摩訶不思議探偵局〜始業深夜の転落死〜
今回、容疑者リストは省きます。

摩訶不思議探偵局〜始業深夜の転落死〜トリック推理編

警備室
真実「こんにちはぁ」
 佐々木には帰ると言っておいて、真解たちは警備室にやって来た。もちろん、聞き込みのためだ。
 警備室にはうまい具合に谷と野の原がいた。
谷「? キミ達は…?」
野の原「おいおい、生徒はもう、完全下校だぞ?」
真実「ごめんなさい。でも、わたし達、事件の調査をしてるんです!」
謎事「ほら、オレら有名でしょ? この学校じゃ…」
澪菜「『天才澪菜』って」
 全員が、白い目で澪菜を見た。
澪菜「な…何よ…」
谷「探偵団のウワサはたまに聞くが…天才澪菜は知らんなぁ」
澪菜「ダメね、そんなんじゃ。警備員失格よ」
真解「澪菜、お前は少し黙ってろ」
 真解が澪菜を引っ張った。
野の原「で…用はなんだい?」
 野の原はのん気にコーヒーを飲んでいる。美味しそうだ。
 余談だが、コーヒーに含まれるカフェイン(眠れなくさせる成分)の量は、たったの0.04%しかない。しかし、抹茶に含まれるカフェインの量は3.2%。眠気覚ましにはコーヒーより抹茶の方が良い。ちなみに、紅茶に含まれるカフェインの量は0.05%だ。
真解「事件当夜のこと…教えて欲しいのですが」
野の原「別に、大したことも無い」
谷「野の原が警備に回っていて、俺がここでコーヒーを飲んでいた」
真解〔ここにはコーヒーしかないのか?〕
 無いらしい。
谷「で、そのうち佐々木先生が飛び込んで来たんだ。『高校生の西花が屋上から落ちて死んでいる』ってね。で、慌てて警察と救急車を呼んだんだ」
真解「野の原さんは、いつここに戻ってきました?」
野の原「俺がここに戻ってきた直後に警察が来た。だからまぁ…谷が通報した、3、4分後ぐらいだろうな」
真解「そうですか…」
 真解は軽くお辞儀して、
真解「ありがとうございました。では、さようなら」
 と、振り返り、歩き出した。
真実「え? 帰っちゃうの?」
真解「ああ」
 7人が、慌ててついて行った。

真解「で……なんで、全員来るんだ?」
 探偵局兼真解と真実の部屋で、真解は7人全員の顔を見た。
那由他「別にいいじゃん」
澪菜「そうそう、ほら、人が多い方がいいじゃない」
真解「『船頭多くして船山に登る』っていうことわざ、知ってるか?」
澪菜「知ってるわよ。船頭(船を動かす人)が多ければ、船で山に登るという大偉業だって成し遂げられるって意味でしょ?」
真解「違う! 人が多いと逆にわけがわからなくなるって意味だ!」
真澄「ま、いいじゃない。楽しいし♪」
真解「まぁ、いいけどなぁ…」
 はぁ、と真解はため息をついた。
 いつもは4人しか入らない探偵局。普段は広く見えるこの部屋も、さすがに8人入ると狭く感じる。
真澄「で、まず考えるのは…トリック? 犯人?」
真解「もしもアレが殺人なら、犯人は佐々木先生だ」
那由他「え? なんで?」
澪「さっきの不審な行動…か?」
真解「ああ。それに…」
謎事「あの証言か」
真解「その通りだ」
那由他「え? どれ?」
真解「まず、佐々木先生の証言を思い出してみろ。ボクが『すぐに西花さんだとわかったんですか?』と聞いたら、『ああ』と答えていた…。しかし、事件は深夜。真っ暗なんだから、すぐにわかるわけ無いんだ」
那由他「ああ、なるほど…」
真解「それにもう一つ…。以前出会った事件でも、似たような証言を得たことがあるんだ。ホラ、さっき警備員さんが『屋上から落ちて死んでいる』と叫んで佐々木先生が飛び込んできたって言ってたろ? でも、あの状態では、まだ自殺か他殺かはわからないし、自殺だとわかってもどこから飛び降りたかはわからない…。だから、佐々木先生が犯人である可能性が、かなり高いんだ」
真澄「でもそれじゃぁ、トリックは?」
澪「それだよなぁ…」
 う〜ん…と8人は一斉に考えた。
那由他「投げ入れるのは無理なんだよね?」
謎事「ああ、たぶんな」
謎「では、先ほど見つけたワイヤーの跡が…?」
真解「だろうな」
澪菜「じゃぁさ、鍵をワイヤーに結びつけたら?」
真解「それが一番簡単だが、屋上でどうやってほどくんだ?」
澪菜「あ、そっか」
真解「だけど…たぶん、衝動的な犯行だと思うから、そこまで大掛かりなトリックは使っていないハズだ」
真澄「え? なんで衝動的だってわかるの?」
真解「遺書がないからさ」
 真澄が「?」と言う顔をした。
真解「もしも計画的な犯行で、自殺に見せかけるつもりだったのならば、偽の遺書があるハズだ。なのにそれがない…つまり、衝動的な犯行と言うことだ」
真澄「なるほどねぇ」
 真澄が感心してうなずいた。
真実「上履きの中にカギがあったってのも、気になるわよねぇ」
真澄「でも、なんで入れたのかしら? 不審がられるだけだと思うのに…」
澪「考えられる理由は3つ。トリック上、入れざるを得なかったか…」
真解「入ってしまったのを確認できなかったか…」
澪「或いは、確認できても取り出すことが出来なかったか」
真解「そのどれか…のハズだ」

次の日
 連絡網で今日も学校は休みだと来たが、それでも真解たち8人は学校へ行った。もちろん、事件解決のためだ。
 今日もヤジ馬やテレビ報道陣がやってきていたが、昨日ほどではない。簡単に兜の元までたどり着けた。
兜「お、真解。どうした? 昨日は急にいなくなって…」
真解「いやぁ、佐々木先生に帰れといわれたもので…」
兜「そうか…。ん? 佐々木って言うと…」
真解「ええ。事件当夜、この学校にいた、3人のうちの1人です」
兜「会えたのか。良かったな」
謎「ところで兜警部。何か新情報、ありますか?」
兜「ん? おお、そういえば一つ…」
真解「! なんですか?」
兜「偶然見つかったんだが…上履きの…なんていうんだ?」
「あ〜…」と兜は空を仰いだ。
謎「どの部分ですか?」
兜「その、なんだ…上履きの上の真ん中のゴムの部分だ」
謎「…知りません」
兜「そうか」
 兜はタバコをくわえた。美味そうに吸って、
兜「まぁいい。ともかく、そこの裏から真新しいワイヤーの跡らしきものが発見された」
真解「!」
 ワイヤーの跡という単語に、真解が反応した。
兜「ど、どうした?」
真解「それより、その跡は何本でしたか?」
兜「1本…と言っていた」
真解「1本…」
 真解はオウム返しに行って、うつむいた。壁には2本、上履きには1本。と言うことは、単純に考えるとワイヤーは…。
澪「上履きを支点に、ワイヤーを両手で持っていた」
真解「と言うことだな」
真解〔って、なんでみんなボクの心がわかるんだ!?〕
 真解はいい加減、叫びたくなった。

屋上
 屋上には、何故か佐々木もいた。犯罪者は犯行場所に戻りたくなると言うことか…いや、犯行場所は4階か。
兜「佐々木さん、勝手に入られては…」
佐々木「え、しかし、そちらの刑事さんはいいと…」
 と、佐々木は猫山を指差した。
兜「………」
真実「まぁ、いいじゃないですか」
 兜は頭をかいてタバコをくわえた。屋上だからか、なかなか火がつかないようだ。10回ぐらいカチャカチャやって、やっとこさ点いた。
兜「まぁいいか」
 やっと一言いったときには、既に真解たちは上履きの置いてあったところにいた。兜は、置いていきぼりになったらしい。
兜「………」
 兜は、また頭をかいた。

澪「ワイヤーの跡が上履きのゴムの裏にあったってことは、カギは上履きに入れざるを得なかった…ってことか?」
真解「そういうことだろうな」
 真解はフェンスに近づき、屈み込んだ。上履きのあった付近のフェンスをじっと見ている。謎事も近づいた。佐々木が、それを遠巻きに見ている。
謎事「何を探してんだ?」
真解「ワイヤーの跡だ」
謎事「え?」
真解「まともに考えてみろ。校舎のカベと上履きにワイヤーの跡があった。ってことは、フェンスにもワイヤーの跡があると考えるのが普通だ」
謎事「ああ」
 謎事が合点したとき、真解が跡を見つけた。
真解「あった。これか?」
澪「え?」
 澪も近づいて見た。金網につけられているプラスチックのような、ゴムのようなものが、2ヶ所ほど、ささくれ状に切れている。ワイヤーの跡と考えておかしくはないだろう。左側のささくれの方が、若干大きい気がする。
 真解は兜を呼んだ。兜が近づくと同時に、佐々木も距離を縮めた。
 兜も屈み込んで、それを見た。
真解「これ…ワイヤーの跡ではないですか?」
兜「ふん…確かにな。しかし…妙だな」
真解「え? 何がです?」
兜「この跡は、一定方向に動かしていない」
澪「そ、そんなことまでわかるんですか?」
兜「ああ。この跡は…先に左側だな。左側が手前に動き、右側が外側に動いている。そしてその後、右側が手前に動き、左側が外側に動いている…。左側の跡が大きいのは、おそらく…ワイヤーの結び目がぶつかった跡だろう。1回目は手前向きに、2回目は外向きにぶつかっているな」
謎事「す…すげぇ…」
 謎事が感心した。
 ふぅ、と兜がタバコをふかし、
兜「長年刑事をやっていりゃ、ちょろいもんだ」
 と立ち上がった。
澪「どう思う? マサ…」
 澪は、そこまで言って止めた。真解には、既に澪の言葉は耳に入っていなかった。
――逆方向に動かされたワイヤーの跡…。初めは左から右へ。次は右から左へ…。そして、左側にはワイヤーの結び目がぶつかった跡…。カギを結んでいたのか? いや、違うな…もっと単純なトリックだ…。単純な……。
 そして、言った。
真解「やっぱり、この事件は自殺なんかじゃない。他殺だ。立派な殺人事件だ」
真実「え? お兄ちゃん…?」
 真解は、立ち上がって振り返り、ニヤッと笑った。
真解「見えた…」
真澄「ホントに!? 解決!?」
真解「ああ」
 その言葉に動揺したのだろう。佐々木が真解に近づいて、言った。
佐々木「じゃぁ…犯人は、4階から西花を突き落として、その後トリックを使って屋上に鍵を…?」
真解「ええ。そうです」
 そのとき、謎事が勢いよく立ち上がって、叫んだ。
謎事「ちょぉっと待ったぁ!!」
 真解は驚いて振り返った。謎事は、指を佐々木に突きつけていた。
真解「ど、どうした謎事?」
謎事「佐々木先生…『犯人は、4階から西花を突き落として』…って、なんで4階ってわかるんですか?」
佐々木「!!」
 真解は、すぐに冷静さを取り戻し、謎事の言葉に続けた。
真解「佐々木先生…今の発言、致命的でしたね。昨日の佐々木先生の言葉にも、警備員さんの証言にも、佐々木先生を犯人と訴えかける、おかしなところがいくつもあった…」
佐々木「な…何を言うんだい…?」
 真解は、スッと腕を持ち上げ、佐々木に指を突き付けた。
真解「この事件の真犯人…西花さんを突き落とした犯人は、佐々木先生、あなたです!」

Countinue

〜舞台裏〜
さて、次回はいよいよ真相編です。
今回は、いろいろあってゲストはなし。久々に1人でやってみます。

さて、今回は推理を募集します。それほど難しいトリックではないハズです。
佐々木先生はどんなトリックを使ったのか…? どんどん、推理してください。
推理は全てメールで。掲示板等には絶対に書かないでください。
メールアドレスは[kiguro2@yahoo.co.jp]です。
ヒントは…そうですね。
強いてあげれば、「ワイヤーの動き方をシュミレーションせよ」。
こんなところですね。

ではまた次回。

作;黄黒真直

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