摩訶不思議探偵局〜100%のアリバイ女〜
主な登場人物 ( )内は読み、【 】内は役
実相 真解(みあい まさと)…【主人公・探偵】
実相 真実(みあい まさみ)…【探偵】
相上 謎事(あいうえ めいじ)…【探偵】
事河 謎(ことがわ めい)…【探偵】
兜 剣(かぶと つるぎ)…【警部】
猫山 検事(ねこやま けんじ)…【警部補】
小鳥遊 市医(たかなし いちい)…【鑑識】
杷木元 紗(はきもと しゃん)…【容疑者】
杷木元 鎮(はきもと まもる)…【被害者】
はしがき;今回も、ちょっと特殊な形式。某ドラマの真似をしたつもりなんですけどね…。

あなたの防波堤は、もう崩れました

摩訶不思議探偵局〜100%のアリバイ女〜プロローグ

兜「頼む。捜査協力してくれ」
 ここは真解と真実の部屋兼摩訶不思議探偵局。4人がくつろいでいると、兜がやって来た。そして、やって来るなりこう言った。
真解「珍しいですね。兜警部から来るなんて…」
真実「って言うか、初めてじゃない?」
謎「どんな事件なんですか?」
 メイが聞いた。兜は話しかけて、ちらりと美登理を見た。
 美登理は真解と真実の母。兜をこの部屋まで案内したのも、お茶とお菓子を差し出したのも、美登理だ。
兜「すみません、奥さん。ちょっと、席をはずしてもらえますかね? あまり、一般人には…」
美登理「あら、ごめんなさい」
兜「あ、あと、警察が子どもを頼っているなんて事、誰にも言わないでくださいね? 信用に関わりますんで…」
美登理「わかってます。それじゃあんた達、刑事さんに失礼のないようにね?」
真実「大丈夫だって」
 美登理が部屋を出て行くと、兜がお茶を一口飲んで、話し始めた。
兜「ちょっと、込み合った事件なんだがな…」
真解「要約して言って下さい」
兜「ある男が自宅で殺され、その妻が逮捕された」
真解「要約しすぎです」
謎事「ってか解決してんじゃん」
兜「解決してたらお前らに頼みになんか来ない」
真実「じゃぁ、どういうことなんですか?」
兜「順を追って説明する」
 兜はまた、お茶を飲んだ。タバコを吸わないようにする反動か…?
兜「まず…昼の12時半頃だ。ある女から110番通報があった。自分で自分の夫を殺した、と言うのだ。で、我々警察は、即逮捕に向かった。しかし、逮捕して署に連れて行き、詳しい話を聞こうとしたら、女の態度は一変した。『わたしを殺人罪で逮捕することは不可能です』と言い出したのだ」
「ここからが本題だ」と言いながら、兜はお菓子をつまんだ。
兜「取調べを行っていた警官は、当然『何故だ?』と聞き返した。すると女はこう答えた。 『わたしには完璧なアリバイがあります』とな」
真解「完璧な…アリバイ?」
兜「そうだ」
 ちなみに、アリバイは日本語で「現場不在証明」と言う。この「現場」は「げんば」ではなく「げんじょう」と読むので注意。
 兜はまたお菓子をつまみ、
兜「でだ、早速調べてみると、ありとあらゆることがわかった。まず、女には確かにアリバイがあった。そして、動機もあれば、状況証拠まであったのだ。だが、女はアリバイトリックだけは明かしていない」
真実「動機も証拠もアリバイもある犯人…?」
兜「そうだ。どれから聞きたい?」
真解「どれからって…」
 真解はちょっと考えて、
真解「まぁ、アリバイから…ですね」
兜「そうか。殺された男性…杷木元 鎮(はきもと まもる)と言うのだが、被害者の死亡推定時刻は午前9時50分から午前10時40分」
謎事「ずいぶん詳しいスね」
兜「発見が早かったからな。それに被害者の携帯電話に着信履歴が残っていた。それによると、9時50分にかかってきた電話には出ているが、10時40分にかかってきた電話には出ていない…。この間に殺されたと考えるのが普通だ。鑑識の結果とも一致してるしな。だが、その時間帯、その妻…杷木元 紗(はきもと しゃん)は、パートに出ていたのだ」
真実「パート…?」
兜「ああ、そうだ。杷木元の勤務時間である午前9時半から午前11時半まで、確かに女は仕事場にいた。杷木元の勤務場所は彼女の自宅から車で1時間ほどのスーパーでのレジ係で、この2時間、確かに彼女は働いていたと仕事仲間から証言を得ているし、防犯カメラにもしっかりと映っている」
真解「なるほどね…確かに、完璧なアリバイですね」
真実「なんとか抜け出すことは出来なかったんですか?」
兜「防犯カメラの映像では、レジを離れたことは一度もなかった。そして、防犯カメラに細工された形跡はない…」
謎「レジを抜け出すことは不可能だったと…?」
兜「そういうことだ」
真解「殺害方法は?」
兜「毒殺だ」
真解「毒殺?」
兜「『なら食べ物に混入すれば…』と言いたいだろうが、それは考えにくい。何故なら、被害者は左手に注射器を持っていたからだ」
謎事「じゃ、自殺なんじゃないのか?」
兜「そう言いたいだろうが…」
 兜はまた、お菓子をつまんだ。
兜「被害者は右利き。左手に注射器を持つことはあり得ない。そして、右腕からは注射器の針の跡が、注射器からは毒が発見された」
謎事「その注射器で毒を注射したって事は確かって事か…」
真解「でも、食べさせてから、注射器を持たせたのでは?」
兜「残念ながら、毒の性質上、被害者に気付かれないように食べ物に混入することは不可能なのだ」
真実「なにそれ?」
謎「まさか、ストリキニーネ?」
兜「さすがメイ嬢。その通りだ」
謎事「なんだ? スト…何とかって」
謎「ストリキニーネ…マチンの種子ホミカに含まれるアルカロイドの一種です。即効性の毒薬で、無色無臭ですが…この毒、かなり苦いんです」
謎事「苦い…?」
真実「でも、水で薄めちゃえば?」
謎「薄めて味がなくなるような物ではありません。舌が鋭敏な人ならば、40万倍に薄めても苦味を感じるほどの苦味なんです」
謎事「40万…」
真実「コップ20杯に約1mg溶かしてもわかるってわけね」
真解〔微妙な例えだな…〕
 計算したらこうなったのだから、しょうがない。
真解「ともかく…食べ物に混入させるのは無理なわけですね。…あれ? でも、それじゃぁその女性はなんで自首なんてしたんですか? しなければ、完全犯罪が出来たのに…」
兜「そこで、動機と絡んでくるんだ」
 兜は今度はお茶を飲んだ。タバコを吸わないためか、口に何か入れていないと寂しいようだ。おそらく、ここを出たら即座に吸い出すだろう。
兜「事件の6日前…つまり、今日から数えて1週間前、被害者の保険金が大幅に上げられているんだ」
真解「つまり、保険金目当ての犯行って事ですか?」
兜「そういうことだ」
 兜はまたお茶を飲んで、
兜「被害者と杷木元 紗は最近夫婦喧嘩が増えていたらしいことが、付近の聞き込みでわかっている。更に、杷木元は心臓病を患っていて、すぐにでも手術をしなければかなり危ない状況らしい」
真解「つまり、嫌いな夫がいなくなり、お金も入り、心臓病も治せて…一石三鳥ってことですか?」
兜「その通りだ」
謎「だから、アリバイを持ちつつ自首をしてきたわけですね。夫は自殺ではない。何故ならば、わたしが殺したのだから…と」
兜「まったくもって、その通りだ」
真実「じゃぁ、最後は状況証拠ですね」
謎事「ちょ、ちょっと待ってくれ」
 話を進める4人を、謎事が慌てて止めた。
真解「どうした?」
謎事「な…なんで、保険金目当てだと自首するんだ?」
 謎事が言うと、なんとも言えない重苦しい空気が部屋に充満した。
謎事「な…何だよ…?」
 メイがため息をつきながら、メガネを押し上げた。
謎「たいていの保険は、加入直後や保険金値上げ直後の自殺では、保険金が下りないんですよ」
謎事「え? なんでだ?」
 メイがまた、ため息をついた。
謎「いいですか? もしも、保険に加入した直後にみんながみんな自殺したら…保険会社は、どうなっちゃいます?」
謎事「え?」
謎「保険会社は保険料を受け取れないのに、保険金をどんどん取られて行くので…大赤字になっちゃうと思うのですが?」
謎事「あ、ああ…ああ、そう、そうだな」
「ハハハ…」と謎事はまた力なく照れ笑いした。完璧、謎事の十八番(?)だ。
兜「まぁ、ともかくそんなわけで、保険金が欲しい女は、被害者が自殺ではないと証明しなくてはならない。だから、自首してきたんだ。ただし、刑務所に入っては保険金も貰えない。そのため、完璧なアリバイを持ち、仮に裁判にかけられても勝訴できるようにしたんだ」
真解「でも勝訴しちゃぁ、自殺って事になっちゃうんじゃ…?」
兜「だから、自殺には見えないような工夫をしたわけだろう。おそらく、警察が別な人間が犯人だと思って調査を始めると考えているに違いない。事実、警察内でも、杷木元の無実を主張する奴もいる」
真実「なるほどねぇ…。で、状況証拠ってのは?」
兜「ああ、さっきも言ったが、被害者は注射器を左手に持っていた。それには、被害者の指紋はもちろんだが、杷木元 紗の指紋もついていたんだ」
謎「凶器に指紋が…?」
真解「しかし、その家の物ならば、容疑者が触ったとしてもおかしくはないのでは?」
兜「その通り。だが、帰宅した際、自宅には鍵がかかっていたと彼女本人が証言している。そして、自宅の鍵は杷木元夫婦以外、誰も持っていない。一軒家だからな。だから、第三者の犯行の可能性は、高くはない」
真解「それが状況証拠…ですか」
兜「あとは、杷木元 紗自身の証言だな…」
謎事「そういえば兜警部」
 と、謎事が言った。
謎事「容疑者本人が『自分がやった』って言ってるんだろ? なんでそれなのに逮捕できねぇんだ? アリバイなんてどうでも良いんじゃ…?」
兜「ところが、そうもいかないんだ。警察ってな融通がきかなくてな。いくら犯人が『自分がやった』と言っても、証拠がなきゃダメなんだ。それに、世の中にゃ変わった奴もいて、自首マニアだとか自分がやったと思い込んで自首してくる奴がいるんだ。大物が殺されたときなんかは特にだな」
謎事「へぇ…」
 謎事がわかったようなわかんないような顔をした。
 それと、挟む隙がなかったので、ここにて余談を。保険金は通常、被保険者(保険をかけている人)が死亡した場合に保険金を受け取ることが出来るが、場合によっては保険金を受け取れないことがある。商法第680条によると、被保険者が死刑になった場合、被保険者が自殺した場合、被保険者が保険金受取人に殺された場合、被保険者が保険金受取人に故意に死に至らされた場合の4つ。この事件と照らし合わせると、被保険者が鎮、保険金受取人が紗。つまり、紗が犯人になると保険金を受け取れないので、なんとしでも紗は無実を証明しなければならない、と言うわけだ。ただ、絶対に受け取れないわけではなく、保険金を渡すかどうかを、保険会社が独断で決めることが出来るのだ。…もっとも、わざわざ渡してくれるような保険会社は無いと思うが。
兜「でだ、さっきも言ったが自殺はほぼあり得ない。遺書もないしな。そこでお前らには、この女のアリバイトリックを解いてほしいんだ。どうだ? やるか?」
 兜は、真解に言った。真解は冷めた感じの目をしていたが、その目に少しずつ熱がこもった。そして、ニヤッと笑って、言った。
真解「いいでしょう。やります。そして解き明かして見せますよ。完璧な、アリバイトリックの真相を…絶対に」

Countinue

〜舞台裏〜
こんにちは。キグロです。今回のゲストは久々にメイちゃんです。
謎「こんにちは」
さてさてどうよ。今回は。
謎「完璧なアリバイ…ですね。とりあえずは」
ま、そりゃとりあえずだけどさ。
謎「またネコが犯人とかいいませんよね?」
まさか…それはないさ。今度はホントに、ちゃんとしたアリバイトリックが出てくるぞ。ニヤッ。
謎「なんですか、その『ニヤッ』は」

さて、今回はアリバイトリック。とは言えど、現状では解明不可能です。解決する糸口がないので。
謎「次回をお楽しみにってことですか」
そういうことさ。
では、そんなわけでまた次回。

作;黄黒真直

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