摩訶不思議探偵局〜100%のアリバイ女〜
今回、容疑者リストは省きます。

摩訶不思議探偵局〜100%のアリバイ女〜真相編

真解「あなたの防波堤は、もう崩れました」
「クックッ……」聞いたとたん、杷木元は笑い出した。
杷木元「あなたが? ハッ。面白いじゃない…。言ってごらんなさい、あなたの、バカげた考えを」
 真実がギロリと杷木元を睨みつけた。

真解「動機があって、アリバイもある…この場合、考えられる可能性は大きく4つ」
 真解は右手を挙げ、指を4本立たせた。
真解「1つ目は自殺。しかし、今回の場合はこれは捨てていいでしょう。2つ目は共犯。しかし、警察の捜査でその可能性は消されています。3つ目は死亡推定時刻の操作。しかし、これも警察の捜査でほぼ確実に潰れています。つまり…4つ目の可能性、トラップです」
 真解は杷木元を睨みつけた。しかし、杷木元は全く動じず、
杷木元「ま、当然ね。そんなこと、バカでもわかるわ」
謎事「わからなかったんスけど…」
杷木元「じゃあ、バカ以下…いえ、バカ未満ね」
謎事「!?」
 謎事はかなり傷ついたようだ。
杷木元「…で? トラップってのは?」
真解「言うまでもなく…あの、1週間と2日と1食分のカプセルですよ」
杷木元「………」
 杷木元は目を細め、黙った。睨み付けているようにも見える。真解は無視して続けた。
真解「ボクらはすっかり先入観にとらわれていたんですよ。薬は1日3回、食前か食後に飲むものばかりじゃない。食間と言って、1日2回しか飲まない薬もあるのです。ご主人が処方された薬はそれなんじゃないんですか? それならば、薬の量は28個なのですから、28割る2で14日分…ちょうど2週間分になります」
 真解は一息つきながら杷木元を睨みつけた。そして、続けた。
真解「食間…いつ飲むものか、もちろん知っていますよね?」
杷木元「………」
真解「朝食と昼食、昼食と夕食の中間…目安としては、食後2時間後です。あなたの仕事時間は午前9時半から…そして自宅から仕事場までは1時間ほどだそうですね? となれば、あなたは遅くとも8時半には家を出なければならない…となれば、朝食はその前。仮に8時として、2時間後は10時…。食べた物は、1時間以内に胃に到着します。つまり、死亡推定時刻である9時50分から10時40分までの間に、ほぼ確実にカプセルは胃に届くのです。少なくとも、あなたの勤務中には…」
 真解は杷木元を見た。まだ落ち着いていて、髪の毛をいじくっている。真解は続けた。
真解「‥さっき兜警部に聞いたところ、胃の中にカプセルはあれど、食べ物は微量しか残っていなかったと言います。つまり、食事とカプセルの服用との間に、大きな時間差があったことになるのです。これは、カプセルが食間用である、大きな証拠です」
「どうです?」と真解は聞いた。杷木元は落ち着き払っている。そして、出てきたときの気だるそうなまま、言った。
杷木元「で?」
 一瞬、部屋が静まった。
杷木元「それがなんなわけ?」
謎事「な、なんなわけって…!! …そういえば…それがなんなんだ、真解」
真解「解らないか? 謎事…。もしも、カプセルの中身が薬ではなく、猛毒・ストリキニーネだったら…?」
謎事「あっ!!」
真解「ボクらはもう1つ、先入観にやられていたんだ。被害者は、『注射器から毒を注射された』と思い込んでいたんだ。だが、本当は違った。本当の殺害方法は、毒をカプセルに仕込み、それを飲ましたんだ。そう、杷木元さん。あなたはカプセルをすりかえたんです。薬の入っているカプセルと、猛毒のストリキニーネ入りのカプセルを!」
謎「‥ストリキニーネの致死量は約0.03〜0.1グラム…カプセルに入らない量ではありませんね」
「ああ」と言いながら、真解はうなずいた。
真解「もちろん、シートには破いた跡が残ってしまいますが、それもご主人が死んだ今では、それが飲む前から破けていたのか、飲むとき取り出すために破いたものか、わかりません。死人に口なし…ですからね。どうですか? 杷木元さん」
杷木元「………」
 全く手ごたえが無い。こんな犯人は珍しい。出てきたときと同じように、気だるそうな表情のままだ。そして、重々しく口を開いた。
杷木元「すごいわねぇ…」
真実「え? ってことは…認めるんですか!? 罪を!」
杷木元「わたしは元から罪を認めてるわよ」
真実「あ、そ、そうか…」
 真実はゴホン、と1回咳払いして、言い直した。
真実「み、認めるんですか!? アリバイトリックが、今のだと…」
杷木元「…わたしはそんなこと言ってないわよ」
真実「は?」
杷木元「わたしがすごいと言ったのは、そのボーヤの想像力よ。だけど、それは想像の域を逸しない……。確かに、その方法を使えば、わたしは鉄壁のアリバイを手にすることが出来るわ。でも…」
 杷木元はフッ、と鼻で一笑して、
杷木元「証拠が、無いじゃない」
 と言った。
杷木元「証拠がなければ、わたしを追い詰めることは‥」
真解「ありますよ」
 真解は杷木元を遮って言った。
杷木元「なんですって…?」
 杷木元の顔が一気に強張った。
真解「確かに、この方法が発覚しなければ、ほぼ確実に証拠は消えうせたでしょう…。しかし、この方法が発覚した今、証拠はいとも簡単に手に入ります」
杷木元「…! まさか…」
真解「おや、気付きましたか? そう、胃袋の中からですよ」
杷木元「……」
 さすがの杷木元の顔にも、ついに焦りの色が見え始めた。
真解「先ほど、兜警部に検視官へ連絡を入れてもらいました。胃の中に残っていたカプセルを調べてくれ…と。そうすれば、確実にストリキニーネの痕跡が発見されるはずです。どうですか? もう言い逃れは出来ませんよ?」
杷木元「ッ………」
 杷木元は唇をかみ締めた。腹立たしそうに顔を歪め、コブシを握り締めた。それを真解たちは、防犯ガラス越しにジッと見た。これで、反撃の隙は無い…誰もがそう考えた。
杷木元「も…もしかしたら……」
 杷木元は、まだ負けを認めないつもりらしい。なんと反撃をしてきた。
杷木元「もしかしたら、自殺かもしれないじゃない。そうよ、自殺よ。アイツは自殺したのよ。それなら、全ての説明が‥」
真解「付きません」
杷木元「!?」
 真解は、また杷木元を遮った。あまり、普段は見せない行動だ。案外、杷木元の嫌味に腹を立てているのかもしれない。
真解「今の状況なら、ほぼ確実に胃の中のカプセルからストリキニーネが発見されます。そうすれば…注射器との矛盾がうまれます。それ以前に、被害者は自殺ではありえないのです」
杷木元「な、なんでよ。注射器を左手で持っていたからって? でもね、あの人は右利きなのに時々左手でカップを持ったりしてたわ! 意外と、両利きかもしれないじゃない!」
真解「それでも…おかしいんですよ」
杷木元「何が!?」
真解「食器ですよ」
杷木元「は?」
真解「流し台には、洗いかけの食器が残されていたんです」
杷木元「! そ、それは…わたしが、朝出かける前に、少しだけ洗ったのよ!」
真解「さらに、スポンジは、泡立ったままでした。泡立たせたまま、出かけたんですか?」
杷木元「ッ…」
真解「普通はそんなことしませんよね? そして…普通は、これから自殺しようって人間はのん気に皿洗いなんかしませんし、したとしても最後までやってから死ぬはずです。こんな不自然な状況で自殺するなど、まずありえない!」
 ギロッ! と真解は杷木元を睨みつけた。
真解「さぁ、杷木元さん! これであなたの犯罪は、100%解き明かされました! いい加減、認めたらどうですか!?」
 杷木元は唇をかみ締めた。腹立たしそうに顔を歪め、コブシを握り締めた。数十秒の間…目を泳がせ、反論しようと考えていたようだが…ついに、コブシを緩めた。顔を戻し、唇も緩めた。気だるそうな顔に戻り、ため息をついた。そして、言った。
杷木元「キャイ〜ン…」

中華料理店 美上海(メイシャンハイ)
 ここは兜の長女・蘭栖(らんす)の嫁ぎ先の店。店長…蘭栖の夫である常泉水 一人(とこいずみ かずと)は名前の通り中国人ではない。どういうわけか、父親が大の中国好きで、一人はその跡を継いだらしい。
真実「へぇ…あなたが兜警部の娘さん?」
蘭栖「ええ、そうなんです。いつも父がお世話になっています」
 蘭栖は…とても兜の娘とは思えないほど、美人だ。きっと、母親に似たのだろう。そして、言葉も、声も美しい。
謎事「でも兜警部。『らんす』なんてずいぶん変わった名前、考えついたもんスね」
兜「いや、まぁな」
謎「もしかして兜警部…自分の名前が『剣』ですからって、武器の名前にしたんじゃ無いですよね? 確か、馬上武器でランスという武器があったような気がするのですが? 他にも確か、米陸軍の地対地ミサイルの名前でもありましたよね?」
兜「う…キャ、キャイ〜ン…」
真解〔必死に誤魔化している…〕
 真解は白い目で兜を見ながら、ラーメンをすすった。
真解「キャイ〜ンと言えば、その後杷木元さんは?」
兜「ああ、全ての罪を告白し、来月には起訴する予定だ」
 兜はギョウザをパクリと食べ、
兜「ついでに、青木雄二のファンだそうだ」
 と、付け加えた。
真実「そういえばお兄ちゃん、あの時カプセルが1週間で切れた説明してなかったけど…?」
真解「ん? ああ、そういえばしなかったな…。 処方から1週間しか経っていないあの袋の中には、まだカプセルが14個も残っていた。全てのカプセルの中身をストリキニーネに替えると、すぐにトリックがばれる。でも1つだけ入れ替えただけじゃ、杷木元 鎮さんがそれを飲むかどうかわからない…。そこで、残り14個のうち13個を捨て、残りの1個の中身をストリキニーネに替えたんだ。そうすれば、鎮さんはそれを飲む以外ないからね」
謎事「1週間待ちゃよかったのに」
真解「パートの時間と被るのが、あの日だけだったんだろ。あるいはどうしても待てなかったか」
 真解はまた、ラーメンをすすった。
「ゲホッゲホッ」と兜が咳をした。
蘭栖「風邪ですか? お父さん…」
兜「のようだ。こんな時期に、珍しいことにな」
 もう食べ終わったらしく、兜はカバンから市販の薬を取り出した。既に開封されている。何度か飲んだらしい。兜はPTPシートを箱から取り出しつつ、
兜「やれやれ…カプセルもあと1個か…帰りに買っていかんとな」
 と言った。
兜「…ん、なんだ? シートが既に破けている…?」
 ‥瞬間、軽い…ホントに軽い沈黙が、6人に圧し掛かった。周りの客のラーメンをすする音が、一瞬、遠のいた。
「まさかな…」そう呟いて、兜はカプセルをゴクンと飲み込んだ。

Finish and Countinue

〜舞台裏〜
今回、いいオチが思いつかなかったキグロです。
ってか、犯人の自供(?)からオチまでが随分長いと言うか…。あ、でもいつももこんなもんか?
そんなわけで、今回のゲストはストリキニーネを最後に飲んだ、兜警部。
兜「ちょっと待て。あれは毒なのか!?」
いえ、冗談ですよ。ハハッ。

さて、では正解者の発表。
今回は2人の方からメールを頂きました。
1人は完全に外れてましたが(ひどい言い様)、もう1人はなんと言うか。
当たってはいるんですが、微妙にずれていて、点数をつけるならば89点ぐらいの出題者泣かせな点(何
「1週間と2日と1食分」が入っていないのが気になりますが、でもかなり当たっているので、正解にします。
おめでとうございます、怪真金さん。
後日、何か送りつけます(メールで)。

今回は最後に兜警部の娘さんが登場しましたねぇ。
兜「ああ、したな」
初めは出すつもりなかったんだけどね、いいオチが思いつかず、仕方なしに…。
兜「仕方なしにって…じゃあ、蘭栖の名前は?」
もちろん、それも即興。剣っぽい武器を探しました。一生懸命。
真解「即興じゃないじゃん…」
まぁまぁ、気にしない。ちなみに馬上武器のランスはまっすぐな剣みたいなやつ。米陸軍のランスは慣性誘導方式で、10ktの核、 または454kgの通常弾頭を装着できるんだとか。危険やねぇ。
兜「まぁ、危険なのは名前だけだ」
でも、20歳で結婚でしょ? 大学は?
兜「……………お前が設定したんだろ。一応大学には行っている」
大学で勉強して、帰ってきたら中華料理店でお手伝い…か。大変だねぇ。
兜「だから、お前が設定したんだろ」

〜次回予告〜
「来週の水曜日の深夜12時 “水色の涙”を頂きに参上する」
次回は、怪盗MASK第2弾!
「あのドアの向こうは、完璧な密室だ…。盗れる物なら、盗ってみろ」
「……『怪盗MASKの“優秀な部下”』…か」
今度の相手はついに登場、MASKの部下! そして、もう1人の名探偵…。
「21世紀のホームズとか、現代のシャーロックとかと呼ばれているそうです」
「そんな探偵さんが、ボクに何の用ですか?」
ついに、真解にライバル誕生!
「ミアイ マサト…お互いの名誉をかけて、いざ、推理勝負よ!」
「しょ…しょうぶ…?」
果たして真解は、全員に敵うのか!?
「怪盗MASKは、この中にいる!」
次回、「密室内ダイヤ怪盗事件」をお楽しみに。

作;黄黒真直

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