摩訶不思議探偵局〜遺産相続権殺人事件〜
容疑者リスト
大金幣(おおがねへい)…【金収の三男】
大金黄金(おおがねこがね)…【勲の長女】
大金円華(おおがねまどか)…【幣の妻】
大金銀之助(おおがねぎんのすけ)…【幣の長男】
独り言;ついに真相…ああ、長かった…。いままでで最高…。

摩訶不思議探偵局〜遺産相続権殺人事件〜真相編
真解「………それでは始めましょうか…。大金家殺人事件…その真相編を!」
 真解がそういうと、全員の顔がこわばった。果たして、誰が犯人だと言うのだろうか…?
真解「まず…先ほどみなさんが口論しているときに、ある人物が知っているはずのない『事実』を口走ったのに気付きましたか?」
幣「え…? 知っているはずのない『事実』…?」
銀之助「そんなの、言ってる奴いたか?」
円華「わたしは気付かなかったけど…」
真解「まぁ、そうでしょうね」
黄金「で、その『事実』ってのは?」
真解「勲さんの死因、ご存知ですか?」
幣「え? ……そういえば、なんでしたっけ? 血がいっぱい出たのはわかったけど……」
真解「そう…みなさんは知らないはずなんですよ。なのに、たった1人だけ、知っている人物がいた。しかも、かなり正確に…」
 真解はその人物を睨みつけた。
真解「たった1人だけ、あの場で『石で人を殴り殺せたり』と言った人物がいるんですよ…」
円華「そのセリフは…確か……」
真解「ええ、そうです。勲さん、豪さん、富子さん、時子さん、鉱太郎さんと5人もの親戚を殺した犯人は、銀之助さん、あなただ」
 全員の視線が銀之助に集められた。
 銀之助が反論を始める前に、真解が続けた。
真解「そう考えれば犯人が現場に暗号解読のヒントを残した理由も説明がつく。ヒントを残せるぐらいなのだから、暗号を解いたということだ。解いたのなら遺産を手に入れればいい。しかし、犯人はそれをやらなかった。そう、遺産相続権がなかったからだ。だから、ボクらに暗号を解かせつつ、かつ家族全員を殺して、遺産を独り占めしようとした…。いや、少なくとも勲さん、豪さん、幣さんの3人を殺して、遺産がすぐにでも自分に来るようにしたんだ」
幣「じゃ、じゃあ…わたしはものすごく危険だったと…?」
真解「そういうことになります」
 真解はキッと銀之助を見据えた。
真解「どうです?」
銀之助「…………で…でもよ、そんなの、ちょっと聞いたんだよ。それに、君の推理じゃ、黄金や母さんのどっちかが犯人かも知れないじゃないか」
真解「少なくとも、円華さんには勲さんが殺されたときにアリバイがあります。富子さんと台所にいたと言うね」
銀之助「じゃあ、黄金は!?」
真解「今回の殺人は、力が必要なものが多かったです。特に勲さんなんかはね。とても、黄金さんに殺すことができるとは思いません」
銀之助「な…なんだと!?」
 銀之助を見据える全員の視線が、「犯人」を見る目に変わってきた。
銀之助「ちょ、ちょっと待て! そんなものは状況証拠だ! 物的証拠は!? 確かな証拠はどこにある!?」
真解「証拠は…これです」
 真解はそう言って、あのメッセージを取り出した。
銀之助「それがどうしたってんだ?」
 銀之助は本当にわけがわからないようだ。
真解「これに…あなたの指紋がついているはずなんです」
銀之助「え? そりゃぁ、ついてるだろうなぁ…この家の物だし…」
真解「いえ…この家の物でも、本来はついてはいないはずなんです」
銀之助「え…?」
真解「この紙は、勲さんの部屋にあるパソコンのプリンター用紙です。勲さんは、どう言うわけかパソコンだけは誰にも触らせなかった…」
幣「あ、そうだ…。確かにそうだった」
真解「つまり、このプリンター用紙も誰も触っていない…と言うわけです」
銀之助「!」
真解「なのに……なんであなたの指紋がついていると? 理由は簡単です。あなたが勲さんを殺害し、あの部屋のパソコンを使ってこのメッセージを残したからです。パソコンの方は勲さんの指を使ったのでしょうけど、プリントアウトした後の紙までは頭が回らなかった。だから、この紙にあなたの指紋が残っているんですよ! なんなら、念のため調べてみても良いんですよ? あなたの指紋がでてくるかどうか…」
 真解が銀之助を睨みつけた。銀之助はまだなにか反論しようと考えているようだ。
 が…。
銀之助「……ッ…紙までには気が回らなかった…」
黄金「銀之助…?」
円華「そんな…ウソでしょ…?」
幣「銀之助…何故だ…?」
真解「そう…何故ですか? 今回の事件で一つだけどうしてもわからないことがあった…。動機です。いったい、何故…?」
銀之助「………簡単さ。遺産だよ」
真解「え・・・?」
銀之助「君がさっき言った通りさ。俺は暗号を解いた。しかし遺産相続権がなかった。そこで叔父達を殺して、ヒントを残し…」
真解「な…ウソだろ? そんな……」
 信じられない…。真解の目には、はっきりそう表れていた。
真解「そんな…遺産目当てで…家族を…殺すなんて……」
銀之助「・・・・・地獄の沙汰(さた)も金次第、金が物を言う、成るも成らぬも金次第、金の切れ目が縁の切れ目、金の世の中……」
真解「え?」
銀之助「どういうことかわかるか? つまり…この世は金で好きにできるってことだ」
真解「どういう…」
銀之助「金さえあれば、なんだってできる。なんだって手に入る。この世の全てが…だ。命だって買える」
真解「でも…だからって…そんな………」
銀之助「金と言う、ちっぽけな物で、世の中はものすごい動くんだ。争いが起こり、国が傾き…。戦争が終わった後の賠償だって、全部金なんだ。戦争と言う悲劇も、金で片付けられてしまうんだ。犯罪だって、多くは罰金刑ですむ…」
 真解はもう、何も言えなかった。ただ茫然としていた。金で世が動く? 金で戦争が終わる? どういうことさ…。
銀之助「……『景気』を辞書でひくと、『好況・不況などの経済活動の状況』と載っている。これわかり易く言うと、『金がどのぐらい動いているか?』だ。わかるか? 不景気不景気って言って騒いでいるが、それはつまり金が動いていない、金が動いていないと言って騒いでいるのと同じなんだ。そう、この世は金がちょっと動かないだけで、大混乱を巻き起こすんだ」
――ウソだ…!
銀之助「もっといい例があるぞ。1929年、アメリカから『世界恐慌』が始まった…。これは、世界的な大不景気だ。世界中が大混乱となり、国と言う国が景気を回復する対策を練った。しかもだ、この世界恐慌は1933年にアメリカのルーズベルト大統領の力で少しずつまきなおされて言ったんだが、その1929年から33年までの間、満州事変やスペイン革命が起こっただけで、戦争らしい戦争は一つも起こっていない。しかも世界恐慌が終わったその2年後、エチオピア戦争が起こり、その数年後に第2次世界大戦が起こっている…。つまり、金がなかったから戦争をしなかったようなものだ」
――そんなの違う…!
銀之助「それだけじゃない。世界恐慌が始まった直後、イギリスのロンドンが不景気だからと軍事縮小(ぐんじしゅくしょう/兵隊の数や軍事上の設備をへらすこと)を行ったんだ。そして、フランスのライン駐屯軍が撤退をしたんだ。これらはつまり、金がないから戦争は一旦休憩しようと言っているようなものなんだ」
――そんな…絶対おかしい…。
銀之助「それほど、金と言うのは世界を動かす力を持っているんだ。この世は全て、金で動いてるんだ。そう、あんなちっぽけな硬貨や、薄っぺらい紙切れでな」
真解「違う…絶対におかしい…」
銀之助「何が違うと言うんだ? なにがおかしいと言うんだ? これは本当のことだ。真実だ」
真解「でも…違う! 何が違うのかわからない……けど違う!」
銀之助「フッ…。いつかわかるさ………これが本当だということをね。こういう世の中なのだと言うことをね」
――わかりたくない……。

 後日、大金家の庭から勲を殺した凶器となった、石が発見された。

実相家
「ただいま・・」
「お邪魔します」
 真解達4人が同時に言うと、美登理がリビングからすぐに現れた。
美登理「お帰り! あ、謎事君にメイちゃん。いらっしゃい。だいぶ、長い事件だったわね」
真解〔実際には半日ぐらいだけどな…〕
美登理「……? 元気ないじゃない。どうしたの?」
真実「ちょっとね…」
美登理「?  …その紙袋はなに?」
真実「ああ、謝礼金。5億」
 その言葉に美登理が驚いた。
美登理「5億!?」
真実「だけど、4人分だからね」
美登理「5人で1人1億円ずつにすればいいじゃない。だいたい、子どもが1億も…」
 美登理が金欲しさに説教を始めるや否や、真解達は摩訶不思議探偵局のある2階へと駆け上った。
美登理「あっ! こらっ!」
 真解達は少しだが、元気が出た。謎事が含み笑いをしている。
 探偵局に入ると同時に、謎事が笑い出した。つられてついつい真解も真実も笑い出した。なにが楽しいんだかわからないが、笑った。
 真実がふと、言った。
真実「ねぇ、メイちゃん…」
謎「なにかしら?」
真実「前も聞いたけど…なんでいつも笑わないの?」
謎「…………いまはまだ…話す気にはなれないわ…」
 メイが、その知的な眼鏡の奥に、苦しそうな目を見せた。

Finish and Countinue

〜舞台裏〜
ラストを何度も書き直したキグロです。
今回のゲストは相上謎事くんです!
謎事「どうも」
謎事君、社長令息なんだからもうちょっとそれらしく振舞ってもいいのに…。今回だって。
謎事「そう言われてもなぁ…。父さんケチだし…」
「金持ちと灰吹きは溜まるほど汚い」って言うことわざもあるんだよね。
謎事「どういう意味だ?」
金持ちは財産が増えるほどケチになって心もいやしくなる、と言う意味。
謎事「ああ、父さんそれだ」
社長(たかたけ)「聞いたぞ…?」
謎事&黄黒「!?」

さて、今回の事件、なんと「暗号編」「事件編」「事件・推理編」「推理・殺人編」「殺人編」「暗号解読編」そして「真相編」と、なんと7編にも渡ったんですよね。長い!
謎事「いままでで最高じゃねぇか?」
うん。しかも今回、7話目なんだよね。
謎事「お、偶然」
試しに計算してみたら、舞台裏含めて約3万6千文字! 通常の20×20の400文字詰め原稿用紙約90枚分の文章!
謎事「すげぇ…」
舞台裏はたぶん合計千文字ぐらいだろうから、舞台裏抜いて原稿用紙87枚分だ!
謎事「長いなぁ…」
でも、この間調べたところ、普通は2〜300枚ぐらい必要らしいね。本にする場合は。
謎事「…それを考えると…少ないな…」

では、いよいよ正解者の発表!
犯人がわかった方>まんぷくさん
以上です! まんぷくさん、なんと暗号、犯人両方解決! と言うわけで…どうしましょ?(ぉぃ
ま、考えておきます。

今回の事件で、物はついでと遺産相続について調べたんだよね。六法全書で。
謎事「キグロんちって、六法全書なんてあったっけ?」
いやない。だから図書館で調べたんだ。調べた結果、どうも遺言書に今回の事件みたいなこと書いても、実際にゃ法律に基づいて勲、豪、幣の三人に遺産が分配されるみたいだね。あれだけじゃ、法的威力は無いらしいよ。
謎事「へぇ…」
今回みたいなことをやりたかったら、家庭裁判所が許可するようなちゃんとした理由を明記しないとダメらしいね。あと、「我が道楽息子には遺産を一切渡さない」って書いても、そのちゃんとした理由が無きゃ、無効なんだって。
謎事「ほぅ…」
で…悲劇はこれから。これだけ調べ終わって、六法全書を本棚に戻したとき、近くにいたおじさんが「法律なんて調べてるの? すごいねぇ。何を調べてたの?」と聞いてきたんだよね…。
謎事「え?」
まさか「遺産相続権について調べてました」なんて言えないから、「はぁ、ちょっと…」と相槌をうっておいた…。
謎事「そりゃ…大変だったな…」

ではまた次回。

〜次回予告〜
「ねぇ、知ってた? うちの学校にも『七不思議』があるんだって」
ある日の放課後、真解達のクラスメート、那由他真直が真解達に話し掛けてきた。
その内容は、この学校の七不思議を解こう、と言うものだった。
久々の学園物。久々にクラスメート登場。
真解は、7つの怪奇現象を解くことができるのか…?
次回、『7つ目の惨劇』をお楽しみに。

おまけの当初の設定秘話;当初、「相上謎事」の名前は「相上オサム(あいうえおさむ/オサムの漢字は最後まで決まらず)」だったらしい。

作;黄黒真直

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