摩訶不思議探偵局〜近未来体験ツアー殺人事件〜
容疑者リスト
三谷伸也(みたみしんや)…【船長】
柴和則(しばかずのり)…【操縦者】
塩澤謙哉(しおざわけんや)…【操縦者】
水谷航介(みずたにこうすけ)…【船医】
事谷哲雄(ことたにてつお)…【乗務員】
円谷高次(つぶらやこうじ)…【乗客】
片桐神子(かたぎりみこ)…【乗客】
はしがき;やっとこさ、真相編です。

摩訶不思議探偵局〜近未来体験ツアー殺人事件〜真相編
真解「見えた…」
 真解は急いで食堂へ戻った。
真解「みなさん。解りましたよ」
片桐「解ったって…何が?」
真解「犯人が。そして、凶器も」
柴「なんだって!?」
真実「本当に!? お兄ちゃん!」
真解「ああ…。塩澤さんがいないのがちょっとアレだけど…まぁいいや。早速始めましょう」
円谷「始めるって…何を?」
真解「決まってるでしょう。推理ショーですよ」
 真解はニヤリと笑った。
水谷「推理…ショー?」
真解「ええ。今から明かしますよ。この事件の全貌を…ね」
 真解はそう言って、推理ショーを始めた。
真解「まずは皆さん…凶器のことが気になるでしょう」
事谷「ああ、そうだ。凶器は何でどこにあるんだ?」
謎「太くて柔らかい物なんて…どこ探してもなかったものね…」
真解「謎…ボクらはすっかり先入観に騙されていたんだ」
謎「先入観?」
真解「そう。凶器は太くて柔らかい物なんじゃないんだ。ついでに言うと、絞殺でもなかったんだ」
水谷「なっ…」
 全員が凍りついた。今のいままで、絞殺だと信じて疑わなかったと言うのに、いきなりこんなことを言われたのだから。
謎「じゃ…じゃぁ、わたしの検死が間違っていたの!?」
 謎が愕然としながら言った。どうやら、かなり自信があったようだ。
真解「仕方がないよ。それが犯人の目的だからね。殺害方法を絞殺だと思わせ、更に凶器を太くて柔らかい物だと思いこませ、捜査をかく乱させる……よくあるトリックだったんだ」
謎事「で…本当はどうやって殺されたんだ? 凶器はなんだ?」
真解「小島さんは…溺死だ」
全「で…溺死!?」
 この宇宙空間で溺死なんてするわけがない。謎が検死をしている最中にそう言ったとき、誰もが納得していた。絶対にありえない死に方だ、と。なのに、真解は溺死だと言う。無論、信じるわけがない。
円谷「そんな馬鹿な! ここは宇宙空間だぞ!?」
水谷「そうだ。溺れさせるような水槽なんてないし、だいたい小島さんの体は濡れてすらいなかった! 宇宙空間で、どうやって溺死させると言うのだ?」
真解「宇宙空間だからこそ、溺死なんですよ」
三谷「は?」
 真解の言おうとしていることが解る者は、ここにはいなかった。
真実「お兄ちゃん…どういう意味? さっぱりわかんないんだけど…」
真解「真実…一つ、聞くぞ? 宇宙船内で水をこぼすと、なんで危険なんだ?」
真実「え? 機械やらなんやらの細い隙間に入ってショートを……あ」
真解「解ったか?」
 真解はまたニヤリと笑った。
 しかし、まだよく理解していない人間もいるようだ。
三谷「ど、どういうことかね?」
真解「つまりですね……。こういうことは、ボクより真実の方が詳しい。真実」
真実「はい☆ じゃ、わたしが代わりに説明するね」
 真実は元気に説明を始めた。
真実「え〜、宇宙では、水が隙間にくっ付いた状態で放置しておくと、どんどん隙間に入って行っちゃいます。これは、人体でも同じ事です。しかも、この現象は水との親和力があるので、人体の方が速く進行します。顔に水がついた状態でぼんやりしていると、鼻から肺に入っていってしまい、肺いっぱいに水が広がり、溺死してしまいます。溺死するのに必要な水の量はコップ一杯分ぐらいです」
 真実が説明し終わったあと、全員が固まった。
 確かに、それなら宇宙空間でも溺死をさせることができる。いや、宇宙空間だからこそ溺死をさせることができる。地上で溺死させるより、はるかに楽だ。
真解「そう。つまり、凶器は水。凶器の隠し場所は小島さんの肺の中です! 犯人が無線機を破壊したのも、ここにあります」
柴「どういうことだ?」
真解「無線機を壊せば、明日の朝までは地球に帰れません。犯人にとって、少しでも時間が稼げた方が、地球に帰ってから殺害方法がばれるリスクが減ります」
柴「なるほど…でも、そんなに減るのか?」
真解「さぁ? それは知りませんが…」
片桐「で…誰なの? その犯人は…」
真解「簡単ですよ。無線機が置いてある部屋のドアは防音扉。これは我々乗客には知らされていません。ということは、その事実を知らない乗客には、無線機を壊すことは自白に等しい。つまり犯人は乗務員の中にいます。
それを裏付ける証拠はもう一つ。この宇宙船内では、水道が無いから、水は一回一回船員に頼みます。小島さんの死亡推定時刻は夜中。そんな夜中に水をもらいに行ったら怪しまれます。しかし、水のある部屋には鍵がかかっている…。と言うことは?」
円谷「乗務員が犯人…?」
真解「そのとおり。そして、三谷さんの話によれば、水のある部屋の鍵を持っているのはただ一人」
三谷「こ……事谷……」
真解「そう。この事件の犯人は事谷さん、あなただ!!」
事谷「なっ…」
真解「いまさら言い逃れは出来ませんよ? この殺害方法が出来るのは、あなたしかいないんですから」
 しばらく、沈黙が続いた。
 そして、事谷が口を開いた。
事谷「たっ……確かに、その殺害方法はわたしにしか出来ないようですね。でも…」
 事谷は反論した。
事谷「証拠は?」
謎事「は? 何言ってんだお前…。証拠もなにも、お前にしか出来ないじゃんか。いま言ったじゃん」
事谷「そういうことを言ってるんじゃありませんよ…。『小島さんが、その方法で殺害されたと言う確かな証拠はあるのですか?』と聞いているのです」
謎事「なっ…」
真実「お兄ちゃん…大丈夫? ある?」
 真実が不安になって聞いた。
 真解はまたニヤリと笑って言った。
真解「ありますよ。もちろん」
事谷「なっ!?」
真解「これを見てください」
 真解は一枚の布切れを取り出した。
事谷「なんだ? その白い布切れは…?」
真解「これは、被害者、小島さんの顔の上に被せられていた布です」
三谷「仏さんの布を取ったのか?」
真解「証拠ですので。ここ、見てください」
 真解はそう言って、布の一部を指差した。
真解「ここ、なんか濡れてるでしょう?」
事谷「そ…それが…なにか…?」
真解「そのしゃべり方だと…気付いたようですね」
謎事「なににだ?」
真解「全ての水が、完全に小島さんの体内に入っていかなかったんだよ。だから、まだ少し顔の表面が濡れていた…。そこに布を被せたため、布の一部が濡れたんだ」
 真解は布を事谷に突きつけた。
事谷「でっ……でもな、そんなの、いつ濡れたかわからないじゃないか。それに、顔が濡れていたからってそんな…」
 事谷はまだ反論した。
真解〔やばい…まだ反論するのかよ…。もうネタが無いぞ…〕
 真解は心の不安を表面に出さぬまいと努力したが、あまり意味はなかった。真解が得意げな顔をしていても、事谷はまだ反論した。
事谷「濡れていたからといって、溺死とは限らない! もしかしたら、汗かもしれないじゃないか!」
−このままじゃ、逃げられる…!
 真解がそう思ったとき、謎がいった。
謎「無駄ですよ。いくら反論したって」
事谷「なっ!?」
真解〔メイ…?〕
謎「確かに…あのまま絞殺されたと思わせつづけることが出来れば、地球に帰っても溺死したと言う事実は隠しとおせたかもしれません。しかし、こうやって溺死した可能性が提示された以上、警察も黙ってはいません。『果たして絞殺されたのか、溺死したのか?』そのぐらい、現在の科学技術を持ってすれば、1日置いたぐらいじゃ簡単にわかりますよ?」
事谷「なっ…バカな…そんな……」
謎「もう、いくら反論したって無駄です。科学の勝利です」
 謎が事谷をにらみつけた。
事谷「ウソ…だ………」
真解「聞いたとおりですよ」
事谷「ウソ……だ………」
三谷「事谷…いったい、何故…?」
事谷「……………あいつは、わたしの妹を殺したんですよ」
謎「っ!?」
“妹を殺した”と言う言葉に、謎が反応した。
謎事〔謎ちゃん…? いま、なんか苦痛の表情が見えたけど……?〕
 しかし、それに気付く者はおらず、事谷は話し始めた。
事谷「あいつは、わたしの妹の恋人だったんです。と言っても、ほとんど誰も知りませんでした。2人以外で知っていたのは、おそらくわたしだけでしょう。妹がこっそり話してくれたんです。ですのでもちろん、小島はわたしのことを知りませんでした。
妹は、それはもう楽しそうでした。毎日が。あいつとの事を、よくわたしに話してくれました。妹は、もう夢のまっただなかにいたんです…。
だが、あいつはそんな妹を裏切った……。あいつは、妹を眠らせた後、池に沈めて殺したんです。しかも、浮かばないように細工をして…。わたしはその一部始終を見てしまった。しかし、死体が見つかっていないのだから、死亡したことにはなっておらず、妹は現在も行方不明の烙印が押されています…。あいつを殺した今となっては、動機はわかりませんがね…」
三谷「だから…殺したのか?」
事谷「ええ。あいつに妹と同じ目に合わせてやったんですよ。宇宙と言う夢の中。眠ったままの溺死……。まさに、最低な殺人者のフィナーレとしてはピッタシですよ……」
真解「事谷さん…。小島さんも確かに最低ですが、あなたも最低ですよ?」
事谷「なに?」
真解「あなた…その最低な小島さんと全く同じ事してるんですよ? しかも、宇宙旅行は全人類の夢だった…。あなたは、その夢の中で殺人を犯したんですよ? あなたは…最低だ」
事谷「……………」
 事谷はその後、念の為にと個室に入れられた。
 そして、真実、柴、塩澤の三人の協力により、なんとか無線機を修復することに成功し、真解達は無事に地球に帰っていった。
 地球に帰って待っていたのは、たくさんの報道陣と警察だった。
兜「まさか…お前達の乗っている宇宙船で、殺人事件が起こるとは、驚きだったな」
真解「ははは……」
 真解が苦笑していると、連行されようとしている事谷が言った。
事谷「真解君…だったかな? 小さな探偵君」
真解「はい?」
事谷「君は確かあの時、『全人類の夢』って言ったね?」
真解「ええ…」
事谷「でもね……夢の大きさに、全人類も1人も無いんだよ?」
真解「!」
事谷「………じゃ」
 事谷はそう言って、パトカーに乗り込んだ。

美登理「よかったぁ! 帰ってきたぁ!!」
 真解と真実は、宇宙ステーションで美登理に抱きしめられた。
真解「お母さん?」
美登理「もう、旅行会社から『通信が途絶えた』って聞いたときは、本当に心配したんだから!! 死んだかと思って、墓石まで買っちゃったわよ!!」
真実「えっ!?」
美登理「ってのは冗談よ」
真実「ああ、ビックリした…」
 謎事が含み笑いをした。もう少しで爆笑しそうである。
真実「なによ?」
謎事「いや、なんかコントみたいで…」
謎「そうね…」
 謎が冷めた声で言うと、真実が聞いた。
真実「…ところで謎ちゃん…前から聞こうと思ってたんだけどさ…なんで笑わないの?」
謎「え? 笑ってるわよ。ちゃんと」
真実「心から笑ったことは無いわ」
謎「……………」
 謎に全員の視線が集まった。
謎「…気のせいよ」
 謎はそう言って、遠い目を見せた。

Finish and Countinue

〜あとがき(舞台裏)〜
こんにちは。キグロです。
今回のゲストは、難読名字を持つ、実は子供好きの小鳥遊市医さんです!
小鳥遊「こんにちは」
小鳥遊さんは鑑識、と言うことで、物語中ではあまり登場しないんですが、縁の下の力持ち。小鳥遊さんがいなければ、犯人はわからないこともしばしば。
小鳥遊「それほどでも…」
まぁ、今回みたいな閉鎖系のこともあるけどね。
小鳥遊「それを考えると、わたしはいてもいなくても変わらないのでは…?」
まぁまぁ、そう卑屈にならないの。

さて、今回は真相編。最後にちょこっと謎めいた部分を残しました。
兜「“謎”嬢なだけに、“謎”めいた最後…」
小鳥遊「警部……申し訳ないですが…寒いです…」
申し訳なくない! しかも苦しい!! ってか、なんであんたはここにいる!?
小鳥遊「もういませんけどね」
どうしてこう毎回…。
小鳥遊「ま、話を元に戻しましょう」
そだね。えっと、で、今回は真相編。よくまぁ、材料の無い宇宙空間で無線機が直ったもんですわ。うん。
小鳥遊「それは言っちゃぁまずいのでは?」
そうなんだよね……。ま、いいや。じゃ、正解者の発表!
凶器が解った方>
凶器の隠し場所が解った方>
犯人が解った方>
全ての謎が解けた方>

今回の小説は、壺内宙太さん著「宇宙飛行」を参考文献とさせていただきました。トリックや謎の話等がそうです。
小鳥遊「やっぱり、しっかり本を読んでいたのかね」
と言うか、この本を見ていたらトリックがひらめいたんだよね。
小鳥遊「ひらめいた…。そりゃすごいね」
いやぁ、それほどの者ですよ。
小鳥遊「………………………」
な…なんか突っ込んでよ…。

〜次回予告〜
「日が水平線の裏に隠れた後、名画“夕焼け”を頂く」
修学旅行でハウステンボスにやって来た摩訶不思議探偵団と、そのクラスメート4名。
そこで出会ったのは江戸川乱歩と兜警部達。
なんと、怪盗から予告状が届いたと言う。
しかもその怪盗は、その日ハウステンボスでマジックを行っていたマジシャンだった…!?
次回、摩訶不思議探偵局初の学園物&初の怪盗事件、『謎の名画怪盗事件』をお楽しみに!

おまけの珍句名言集(謎)「いいよいいよ。お前らだけで見てこい」
解説;真解達が遊園地へ遊びに行った際、14歳未満お断りの映画を見ようと真実が言い出し、ちょっと同情を引こうとして謎事が言った言葉。しかしこの後、真解達は同情するところかスタスタと映画を見に行ってしまう。

作;黄黒真直

本を閉じる inserted by FC2 system