摩訶不思議探偵局〜始業深夜の転落死〜
今回、容疑者リストは省きます。

摩訶不思議探偵局〜始業深夜の転落死〜推理編

 兜と真解たち一行はエレベーターに乗り込んだ。たかだか5階建てでエレベーターがあるこの学校。贅沢だ。だが、兜と真解たち8人が乗り込むと、さすがに重量オーバーだったらしい。レディーファーストと言うことで、男性陣は階段で上ることになった。
真澄「いやぁ、女でよかったわ、うんうん」
 真澄は、すっかり生気を取り戻したらしい。いつの間に?
真実「でもさぁ、重量制限300kgなんだから、わたし達の体重、8人平均で45kg、兜警部が60kgだとしたら、45×8+60=420。だから、お兄ちゃんたち全員降ろさなくても、兜警部とあと2人、誰か降ろせば良かったんじゃない?」
澪菜「謎事君と、那由他?」
真実「そうそう」
謎「真実ちゃん…単に真解と一緒にいたかっただけでは?」
真実「ま、そうだけどね」
 なんて、人が死んでいると言うのに楽しげにエレベーターで5階まで昇った。
 屋上への直通のエレベーターはなく、5階からは階段だ。真実たちはエレベーターを降り、階段で屋上まで上った。屋上には既に真解たち全員がいた。誰かが「エレベーターなんかに負けるな」とでも言ったのだろうか。全員、階段を屋上まで駆け上がったらしい。那由他と兜が、ゼーハー言っている(他の3人はケロッとしている)。
澪菜「だらしないわねぇ、那由他。このぐらいで…」
 と、澪菜は那由他のすねを蹴っ飛ばした
那由他「ギャォ!?」
「ォォォォ…」と唸りながら、那由他は屈み込んだ。もしも澪菜が殺されたら、犯人は十中八九那由他に違いない。
真実「で、兜警部。屋上から転落したらしい証拠ってのは?」
兜「こっちだ」
 タバコを取り出して、兜が歩き始めた。うまそうに一服吸って、
兜「被害者は、ここから転落したと思われる」
 兜が指差したところには、『A』とか『B』とか書かれた黒い札が置いてある。よくテレビなんかで見かける、アレだ。チョークか何かで楕円形が2つ、描かれている。
兜「この白い丸の中に、被害者の上履きが置いてあったんだ」
真解「上履きぃ?」
 真解が顔をしかめた。
謎事「ああ、確かに、自殺者って、クツ脱いで飛び降りるよな」
謎「謎事くん…信じてるんですか? それ」
謎事「え?」
 メイに言われ、キョトンとして謎事がメイを見た。はぁ、とメイがため息をついて、メガネを押し上げた。
謎「クツを脱いで飛び降りると言うのは、漫画などでよく描かれるだけで、実際にはそんな人、いません」
謎事「え? そうなのか?」
兜「ああ、そうだ。オレも長年刑事をやって来たが、クツを脱いで飛び降りた自殺者なんて、これが初めてだ」
真澄「でも…それじゃぁ、何故自殺だって言うんですか?」
兜「この現場が、密室だったからだ」
澪「密室…?」
那由他「屋上なのに?」
兜「ああ」
 兜は、屋上の入り口と指差した。
兜「あそこのカギ…どういうわけか、外側からも内側からも鍵がなければ開閉できないこと、知ってるか?」
真解「ええ」
兜「その鍵がかかった状態で…1つしかないはずの鍵が、被害者の上履きの中に置いてあったんだ」
澪「被害者の上履きの中に…?」
真解「ますますおかしいじゃないですか! なんでわざわざ、脱いだ上履きの中に鍵を置かなきゃならないんですか!? これから死のうって人間が!」
 真解は一気に言って、兜に詰め寄った。
兜「まぁ、そうだがな…」
真解「それに、ここの屋上、周りはフェンスですけど…フェンスの一番上はねずみ返し状に反り返ってます。こんなところ…女子高生が乗り越えられますか!?」
兜「う〜ん…まぁ、警察当局でも、そういう話は出たっちゃ出たが…」
澪「“密室”故に、自殺と断定するしかない?」
兜「そうだ」
小鳥遊「兜警部!」
 突然、小鳥遊がやって来た。この人、いつも微妙なタイミングでやって来る。それがいい方向へ導くときもあれば、悪い方向へ導くときもあるのだから、厄介だ。
小鳥遊「現場写真、やっと出来上がりました」
兜「おお、遅かったな」
小鳥遊「すみません」
兜「まぁいい」
 兜は小鳥遊から写真を奪い取り、1枚1枚見始めた。真解たちもすかさず回りこんで、写真を見る。
 なんだか、目を背けたくなるような写真ばかりだ。頭から転落したらしく、脳天が割れて大量の血が流れ出ている様子が、生々しく写されている。発見・通報が早かったのか、血はまだ完全に固まっていないようだ。と、メイが気付いた。
謎「あら? 西花先輩…化粧、してませんね?」
真実「あ、ホントだぁ。どうしてだろ?」
兜「だが、化粧ぐらい別に…」
謎「そうは行きませんよ、兜警部」
兜「な、なに?」
 兜は驚いてメイを見た。あまり聞かない口調だ。威圧感も微妙にある。
謎「自殺する人は、大抵自分の容姿を気にします。女性なら特に、です。なのに、普段化粧をしている西花先輩が、自殺をするときに化粧をしていないと言うのは明らかに不自然です」
兜「だが、現場は“密室”だったんだぞ?」
真解「トリックですよ。きっと、犯人はなんらかのトリックを使って…」
澪「そういえば」
 と、澪が真解の話をさえぎった。
澪「事件は、昨晩ですよね?」
兜「ああ、そうだ」
澪「そのとき、学校にいた人は?」
真解「そういえば、死亡推定時刻も聞いてないですが…いつですか?」
兜「…死亡推定時刻は昨晩の午後10時前後。転落後、まだ数秒は息があったと見られている。で、そのときこの学校にいたのは、警備員の谷 守(たに まもる)と野の原 月男(ののはら つきお)、それに日直だった佐々木 たかしの3人だ。全員、この時間はアリバイが無い」
真解「その3人はいまどこに?」
兜「第一発見者が佐々木 たかしで、谷 守が通報したからな。とりあえず3人に2、3、聞いたが、それ以降は別に監視するなりなんなりもしていない」
真解「じゃぁ、会うには…?」
兜「捜せ」
澪「じゃぁ、あとで捜しに行くとして」
真解「いまは、ここを調べよう」
謎事「2人だけで勝手に話を進めないでくれ…」
 謎事が虚しく言った。
 そんな謎事を無視して、真解はフェンスに近づき、下を見た。
 下には、大量のヤジ馬がいる。その端に、ここからでも見えるほど大量の血がある。真っ赤だ…と言いたいところだが、固まっていてどちらかと言うと黒に近い。
 余談だが、人間の体とは意外と丈夫なもんで、飛び降りで確実に死ぬには約20メートル…7、8階の高さがなければダメだと言う。今回はうまい具合に頭から転落したから、10メートルそこらしかない高さでも死んでしまったが、実際にはこうは行かない。 …だが、自殺など考えない方がいい。
真解「でも兜警部…やっぱり、自殺にしては、妙な点が多すぎではないですか?」
兜「他に、まだ何かあるのか?」
真解「実際に、このフェンスを裸足で登ってみればわかりますよ。兜警部、どうぞ」
兜「あ?」
 兜は渋々フェンスに近づき、クツを脱いで登り始めた。
兜「なんだ? 登りづらいな…って、いてててて…」
 兜が慌てて降りて…どちらかと言うと、落ちてきた。
真解「わかったでしょう? フェンス…つまり、金網ですから、裸足で登ると非常に痛いんですよ。なのに、誰が好き好んで裸足でフェンスを登りますか」
兜「だが、現場は“密室”だったんだぞ?」
 兜は腰を抑えながら起き上がり、また言った。
真解「そう…なんですよねぇ…」
 真解はうつむいた。
那由他「でもさぁ、ここ屋上でしょ? 屋上なら、簡単に密室、作れるんじゃない?」
「え?」と、全員が那由他を見た。
那由他「だってほら、5階の窓から投げれば、もしかしたら…」
澪菜「出来るわけないじゃん」
那由他「ひ…ひどっ…」
真解「まぁ…やってみるだけやってみるか。行くぞ」
 真解が歩き出した。全員が着いていった。

3年5組
 今日は事件があったため、教室はガランとしていて誰もいない。
 真解はそんな教室を通り抜け、窓から身を乗り出して下を見た。そして振り返り、
真解「よし、ちょうどここが現場の真上だ。謎事、何でもいい。こっから上へ投げ入れろ」
謎事「お…おう。 でも、落ちたらどうするんだ?」
 真解はもう一度下を見た。下には、人が大量にいる。当たったら…危険だ。
真解「じゃぁ、身を乗り出して、投げ入れられそうかどうかだけ、判断しろ」
謎事「わかった」
 謎事は窓に近寄り、上を見上げた。外から見るとそんなに距離がなさそうだが、こうして見るとかなり遠く見える。実際どのぐらいの距離なのか測りかねるが、この姿勢だ。とても投げ入れるのは無理だろう。
謎事「たぶん、無理だな」
那由他「ちぇ…」
 と、謎事が言った。
謎事「あれ…? おい真解、ちょっと…」
 謎事が身を乗り出したまま、手招きした。
真解「なんだ?」
 真解が近づき、謎事が指差したところを見た。窓さっしだ。
謎事「ここ、なんか真新しい傷跡が…」
真解「ワイヤーのあと…か? それも2つ…」
謎事「ほら、しかも校舎の壁に続いてる…」
真解〔真新しい傷が2本、窓枠と校舎の外壁に…。ワイヤーが擦れたあと…だな〕
真解「トリックに使用されたものかな?」
謎事「さぁ…?」
 とそのとき、「コラッ!」と怒声が聞こえた。
真解&謎事「うわっ!?」
 驚いて2人は、落ちそうになった。慌てて教室内に身を倒した。
佐々木「何をしているんだ!? こんなところで」
 現れたのは佐々木だった。
真解「さ…佐々木先生…」
佐々木「今日は、もう生徒は全員下校だぞ?」
真実「あ、わたし達、事件の調査…」
佐々木「帰りなさい」
 佐々木は一喝した。
真解「待ってください。帰りますけど…」
澪「え、帰っちゃうの」
真解「ああ。でも、その前に…先生、事件当夜、この学校にいたんですよね?」
佐々木「! あ…ああ、そうだ」
 佐々木は、一瞬渋い顔をした。
謎事〔…?〕
真解「気がつかなかったんですか? 西花先輩が落下するのに…」
佐々木「あ…ああ。昨日は静かだったがね…全く、気付かなかった」
真解「そうですか…。で、第一発見者でしたよね?」
佐々木「そうだ」
真解「その…出来れば、死体発見時のこと、話してもらえませんか?」
佐々木「! …ああ、まぁ、いいぞ」
 佐々木はひと呼吸置いて話し始めた。
佐々木「別に、大したことは無い。帰ろうとしたら、たまたま見つけたんだ」
真解「暗いのに、よく見つけられましたね」
佐々木「ああ、まぁ、オレの目はフクロウみたいだからな」
真解「そうですか」
 と、真解は佐々木のジョークを軽く流して、
真解「で、死体発見時のこと、話してください」
佐々木「なに?」
真解「いまのは、『発見の過程』です。発見時のことではありません」
佐々木「そ、そうだな…。えっと…地面に横たわってる西花を見つけて…血も出てたし…慌てて、警備室に駆け込んで、警察と救急車を呼んでもらったんだ」
真解「すぐに、西花さんだとわかったんですか?」
佐々木「え? あ、ああ、まぁ。仰向けだったしな…」
真解「そのとき、西花さんに息は?」
佐々木「さぁ? そこまでは…」
真解「そうですか。ありがとうございます。 …じゃぁ、帰るぞ」
真実「え〜、帰っちゃうの?」
真解「ああ。明日、また来よう」
 真解は、そそくさと歩き出した。

Countinue

〜舞台裏〜
深夜の転落死、2編目です。今回のゲストは江戸川 真澄さん。
真澄「こんにちはぁ。新聞部の紅一点、江戸川 真澄です」
宣伝しなくていいから。
真澄「だって、時々しか出してくれないじゃん。本編にも、舞台裏にも」
だって、出すシーンが少ないんだもん…。
真澄「ひっど〜い。うち、結構役立つよ?」
だってほら、江戸川さんの方が…。
真澄「殴るよ?」
ご、ごめんなさい…。

さてさて、やっとこさ佐々木と真解が話しましたね。
真澄「遅い展開ねぇ。いつもだけど」
うるさいな…。書いてるとのめり込んじゃって、なかなかうまく進まないんだよ。
真澄「下手なんじゃない? わたしに書かせてよ。新聞部の紅一点に」
関係あるのか!?

ではまた次回。

作;黄黒真直

トリック推理編

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