女「ふぅん…」
 少女がうなずいた。「で、」とオレは仕切りなおした。
真解「お前は誰なんだ?」
少女「……そんなことより、一緒に遊ぼ」
真解「遊ぼう…?」
 少女はぐい、とオレの腕を引っ張った。弾みで懐中電灯を落とす。が、拾っている暇はなかった。オレは少女と共に教室に入った。中はちゃんとクラス人数分の木の机と椅子が置いてある。黒板も健在だ。
 …って、ちょっと待てよ。いま、確かに腕に感覚があった…腕を引っ張られた…。
真解〔どういうことだ!? 体は確かに透き通っている…誰か人間が、塗料かなんかで体を青白く光らせているわけではない…。じゃぁ、いったいどういう仕組みなんだ…?〕
 オレは少女をまじまじと見た。少女は気付かず、教室の奥へと行き、空気が抜けてベコベコのボールを拾い上げた。クルリと振り返り、また戻ってきた。…あれ? いま、足音、したか…?
少女「いままでずっと1人で遊んでた…。これで遊んだり、校舎の外に人が来たら、脅かしたりして…。だけど、ここに来たのはお前が始めてだ。遊ぼう」
 少女はニコッと笑った。一瞬、ドキリとした。
 少女はちょっと離れて、ボールを蹴って遊びだした。体は完全に宙に浮いていたが、足はある。ボクの方にボールを蹴ってきた。ボクはそれをうまく受け止め、蹴り返す。少女もそれを、うまく受け止めた。
少女「結構うまいな、お前」
真解「どうも」
 少女がまた蹴ってきた。
少女「なぁ、お前」
 蹴りながら、少女が言った。
少女「愛に年齢差は関係ないと思うか?」
 は?
真解「別に、ないと思うが?」
 ボクは受け止めながら答えた。いきなりなにを言い出すんだ、この少女は。
 ボクが蹴り返すと、少女は受け止め、また言った。
少女「じゃぁ、幽霊と生きている人間の恋愛は許されると思うか?」
 は? この少女は…なんのつもりで、こんなこと聞いて来るんだ? まさか、この学校の生徒のダレかを…?
真解「…幽霊なんか、この世に存在しない。だから…その質問は、答えることが出来ない」
少女「それじゃぁ…あたしはなんなの!?」
 少女が急に叫んだ。目にうっすら涙を浮かべている。
「トリックだ…」
 そう言いたかったが、何故か言えなかった。とてもトリックに思えないからか? いや…おそらく、そうではない。だが…じゃぁ、何故言えないのかわからない…。
 ボクが黙っていると、少女が話し出した。
少女「あたしは…幽霊になってから、ずっとここで暮らしてきた。だけど…ここには、他に誰もいない。脅かしてたからだと思うけど、誰もここには来なかった…」
 この少女は…ずっと、誰かに来て欲しかったのか…?
少女「そこに、お前が来た…嬉しかったぞ」
真解「あ…そ、そうか…?」
少女「……お前、ちょっと目をつぶれ」
真解「え?」
少女「いいから、つぶれ」
真解「あ…ああ…??」
 わけがわからなかったが…とりあえず、ボクは目をつぶった。ポテッと言う、ボールが落ちる音がした。そして、少しして、唇に何か冷たいものが触れた。
真解「!?」
 ボクは思わず目を開けた。目の前に、少女の顔があった。
 まさか、キスされ――

 そこでボクは、目を開けた。
真実「あ、良かった! 目が覚めた!!」
 すぐ上に、真実の顔があった。…夢だったのか? いまのは。
 ボクは起き上がった。周りを見ると、7人全員いる。そしてここは…教室だ。しかも旧校舎の。
真解「なんでみんな…?」
澪「30分近く経っても真解が出てこなかったからな。心配になって入ってきたんだ」
真解「へ?」
 って事はいまのは…?
真澄「なんで教室で寝てたの? 廊下にはスイッチが入ったままの懐中電灯が落ちてたし…」
 廊下に懐中電灯…?
 ボクは思わず、教室の真ん中辺りに目を向けた。あの、ベコベコのボールが落ちていた。間違いない…あの少女が持っていたものだ…。
 真実たちがボクに何か話しかけてきているが、もはやみんなの声はボクには聞こえていなかった。
 あれが…さっきまでのことが…全て現実だったのかもしれないのだ…。
 ボクは思わず、唇に手を持っていった。 …まだ、なんとなくあの少女の唇の感覚が、残っている気がした…。

――クスクスクスクス…――

Finish and Countinue

〜舞台裏〜
あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!! 恥ずかしかったぁ〜〜!!(黙れ
あぁ、書き終わってもまだ、動揺してます!!
そんなわけで今回のゲストは、真解くん!
真解「ゲスト出すのかよ!?」
そっちの方が、少しはこの恥ずかしい感じが薄れるかな、と。
真解「ボクだって恥ずかしいよ!」

今回は、あえて真解の一人称で書いてみました。
真解「なんでわざわざボクの一人称にしたんだ?」
よくぞ聞いてくれた! 今回は真解の微妙な心境の変化を書かなきゃならなかったからね。だからあえて。
真解「ふぅん」
でも、いつも推理するときは真解の一人称の文章がいっぱい出てくるし、さほど抵抗もなく書けたね。…あのシーン以外は。
真解「てめぇ…なんであんなことさせたんだ?」
いやね、今回の話のヒントは、以前後輩Iに出された心理テストが元になってるんだ。
真解「どんな心理テストだったんだ?」
『あなたはいま、階段を下りています。すると、下から誰か異性が上って来ました。さて、それは誰でしょう?』と言うもの。
真解「で、お前はなんて答えたんだ?」
それでボクは、あの旧校舎の幽霊少女を思いっきり連想しながら『幽霊の少女』と答えたんだ。するとなんとその心理テストの結果は…
『それは、あなたのファーストキスの相手です』
真解「…………だからボクに…」
ご名答。
真解「なんでてめぇの心理テストの答えを、ボクが代わりに請け負わなきゃならないんだ!?」
だってほら、実際に幽霊とキスなんてできっこないし…。それに君は主役だし。
真解「関係ないだろ主役は…」
だけどまぁいいじゃん。『ドキリとした』んでしょ?
真解「〜〜〜〜〜〜!!」
しかし真解…相上 育覧と言い、今回の幽霊少女といい、若干ロリコンの気がないかい?
真解「なんでだよ!? ってか、別に育覧のことは好きってわけじゃ…」
おやぁ? 抱きつかれて『抱きしめたいかもしれない』と思った奴が何を言う?
真解「〜〜〜〜〜!!」
そろそろ、真解が本気で怒りそうなので、この辺で。

作;黄黒真直

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