摩訶不思議探偵局〜コンサートホール殺人事件〜
容疑者リスト
相上 育覧(あいうえ いくみ/もめん)…【アイドル歌手】
魚住 忠助(うおずみ ただすけ)…【育覧のマネージャー】
黒川 仁美(くろかわ ひとみ)…【人気女優】
安口 彩(やすぐち あや)…【人気歌手】
Holy Knight(ホーリー ナイト)…【人気歌手(グループ・Kissリーダー)】
木村 国信(きむら くにのぶ)…【人気歌手(グループ・Kissメンバー)】
銀冶(ぎんじ)…【人気歌手(グループ・Kissメンバー)】

摩訶不思議探偵局〜コンサートホール殺人事件〜事情聴取編

ホテル内一室
 ガチャッと兜がドアを開けた。中には猫山と、魚住がいた。2人は振り向き、猫山が言った。
猫山「あ、兜警部」
兜「どうだ? 事情聴取はやってるか?」
猫山「これからやるところです」
兜「これからぁ? ずいぶん遅いな…」
猫山「す、すみません…」
兜「まぁ、いい。真解たちにも付き合わせてやってくれ。オレは外に出ている」
猫山「へい」
 兜が部屋を出て行った。他の全員を待たせてある部屋にでも行く気か…?
 この部屋も、真解たちがさっきまでいた部屋と構造は同じだ。ソファーには既に向かい合って猫山と魚住が座っているので、ゴチャゴチャと座るのもなんだし、4人分のイスを奥の部屋から持ってきて、座った。
猫山「それじゃぁ、事情聴取を始めます。まず、魚住さん、あなたが第一発見者と言うことですが?」
魚住「はい、そうです」
 魚住は人が殺されてると言うのに、全くおびえた様子を見せていない。冷静なのか、鈍感なのか…。
猫山「じゃあ、そのときの様子を、説明してください」
魚住「はい」
 魚住が語りだした。
魚住「まず、わたし達…黒川さんと安口さん、それと板垣さんを除いたKissのメンバーの方々は、舞台裏にいました」
猫山「あの、相上 育覧とか言う少女は?」
魚住「彼女は、既にステージに上がっていました。で、板垣さんがなかなか来ないので、わたしは板垣さんを呼びに一度舞台裏を出て、楽屋に向かったんです。しかし、楽屋に板垣さんの姿は無く、おまけに楽屋から舞台裏まではほぼ一本道…すれ違わないはずがありません。そこで、わたしはまだトイレに入っているのだろうと、トイレに向かいました。トイレに入ると、案の定、個室の1つが、ドアが閉まったままでした。しかし、何度呼びかけても返事が無く、不審に思ってドアに触れたら、カギがかかってなかったんですよ。ドアを開けると、中で板垣さんが…」
猫山「死んでいた、と?」
魚住「ええ、そうです」
真解「死体を見つけた後、どうしました?」
魚住「え?」
 いきなり真解が話しかけてきたので一瞬驚いたようだが、またすぐに、冷静に戻って話し出した。
魚住「板垣さんは知っての通り、便器に座ったまま腕をダランとさせて…ズボンもはいたままでしたし、さすがにおかしいと思って、2、3度肩を持って体を揺すったのですが目を覚まさず、慌ててトイレから飛び出し、舞台裏に向かいました」
猫山「ほぅ」
 猫山は2、3度うなずき、
猫山「ちなみに、楽屋を出て行った時間は、いつ頃かわかりますか?」
魚住「あ〜……確か、ちょうどもめんの歌が始まった頃です」
猫山「『もめん』?」
魚住「あ、相上 育覧の芸名です」
猫山「あぁ、源氏名ね」
真解〔なんか…違わないか?〕
 何はともあれ、魚住の事情聴取が終わった。

 次の事情聴取は相上 育覧だ。育覧は入って来たとき、怯えた顔をしていたが、中に入って真解を見ると、元に戻った。それどころか、少し笑った。真実がそれをにらんだ。
猫山「さてと…キミは、確か、例のアリバイの無い女の子だね?」
育覧「! え…ええ……」
 育覧は「アリバイの無い」と言われて、一瞬顔を歪めた。
 やはり、この子が犯人なのか? 猫山もそう思った。
猫山「楽屋前で真解くん達と別れてからのこと…もう一度、話してもらえるかな?」
育覧「え、えっと…。だから、あの時も言ったように、一度は舞台裏へ向かったんだけど…でも、緊張のせいか、トイレに行きたくなって…でも、楽屋に戻るのはなんとなく恥ずかしかった…から…ちょっと、寄り道して…トイレに…」
 育覧の声は力が無く、かなり小さい。はっきり言って信頼性ゼロだろう。だが、それを覆すだけの証拠も無いから、いまは納得するしかない。
猫山「で、舞台裏についたあとは?」
育覧「その後は、すぐに出番だったから、急いでステージに上がって…あとは、ずっとステージにいました」
猫山「ふぅん…」
 特にこれ以上聞くことも、聞けることも無い。猫山は次の人を呼んだ。

 次の事情聴取は黒川 瞳。例の冷たい美人だ。この冷たさが、逆にもてる要因となりそうだ。
猫山「さて、あなたは楽屋を出たあと、どうしましたか?」
黒川「楽屋を出た後は、安口と一緒に舞台裏まで行ったわ」
 ふぅ、とタバコをふかしながら、黒川が言った。どこぞの中年のおっさんがタバコを吸っているとかっこ悪いだけだが、この人が吸うとかっこよく見える。若い人がタバコを吸いたがる要因も、この「おしゃれ」のためなのだろう。だがはっきり言ってタバコがあるとかっこいい人は少数派。諦めて別なもので「おしゃれ」した方がいい。
猫山「楽屋から舞台裏まで、どのぐらいで?」
黒川「さぁ…? でも、5分もかからなかったと思うわ。2、3分ぐらいかしら…?」
猫山「はぁ。で、舞台裏についた時、誰かいましたか?」
黒川「スタッフが何人かいたわね。何人いたか把握はしなかったけど…。 舞台裏についてからは、ずっと安口のおしゃべりに付き合ってたわ」
謎事〔この人…安口さんのこと、あまりよく思ってないのかな…?〕
 まぁ、確かに性格も正反対で、とても相性が合いそうに無い。
謎事〔いや、だけどオレとメイちゃんも正反対だぞ…〕
 やっぱオレ、嫌われてんのかな…?
 謎事がそんなことを思っている間にも、黒川の話は進んだ。
黒川「で、そのうち魚住さんが板垣さんを呼びに言って、4、5分ぐらい経ったときかしら? 魚住さんが『板垣さんが殺されてる!』って叫びながら飛び込んできたわ。まぁ、みんな始めは冗談だと思ったみたいだけど」

 次は、安口 彩。黒川と一緒に楽屋を出た、おしゃべり女だ。
 しゃべった内容はほぼ黒川と同じ。ただ、安口は楽屋から舞台裏まで正確に3分と言った。
猫山「何故そんな正確に?」
安口「わたし、時計見る癖があるのよ。楽屋にあった時計は、わたしが出たときにはぴったし10時を指していて、舞台裏に着いたとき、そこにあった時計は10時3分だったの。ま、どっちかの時計がずれてたら、お話にならないけどね」
猫山「はぁ」
謎事「でも…その割には、腕時計してませんよね?」
 謎事が安口の手首を見て、言った。
安口「腕時計ってだって…ダサくない?」
真実「え〜、でも可愛いの選べば、結構おしゃれになりますよ」
 と、真実は自分の腕時計を見せた。何気に真解から貰った誕生日プレゼントだ。結構、気に入っているようだ。

 次の事情聴取はホーリー ナイト。あの「ん〜」の人だ。
猫山「あなたは、Kissグループのリーダー?」
ホーリー「ノンノン、ルィーダー!」
 ホーリーは「ルィー」を巻き舌で言った。
猫山「ル…ルィーダー・・・?」
ホーリー「ん〜! ベリグッ!」
 ホーリーはまた、親指を上げた。
真解〔ボク、この人苦手だな…〕
 猫山は眉をひそめてため息をつき、事情聴取を開始した。
猫山「あなたは、楽屋を出る前にトイレに入った」
ホーリー「ん〜、いかにも」
猫山「あなたは、誰の次にトイレに入りましたか?」
ホーリー「ん〜? 事件直後もそれは言ったような気がするけど…ま、いいや。ん〜、確か、板垣のすぐ後だねぇ」
猫山「では、誰の次に出ました?」
ホーリー「ん〜、出て行くところは見なかったけどね。楽屋のすぐ近くで銀冶を見たよ。そのまま彼と合流して、一緒に舞台裏に行ったさ」
猫山「そうですか。舞台裏についた後は?」
ホーリー「ん〜…特に変わったことはなかったねぇ。まぁ、魚住クンが板垣を呼びに行ったあと、『板垣さんが殺されてる!』って叫びながら飛んできたけど…。始めは冗談だと思ったんだけどね…」
 ふぅ、とホーリーはため息をついた。

 次は木村 国信。特に特徴の無いあの人だ。
 証言にも特に特徴は無かった。
猫山「ちなみに、誰の次にトイレに入りましたか?」
木村「銀冶くんの次でしたネ」
猫山「出たのは?」
木村「う〜ん…それはわかりませんけど、舞台裏に着いたとき、既にホーリーくんと木村くんがいましたから、たぶんその次ですネ」
猫山「わかりました。ちなみに、舞台裏で変わったことは?」
木村「特に何モ…。魚住さんが『板垣さんが殺されてる!』と叫んで飛んできたぐらいですネ」

 最後は銀冶。突っ込み野郎だ。
猫山「あなたは、Kissメンバーでしたよね?」
銀冶「え…え、ええ。ええ、ええ」
 銀冶は、かなり怯えている。仲間が殺されたからか、事情聴取を受けているからか…。
猫山「誰の次に、トイレに入りましたか?」
銀冶「え…えっと・・ホーリーの、次です」
猫山「では、誰の次に出ましたか?」
銀冶「あ〜…舞台裏に着いたとき、安口さんと黒川さんしかいなかったから、たぶん最初かと…。 …ってこれ、事件直後も言いませんでした?」
猫山「こういうのはたいてい何度も聞くんです。 で、舞台裏についてから、何か変わったことは?」
銀冶「特に何も…。魚住さんが『板垣さんが殺されてる!』って言ってきたことぐらいですね。『…って、冗談言っとる場合かいっ!』って突っ込み入れようと思ったんだけど、ものすごい形相だったから…」
猫山「止めたと」
銀冶「いえ。よりいっそう力を込めて言いました」
猫山「・・・・・・・・・」
 余談だが、「すごい」とは本来、「ぞっとするほど恐ろしい」と言う意味らしい。だから、「彼はすごい人だ」は「彼はぞっとするほど恐ろしい人だ」となるんだとか。

 なにはともあれ、事情聴取が終わった。真解たちはさっきの部屋に戻った。時刻は午後4時。もう夕方だ。
真解「どうだ謎事。なんかおかしなところ、あったか?」
謎事「う〜ん…特に見つからなかったけどなぁ…」
真実「全員の証言に、食い違いも無かったしね」
謎「トイレの出入りの順番も、事件直後の証言と一致してましたし…」
真解「う〜ん…」
 真解は部屋に放置されていた、写真を見た。しかし、大して新しい発見も無い。
 真解が立ち上がって、部屋を出ようとすると、真実が言った。
真実「どこ行くの? お兄ちゃん」
真解「ちょっと、ブラブラと」
真実「ラブラブと?」
真解「ブラブラだっ!」
 真解が部屋を出ると、真実もついて行った。

ロビー
真実「あ、お兄ちゃん! あそこの売店、行こう!」
 真解の返事も聞かず、真実は真解を引っ張った。
 真実が売店でいろいろ見ている間に、真解はすっと離れた。
 ロビーのソファーに、黒川を見つけた。
真解「黒川さん。何故ここに? 部屋にいなければまずいのでは?」
黒川「! 探偵坊やくん…」
 黒川は真解の話も聞かずに、ソファーから立ち上がり、真解に近づいた。そして、かがみ込んで、真解の耳元に口を近づけた。
真解「く、黒川さん?」
黒川「静かに」
 そして、黒川は囁いた。
黒川「探偵坊やくん…。わたしは、犯人を知っているわ」

Countinue

〜舞台裏〜
さて、どうでしたか? 最後の黒川の一言…。その言葉の意味は、次回わかります。フフフ。
今回のゲストは、今回名前しか出てこなかった小鳥遊さんです。
小鳥遊「お久しぶりです」
お久しぶり。小鳥遊さんも「遺産相続…」以来かな?
小鳥遊「おそらく」
ってか、本編の方でも登場頻度低いですよね。
小鳥遊「鑑識ですし…」

さてさて、今回は黒川さんがなにやら怪しい発言をしたところでぶち切らせてもらいました。
小鳥遊「別に怪しくは無いんじゃ…」
気にしない、気にしない。

さて、今回は「事情聴取編」ってことで、全部事情聴取でしたが、どうでしたか?
謎事「怪しいところはなかったが?」
さぁ? それはどうかな…?
小鳥遊「ってことは、重大なヒントが?」
さぁ? それもどうかな…?
まぁ、頑張って推理してください。また次回。

おまけの名句珍言集(謎)「人は見かけによらないって本当ね」
解説;謎事がMASKのマジックのタネをどんどん解き明かしたとき、澪菜が言ったセリフ。しかし、謎事はこの悪口に気がつかなかった。

作;黄黒真直

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