摩訶不思議探偵局〜密室内ダイヤ怪盗事件〜
容疑者リスト
Adoleine=Able(あどれーぬ・えいぶる)…【私立探偵】
武中 義純(たけなか よしずみ)…【依頼人】
山中 椿(やまなか つばき)…【武中の家政婦】
中林 龍(なかばやし りゅう)…【美術雑誌記者】
尾上 敬一(おのうえ けいいち)…【美術評論家】
京谷 征野(きょうたに せいや)…【美術雑誌編集者】
楠魔=M=Trans(くすま・えむ・とらんす)…【怪盗MASK】
Assist=X=Trans(あしすと・えっくす・とらんす)…【怪盗アシスト】

摩訶不思議探偵局〜密室内ダイヤ怪盗事件〜真相編

武中「この中に…」
中林「怪盗MASKが…?」
真解「ええ」
 真解はうなずきながら答えた。
真実「で…誰なの? お兄ちゃん…」
真解「………」
 真解はそれに答えずに歩き、壁に寄りかかっている謎事の近くに来た。
謎事「…なんだ?」
真解「ちょっといいか? 謎事…」
謎事「あ? ああ…」
 謎事が壁からスッと離れ、真解は謎事の後ろに周った。そして…謎事の両腕を、後ろから抱え込んだ。
謎事「な、なんだ? 真解…」
真解「観念しろ…怪盗MASK!」
「なにいぃ〜っ!?」
 別にそう叫んだ奴がいたわけじゃないが、全員がそう叫びたい心境だった。そんな、バカな!!
真解「よく考えたもんだよ。『謎事』が偽者だとわかった直後、『謎事』が飛び込んでくる…。そしたら、後から飛び込んできた『謎事』が偽者だとはダレも思わない。MASK、あんたはその心理に付け込んだんだ」
真実「ちょっと、お兄ちゃん…そんな…ウソでしょ!? なにを根拠に…」
真解「思い出してみろ、真実。ボクらの、今日の行動を…」
真実「え…?」
真解「今日…まぁ、正確には昨日だけど、アドレーヌさんがうちにやって来た。そして、ボクらはそのままここまでやって来た…。そして、それからいままで、ボクらはずっと『謎事』と一緒にいた。さて……謎事とアシストは、いつ入れ替わったんだ?」
真実「え? えっと……」
謎「今日、わたし達が会う前…」
真解「その通り。謎事もメイも、学校から帰ってきた後、一度家へ帰る。それから探偵局に来るだろ? MASK達は、その隙に謎事を拉致し、アシストが謎事に変装して、何食わぬ顔でうちに来たんだ。おそらく、もうすぐ来るであろう予告状の届け主を待ちながら。もちろん、ダレが届けに来るかもわからないし、もしかしたら既に届けられていて、『じゃぁ、行こうか』となるかも知れない…。でも、それは別にどうでもいい。ここに来れればそれでいいんだから」
「だろ?」と真解は謎事の横顔を覗き込んだ。
謎「でも、それが…?」
真解「わからないか? ボクら、今日初めてあの予告状を見て、今日初めてここに来た。しかし、予告状を見たとき既に、『謎事』は謎事ではなく、アシストだった」
真実「そうだけど…?」
真解「じゃぁ、1つ聞こう。『謎事』」
謎事「なんだよ?」
真解「…なんでお前は、この場所を知っていたんだ?」
全「あ!」
真実「そうか! 知ってるわけないんだ!!」
真解「そう。だから、いくら当て身を食らわしても、ここに来ることは出来ないんだ」
 全員が、謎事を見た。怪盗を見る目つきで。
謎事「ち…違う! MASKから聞いたんだ!」
真解「どうやって?」
謎事「オレが起きたら、『あらおはよう』ってのん気に言って、オレが暴れかけたら、オレを抑えてゆっくり全ての計画をぶちまけてくれた」
真解〔いや、普通そんなことしないって〕
 しかし、突っ込むべきはそこではない。
真解「だけどな、MASK。どう考えてもおかしいんだよ。まず第一。謎事を眠らせるんだったら、睡眠薬の量調整して、全てが終わるまで眠り続ける量を与えるだろ? それに第二。いくらボロ小屋に閉じ込めたって言っても、カギぐらいかけるだろ?」
謎事「あんなドア、ぶち壊してやった」
真解「そうか…それならいいんだけど、第三。ちょっと、窓の外見てみな」
謎事「?」
 謎事は思わず、窓の外を見た。綺麗な夜空が見える。やはり、山の上の星空は美しい。
謎事「なんだ?」
真解「あのなぁ…いまは夜中だぞ? どうやったら、夜中の山道を全力疾走できるんだよ!?」
謎事「いや、でもほら、月明かりって結構明るいぜ?」
真解「また墓穴を掘ったな…。もう一度よく見てみろ。今日は新月…月明かりなんて、無いんだ」
謎事「!!」
真解「さぁ、怪盗MASK! もう言い逃れは出来ないぞ。大人しくダイヤを出し、謎事の居場所を教えろ!!」
 一瞬、場が静まり返った。そして…「クッ」と『謎事』が笑った。
謎事?「ふぅ…わかったわよ。わたしの負けね」
真実「そ…そんな…」
MASK「久しぶりね、みんな。楠魔・M・Trans…怪盗MASKよ」
アド「あなたが…怪盗MASK……マジシャン…M…」
MASK「あら、その名前で呼ばれるのは久しぶりね…。あ、ついでにいまは、『マジシャンMASK』の名前で通ってるから」
謎「そしてそれも今は昔…。今現在は『怪盗MASK』の名で、警察を翻弄させている…」
MASK「ま、そうなんだけどね。今回は警察がいなくて、ちょっと寂しかったわね」
武中「そんなことより、ダイヤはどこだ!?」
MASK「上着の内ポケットよ」
 真実が手を突っ込んで、青く美しいダイヤを取り出した。
武中「おお…良かった…良かった…」
 真実はそれを、武中に手渡した。尾上も、中林も、京谷も、思わずそれを囲む。
真解「で、謎事の居場所は?」
MASK「山のふもとのボロッちい小屋の中よ。睡眠薬のおかげで、グッスリ眠っているはずだわ」
真解〔ああ、そこは本当だったのか〕
 こいつらの言うことだと、どこまで信用できるやら…。
真解「あともう一個」
MASK「何かしら?」
真解「その…謎事の顔と声で、女言葉使うの、止めてくれません? 不気味で…」
MASK「じゃあ、このゴムマスク、取らせてよ」
真解「ダメですよ。あなたなら、マスクを取るふりして、何をするかわかったもんじゃない」
MASK「あら、わかってるじゃない」
真実「あ、じゃぁわたしが取る」
MASK「無理ね。わたし以外の人には取れないわ」
真解〔どんな仕組みになってんだよ…〕
MASK「企業秘密」
真解〔……何故に、MASKにまで心を読まれる!?〕
MASK「人の思考ぐらい、簡単に盗めるわよ。わたし達に盗めないものは無いわ。…まぁ、アシストがメイちゃんのハートを盗むのは、到底無理だろうけど」
 MASKはチラリとメイを見た。
MASK「ごめんね。実はさっきの会話、全部聞いてたの。アシストが貴方にキスまでしちゃったみたいで…」
 それを思い出したのか、メイがまた顔を赤らめた。
MASK「あいつには、後できつく叱っておくわ」
「お願いします」…と、メイは思わず言った。律儀に、軽く会釈までして。
真解「残念だけと、MASK…あんたに、後でアシストをきつく叱ることは出来ない。出来たとしても…まぁ、刑務所の中でしょうね」
MASK「何故かしら?」
真解「決まってるじゃないですか。このまま、警察まで行ってもらうからです」
MASK「そう…。今まで貴方が対面して来た犯人は、みんな罪を認めたら、諦めて捕まったんだろうけど…わたしは、そうは行かないわよ? 最後の最後まで、脱出を考えるわ」
真解「しかし…この腕を抱え込まれた状況で、どうやって?」
MASK「貴方の抱え込みなんて、弱々しくてダメね」
 そういうとMASKは、解放されて自由になった両腕を、真解に見せた。
真解「!?」
 真解は一瞬なにが起こったかわからなかったが、すぐに理解した。MASKはいつの間にかに、真解に偽の腕を抱え込ませていたのだ。しかし、時すでに遅し。MASKは両手に持った黒い球を床に叩き付けた。パシュッと小さな音がして、半径10メートル以内が涙とクシャミのオン・パレードと化した。
真解「ま…待てっ!!」
 クシャミをしながら、真解はまた窓に近寄り、夜空を見上げた。気球にぶら下がっているMASKの姿が、暗闇の中に薄っすら見えた。
MASK「じゃぁね、名探偵くん! 今回もわたしの負けだわ。でも、次回は必ず勝つ。なんとしてでも、貴方にギャフンと言わせてみせるわ!」
 既に、謎事の声では無くなっていた。
真解「ハッ。ギャフンと言うのはMASK、あんたの方だ! 今度こそ、必ず捕まえてみせる!」
MASK「フ…楽しみに、待ってるわ! あ、あとこれ、ガラスの修理代ね!」
 真解はMASKが投げた封筒をキャッチし、最後にクシャミを1つした。MASKの姿が、夜空に消えていった。
 MASKもアシストも取り逃がした。だけど、真解は何故か、晴れ晴れとした気分だった。次こそ、あいつらを捕まえてみせる。絶対に。
 背後では、まだクシャミと涙のオン・パレードが続いていた。

真解「おい、謎事、起きろ!」
謎事「あ…??」
 謎事がムックリと起き上がった。
 ここは例のボロッちい小屋。真解たちとアドレーヌは、急いでここに来て謎事を叩き起こしたのだ。謎事は小屋の奥にあるお世辞にもベッドとは言えない木の台に寝かされていた。
謎事「真解…。それにメイちゃんに、真実……と、誰だ?」
 謎事がアドレーヌを見て、言った。
 真解はとりあえず事情を説明した。アドレーヌ、アシスト、そしてMASKのこと…。
謎事「そうか…。わかった…」
謎「…今度こそ、本物の謎事くんですよね?」
 メイが不安げに聞いた。
真解「さっき、『メイちゃん』って言ってたから、少なくともアシストじゃないだろう」
謎事「え? なんで『メイちゃん』って言うとアシストじゃないんだ?」
真解「何故か知らないが、『こんなスウィートな女の子…<ちゃん>付けで呼ぶなんて、ぼくにはできないさ』とか何とか言ってたんだ」
謎事「なに…? おいメイちゃん、なんかされなかったか!?」
 謎事が慌ててメイに聞いた。メイは、顔を赤くして、
謎「い、いえ、なにも…」
 と答えた。
謎事「…じゃあ、なんで顔…」
アド「キスされたのよ。手に」
 アドレーヌがサラリと言った。真解たちは、口をアングリ開けて、アドレーヌを見た。
アド「Wha...What? なによ?」
 アドレーヌは知らなかったのだ。謎事の、メイに対する感情を。謎事は、核爆発を起こした。
謎事「ア…アシストオォッ! オレは貴様を絶対に許さねぇっ!! よくも、オレのメイちゃんにいぃぃっ!!」
「いや、彼女はどう考えてもお前の物ではない!!」
 誰もがそう思ったが、誰もそう言うことは出来なかった。

Finish and Countinue

〜舞台裏〜
と言うわけで、2重騙し、わかりましたでしょうか?
今回のゲストは、謎事くんです。
謎事「キグロォ! てめぇ…1つ言わせろ!」
なに? アシストのキス?
謎事「そうだ! 決まってるだろう!! てめぇ…よくも…っ!」
まぁ、落ち着け。ほら、手だし。手、手。
謎事「キサマ! 自分に置き換えてみろ! これが落ち着いていられるかぁっ!!」
いや、落ち着いてはいられないけど、でも、ちょっと、オーバーヒートしすぎだって。
アシスト「そうそう、妬くな妬くな。あんなの、イギリスじゃ挨拶代わりだよ?」
謎事「ここは日本だぁっ!!」
キグロ〔やばい…核爆発が起きるっ!?〕

さて、では正解者の発表です。
“開けざるを得ない状況”が解った方>怪真金さん、まささん、祐さん、
アシストの正体が解った方>無し
MASKの正体が解った方>祐さん
全て解った方>無し
以上です。
『開けざるを得ない状況』は、結構盲点付いてて解からないかな? と思っていたら…
結構、あっさり解かれちゃいました。
う〜む…ボクもまだまだ修行が足りないな…。
「全て解かった方」がいなかったので、今回は賞品は無しです。
またのご挑戦、お待ちしております。ニヤリ。

ま、謎事くん、今回はある意味ご苦労様でした。
謎事「ガルルルル…」
頼むから、うならないでくれるかな…。
謎事「でもよ、オレが入れ替わってるなんて、わかるわけ無いじゃないか!」
真解は解ったぞ。
謎事「いや、そうだけど…」
それにホラ、ボクはちゃんと「依頼編」の舞台裏で言ってるぞ?
謎事「え…?」
ホラ、「探偵が犯人ってのは、よくあるテですからね…」って。
謎事「!? や…やられたぁっ!?」

〜次回予告〜
「来週の月曜、旅行に行くわよ!」
次回は、探偵団が二手に分裂!
「やったぁ! 旅行だ、旅行だぁ!」
「その…2人でどっか、出掛け…ないか…?」
真解と真実、謎事とメイが
「ここにいる全員に犯行が可能。だけど、同時に全員、犯行は不可能…」
「あの人たちには犯行は不可能…でも、あの人たちにしか犯行は不可能なんだ…」
それぞれの難事件に挑む!
「殺人目的…」
「閉じ込められた!?」
「あなた達に、殺人容疑がかけられました」
「当然の報い…と言うヤツか…」
果たして、2つの事件は解決するのか!?
「見えた…」
「ナゾは、すべて解けた!」
次回、『2つの事件』をお楽しみに!

おまけの名句珍言集(謎)「おい、1250万っていくらだ?」
解説;「遺産相続権…」で依頼を受けたとき、「1億の8分の1」を真実が一瞬で計算したとき、謎事が言ったセリフ。ちなみに、キグロもよくこのフレーズを使う。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

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