摩訶不思議探偵局〜100%のアリバイ女〜
今回、容疑者リストは省きます。

摩訶不思議探偵局〜100%のアリバイ女〜推理編

真実「でもさぁ…」
 と、真実が言った。
真実「共犯者がいれば、アリバイなんて簡単に崩せるじゃん」
兜「残念だが、その可能性はゼロだ」
 兜はもうほとんど無意識にタバコを取り出した。そして、美味そうに吸って、
兜「杷木元は人付き合いが悪く、近所に友人がいない。パート先でもまた然り、だ」
真実「なんだぁ…」
 真実はガックリと言った。
真解「兜警部」
兜「なんだ?」
真解「容疑者の所に…連れていってもらえますか」
兜「えっ?」
 兜が一瞬、固まった。
真解「あれ? ダメなんですか?」
兜「え…い、いや…別に構わんが…ただ…」
真解「なんです?」
兜「あの女…とことん、人が悪いから…その…怒るなよ…?」
真解「その点は大丈夫です。ボクは常に真実と一緒にいますから」
真実「どういう意味よ?」
真解「自分の胸に、聞いてみな」
 真解はそういうと、すっくと立ち上がった。思えば、これが真解の初めての反撃かもしれない。

拘置所面会室
杷木元「あら刑事さん…そちらの子達は?」
 杷木元が防弾ガラスの向こうに現れた。長髪で、目が鋭く、なるほど人付き合いが悪そうだ。と言うか、おそらく人から好かれず、自分も好かない、と言うタイプだろう。友人がいないと言うのはうなずける。…それにしては、よく結婚できたものだ。
兜「この子達は、我々が雇った探偵です」
杷木元「探偵? この子達が? クッ…」
「アーハハハハッ!!」と、杷木元は大笑いした。まぁ、当然と言えば当然だが。
杷木元「で?」
 一息ついてから、杷木元が言った。
杷木元「あなた達は何しに来たわけ? わたしのアリバイを解こうって?」
真解「ええ」
 杷木元はまた大笑いした。
杷木元「わたしのアリバイは完璧よ? そこの刑事さんから聞かなかった?」
真解「ええ、もちろん聞きました。死亡推定時刻、あなたはずっとパート場所であるレジにいたと」
杷木元「そ。だから…法律が超能力を認めでもしないと、わたしを罪人扱いすることは出来ない…」
真解「‥この世に超能力なんて存在しません。ですから、あなたのトリックを、暴きに来たんです」
 杷木元は片眉を上げた。
真解「これから、詳しく調査をさせてもらいます。でもその前に、一つだけ聞かせてください。 …あなたが…殺したんですか?」
 杷木元はクッと冷笑して、言った。
杷木元「ええ、そう。わたしが殺したわ」
「クックックックックッ…」と、杷木元は冷笑した。

パトカー内
兜「どうだ? 明らかに嫌な奴だっただろ?」
 パトカーで移動中、兜が言った。
真実「ホントよね、お兄ちゃんのこと、あんなにバカにして…」
 兜は真実を無視して、助手席の真解を横目に見ながら、
兜「で、どうだ真解。あの女にキャイ〜ン言わせられそうか?」
真解「は? キャ…『キャイ〜ン』?」
兜「ん? ああ。オレのヨメが青木雄二のファンでな。その影響だ。あまり深くは気にするな」
真実「え? ってか兜警部って、奥さんいるんですか!?」
兜「あたりまえだ。20を頭に4人の娘もいる」
 ちなみに、解説。青木雄二さんとは、何故か妙に法律や裏社会に詳しい方で、漫画『ナニワ金融道(とある金融会社に勤めている青年の物語)』を描いたり、漫画『カバチタレ!(とある法律事務所での物語)』の監修、その他『ゼニの人間学』『ゼニと資本論』『だまされたら、アカン』『ボロ儲け経済学』『ゼニで死ぬ奴生きる奴』等を著し、2003年9月5日、肺ガンにより58歳で亡くなった方である(こんなに固有名詞バンバン出していいのかな…?)。で、『キャイ〜ン』と言うのは『ナニワ金融道』に出てくるフレーズなのだ。
真実「4人の娘…今度会わせて下さい!」
兜「機会があったらな。 …お、ついたぞ」
 兜がブレーキを踏んだ。
 目の前に、黄色いテープで囲まれた、大して特徴のない一軒家が建っていた。

室内
兜「被害者はそこのソファーに座った状態で死んでいた」
 兜はリビングに入ってすぐ目の前のソファーを指差しながら、言った。何の変哲の無い、普通のソファーだ。
兜「特に目立った外傷はなかった。注射器の傷跡ぐらいだ」
真解〔全然目立たないじゃないか!〕
兜「だから、『目立った外傷はなかった』と言っただろう」
真解〔………〕
兜「どうした?」
真解「いえ、別に」
 はぁ、とため息をついて、真解は室内を見渡した。警官がいることを除けば、ホントになんてことは無い普通の部屋だ。少し大きめのテーブルにイス2つ、テレビが1台。テーブルの奥には食器棚があり、その更に奥にはキッチンが見える。
真解「この部屋は…もちろん、調べてますよね?」
兜「ああ、だがまぁ、調べたければ調べていいぞ」
真解「よし謎事。徹底的に調べろ」
謎事「おう、どこから調べる?」
真解「ゴミ箱」
謎事「………わかった」
 謎事は渋々ゴミ箱をあさり始めた。端から見ると、怪しい。
真解「この部屋調べて…何か、出てきました?」
兜「特に何も出てこなかった。杷木元が通報する前に隠滅したんだろう。テーブルの上にはハシとポットぐらいしかなく、食器棚の中には食器だけ、流し台には朝メシだと思われる洗いかけの食器に泡立ったスポンジ。ゴミ箱もあさったが、手がかりになりそうな物は何一つ無かった」
謎事「え? でも変な物が出て来たッスよ?」
兜「なに?」
 慌てて兜が覗き込んだ。真解もその後ろから覗き込む。謎事はゴミ箱から薬袋を取り出していた。
兜「それの何が変だ? 杷木元は心臓病を患っている。その薬だろう」
謎事「でもこの袋、名前が『杷木元 鎮』になってるスよ?」
兜「なに…? ああ、それなら報告が入ってる。杷木元 鎮は2週間ほど前から病気にかかっていたらしい。その薬だろう。 胃の中からもほとんど溶けかかったカプセルが見つかっている」
「なんだ‥」と言わんばかりに、謎事は薬袋に目を戻した。
謎事「あれ? でもこれ…処方されたの1週間前スよ?」
兜「別に普通だろ?」
謎事「でも…薬の量は2週間分…」
真解「え?」
 真解が謎事から薬袋を奪った。
真解「確かに…。2週間分と書いてある…。無くなるのが1週間早い…」
兜「見せてみろ」
 兜が真解から薬袋を取り上げ、中を見た。
兜「薬のケースは一応入ってるな…」
 兜はシワを伸ばして袋の表裏を見た。
兜「確かに…2週間分なのに1週間で終わってるな。医者が薬の量を間違えたのか?」
 兜は袋からあの、押すと薬が出てくる銀のヤツ…PTPシートを取り出して、薬の入る部分を数え始めた。ちなみに、PTPとは[press through pack(プレス・スルー・パック)]の略。無理に訳せば、「押して通り抜けるパック」とでも言おうか。
兜「1、2、3、4……27、28…28? 3で割ると…」
真実「9.333333333………ね。ってことは、1週間と2日と1食分!」
謎事「ビミョーッ! 何だそれ!?」
謎「ゴミ箱の中に残ってるんじゃないですか?」
謎事「無いと思うけど…」
 謎事はゴミ箱をまたあさった。奥深くまであさって見たが、
謎事「ない」
 と、顔を上げた。
真解〔どういうことだ? 間違うにしたって、1週間と2日と1食なんていう微妙な量は処方しないだろう…。となるとなんだ?〕
 真解の頭脳が、回転を始めた。
真解「待てよ…」
真実「ど、どうしたの?」
真解「………メイ、カプセルが胃にあったと言うことは、カプセルを飲んでからどのぐらいってことだ?」
謎「え? えっと…1時間以内ですね」
「1時間…」と真解はオウム返しに言った。そして、
真解「見えた…かもしれない」
真実「え゛っ!? ウソ!?」
真解「あとは証拠が欲しい。兜警部、1つ、教えて欲しいことがあります」
兜「なんだ?」
真解「さっき、ちょっと引っかかったんですけど…」
 真解は、兜にそれを聞いた。そして、兜の答えを聞いて、ニヤリと笑った。
真解「兜警部…杷木元さんに会わせてください。そして同時に、検死官に連絡してください。彼らはおそらく、見落としているんですよ。…本当の、死因を」
兜「な、なに!? 本当の死因…? なんだそれは?」
 真解は、兜の質問には答えずに、ニヤリと笑った。

拘置所面会室
真解「杷木元さん。これからあなたに、いくつか質問をします。正直に答えてください」
 真解は、気だるそうに出てきた杷木元を睨みつけて、言った。杷木元は全く動じず、「わかったわよ…」と気だるそうに答えた。
真解「まず杷木元さん。あなたの夫は2週間ほど前から病気にかかっていた…間違いありませんね?」
杷木元「それは昨日刑事さんからも聞かれた。間違いないわ」
真解「そして1週間前病院へ行き、薬を処方してもらった。量は2週間分」
杷木元「…その通りよ。よく見つけたわね、薬袋。あれがなきゃ2週間分なんてわかんないでしょ?」
真解「ええ、わかりませんでした。しかし…気付いているでしょう? 何故、2週間分の薬なのに、1週間で切れたか? わかりますか?」
杷木元「さぁ? 間違えて1度に2錠飲んだんじゃない? 1回1錠だから、ピッタシ計算合うじゃない」
真解「しかし…それでも妙なんです。薬袋の中に残されたPTPシート…アレのカプセルの入る場所の数を数えたら、なんと1週間と2日と1食分しかなかったんですよ」
杷木元「わざわざ数えたの? ご苦労なこと…」
「ホホホ…」と杷木元は軽く笑った。
真解「わざわざ数えたんですよ。この警部さんが」
杷木元「あら…」
 と、杷木元が兜を見た。
杷木元「暇ねぇ」
兜「!?」
 兜は言葉を失った。真解は気にせず杷木元に言った。
真解「しかし…そのおかげであなたのトリックがわかりました」
杷木元「………」
真解「杷木元さん……あなたの防波堤は、もう崩れました」

Countinue

〜舞台裏〜
いろいろと失敗したキグロです。今回のゲストは謎事くん。
謎事「いきなり『失敗した』ってなんだよ、どこがだよ?」
いやね、『巨大真珠…』の時と同じなんだけど、ほら、ミス・ディレクションが無いでしょ?
謎事「なんだそれ」
謎「miss direction…読者を騙す為の偽の手がかりですね」
その通り。だけど今回、それが無いわけよ。
謎事「じゃあ…?」
混乱が少ないってわけ。おまけにそれだけじゃなくて、あろうことか連呼してるからね、手がかり。
謎事「『1週間と2日と…』」
今ここで言うなっ!!

そんなわけで今回はヒント、いらないでしょう。と言うか考え付きません。
謎事「あとは答えを言う、と?」
そう言うことになるのかね?
謎事「推理は全てメールでお願いします」
間違っても掲示板等に書かないように。メールアドレスは【kiguro2@yahoo.co.jp】です。言うまでも無く、募集要項はトリックです。
では。

おまけの名句珍言集(謎)「お前ら………………………オレの33万円、返せ」
解説;「実相真実誘拐事件」で真解が落ちで言ったセリフ。この後、33万円がどうなったか知る者はいない。

作;黄黒真直

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