摩訶不思議探偵局〜殺人家族旅行〜
容疑者リスト
桜井 梅木(さくらい うめき)…【長野県警警視】
布川 茉莉(ぬのかわ まり)…【旅行客】
渋谷 理香子(しぶや りかこ)…【旅行客】

摩訶不思議探偵局〜殺人家族旅行〜事件編

 真実が部屋の捜索を再開すると、同時にパトカーのサイレンがホテルの前で止まった。そして数分後、警官達がドヤドヤとやって来た。真解が思わずそっちを見た。警官の制服を着ている、おそらく巡査だろう人々の中に、1人だけ、赤茶げたコートを着た、20代半ばぐらいの長髪の女性がいる。カツカツと威勢のいい足音を立て、真解たちの方へと近づいてくる。そして、目の前で立ち止まった。同時に、巡査達は部屋の中へドヤドヤと入っていく。
???「どうも初めまして。長野県警察本部警視 桜井 梅木(さくらい うめき)です」
真解〔警視…? 20代半ばでか? やけに早くないか…?〕
 まぁ、おそらくキャリア組みとか言う人物なのだろう。いや、そんな人物だったら警視庁にしかいないのかもしれないけれど。
 桜井は一旦部屋の中へ目を向け、現場を見る。そしてすぐに戻って来て、
桜井「まずは、あなた方3人の名前を教えてください」
 と言った。
???「あ、あの、わたしは布川 茉莉(ぬのかわ まり)です…」
???「渋谷 理香子(しぶや りかこ)です…」
真解「実相 真解…です」
 桜井は黙って全員の名前を手帳にメモし、続けた。
桜井「では次は、被害者の名前、そしてあなた方との関係を教えてもらえないでしょうか?」
布川「彼女の名前は…堺 莉遊(さかい りゆ)です」
渋谷「わたし達は、3人で旅行に来ていたんです…」
 桜井はまた黙って、それをメモした。…と、手を止めた。
桜井「“3人”…? じゃぁ、この子は?」
 桜井はペンで真解を指差した。
真解「あ、ボクは騒ぎを聞きつけて、やって来ただけで…」
桜井「ヤジウマァ? そう言う精神、あんまり良くないわよ。ヤジウマは警察にとっては非常に迷惑なんだから」
真解「す、すいません…」
 余談だが、ヤジウマは漢字で「野次馬」。その語源は、「親父馬」。馬はとても子供をかわいがる。そして親父馬は必ず子馬の後をついてくる。その様子がどこでもゾロゾロとついてくる見物人そっくりだったため親父馬と言われるようになり、それがやがて「ヤジウマ」になったと言われている。ただこれには異論もあり、他には、語源は同じだが、親父になった(年老いた)馬は使い物にならず、邪魔なため、いるだけで邪魔な事件見物人を「親父馬」と言うようになり、やがて「野次馬」となった、と言う説もある。
渋谷「そ、そういえば、さっき女の子が1人、中に…」
桜井「え?」
「まだいるの!?」と言うニュアンスをたっぷり込めて、桜井が言った。そして中を覗き込む。桜井はすぐに真実を見つけ、ズカズカと中に入っていった。
桜井「おい! そこの娘!」
真実「え?」
「な〜に?」と言わんばかりに真実が振り向くと、ものすごい形相の桜井が目に入った。
桜井「何現場に勝手に入ってるの!?」
 と、真実の襟首をむんずと掴み、
桜井「ほら、彼氏の元に戻んなさい!」
 と真実を真解の方へと押しやった。
 真実は
真実「うわ〜ん」
 と泣き(マネをし)ながら、真解の元へと駆け寄り、抱き付いた。思えば、真実が抱きつくのは久しぶりだ。…もっとも、小説の中で、の話だが。
真解「だから真実、抱きつくな!」
 真解は無理矢理、真実を引き離した。そこに桜井がズカズカと戻ってきた。
桜井「全く。彼女はちゃんと見張っておかないと、どんどん逃げてくわよ!?」
真解「桜井警視! こいつはボクの妹の真実です!」
 しかし、桜井は聞こえたのか聞こえなかったのか、ふぅ、とため息をついた。
桜井「ったく、最近の子どもは、なんでこんなにませて…。わたしなんか、まだ…っ!」
真実「え? おいくつなんですか?」
桜井「24よ。文句ある?」
真実「ないですけど…そういえば、あなた誰?」
桜井「長野県警察本部警視 桜井 梅木よ!」
真実「呻き?」
桜井「梅木! 発音間違えると殺すわよ!?」
 なかなか乱暴な言葉を使う刑事だ。
 桜井はまたため息をつくと、
桜井「あなた達、どこの子?」
 と聞いてきた。
桜井「このホテルの宿泊客よね? 部屋は?」
真実「この隣です」
桜井「あ、そう。じゃ戻った戻った!」
 桜井はグイグイと真解たちを部屋へ帰した。
 部屋の中に入ると、いつの間に帰ってきたのか、解実と美登理がいた。
美登理「どうどう、どんな事件だった?」
真実「わかんない…刑事さんに押し返された」
解実「まぁ…普通は、そうだろうなぁ…」
真実「でもあの刑事さんだって、お兄ちゃんのこと知ってたっていいのに!!」
真解「警視庁内ならある程度名前が広まってるけど、ここは長野…知ってるわけないよ」
真実「え〜、でももっと遠い長崎の阿久刀川(あくたがわ)さん、わたし達の事知ってたじゃん」
真解「あの人は兜警部の元部下で、今でも連絡を取り合っていたからだ」
真実「じゃ、ここのサクラ警部は?」
真解「つながりないんだろ。それに、桜井だし、警視だぞ」
 突然出てきた単語に、真実は一瞬キョトンとした。
真実「警視? って確か、警部の一個上の位だっけ?」
真解「そう言うのは真実の方が詳しいだろ。確かそのハズだ」
真実「へぇ! じゃぁ、兜警部よりも階級が上なの!?」
 真解はちょっと首をひねって、
真解「さぁ…? まぁ、警視だから上じゃないか? あ、でも兜警部は警視庁の警部だし…??」
真実「ふん。上司だって部下だって、恐れる事はないわ!」
 真解の言葉を遮って、真実が叫んだ。
真実「行こう、お兄ちゃん!」
 真実はそう言って、真解の腕を引っ張った。
 ちなみに、桜井警視が兜警部より階級が上と言うのは、全くの勘違いだ。警視や警部と言った階級は、その都道府県内でしか通用せず、他の都道府県には全く影響力はない。これは警視庁とて同じ事。だいたい、「警視庁」と言うから特別なイメージがあるが、名前が違うだけで「警視庁」は全都道府県に存在する。警察と言うのは一番上に内閣総理大臣、その下に国家公安委員会、その下に警察庁などがあり、警察庁の下に地方機関として各都道府県警察がある。各都道府県警察には、それぞれ本部と警察署が置かれていて、東京都警察の本部の名前が、警視庁なのである。だから、警視庁の警部だからと言って、他の道府県にまで影響力を及ぼしているわけではない。ちなみに、警視庁の下に警察署、その下に交番などの駐屯所があり、警視庁の上には東京都公安委員会、その上には東京都知事がいる。

真実「サ・ク・ラ・け・い・し♪」
 真実が真解の腕を引っ張りつつ、桜井に言った。桜井は部屋の前で、部下達を見ていた。
桜井「あら、さっきのカップルじゃない」
真解「いえ、ですからこいつとは単なる兄妹で…」
真実「恋人だもん」
 真実は真解の腕に抱き付いた。それを真解が、無理矢理引き剥がす。
桜井「で、何のよう?」
 桜井は警察手帳で自分の片を叩きつつ、ため息混じりに言った。
真実「サクラ警視、わたし達のこと知りませんか? 実相 真解に実相 真実って言うんですけど」
桜井「知らないわ。それにわたしの名前は桜井よ。サ・ク・ラ・イ!」
真実「ま、良いじゃないですか。こっちの方が可愛いし呼びやすいし」
 桜井は肩を叩く手を止めて、
桜井「ま、それもそうね」
 と言った。
桜井「…って、そんな事はどうだって良いの。何の用? わたしはいま、忙しいの!」
真実「あの、わたし達、摩訶不思議探偵団って呼ばれてるんですけど…」
桜井「探偵…?」
 桜井は顔をしかめ、肩を叩く手を止めて、真解と真実の顔を凝視した。そしてまた肩を叩き始めて、
桜井「わたしは信じないわ」
 と返した。
真実「え〜、そんなぁ〜」
桜井「それに…仮に探偵だとしても、今回の事件は探偵向きじゃないわ。部屋の様子を見ればわかるでしょ?」
 桜井は、あごをしゃくった。
桜井「これは立派な強盗殺人。わかる? 『ごうとうさつじん』。ドロボーさんが、物を盗もうとしてその部屋の人に見つかっちゃって、殺して逃げちゃうの。だから、警察の鑑識班が手がかりを探して、犯人を洗い出すの。それに大抵、前科がある人がほとんどだから、指紋が見つかれば簡単に犯人を特定することが出来るの。探偵の力を借りるまでもないわ」
 桜井はまたため息をついて、「もう帰りなさい」と言い返した。
真解「本当に、強盗殺人なんでしょうか…?」
 真解が、ポツリと言った。
桜井「どう言うことよ?」
「聞き捨てならんぞ」と言わんばかりに、桜井が真解の顔を覗き込んだ。真解はそれを睨み返し、
真解「だって考えてみてください。被害者は、うつ伏せで倒れていたんですよ? これは、犯人に後ろから絞め殺されたことを意味します。その証拠に、ベルトも背中側に回っているはずです」
 桜井はちょっと部屋の中を覗き込み、
桜井「そうね…。でも、それが?」
真解「被害者は、部屋に残っていたんですよね? そもそも、何故残っていたんですか?」
桜井「えっと…」
 桜井はパラパラと警察手帳をめくった。
桜井「渋谷と布川、そして被害者・堺の3人は、この部屋に着いて数分後、レストランに行くことになった…だけど、被害者だけは先にお風呂に入ってから行くと言い、2人は被害者を残して、部屋を出た…そう証言しているわ」
真解「そうですか…。では、1つ質問です。もし部屋にいて、誰も開けないハズのドアが突然開いたら、どうしますか?」
桜井「それはもちろん、驚いてそっちを見……あ!」
 桜井の動きが止まった。
真解「そうです。被害者、堺さんも、振り向いたハズなんです。そうすれば当然、犯人は必然的に前から被害者を絞め殺す事になります。仮に被害者が部屋の奥に逃げたため、後ろから絞め殺されたんだとしても、犯人の目的はあくまで『強盗』。見つかったからといっても、わざわざ部屋に乗り込み、絞め殺す必要は無いんです。とっとと逃げりゃいいんですから。それに、桜井警視は女性だからわからないかもしれませんが、ベルトって、結構瞬間的に外せないもんなんですよ。外せるにしても、いきなりベルトを凶器にしようとは思いつきません。なのに、ベルトで絞め殺したと言う事は…?」
桜井「殺人目的…」
真解「その通りです。それに、被害者は犯人を見て、悲鳴を上げるハズです。そこで上げなくとも、わざわざ殺そうと襲い掛かれば、絶対に悲鳴を上げます。犯人に、そこまでのリスクを負う必要性はありません」
桜井「確かに…そうね…」
 桜井はそう呟いて、警察手帳を口もとに当てた。
真実「すご〜い、お兄ちゃん!」
 真実はそう言って、真解に抱き付いた。真解はそれを引き剥がしながら、
真解「ところで…確かに部屋は荒らされてますけど、何か無くなった物はあるんですか?」
桜井「ええ、あるわ」
 桜井はまた手帳を開いた。
桜井「被害者と渋谷、布川の持っていたショルダーバッグから、財布だけが奇麗に無くなっていたようね。財布には3人合計して現金が10万円ほどで、他にクレジットカードが5枚ほど入っていたそうよ」
真解〔一応、物は無くなっている訳か…〕
 と言う事は、やはり強盗殺人か…或いは、殺人目的だと言うことをわかり難くするための物か…?
真実「え、でもなんかおかしくない?」
桜井「何がよ」
真実「えっと………‥‥‥・・・なんだろ? なに? お兄ちゃん」
真解「知るかよ」
 真解が即座に突っ込んだ。
真解「謎事がいれば、おかしなところに気付いたかも知れないけどな…」
真実「そっか、今回いないからね」
桜井「何の話をしているの?」
真実「あ、気にしないで。 …それより、そうよ」
 真実は人差し指を1本立て、桜井に突きつけた。
真実「今ので、お兄ちゃんが探偵だってわかったでしょ??」
 桜井は手帳で肩を叩く手を止め、ちょっと考え込み、
桜井「…ま、普通の少年じゃない事は確かね」
 と言った。
真実「ほらぁ、でしょう? だから、事件について、色々教えてくださいよ! お兄ちゃんがバシッと解いちゃうんだから!!」
桜井「そうは行かないわ。いい? 警察には守秘義務って言う秘密を守らなきゃならないって言う決まりがあるの。いくら相手が探偵だろうと、勝手に事件の重要な秘密をベラベラ教えちゃダメなのよ」
真実「え、じゃぁ、兜警部は!?」
桜井「誰よそれ」
真実「警視庁の警部ですよ。知らないんですか」
桜井「知らないわ。大体、そんな変な名前の人がいるわけ?」
真実「いますよぉ」
真解「あ!」
 と、真解が唐突に言った。2人は口論を止めて、思わず真解を見た。
真実「ど、どうしたの? お兄ちゃん」
 真解は桜井をキッと見据えて、言った。
真解「桜井警視…これは、ただの強盗殺人じゃない可能性が高いですよ。いえ、むしろその可能性はゼロと言ってもいいでしょう」
桜井「な、何でよ…?」
 真解は、ニヤリと笑った。
真解「犯人は、渋谷 理香子と布川 茉莉…この、どちらかです」

Countinue

〜舞台裏〜
いやぁ、なんだか事件の展開が遅いなぁ…。
そんなわけで今回のゲストは、真解くんです。
真解「どうも」
今回は真実と恋人同士にされたねぇ…真解くん。ニヤッ。
真解「お前のせいだろ。なんで桜井警視はわかってくれないんだ?」
一度決め付けたら意地でも引かない、プライドの高い人なんだよ、きっと。
真解「ヤな性格だな、おい…」
……………悪かったな、おい。

ところで、今回のラストで、妙なこと言ってるね、真解。
真解「『犯人は、渋谷 理香子と…』ってヤツか?」
そうそう、それそれ。
真解「まぁ、たぶんそうだろう」
ほぅ…。
真解「………いや、ってかキグロ、お前が考えたんだろ」
ま、そうだけどさ。
そんなわけで、推理を募集…しそうな展開ですが、今回はなし。
皆さん、独自で楽しんでください。
では、また次回。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

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