摩訶不思議探偵局〜密室内ダイヤ怪盗事件〜
容疑者リスト
Adoleine=Able(あどれーぬ・えいぶる)…【私立探偵】
武中 義純(たけなか よしずみ)…【依頼人】
山中 椿(やまなか つばき)…【武中の家政婦】
中林 龍(なかばやし りゅう)…【美術雑誌記者】
尾上 敬一(おのうえ けいいち)…【美術評論家】
京谷 征野(きょうたに せいや)…【美術雑誌編集者】
楠魔=M=Trans(くすま・えむ・とらんす)…【怪盗MASK】
???…【怪盗アシスト】

摩訶不思議探偵局〜密室内ダイヤ怪盗事件〜推理・真相編

山中「義純様。もうすぐ、犯行予告がされた時刻でございます」
武中「なに?」
 武中は時計に目をやった。12時ちょっと前。
武中「本当だ…もう、そんな時間か…」
 急に、不安げな声を出し、真解たちを見た。
武中「どうだ? 探偵さん達…」
 アドレーヌも真解も、まだわかっていないような顔をしている。
真解「どうだ? 謎事…」
謎事「……悪い。怪しい人物は、いない…」
真解〔どういうことだ? 今までとは違う、犯行方法に出たのか…?〕
 真解はうつむいた。思えば、初めてうつむいた。
 時間はあとわずか。アリの子一匹入る隙のない密室から、どうやってダイヤを盗み出すのか…?
 それにしても、謎事が全くわからないというのもおかしい。いつもなら…もっと……。
真解〔まさか!?〕
 謎事は仲間は信じる。それが好きな人なら、なお更だ。それは今まで12年も連れ添った真解が一番よくわかっている。と言うことは…もしかしたら…。
 真解は思わず、メイを見た。
真解〔いや、だがメイが別人とすりかわっていたら、いくらなんでも即座に気付く! 真実なら、オレが気付かないハズが無い…〕
 真解は頭を振って、この考えを捨てた。そして改めて思考をめぐらした。犯人は、ダレだ!?
京谷「あと1分もないですねぇ」
 京谷の声で、全員ハッとして時計を見た。あと、30秒は切っている。
 全員、息を呑んで秒針の動きに目をやった。1秒ごとにカチッと音を立てながら6度ずつ動く。全員の目も、それにあわせて動いた。
 あと20秒…10秒…5…4…3‥‥2‥‥‥1・・・・。
シーン………
 ……まさに、この擬音がピッタシだった。よく使われる言葉を使えば、この瞬間のために生まれてきたかに思えてしまうほど、に。どうでもいいが、静かな表現なのに擬「音」とはいかがな物か。
 なんてことはどうでもいい。それよりも、彼らにとっては秒針が12時を過ぎたことの方が、重要だった。
武中「…12時…過ぎたが……?」
真解「…開けてみましょう。ドア」
尾上「そうだな…それがいい。確認しよう。もしかしたら…」
アド「消えているかも…と?」
 武中が恐る恐る鍵を取り出し、ドアを開けた。ダイヤは…あった。
 真解は部屋の中に入った。そして、謎事も続いた。他の全員も、恐る恐る中に入ってきた。
真解「本物…だよな?」
 真解はダイヤをスッと手に取った。
謎事「っぽいけどな…」
 真解の手のひらのダイヤに、謎事の手がスッと伸びた。
 瞬間…真解の脳裏が、一瞬真っ白になった。
 前に一度だけ感じた…アレだった。真っ白になった直後、一連の全てのことが、脳内にプレイバックされた。今日…正確には昨日、アドレーヌがうちに来てから、今までのことが、全て…。そして、真解の脳は確実に、不可解な一点を指し示した。
 パッと真解の視界が元に戻った。謎事の手は、まださっきと同じところにあった。
真解「見えた…」
 そう呟くか呟かないかの所で、真解は手を握り締め、バッと身をひいた。いきなりのことで、全員驚いて真解を見た。
謎事「ど、どうした…真解…」
 謎事が真解に一歩近づいた。と同時に、真解が言った。
真解「近寄るな、謎事! いや…怪盗アシスト!」
謎事「な…」
全「なんだってぇ!?」
 今度は、全員の目が謎事に向けられた。
謎事「ちょっと待てよ真解! なんでオレがアシストなんだ!?」
真実「そうよお兄ちゃん! そんなことが…」
真解「あるわけはないだろうな。そこにいるのが、本物なら…」
謎「え…」
 真解に向きかかっていた視線が、謎事に戻った。
真解「不覚だったよ、アシスト…。最愛の親友が、別人にすりかわっているのに、気がつかなかったなんてな…」
謎事「な、なに言ってるんだよ、真解…。オレがアシストの変装だって言いたいのか?」
真解「その通りだよ」
謎事「なにを根拠にそんな…!」
真解「…メイに聞けばわかる」
謎事「え?」
 謎事はメイを見た。
謎事「どういうことだ? メイ…」
 瞬間、メイは全てを理解したらしい。息を呑み込み、目を見開いて、手を口にやった。
謎「謎事くん…じゃない…?」
 メイは思わず、一歩さがった。
謎事「え? あ? ちょ、ちょっと待ってくれよ、メイ、なんで…」
真解「アシスト…お前は本当に、謎事のことをよく調べた」
 謎事の言葉を遮って、真解が言った。
真解「ですます体で話すとき、何故か『ッス』を入れてしまうというクセまで調べ上げたのに…何故、メイの呼び方だけわからなかったんだ?」
謎事「え?」
真解「謎事は…メイのことを、『メイ』じゃなくて『メイちゃん』って呼ぶんだ」
謎事「!」
真解「それが…何故急に、『メイ』になったんだ…?」
謎事「……イメチェン、だよ」
真解「……謎事はそんな言葉は使わない。それに…」
 真解は謎事…かどうか、もうわからないが、彼に近づいて、小声で言った。
真解「これは言わない方がいいのかもしれないけれど…。謎事は前に、オレにこう言った。『オレは、メイちゃんと付き合うまで、アイツのことを<メイちゃん>と呼び続ける』…ってな」
 そして、声の大きさを戻して、言った。
真解「『ドアを開けざるを得ない状況』…オレらはさっきっからそれを考えていた。だがなんてことはない。12時を過ぎれば、まるで操られたかのようにドアを開けるんだ。そして、その後で悠々とダイヤに近づき、バッと盗る…。違うか?」
謎事「だ、だが、アシストは大人だろ? オレみたいな子どもになれるわけが…」
真解「確かに…。だけど、オレ達はもう中学3年…。中学3年の男子と言えば、もう大人とさほど体格が違わない。アシストがどんなヤツだか知らないが、謎事になりかわるのは難しいことではないはずだ。それにアシスト…あんた、いまもう一個ミスを犯したな?」
謎事「えっ?」
真解「なんで、アシストが大人だって知ってるんだ? 確かに、大人かもしれない……だが、大人だと断言は出来ない」
謎事?「……………………クッ」
「クックックックッ……」
 彼は、不気味に笑い出した。そして、大声を張り上げて笑った。
謎事?「ハーッハッハッハッ!! そうさ、その通りだよ、名探偵クン!!」
 そして、MASKの時同様、あごの下に手をやり、思いっきり引っ張った。すると謎事の顔が変形して、中から…。
真実「うっそ…」
 真実が思わず言った。中から現れたのは、超美青年だった。麗しく、美しく、美形で、端麗で、優美、絶美、美々、華麗……全ての褒め言葉が合いそうな20歳ぐらいの青年だった。いや、もっと若いかもしれない。
???「初めまして。怪盗MASKの実の弟兼“優秀な部下”、怪盗アシストことAssist=X=Trans(あしすと・えっくす・とらんす)です」
 アシストは、礼儀正しくお辞儀をした。
真解「アシスト・エックス・トランス…? 偽名ですと言わんばかりの名前だな」
アシスト「どう取ろうと、君の自由だよ、真解くん」
真解「…で、1つ聞きたい。本当に、どうしてメイの呼び方がわからなかったんだ」
アシスト「わかってたさ」
 アシストはサラリと言った。
真解「え? じゃあ、何故…?」
アシスト「決まってるじゃないか」
 アシストはサッと凍り付いているメイに近づき、片ひざをついてメイの右手を取った。
アシスト「こんなスウィートな女の子…『ちゃん』付けで呼ぶなんて、ぼくにはできないさ」
 そう言って、メイの右手にキスをした。
謎「〜〜っ!?」
 いままで見せたこともない素早さで、メイが一気に身を引いた。顔を赤らめ、胸の前で右手を抱え込んでいる。
アシスト「ハッハッハッ。手へのキッスぐらいで…ピュアだねぇ。でも、そこがまたいい」
謎「どういう意味ですか…?」
 半ばキョトンとして、メイが聞いた。すると、アシストは半ばニヤつきながら、
アシスト「ぼくの好みのタイプなんだよ、メイは。顔も、性格も。ダイヤモンドなんかよりもずっと綺麗で…。君を盗もうかと思ったぐらいだ」
 メイが更に顔を赤らめた。真顔でこんなセリフを言われるのは、初めてなのだろう。そんなメイを見ながらアシストは軽やかに笑い、立ち上がった。…もしここに謎事がいたら、核爆発が起こってもおかしくはない。
武中「ともかく怪盗アシスト! 貴様にはお縄にかかってもらう!!」
 武中がアシストに飛びかかろうとした。
アシスト「おっと待ったぁ!」
 アシストが両手を「待った」の姿勢にした。その手の指と指の間には、計8個の黒いボールが挟まっている。
武中「な、なんだ、それは…?」
アシスト「これは、中にコショウの粉末が大量に入った球さ。これを地面に叩きつければ、半径10メートルはあっという間にクシャミと涙のパラダイスさ」
真解「こ…コショウ?」
真実「う…ウソでしょ?」
アシスト「ウソだよ」
 また、サラリと言った。
アシスト「本当は、特殊技術で効果を2倍に上げた催涙ガスが入ってる。これを地面に叩き付ければ、半径10メートルはあっという間にクシャミと涙のオン・パレードさ」
真解「そうか…。じゃあ、お縄にかけない代わりに、もう1つ教えてくれ」
アシスト「なんだい?」
真解「本物の謎事は、どこにいる?」
真実「そうよ! どこにいるの!?」
アシスト「ああ、なんだ。この山のふもとにボロ小屋があっただろ? あの中でMASKの姉貴の子守唄聞きながら、グッスリねんねしているはずだぜ」
真解「こ…子守唄…?」
アシスト「まぁ、睡眠薬と言った方が適切かな?」
真解〔適切って言うか、全然違うもんだろ!!〕
 と、その時だ。
 ドンドンドンドンドン!! とけたたましいノック音と、けたたましいチャイム音が鳴り響いた。
武中「だ…誰だ?」
山中「み、見てまいります」
尾上「不審者かもしれない。わたしも行こう」
 2人が慌ててドアを開けて、玄関へ向かった。十数秒後、山中の「キャッ」と言う短い悲鳴がすると、素早い足音が聞こえ、閉まりかけたドアがバンッと勢いよく開いた。そこに立っていたのは…。
謎「謎事くん…!」
真解「謎事!」
 3人が謎事の元に駆け寄った。謎事は今にも倒れそうに、息切れをしていた。真解は肩をかし、とりあえず謎事が倒れないようにした。謎事の後ろから、山中と尾上も入ってきた。
謎事「ゼー‥ハー…き…キサマが…MASKの弟か…!」
アシスト「おやおや…謎事くん、はじめまして。怪盗アシストです。…あれ? でも、姉貴が見張ってたはずだけど…?」
謎事「当て身食らわして…代わりに眠らせてやった…」
アシスト「なんだよ姉貴、弱いじゃん。 しっかし謎事くん…もしかして、ふもとからここまで走ってきたのかい?」
謎事「『走って』なんてもんじゃねぇ…全力疾走だ…。ともかくアシストォ……。覚悟…しやがれぇ……」
アシスト「『死に直面している』と言う意味では、お互い様な気もするけどね。ま、ぼくの場合はすぐにでも逃げ出せるけどね。…こうやって…」
 アシストは、ホンのちょっとだけ、指の隙間を広げた。
全「あ」
 っという間に、球は地面に激突し、大量の白い煙が噴出した。と同時に、半径10メートル以内、クシャミと涙のオン・パレードになった。パリン、と言うガラスの割れる音もした。
真解「っ!!」
 真解は謎事を真実に預け、音のした窓に駆け寄った。綺麗に割れている。そこから外を見ると、暗闇の奥に、薄っすらと気球にぶら下がっているアシストの姿が見えた。今宵は新月…非常に見づらい。
アシスト「今回はぼくの負けだ。だが、次はきっと勝つ! メイにも、よろしく伝えておいてくれ!」
 ハッハッハッハッハッと言う高笑いと共に、アシストの姿が見えなくなった。
 いつの間にかに、アドレーヌが武中から鍵を奪って、部屋中の窓を開けていた。換気はあっという間に済み、クシャミも涙も出なくなった。
真解「フゥ…」
 真解は壁に寄りかかり、ふと、手を見た。
真解「……あれ?」
真実「どうしたの?」
真解「ダイヤが…消えてる……」
武中「なっ…なにぃっ!?」
京谷「アシストが盗って行ったのか!?」
アド「No.先ほど、彼の『ぼくの負けだ』と言う声が聞こえました。おそらく…アシストが盗ったのではないでしょう」
武中「じゃあ何故消えた? 落としたのか?」
真解「いや……」
 真解は一瞬うつむいた。まさか…。
 真解は顔を上げた。
真解「みなさん、その場から動かないで下さい! 当然ですが、まだ事件は終わっていません。忘れてませんか? アシストにはMASKと言う『姉貴』がいる…」
真実「まさか…」
真解「そう。MASKが隙をついて、ダイヤを奪ったんだ。そして……」
 真解は、ニヤッと笑った。
真解「怪盗MASKは、この中にいる!」

Countinue

〜舞台裏〜
こんにちは、キグロです。今回は真相編の2本立て。『遺産相続権…』以来の試みです。
そんなわけで、今回のゲストは怪盗アシストことAssistさん。
アシスト「どうもぉ」
いやぁ、苦労しましたよ、アシストさん。
アシスト「ん? なにが?」
もちろん、あなた自身ですよ。なんでメイに惚れちゃうんですか。
アシスト「君が決めたことだろう」
いや、まぁ、そうですけど…。恥ずかしかったですよ、あのキスシーン…。
アシスト「イギリスじゃぁ、あんなの挨拶だけどね」

と言うわけで、今回は真相編2本立て。事件はまだまだ終わっちゃいませんよ。
アシスト「と言うわけで、推理を募集します。募集内容はもちろん、我が姉貴、MASKは誰か? 推理は全てメールで。間違っても掲示板等に書き込まないように。メールアドレスは【kiguro2@yahoo.co.jp】です」
ボクのセリフをとるなぁ!!
アシスト「だって怪盗だし」

ちなみに、正解者の発表は次回、まとめてやります。
ではまた。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

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