摩訶不思議探偵局〜近未来体験ツアー殺人事件〜
レギュラー以外の登場人物
三谷伸也(みたみしんや)…【船長】
柴和則(しばかずのり)…【操縦者】
塩澤謙哉(しおざわけんや)…【操縦者】
水谷航介(みずたにこうすけ)…【船医】
事谷哲雄(ことたにてつお)…【乗務員】
小島信(こじましん)…【乗客】
円谷高次(つぶらやこうじ)…【乗客】
片桐神子(かたぎりみこ)…【乗客】
はしがき;さて、一体誰が殺されるでしょうか??

摩訶不思議探偵局〜近未来体験ツアー殺人事件〜事件編

三谷「え〜、まもなく軌道に乗ります。すると、無重力状態になります。あ、そうそう。無重力状態になる直前、椅子の背もたれを倒すので、注意してください」
 三谷が声を張り上げて言った。
真解(もう入るのか…早いな)
 真解は現代科学に感心したようである。
水谷「無重力状態だと、気持ち悪くなるかもしれません。もしそうなったら、すぐにわたしに言ってください」
三谷「では、わたしはそろそろ船員室に戻らなくてはならないので、この辺で」
事谷「わたしと水谷は、ずっとここにいるので」
真実「いつから無重力になるんですか?」
三谷「もうすぐです」
謎事「早くならねぇかなぁ??」
 謎事がそう言った瞬間、バタン! と椅子の背もたれが倒れた。と、同時に謎事もぶっ倒れ、頭をうった。
謎事「な……なんでオレだけ…??」
 謎事が目を回していると、体が急に、あのジェットコースターの落ちる時のような、フワッと言う感覚に見回れた。
真解「!?」
謎「無重力状態、突入…」
真実「え!? 本当!?」
 真実が床を軽く蹴った。と、フワッと体が浮き、そのまま天井まで浮いた。真実は大興奮。それが合図のように、みな、同じようにしてフワッフワッと浮いて行った。
円谷「おお、浮く浮く……」
片桐「キャッすご〜い!!」
小島「いいよなぁ…彼女がいる奴は…」
真解(あんた、いくつだよ??)
謎事「でも…すごい…本当に浮く!」
 みな、無重力状態を楽しんでいる。
 ちなみに、ここでは「浮く」と言う表現を使っているが、実際には宇宙なので、浮くも落ちるもない。ちなみに、「無重力状態」と言うが、実際には地球の重力から抜け出しているわけではなく、宇宙船が地球に向かって落ちているのだ。しかし、宇宙船は地球の周りを猛スピードで回っているため遠心力が起こり、地球の重力(地球へ行こうとする力)と遠心力(地球から離れようとする力)がちょうど同じになり、±0となって、無重力のように「感じる」のだ。
 そんなことはどうでもいい。真解は気になっていた疑問を事谷にぶつけた。
真解「そうそう、事谷さん」
事谷「なんですか?」
真解「あなた…本当は、どういう仕事なんですか? 本当にお付き役とは思えないんですけど…」
事谷「おお、勘がするどいね。ワタシは水の管理係です」
真解「水の管理?」
 真解が不思議がってオウム返しに聞いた。
事谷「ええ。水の管理」
真解(そういえば、注意書きにも水筒持込禁止って書いてあったな……)
 そんな事を考えながらも(って、考えてるのは真解だけだけど)、みな無重力空間を満喫しているようだ。
 そんな、はしゃぎまくりの夜のことだった……。

次の日の朝。
 朝と言っても、宇宙空間なのだから、朝も夜もへったくれもない。
 何しろ宇宙船(スペースシャトル)は約80分間で地球を一周しているのだから、単純に考えれば80分間ごとに日の出日の入りを繰り返していることになる。そのため、旅行者ようの寝室には、窓が取り付けられていない。
 その為、広大な宇宙を眺めながら眠るという真実の夢は、見るも無残に砕け果てた。無重力だから、寝室以外の部屋では体を固定できず、とても寝られたもんではない。
 なんて、そんなことはどうでもいいのだ。真解は目が覚めた。
 宇宙だから仕方が無いことなのだが、起きた瞬間からジェットコースターの落下時の感覚である。あまりいい目覚めとは言えない。
真解(なれりゃぁ、なんとかなるのかな?)
 真解は布団からはいでてカーテンを開けた。目の前にはドアがあるのは別にいいが、天井と床にベッドがあるのは、なんとも変な感じである(無重力だから、床も天井もないのだ)。
 真解は食堂…と言うか、最初に搭乗していたところに行った。
 そこには既に、船長とパイロット、そして小島を除いた全員が来ていた。
真実「あ、お兄ちゃん、おはよう」
真解「おはよう」
 真解はものすごく眠そうに言った。
謎事「真解……眠いのか?」
真解「寝起きだしな」
片桐「目覚めの良い目覚めをしなくちゃダメよ?」
謎「その為には、90分単位で眠るといい、とよく言いますよね。90分の倍数の時間、眠るんです」
真解(そんな無茶な……)
謎「それが無理なら、朝起きて顔を洗うとか…」
円谷「そう、オレはいつもそれを習慣にしてるのに…宇宙だから、顔が洗えないんだよ」
事谷「宇宙で顔なんて洗ったら、死にます」
謎事「ところで…席が一つ余ってるのはなんでだ?」
 謎事が食堂内を見渡して言った。
水谷「ああ、小島さんですね。どうしたんでしょうかね?」
真解(宇宙の一人旅の人か…)
 真解は何の気なしに朝食を食べ始めた。本当は行儀が悪いのだが、腹が空いていることだし、別に良いだろう、と自分に言った。
水谷「呼びに行って来るかな…? 気持ち悪くて倒れてるのかもしれないし」
真解(宇宙なんだから倒れるも何もあるんだろうか…? ってか、寝てるわけだから倒れようが無いんじゃ…)
 そんなことを考えながらも、朝食を食べ続けた。
 朝食と言っても、宇宙食だ。なんとなくまずそうなイメージがあったが、なかなか美味しい。
 そんな時、小島を呼びに行った水谷が、顔を青くし、震えながら戻って来た。
真解「ど…どうしたんですか? 水谷さん…」
水谷「し…しし…し…ししし…死んでる」
円谷「は?」
水谷「い、いや、だから…死んでるんですってば!」
円谷「え? 何が…?」
水谷「小島さんが!」
円谷「え…? なんだって!?」
 状況がやっとわかり、円谷は叫んだ。同時の他の人々も叫んだ。凍り付いた。
謎事「な…なな…」
 悲鳴に気が付き、船長三谷が跳んで来た。
三谷「ど、どうしましたか!? なにか…」
水谷「せ、船長!! ともかく今すぐ来てください!!」
三谷「な、何があったんだ?」
 わけがわからないまま、三谷は寝室へ連れて行かれた。無論、真解達もついていった。
三谷「っ…!」
 寝室にある、小島のベッドを見た瞬間、三谷は絶句した。まさか、宇宙で死人が出るだなんて、誰が予想しただろうか?
 小島は、ベッドの上で青ざめていた。眠ったまま死んでしまったせいか、顔は穏やかだが確かに死んでいる。
謎事「なんで死んじゃったんだ? 昨日は元気だったろ?」
三谷「わからん…。おい水谷、お前検死みたいなこと出来るか?」
水谷「え…? たぶん…」
真解「検死なんかよりも、地球へ帰った方がいいんじゃないんですか?」
 真解が言った時、三谷ら船員の顔が強張った。
真解「ど…どうしたんですか?」
 何かまずいことを言ったのだろうか?
 おそるおそる真解が聞き返した。
三谷「実は……早朝に塩澤が言いに来たのだが……壊されているんだ。無線機が」
真解「え? 無線機が…? でも、それが着陸と何の関係が?」
三谷「地球へ帰る予定時刻は、明日の早朝だろう? 予定より早く帰る場合には、連絡しなくては行けないんだ。だが、無線機が壊されたから、それも出来ない」
真実「え…? そうなんですか?」
三谷「ああ。そうだ。仕方が無い。仏さんと一夜を越すしかない…」
 乗客の顔には、「せっかくの旅行気分が…」と書いてある。だが、次の瞬間、真解は恐ろしいことに気がついた。
真解「ま、待ってください…。無線機が壊されたってことは……小島さんは、誰かに殺害された可能性があります」
片桐「えっ!?」
真解「だってそうでしょう? 無線機が壊されるなんて…。壊れるならまだしも、人為的にでしょ?」
事谷「そんな…」
片桐「それじゃあ、殺人犯と共に一夜を越せって言うの!? 嫌よそんなの! 殺されたらどうするのよ!! 連絡なんてどうでもいいわ、早く帰りましょう!!」
三谷「で、ですから、無理なんですってば」
真解「片桐さん、無理な物を騒いだって仕方ありません。でも、共に一夜過ごしても、殺されない方法があります」
片桐「え…?」
 片桐がキョトンとした。
真解「見つけ出すんですよ。犯人を」
片桐「え?」
円谷「み…見つけ出すって…全員でくまなく?」
三谷「いや、しかし…ロケットってのは結構繊細で、ちょっと重さが違うとすぐに飛ばなくなるんだぞ? 部外者が乗っているわけがな……え? 乗っているわけがない…?」
 三谷は自分で言って自分で恐怖を覚えた。
真解「そう、ボクらを含めると、犯人は今この宇宙船に乗っている12人の中にいるんです」
円谷「な……」
 中学2年生が言っているとは思えないような声色で、真解が言った。真解が少年探偵である、と言う事実は探偵団以外は知らないが、それでもそんな雰囲気を掴み取れるのだろう。真解が言うと、こんな信じられないような事まで、信じてしまう。
三谷「……………仕方が無い。地球に帰れないんだ。水谷! 検死だ!」
水谷「え…? いや…でも…」
謎「わたしがやります」
 謎が言った。普通なら「ふざけるな」の一言で片付けられそうだが、今はそんなことは言ってはいられない。みんな謎に頼むことにした。
謎「それじゃぁ、失礼します」
 謎はそう言って、小島の服を脱がせた。
謎「死斑が出ている……。死後2、3時間経っているわね…。おそらく、殺されたのは夜中ね。特にこれと言って目立った外傷は無いし、血も吐いていない…。と言うことは、窒息死、圧死、毒死、溺死、餓死、煙死、凍死……。昨日生きてたわけだから餓死はありえないし、溺死は宇宙空間だから無いだろうし、凍死も無い。毒……三谷さん」
三谷「はい?」
謎「乗る前に持ち物検査しましたよね? もちろん毒なんて…」
三谷「無かった」
謎「ですよね。ってことは、毒殺もなし。圧死か窒息死…。宇宙空間だから、圧死より窒息死の方が殺りやすいハズだから…絞殺ね」
 謎がスパッと言うと、円谷が聞いた。
円谷「え? でも…首を絞めた跡が無いけど?」
謎「首を絞めた跡…いわゆる索溝(さくこう)と言うのは、マフラーのような太くて柔らかいもので絞めると、残らないことが多いんですよ。おそらく、犯人もそれを知っていたに違いありません。だから、それを利用して殺害したんです。又は、手で口をおおう、と言うのも一つの手ですが……それよりも絞めた方がやりやすいし、失敗するリスクも少ないので、おそらく太くて軟らかいもので首を絞めたのでしょう」
真解「太くて柔らかいもの…。三谷さん、そんなもの…」
三谷「ああ、誰も持っていなかった」
謎事「だいたい、宇宙船の中じゃあマフラーなんて使わねぇもんなぁ」
真実「そうよねぇ…」
真解「太くて柔らかいもの……」
 全員が一斉に腕を組んで太くて柔らかいものを考え出した。
謎事「ねぇぞ? そんなもん」
真解「ここであれこれ考えていたってしょうがない。凶器はこの宇宙船内にあることだけは確かだ。よし、みんなで探そう」
 真解の提案に反対するものはいなかった。全員で宇宙船内の大捜索を開始した。

Countinue

〜あとがき(舞台裏)〜
夢中で書いていたら、いつのまにかに規定を超えてしまったキグロです。
今回のゲストは、ヘビースモーカー兜剣さんです!
兜「ども」
兜さんは、警察、と言うことで、出ないこともしばしばです。
兜「何故だ!?」
今回みたいな閉鎖系のこともあるからですよ。
兜「閉鎖系?」
謎「閉鎖系とは、その事件の舞台そのものが閉ざされた空間である事件です。今回の事件もそうですし、よくあるパターンではどこかのコテージかなんかで、周りが猛吹雪に襲われて外に出れないとか…そう言った奴です。それだと犯人も限られた人間の中にしか存在できないわけで、書く側としては楽なわけです」
兜「へぇ……。って、なんで謎嬢が?」
………どうでもいいけど、なんで「嬢」がつくんだ?
兜「別にいいじゃないか」
ジェントルマン……なんて、言われませんよ?
兜「うるさい!」

さて、今回は一応「事件編」と名をうっておいたものの…う〜む、こうなってしまったか。
兜「事件編前編じゃなくていいのか?」
どうだろう?ま、大丈夫でしょう。たぶん。
兜「たぶんって…」
それに「推理編前編・後編」の方が今回の場合はちょうどいいし。
兜「それもそうだな」
どうでもいいが、タバコを吸うのは止めてくれないか?
兜「ヘビースモーカーなんだ」
………絶対に止めさせて見せる。
兜「どうやってだ?」
ボクの描いたキャラクターだ。どうにでも出来る。
兜「………。止めるものか」
止めさせてやる……。

では、次回。

おまけの名句珍言集(謎)「え!?まさか謎事君、実は社長令息だったの!?」
解説;謎事が社長令息だったと言う事実を知って、思わず叫んだときの真実のセリフ。

作者;黄黒真直

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