摩訶不思議探偵局〜殺人家族旅行〜
容疑者リスト
桜井 梅木(さくらい うめき)…【長野県警警視】
布川 茉莉(ぬのかわ まり)…【旅行客】
渋谷 理香子(しぶや りかこ)…【旅行客】

摩訶不思議探偵局〜殺人家族旅行〜事情聴取編

真解「犯人は、渋谷 理香子と布川 茉莉…この、どちらかです」
 真解が勝利の微笑みと共に言うと、桜井が一瞬動きを止めた。
桜井「……………帰れ」
 次に出た言葉が、これだった。
真実「ちょっと、何でですか!? お兄ちゃんがこうやって推理を…!」
桜井「あのねぇ! これはドラマじゃないのよ!? そんな都合の良いことが起こるわけないでしょ!? 結局、事実はつまらない現実でしかないのよ!」
真実「事実は小説より奇だもん! お兄ちゃん、推理を披露してよ!」
 真解は苦笑しながら、説明することにした。
真解「桜井警視は先ほど、こういいましたね? 『被害者と渋谷、布川の持っていたショルダーバッグから、財布だけが奇麗に無くなっていた』と…」
桜井「ええ、手帳の方にもそう書かれてるわ」
真解「そんなことは、ありえないんですよ」
 桜井が、一瞬動きを止めた。この人、毎回毎回反応を起こす。
桜井「…何故?」
 平常心を装ってか、また警察手帳で肩を叩き始めた。
真解「真実、覚えてるか? レストランで、あの2人がどうしていたか?」
真実「え? …あ! そうか!! 盗まれるわけないんだ!」
桜井「え? 何でよ!?」
真解「渋谷さんと布川さん。2人は、泥棒が入ったであろう時間帯、ずっとショルダーバッグを持っていたんです」
桜井「えっ!?」
真解「ボクらは、先ほど下のレストランに行きました。その後、あの2人もやってきたんです。肩にショルダーバッグをしょってね」
真実「わたしはちゃんと覚えてます。あの2人は、レストランからこの部屋に戻って行くとき、ショルダーバッグをイスの上に置いて行ったんです」
真解〔それを、泥棒が取らないか取らないかと心待ちにしていたら、部屋の方に泥棒が入った、と言うわけだ〕
桜井「でも、財布を部屋に忘れたのかもしれないわよ」
真解「彼女らはレストランに行ったんですよ? 忘れるわけがないじゃないですか。それに、2人して忘れるというのも、虫のいい話です」
桜井「じゃ、じゃぁ…すられたのよ。スリに」
真解「部屋には泥棒が入り、2人の横にはスリがやって来て財布を抜き取る…。そんなことが同時に起こる可能性なんて、現実にありますか?」
桜井「………ない…わね…」
 桜井は、警察手帳を口もとに当て、他の可能性を考えた。…そんなに好きか、警察手帳。
桜井「でも、わたしは現実を信じるわ。こんなの、ドラマじゃない!」
真解「では、この状況をどうやって説明するんですか? 不自然、かつ不必要な殺人。盗まれるハズのない財布。明らかに、『ドラマ』でしょう?」
 真解に言われて、桜井は警察手帳の隅を噛んだ。そして、「チッ」と舌打ちして、
桜井「わかったわよ。あの2人を、最有力容疑者として、捜査を進めるわ」
「やったぁっ!」と叫びながら、真実が嫌味なガッツポーズを決めた。
真実「もちろん、わたし達も捜査に参加させてもらえますよね? サクラ警視」
 桜井はまた舌打ちして、
桜井「少しでも邪魔すれば、長野からつまみ出すわよ」
 と言い返した。なかなか、素直に負けを認められない人だ。ちなみに、男にはこのタイプの人間がイヤに多い。
桜井「で? 何が望みなの?」
真解「まずは…2人の、事情聴取をさせてもらえませんか?」
桜井「無理よ」
真解「え?」
桜井「あのねぇ…そんなもの、素人にやらせると思う? わたしがやってるのを、横で聞くだけよ」
真実「ケチ」
桜井「黙りなさい。それがイヤなら、彼氏とどっかデートにでも行ってなさい!」
真解「だから、こいつはボクの妹で…!」
 もう、何もかも無茶苦茶だ。

ホテル内別室
 ここは、警察がホテル側に頼んで特別に用意してもらった部屋。と言っても、普通の部屋だが。ここに、渋谷と布川の2人がいる。桜井は、部屋のドアを開けて、中に入った。真解たちもそれに続く。渋谷と布川は、あとから入ってきた真解たちを、驚いたような顔で見た。まぁ、それも当然と言えば当然だ。さっき、無理矢理部屋に押し戻されたのだから。
桜井「さて…では、これから事情聴取を行わせてもらいます」
 桜井は、敢えて真解たちの説明はせずに、2人の前においてある1人掛けのソファに座った。真解たちも、適当なイスを奥から引っ張り出してきて、座り込んだ。
渋谷「あの…」
 とうとう、渋谷が切り出した。
渋谷「あの子達、入ってきてますけど…?」
桜井「ああ、あれ?」
 桜井は、ふぅ、とため息ついて、
桜井「警察犬みたいなもんよ。気にしなくていいですよ」
渋谷「はぁ…??」
 わかったようなわからなかったような顔をして、渋谷は引き下がった。
桜井「さて…」
 桜井は、いきなり核心をついた。
桜井「あなた達に、殺人容疑がかけられました」

 当然のことながら、渋谷も布川も、一瞬何のことだか理解できずに、固まった。真解たちも、まさか突然聞くなんて思ってもなかったから、驚いて固まった。
布川「あの…なんていいました…?」
桜井「あなた達に、殺人容疑がかけられました。そう言ったわ」
 桜井は冷静に、警察手帳で肩を叩きながら、言った。そして、少し身を乗り出して、指の代わりに警察手帳をビシッと突きつけた。
桜井「ショルダーバッグ」
布川「はいっ?」
桜井「あなた達、『ショルダーバッグの中の財布が盗まれた』って言ったわよね?」
渋谷「え…ええ…」
桜井「あり得ないのよ、そんな事」
 桜井は、先ほどの真解と同じ口調で、同じ説明をする。
桜井「たったいま、あなた達のショルダーバッグについて、興味深い証言が得られたわ。『2人は、泥棒が入ったであろう時間帯、ずっとショルダーバッグを持っていた』ってね」
 2人は、まだ固まっている。
桜井「もしも、本当にあなた達がショルダーバッグを持ってレストランに行ったのなら、バッグの中の財布が盗まれるはずがない…。レストランに行くのに財布忘れるバカはいないし、いたとしても2人同時に忘れると言うのは、虫が良すぎます。すられた、と言う考え方も出来ますが、スリと泥棒に同時に遭うなんて、確率的にありえない事です」
 何か言いたげな真実を横目に、桜井は続ける。
桜井「しかし、この状況を上手く説明する方法がただ1つだけあります。それは、あなた達のどちらかが犯人だと言うこと…」
 桜井は、ソファの背もたれに寄りかかって、警察手帳で肩を叩き始めた。
桜井「どうですか?」
 答えたのは、真実だった。
真実「ちょっと、サクラ警視…!」
桜井「黙りなさい」
 桜井は、真実を睨みつけた。真実は一瞬身を引いて、真解の腕にしがみついた。桜井は姿勢を戻して、
桜井「どうですか?」
 と再び聞いた。
渋谷「ど、どうですかって言われましても…」
布川「そんな…突然……」
 2人は、思わず顔を見合わせた。2人のどちらかが犯人…? 当然、やっていない方は、もう一方が犯人なのかと思うわけなのだが…。
渋谷「でも…そんな…そんなことが…」
布川「そうですよ! ドラマじゃないんですから…!」
 桜井は気にせず、
桜井「やってない方は今すぐこの場で言うことね。あなた達どちらかが犯人なのだから、やっていない人がわかれば、もう一方が犯人になるのよ」
布川「でっ、でも、ちょっと待ってください! こんなことも考えられるじゃないですか!」
桜井「どんなこと?」
布川「えっと……そう、自殺ですよ!」
桜井「残念だけど、それはありえないわ。自殺なら男物のベルトでやるのは不自然だし、だいたい、首の締め方で他殺か自殺かは一発でわかるのよ。鑑識の見解だと、自殺はありえないという事だわ」
渋谷「で、でもですね、わたし達には、アリバイがありますよ!!」
桜井「アリバイ…?」
布川「そ、そうですよ!! アリバイがあります!」
 真解は、「そうなんだよな…」と心の中で呟いた。そのアリバイが、崩せない。崩せれば、どちらが犯人かもわかりそうなものなのだが…。
桜井「どんなアリバイよ」
 桜井は、また背もたれに寄りかかった。
渋谷「わたし達は、ずっと2人で行動していたんです!」
桜井「………なんでしゅって?」
 あまりにも唐突なため、舌が回らなかったらしい。うまく言えていない。桜井は慌てて警察手帳をめくった。確かに、そう書かれている。
桜井「あ、本当ですね…。部屋を出てから、警察が来るまで、ずっと一緒…」
布川「ええ、そうです。レストランのウェイターさんも、きっと証言してくれるはずですし、あのときレストランにいた人に聞けば、1人ぐらいはわたし達を目撃しているはずです!」
真解〔そう…その通りだ〕
 真解は1人、うなずいた。そう、その目撃者とは、他ならぬ真解たちなのだ。レストランの外ではどうだったか知らないが、少なくともレストランでは、ずっと真解たちの視界にいた。2人で一緒に行動している以上、被害者を殺害する事は不可能だ。アレだけの犯行には、5分…最低でも3分は掛かるはずだ。3分ぐらいなら、トイレだといって誤魔化す事は出来るかも知れないが、2人は常に一緒だと証言している。
桜井「トイレとかで離れたりは?」
渋谷「してません」
 これで、完璧なアリバイが成立したことになる。
桜井「そう…ねぇ……」
「あ!」と言って、桜井が警察手帳を閉じた。パンッと言う良い音がした。どうでもいいが、この音が結構好きなのはワタクシだけだろうか?
桜井「共犯なら問題ないじゃない!」
布川「そ、そんな!」
真解「桜井警視! それこそまさにドラマじゃないですか!」
真実「証拠も手がかりもなく、共犯にするのは、ちょっと難しいでしょ!?」
桜井「わ…わかったわよ…」
 桜井は渋々引き下がった。
桜井「と、とりあえず、これで事情聴取を終わらせてもらうわ。じゃ、出るわよ、青少年カップル」
真解「ですから!」
 ホントに、もう無茶苦茶だ。

真実「でもサクラ警視、あれはひどいんじゃないんですか!?」
 部屋を出て、早速真実は桜井に詰め寄った。
桜井「あら、なによ?」
真実「お兄ちゃんが推理したことを、さも自分が考えたかのように言って!」
桜井「この世界は言ったもん勝ちよ。人の手柄も自分のもん。そうやって、わたしはノンキャリアにして24歳で警視になったんだから」
真解〔すごいな、それは…〕
 果たして、どんなあくどい手を使ってきたのやら…。
桜井「ま、ともかくあの2人に殺人容疑がかかった以上、今度は動機を固めないとね。とりあえず、礼を言うわ。だから、とっとと部屋に戻りなさい。明日までに、あの2人の動機を調べておいてやるから」
真実「なによ、その言い方…!」
桜井「子どもは黙ってなさい」
真解「そういえば、観光へは…?」
桜井「行っちゃダメに決まってるわよ。他の客も、今日だけは全員閉じ込めておくわ」
 桜井はサラリと言ってのけた。

Countinue

〜舞台裏〜
当初の予定じゃ3編ぐらいで終わる予定だったのになぁ…。もう、3編目。このまま行けば、最低でも5編目までは行く計算になる。
そんなわけで、今回のゲストは真実。
真実「こんにちは♪ ってかキグロ、ひどくない? あのサクラ警視」
早速文句かい…。
真実「ま、わたしとお兄ちゃんを初めて恋人同士と認めてくれたから、いい人なんだろうけど」
いや、あらゆる意味でそれは悪い人だと思うぞ。

今回は、殺人容疑がかけれらた物の、まだ解けるだけの材料は用意されておりません。
真実「あ、まだないの?」
うん。あの2人のどちらかが犯人だ、と言う手がかり(ショルダーバッグとか)をばら撒くのにばかり力を入れてしまって、まだ犯人確定の手がかりがない…。
まぁ、そこら辺は次回をお楽しみに、と言うことで。
では。

おまけの当初の設定秘話;当初、「桜井 梅木」の名前は、「桜井 サクラ(さくらい さくら)」だったらしい(語呂も語感もよくて、実は結構気に入っていたと言うのは、内緒らしい)。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

推理編を読む

本を閉じる inserted by FC2 system