摩訶不思議探偵局〜コンサートホール殺人事件〜
容疑者リスト
相上 育覧(あいうえ いくみ/もめん)…【アイドル歌手】
安口 彩(やすぐち あや)…【人気歌手】
Holy Knight(ホーリー ナイト)…【人気歌手(グループ・Kissリーダー)】
木村 国信(きむら くにのぶ)…【人気歌手(グループ・Kissメンバー)】
銀冶(ぎんじ)…【人気歌手(グループ・Kissメンバー)】

摩訶不思議探偵局〜コンサートホール殺人事件〜真相編

真解「忘れたんですか? この部屋には、もめん以外にもう1人、いるハズですよ…?」
 真解が言うと、兜がハッと気付いた。
兜「魚住 忠助!?」
真解「その通りです。この事件の犯人は、魚住さん、彼ですよ」
真実「じゃぁ、自殺って言うの!?」
真解「ああ」
兜「だが、その根拠は? この娘を助けたいがために、でたらめを言ってるんじゃなかろうな?」
真解「…もっと、早く気付くべきでした…思い出してください、証言を」
兜「証言? 誰のだ?」
真解「…。この場で改めて聞きましょう。皆さん、魚住さんが板垣さんの死体を発見して戻ってきたとき、なんて叫んでました?」
安口「え? 確か『板垣さんが殺されてる!』って…。でもそれが?」
真解「…兜警部。現場写真、いま持ってますか?」
兜「? あ、ああ…」
 兜が内ポケットから写真の束を取り出し、一枚引っこ抜いた。真解はそれを受け取り、全員に見せた。
真解「この写真…見てください。板垣さんの写真ですが…」
ホーリー「ん〜、なんだか眠ってるようだねぇ。でも、それが?」
真解「ホーリーさん。いま、『眠ってるよう』って言いましたね?」
ホーリー「ん!? ん〜、言ったが…?」
真解「じゃぁ、突然これを見せられても、『死んでいる』とは思いませんよね…?」
ホーリー「! ん〜、確かに…そうかもしれない…」
銀冶「って、『だから殺されていると叫んだのはおかしい』って言いたいのかい?」
真解「早い話がそういうことです」
銀冶「でも、彼はもしかしたら板垣に触れたのかもしれないじゃないか。それなら、冷たくなっているから…」
真解「確かに、魚住さんは板垣さんの『肩を持って体を揺すった』と言っていました。しかし、板垣さんは死んだ直後で、まだ体は温かいし、魚住さんは脈も呼吸の有無も見たとは言っていない。つまり、常識的に考えて『意識を失っている』と思うはずなんですよ。仮に『死んでいる』とわかっても、だからといって『殺されている』といきなり叫ぶわけがない!」
安口「確かに…そうね…」
 真解は、さらに続けた。
真解「まだあります。ボクらが探偵だと話した後、魚住さんは『もめんも危険にさらされる可能性があるわけですから』と言っています。まだ、この殺人が板垣さんのみを狙ったものなのか、それとも連続殺人なのかどちらともわからないときに、です。さらに、黒川さんが殺された後も、妙な事を言っています。警察がアリバイを聞こうとしたとき、魚住さんは『黒川さんは裏庭で殺されたのでしょう?』と言っています。確かに黒川さんの遺体は、裏庭で発見されました。しかし…殺害現場が裏庭だとは言っていない」
謎「つまり彼は…犯人しか知り得ない事実を知っていたと言うことですか?」
真解「その通りだ」
兜「だがな…」
 兜はまだ引き下がらないらしい。
兜「それだけではまだ弱い。もっと強い根拠は無いのか?」
真解「ありますよ。この状況…それ自体が、もっとも強い根拠です」
兜「? どういう意味だ?」
 誰もがわけのわからないような顔で、真解を見た。
真解「簡単なことです。もしももめんが犯人ならば…何故彼女は、部屋の中に留まっていたんです? とっとと外に出ればいい。本来は安口さんと同室なのですから、そっちへ行けばいい」
兜「簡単なことだ。魚住さんは猫山に『アリバイが無いと困るから』と言って相上 育覧と2人で部屋に行くと言っていた。その状況下で、自分が別の部屋にいたら、明らかに怪しまれるだろう」
真解「しかし、『犯人だ』と言う明確な証拠にはならない。しかし、こうやって同じ部屋にいたら、100%犯人にされてしまう。ましてや部屋にはカギがかかっているんですからね」
兜「だが、そう言って容疑者から外されることを期待した行動…つまり、裏をかいた行動かもしれん」
真解「確かに、通常ならばそういう考えの方がむしろ自然です。しかし、もめんの状況を考えてみてください。2度もアリバイが無く、しかも1度目はそのアリバイが無い時間帯、何をしていたかうやむやで、警察は完全にもめんを不審に思っている…。そんな状況下でこんなことをすれば、『怪しすぎるから容疑者から外す』と言うことは、ほとんど期待できません」
兜「・・・」
 兜は黙り込んだ。真解は続けた。
真解「そして、もしも2人以外の誰かが犯人ならば…。 小鳥遊さん」
 真解は急に小鳥遊を呼んだ。小鳥遊は、呼ばれて一瞬、驚いた。
真解「もめんが直前までジュースを飲んでいたと言っていたコップには、指紋が残ってなかったんですよね?」
小鳥遊「ああ、そうだ。誰の指紋も残ってなく、さらにはジュースの痕跡すらなかった。まるで、洗ったようにね」
真解「いまの、聞きましたよね?」
 真解は全員の顔を見た。「聞きました」と言っている…ように思える。
真解「もしも、2人以外の誰かが犯人ならば…何故、わざわざコップを洗ったのでしょう? しかも、もめんのだけ」
兜「自分の指紋がついてしまったからじゃないのか?」
真解「それなら、拭くだけでいい。わざわざ、綺麗に洗う必要は無いでしょう? それに、魚住さんを確実に殺すなら、全てのコップか、ジュースのボトルに毒を仕込むだけでいい。わざわざ危険を冒してまで育覧のコップに睡眠薬を、魚住さんのコップに毒を、と分別する必要がないんです」
「そして…」と真解は続けた。
真解「もしも犯人が魚住さんなら」
「ここからが本番です」と言わんばかりに、声を強めて言った。
真解「もめんを陥れる形で自殺したのですから、もめんを眠らせたと言う証拠はあまり残したくない…。そう思ってコップを洗うことでしょう。しかし、そのとき指紋まで消してしまったというミスには気付かなかった…」
謎事「確かにそれが…一番、つじつまが合う…か?」
兜「だが、証拠はあるのか? 真解の言っていることは、良く取っても状況証拠だ。物的証拠はあるか?」
猫山「それに…動機は?」
兜「そうだ。動機も無いではないか」
 と、その時、真実の携帯電話が鳴り出した。
真実「あっ…すいません」
 真実は慌てて電話に出た。二言、三言話して、「江戸川さん」と言って真解に電話を渡した。
真解「どうしました?」
 なにやら、江戸川が話し始めたらしい。1分近く真解は黙っていた。その間、誰もが黙っていた。まるで空気が凍りついたように…。
真解「わかりました。ありがとうございます」
 真解は電話を切った。
真解「兜警部…動機をお求めでしたね?」
兜「あ…ああ…」
 真解の異様な雰囲気に圧倒されつつ、兜が答えた。
真解「では、お教えしましょう。魚住さんの、動機を…」
 真解は話し始めた。
真解「まず、話は11年前まで、さかのぼります」
 11年前からの、黒川の二股…。どちら一方と別れるわけにも行かず、かと言って結婚するわけにも行かない。そんな微妙な状態が、11年前から続いていた。その黒川の二股の相手が、板垣と、魚住…。しかし、隠し通していたはずなのに、何故か魚住にばれてしまった。そして、嫉妬に燃えた魚住は、板垣を殺害…そして、黒川も殺害した。
 真解はこれらのことを説明した。
木村「だが、それなら魚住さんがもめんを罪に陥れる理由ハ? 彼女は無関係ではないカ」
真解「確かに、一見無関係です。しかし…みなさん、およそ11年前、黒川さんに妊娠疑惑が出たの、覚えてますか?」
ホーリー「ん〜…? そういえばあったような無かったようなあったような無かったような・・」
銀冶「って長いな、おい」
真解「覚えてますか!?」
 真解が怒鳴った。
ホーリー「はいっ! 覚えてますっ!」
 ホーリーが驚いて言った。
真解「ありがとうございます。…いま聞いたように、黒川さんは11年前、妊娠疑惑を受けました。11年前…もしも、本当に妊娠・出産していたのなら、その子どもは現在おいくつですか?」
謎事「11歳だろ?」
謎「最初の1年は0歳なんですから、現在は10歳です」
謎事「あ、あれ? あ、そうか。ははは…」
 謎事はまた苦笑いした。はぁ、とメイはため息をついた。
真実「…って、10歳? ってことはまさか…」
 ハッと気付いて、全員が育覧を見た。まさか、彼女が……?
真解「そう、ここからが、たった今、江戸川さんから聞いた情報です。相上 育覧…彼女こそ、黒川 瞳の実の娘なんですよ」
謎事「そんなバカなっ!!」
ホーリー「だ、だが、もめんは謎事くん、キミの従姉妹じゃ…?」
謎事「ええ、そうです。でも…義理の従姉妹なんですよ。育覧は、養子なんです」
ホーリー「ってことは、もめんの父親は…」
真解「そう、板垣 光…。2人の間に子どもが出来たとなれば、芸能活動に支障を来たす上、黒川さんにとっては、魚住さんから何をされるかわからない…。そのため、2人は施設に預けたんですよ。おそらく、『育覧』と言う名前は、『あなたが育っていくところを、永遠に覧(み)ていきたい』…そんな意味でも込めたのでしょう。そして、その夢は、ある意味で叶った。彼女が芸能界に入ってきたのですから。母親と父親から譲り受けた、その血で…。そして、偶然か故意かはわかりませんが、4人が揃ってしまった…。どうやってか黒川さん、板垣さん、そしてもめんの関係を知ってしまった魚住さんは、この3人を同時に抹殺する計画を考え付いたんですよ…」
育覧「そんな…あの人達が…わたしの……」
 育覧は顔を手で覆った。その様子を、痛々しくメイが見つめていた。ついこの間の、自分の姿と重ね合わせているようだ。
兜「だがな…真解」
 兜が、言った。
兜「証拠は? 魚住 忠助が犯人だと言う証拠…。それに、魚住さんがその事実を知っていたと言う証拠も…」
???「いいですよ、もう…」
 突然、部屋の中から声が聞こえた。
謎事「え? この声……」
 全員が一斉に声のした方を見た。そこに立っていたのは…。
真解「魚住さん・・・?」
魚住「そうです、わたしが犯人です」
兜「な…そんなバカな! さっき脈を見た時は確かに…!」
謎「ゴムボール…」
兜「え?」
謎「ゴムボールをわきの下に挟むと、上腕大動脈が圧迫されて、脈が止まるんです」
魚住「そう、その通り…。そして、警察に搬送された後、“生き返る”つもりだったんです…。そして、彼女に不利な証言をしようと…」
 クククッ…と魚住が笑った。
魚住「だけど…もう、無理みたいですね。そう、全てわたしがやったことです。動機も、何もかも、真解君の…名探偵君の、言う通りですよ。さぁ、刑事さん。わたしを逮捕してください」
 兜はしばらく固まっていたが、懐から手錠を取り出した。そして、魚住の手首に、手錠をかけた。ガチャン、と言う無機質な音がした。
真解「待ってください」
 歩きかけた魚住に、真解が言った。
真解「魚住さん…なんで、こんなことしたんですか?」
魚住「? それは、キミが言った通りだよ」
真解「そういうことじゃありませんよ。魚住さん…ボクらが探偵だと打ち明けたとき、あなたは『もめんを守らねば』と言う使命感を感じていることを、かもし出してましたよね? もしかして、普段は、もめんにすこぶる優しいんじゃないですか?」
魚住「ハッ…。当たり前だ。だが、それも演技のうちだ…」
真解「魚住さん…それじゃぁ、あなたも、黒川さんと同じく、もめんを騙していたんですね? 極々短い期間とは言え、もめんを…」
魚住「っ ………ハッ‥」
 一見しただけでは、軽くあざ笑ったかのように見えた。だが、そこにいた誰もが、何か、深い意味があるような気がした。自己嫌悪か、後悔か、苦しみか…いまとなっては、何もわからないが…。

ホテル前
 真解たちは、パトカーで帰ることになった。真解はパトカーに乗り込む前に、育覧に話しかけた。
真解「あのさ、もめん…。板垣さんが殺されたとき、本当は何をしていたんだ?」
育覧「えっ…その…」
真解「……言いたく無いなら、別にいいけどさ…」
育覧「ご、ごめんなさい…」
 真解は小さくため息をついて、振り返った。と、育覧が叫んだ。
育覧「真解お兄ちゃん!」
真解「どうした?」
 真解は振り向いた。
育覧「あ、あの…ありがとうございました!!」
 育覧は深々とお辞儀した。
真解「いや、いいよ、もめん」
育覧「あ、あの…それと…一つ、お願いが‥」
真解「え? なに?」
育覧「あの…出来れば、『育覧』って呼んでくれませんか?」
真解「え‥あ、ああ、いいよ、育覧」
「ありがとうございます!」と育覧は言って…真解に抱きついた。
真解「!?」
 真解はまた、動揺した。絶句した。周りの全員が見ている。ここは引き剥がした方がいいのだろうか? だが、謎事が見ている前で、それもやりづらい…かといって、このまま抱き付かれているわけにも行かない。こっちも抱きしめる…? いやいやいや、それはもっとダメだ! だけど…
――抱きしめたいかもしれない。
 が、真実が2人を引き剥がした。そして真実は育覧に怒鳴った。
真実「ちょっと…お兄ちゃんは、わたしの恋人なの!」
育覧「え? でも、兄妹ですよね?」
真実「兄妹だってなんだって、愛に血なんか関係ないわ!!」
真解〔いや、あるだろ!!〕
真実「行くよ! お兄ちゃん!」
 真実は、真解の腕をぐいと引っ張った。パトカーに2人が乗り込む直前、また、育覧が言った。
育覧「あの…真解お兄ちゃん…」
真解「え?」
育覧「いつか…いつかまた、会いに来てくれますか?」
真解「………ああ、もちろんだ」
 真解は静かに答えた。真実の殺気を感じた。

 …あの空白の時間帯、育覧が何をやっていたか…?
 答えは簡単である。育覧は、ずっと見ていたのだ。コンサート会場へと向かう、真解の後姿を、ずっと…。

Finish and Countinue

〜舞台裏〜
あ〜、やっと解決した! ってなわけで、ゲストはモテモテの真解くんです。
真解「モテモテって…てめぇ!」
いやぁ、メイちゃんの次は、謎事の従姉妹か…。
真解「おい・・・」
話変わるけど、個々の部屋の前に警官がいないっての、明らかにおかしいよな…。これ、このまま報告したら兜警部、クビだぞ。
真解「自分で自分の小説にケチつけてどうするんだよ」

さて、では真相編でしたので、正解者の発表を。
…と思いきや、今回は誰一人としてナゾは解けなかったようです。
まぁ、ボク自身絶対解かれないという自信がありましたが。
真実「うわ、ヤなヤツ…」
おい…。

〜次回予告〜
「や…やって…しまった……」
次回は、遊学学園初の事件。
「…自殺だよ」
「自殺?」
欺きのトリック。障壁なき“密室”。
「被害者の名前は西花 悠果。高校2年生で、屋上から飛び降り自殺したものと思われる」
「自殺にしては、妙な点が多すぎではないですか?」
「だが、現場は“密室”だったんだぞ?」
真解たちに、トリックが見破れるのか?
次回、『始業深夜の転落死』をお楽しみに。

作;黄黒真直

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