摩訶不思議探偵局〜始業深夜の転落死〜
主な登場人物 ( )内は読み、【 】内は役
実相 真解(みあい まさと)…【主人公・探偵】
実相 真実(みあい まさみ)…【探偵】
相上 謎事(あいうえ めいじ)…【探偵】
事河 謎(ことがわ めい)…【探偵】
霧島 澪(きりしま れい)…【真解の同級生】
江戸川 真澄(えどがわ ますみ)…【真解の同級生】
高麗辺 澪菜(こまの べみおな)…【真解の同級生】
光安 那由他(みつやす なゆた)…【真解の同級生】
兜 剣(かぶと つるぎ)…【警部】
猫山 検事(ねこやま けんじ)…【警部補】
小鳥遊 市医(たかなし いちい)…【鑑識】
佐々木 たかし(ささき たかし)…【教師・犯人】
西花 悠果(さいが ゆうか)…【女子高生】
はしがき;今回は倒叙式推理小説。犯人は最初っからわかります。推理していただくのはトリックです。

やって…しまった……

摩訶不思議探偵局〜始業深夜の転落死〜殺人編

 4月。真解たちの通う遊学学園も、春を迎えた。学校の春といえば、そう、進学。真解たちも中学3年になった。
 そして、今日は始業式。校長先生の長い話(一部の人間にとっては「校長の長ったるい話」)や、クラス発表、そして新1年生を迎えるなどした。
真実「わたしたちも中学3年だね」
真解〔中3…受験生か……〕
謎「でも、この学校は普通にしてれば自然に高校に入れますし…」
真解〔だから、なんでボクの心…〕
 ちなみに、遊学学園は幼・小・中・高・大一貫。一度入れば大学まで行けるのだ。
 まぁ、何はともあれ始業式も終了して、真解たちは教室に戻った。大抵の学校なら、クラス変えで騒ぐのだろうが、この学校、中学校以下はクラス数が少なく、真解たちの学年は1クラス。よって、クラス変えがなかった。しかし、それでも久々に出会うクラスメート。和気藹々と語らっている。
真澄「あ、メイちゃん、髪切ったんだ」
謎「ええ…。気分転換に、バッサリと…」
 見れば、背中まであったメイの長髪が、肩ぐらいまでの長さになっている。
澪菜「フッ。やっとメイちゃんも、わたしみたいなショートヘアの方が可愛いって事に気付いたのね」
真澄「別に、そういうわけでも無いと思うよ…」
 ちなみに、澪菜は若干ウェーブ(?)のかかった短髪、真澄はポニーテールの長髪だ。
澪菜「そうそう、わたしもちょっと変わったところがあるのよ」
謎「? どこですか…?」
澪菜「実はねぇ…春休み中に彼氏が出来たのよ♪」
真実「え!? うっそ!?」
澪菜「ふっふっふっ…。すごいでしょ〜」
真澄「だ…誰!?」
澪菜「ヒ・ミ・ツ☆ 今度教えるね☆」
 なんて、楽しい会話を交わした。
 そんな、夜のことだった。

 佐々木 たかし(ささき たかし)は、日直だった。この学校、一応警備員がいるものの、何故か日直も別に見回るのだ。しかし、佐々木には別の目的もあった。握り締めた彼の手中には、手紙が収まっていた。それも、ただの手紙ではない。言うなれば…脅迫状。
佐々木〔『お前の秘密を知っている』だと? いったい、誰だ…?〕
 佐々木は一歩ずつ、暗い階段を懐中電灯で照らしながら上って行く。文面には、続きがあった。
『お前の秘密を知っている。ばらされたくなければ、本日午後10時に、D棟4階の2年4組の教室に来い』
佐々木〔だが…何故5階ではなく4階なんだ? 目立たないからか…?〕
 この学校には、校舎だけでA棟からD棟まで4つの建物がある。A棟は幼稚園舎で、D棟は高等部、つまり高校だ。5階建ての冷暖房完備。経営者が大金持ちなため、かなり豪華だ。
 佐々木はゆっくりと階段を上り、4階に着いた。そして、2年4組の方へ懐中電灯を向けた。今年は2年生は4クラスまでで、4組は階段から一番離れた場所にある。佐々木はゆっくりと近づいた。一つ一つ教室を横切って、4組の前まで来た。
 中を見ずに、勢いよくドアを開けた。そして中に懐中電灯を向け、サッと横に動かす。窓際に1人の人影が見えた。佐々木はその人物の顔に、懐中電灯を当てた。
佐々木「お前は…2年1組の西花 悠果(さいが ゆうか)…」
西花「あら、佐々木先生…よく来てくださいましたね」
 西花はニッコリと笑った。
 いつもは、学校内で知らないものがいないぐらい、美しく化粧をしているが、今日はほとんどしていない。脅迫するのに化粧はいらないと考えたのか、他に何か理由があるのか…。
佐々木「お前か! こんな…フザけた物を寄越したのは!」
 佐々木は手紙…いや、脅迫状を突きつけた。西花はそれを見て、またニッコリした。
西花「ええ、そうですわ」
 そして、西花は声を低くして言った。
西花「『お前の秘密を知っている』」
 しかし、またすぐニッコリと笑った。
佐々木「秘密…とは、なんのことだ?」
 佐々木が言うと、「とぼけるな…」と西花が呟いた。そして、続けた。
西花「先生…昔、結婚サギをはたらきましたね?」
佐々木「っ!?」
 佐々木は一瞬顔を歪めた。が、すぐに戻って、
佐々木「結婚サギ? なんのことだ?」
西花「とぼけるんじゃねぇ…」
 その口調に、佐々木は一瞬、迫力負けした。
西花「わたしと、名字は同じはずですよ。西花 さくら…わたしの、姉と」
佐々木「っ…! なんのことだか…」
西花「証拠もありますよ」
 西花は何枚も写真を取り出した。写っているのは…佐々木と、女だ。おそらく…西花 さくらだろう。
佐々木「そんな…写真、何の証拠にも…」
西花「ええ、確かに…でも…」
 西花は便箋を取り出した。
西花「遺書もあるんですよ」
佐々木「な…に…」
西花「もちろん、あなたのことが詳細に書いてあります。見事にお金を巻き上げられ、そのまま消えてしまったこと…」
 西花はクルりと振り返り、窓さっしに手を乗せ、夜空を見上げた。
西花「もう、言い逃れなんて出来ませんよ。こうして証拠があるんですから…。わたしが、これを警察に届けずに、あなたに見せた理由…わかりますよね? あなたにはこれから、わたしの…」
 と、西花の体が浮いた。目の前を白い壁が下から上へ昇っていった。いや、西花が落ちているのだ。校舎の、外を。
西花〔え? ちょっと…なにこれ!? どうなっ…〕
 そこで、西花の思考は途切れた。頭から、コンクリートの地面に激突した。
 佐々木は慌てて、4階の窓から身を乗り出して、下を見た。地面が次第に赤く染まっていく。佐々木はそれをあ然と見ていた。
佐々木「や…やって…しまった……」
 殺してしまった! 自分が。この手で。彼女を。思わず…。
佐々木〔ど…どうすればいい!!〕
 早く何とかしないと、警備員に見つかってしまう!
佐々木〔どうする!? 自首するか? いや…ダメだ! そんなことは…出来ない! じゃぁ…どうするか…。 …自殺…自殺だ。自殺に見せかければいいんだ!〕
 佐々木は悩んだ。どうすれば自殺に見えるか…。
 そして・・・。

 次の日。
 真解たち4人は、学校についてすぐ、異変に気付いた。
謎事「なんだ…? 騒がしいな」
謎「あら…あそこにいるの、猫山さんでは?」
真解「なに?」
謎「ほら…」
真実「ホントだ…ってことは、事件!?」
 真実は走り出した。真解も続いた。
真実「猫山さん!」
猫山「実相嬢! 真解くんたち!」
真解「何があったんですか?」
猫山「…自殺だよ」
真解「自殺?」
猫山「たぶん…な」
謎事「『たぶん』って?」
猫山「自殺にしては、妙な点がいくつかあるんだ。詳しいことは、兜警部に聞いてくれ」
真実「あ、いいんですか?」
猫山「たぶん…な」
真解〔たぶんかよ…〕
 突っ込みを入れている真解の腕を引っ張って、真実が走り出した。人垣をぬって、兜の元に着いた。
真実「兜警部!」
兜「真実嬢。それに真解じゃないか」
 兜は「そういえば、この学校だったな」と呟いた。呟きながら、江戸川を押しのけた。
真解「なんで…江戸川さんまで?」
江戸川「真澄から連絡受けてね」
 見れば、ヤジ馬の中に真澄がいる。しかし、生気は感じられない。どうやら、大量の血を見るのは初めてだったらしい。恐怖におののいている。
謎「現場はどこなんですか?」
兜「ああ、こっちだ」
 兜は歩き出した。

D棟前
 現場付近にはさらに多くのヤジ馬がいた。アナウンサーらしき女性が、テレビカメラの前でマイクを片手に喋っている。
 兜はそれらのヤジ馬を横目に、黄色いテープをくぐった真解たちも続いてくぐった。
 現場は、目を背けたくなるような、血の海だった。
真解「すごい血ですね…」
兜「ああ。屋上から転落したものと見られて…」
 と、兜の説明が周りの騒音にかき消された。聞きなれた声だ。声のする方を見ると、澪菜と那由他が黄色いテープから身を乗り出している。
澪菜「ちょっと、刑事さん! なんでわたし達は入れてくれないわけ!?」
那由他「そうだよ! ボクらだって、何度か真解たちと一緒に事件解決したんだからね!!」
 そう叫ぶ2人を、澪が苦笑しながら見ている。
兜「おい真解、あの坊やたちと知り合いか?」
真解〔そうか…兜警部、あいつらと会ったことがないんだ…〕
真実「あ、あの人たちは、わたしたちのクラスメート。MASKと一緒に出会ったのをきっかけに、仲良くなってね。それで、この間はこの学校の七不思議に挑戦したんだから!」
兜「MASK…? そういえば、阿久刀川(あくたがわ)から、8人の少年少女が来たって言ってたな…残りの4人のうち3人が、あいつらで…あと1人は、江戸川リポーターの娘さんだったかな?」
真解「ええ、そうです」
 詳しくは、「〜謎の名画怪盗事件〜」を参照していただきたい。
澪菜「そうそう、だから入れなさいよ。超天才のわたしが事件に乗り出せば、一瞬で解決なんだから!」
兜「…悪いが、今回は真解たちの力を借りることはない」
澪「え? どういうことですか?」
兜「…被害者の名前は西花 悠果」
真実「え!? 西花先輩!?」
 真実が叫んだ。
真実「西花先輩が死んじゃったんですか!?」
兜「お、なんだ、知ってるのか? 被害者のこと」
真実「特に親しかったわけじゃないですけど…でも、学園一お化粧上手って有名でしたよ!」
兜「化粧? 高校生だろ? 高校生が化粧なんて…それに、学校に化粧してきて良いのか?」
真実「良いんですよ、この学校」
兜「ホントかぁ?」
 真実は制服のポケットから、生徒手帳を取り出し、ページを開いた。そして兜に突きつけた。
真実「ほらほら、書いてあるでしょ」
兜「どれ…?」
 兜は生徒手帳を奪い、じっと見た。…老眼か?
兜「ああ、ホントだ…。『派手過ぎない化粧を許可する』…。ってここの校則、許可ばかりだな。染髪OK、ヘアゴムOK…」
 兜はパラパラと手帳をめくった。
兜「『給食がまずくても文句を言わない』って…。ん? この学校、私立だろ? なんで給食があるんだ?」
真実「知らないけど…中学校までは、給食で、高校以上は食堂なんですよ」
兜「なんでそんなシステムなんだ…?」
真実「知りませんよ」
 そんなことはどうでもいい、と兜は真実に生徒手帳を返し、続けた。
兜「で、被害者の名前は西花 悠果。高校2年生で、屋上から飛び降り自殺したものと思われる。今のところ、遺書は見つかっていない」
真解「待ってください」
 今度は真解が止めた。
真解「『屋上から飛び降り』って…なんで、屋上だってわかるんですか?」
兜「それはだな…」
 と、兜はすぐ横のテレビカメラに気がついた。もしも、警察が一般の人を現場に入れているなどと世間にばれたら大問題だ。テレビに映る前に、逃げなければならない。
兜「屋上に来ればわかる。来い」
 兜は黄色いテープをくぐった。

Countinue

〜舞台裏〜
久々に、倒叙式に挑戦してみました。
今回のゲストは、気分で霧島 澪くんです。
澪「どうも」
今回は学園での初の事件でしたねぇ。どうだったよ?
澪「どうって言われても、セリフが1回しかなかったからなぁ…」
あ、ホントだ。まぁ、気にするな。
澪「なっ…」

さて、今回は倒叙式。そんなわけで、「刑事コロンボ」みたいな雰囲気が楽しめるかもしれません。
澪「『かも』なんだ」
「名探偵ポアロ」でも良いよ。エルキュール・ポアロ。
澪「古畑任三郎とか?」
そうそう。

さてさて、そんなわけで、推理していただくのは犯人ではなくトリック。
澪「でも、普通倒叙式って言ったら、トリックもわかってるんじゃないのか?」
……………。そして、余裕がある方は『どうやって犯人だとばれるのか?』も推理してみてください。
澪「無視かよ」

ではまた次回。

作;黄黒真直

推理編

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