摩訶不思議探偵局〜殺人家族旅行〜
容疑者リスト
桜井 梅木(さくらい うめき)…【長野県警警視】
布川 茉莉(ぬのかわ まり)…【旅行客】
渋谷 理香子(しぶや りかこ)…【旅行客】

摩訶不思議探偵局〜殺人家族旅行〜推理編

 桜井に無理矢理部屋に戻された真解と真実。部屋に戻ると、美登理と解実が、のん気にトランプで遊んでいた。
真実「あ、お母さんたちずる〜い!」
真解〔殺人事件が起こったってのに、のん気だな…〕
 真解はため息をついた。
真実「ねぇ、何やってるの??」
美登理「ん? ババ抜きよ」
真解〔2人でババ抜きやってて楽しいか!?〕
 意味がわからない人は、早速やってみよう。きっと、すぐにわかる。
解実「それで…事件の方はどうだ?」
真解「…容疑者が2人、浮上した」
解実「なんだ。たったの2人か。それなら、真解なら一発だろ?」
真解「普通なら…ね」
真実「一筋縄には行かないのよねぇ」
美登理「どういう事件なの??」
真解「…容疑者は2人。どちらにもアリバイがあるが、状況から言って、第三者の犯行とは考えにくい」
「つまり…」と、真解は言った。
真解「あの人たちには犯行は不可能…でも、あの人たちにしか犯行は不可能なんだ…」

次の日
解実「どうするんだ? 観光は」
 解実は、部屋に届けられた朝食をテーブルに並べながら、聞いた。特に大したメニューでもなく、まぁ平均的な物だろう。
真実「お母さんたちだけで行ってていいよ。わたし達は事件に取り組むから。ね、お兄ちゃん」
真解〔観光に行きたい…〕
 だが、そう言っても家族3人から反論されるだろう。真実はもちろんだし、美登理や解実も、はっきり言って真解が事件を解決してくれるのを実は楽しみにしている。いつか、大きなメディアに取り上げられるのでは、と密かに期待しているのだ。そんな期待を知ってか知らずか、真解は極力報道関係者と関わらないようにしている。…もっとも、江戸川は手遅れだが。
美登理「そう? じゃぁ、お母さんたちだけで観光に行ってるわね」
 これだけ聞くと、結構酷いセリフでもある。
真実「ともかく、早く食べて、あの2人に動機があるのかどうか…サクラ警視の報告を聞かないとね!」
 真実はパンにかじり付いた。
 余談だが、マナー的に正しいパンの食べ方とは、まずパンを左手に持ち、右手で食べる分だけちぎる(左利きの場合は、たぶん逆)。そして、左手に持ったパンをお皿に置いてから、ちぎったパンを口に運ぶのだ。これが正しいパンの食べ方。はっきり言って、面倒なだけだ。
 真実はとっとと朝食を平らげ、まだ食べ途中の真解を急かした。真解も仕方なしに急いで食べ、立ち上がった。

桜井「あら早いわね」
 桜井は、真解たちを見つけるなり言った。
桜井「どう? 昨日はよく眠れた?」
真実「ええ、もちろん! 事件を解決するためにも、睡眠は必要ですから!」
桜井「たまには、寝ないで調査をすることも、必要だけどね」
 フフン、と言わんばかりの目で、真実を見た。真実はそれをムッとした表情で睨み返す。どうもこの2人、根本的にウマが合わないようだ。
真解「それで…」
 女の闘いだけは見たくない、と真解が切り出した。
真解「何か、新しい手がかりは見つかりましたか?」
 そう聞くと、桜井がパラパラと手帳をめくり、
桜井「動機が見つかったわ」
 とサラリと言った。
真実「え、本当ですか!? どっちの!?」
桜井「両方の」
真実「え…?」
 真実がキョトンとした。
桜井「あの3人、ただの友人かと思ってたら、どうも上司と部下らしいわ」
真実「上司と部下…?」
桜井「そ。それで、被害者・堺 莉遊は、どうも布川と渋谷を公私共にこき使い、2人から相当恨みを買ってるわね」
真解「こき…?」
桜井「そ。あれやれこれやれって、女中か召使の如く2人を使ってたらしいわ」
 余談だが、女中と召使の違いは、特に無い。女中は、他人の家に雇われて家事の手伝いなどをする女性のことで、いわゆる「お手伝いさん」だ。召使は他人の家に雇われてその家事・家業に従事する人で、まぁ、強いて違いを上げれば、女中は「手伝い」で、召使は1人でやる、と言う点か。
桜井「さらに、布川は10万円から20万円近くをしょっちゅう堺に貸していて、今まで返された事はない見たいね。ま、最低100万は取られてるんじゃないかしら?」
真解「はぁ…ひどいもんですね…」
桜井「渋谷は、堺によくブランド物のバッグを買わされていたようね。こちらも総額は軽く100万は越してるはずね」
真解〔なるほど…殺したくもなる、か…。しかし最近、どうも妙に現実的な動機が多くないか…?〕
 まぁ、たかが中学3年生の少年少女が連続的に事件に出遭うことが現実的じゃないのだから、動機ぐらい現実的でもいいだろう。
桜井「ま、だから動機から犯人を当てるのは無理ね。地道に捜査報告を待ちなさい」
真解「そういえば、昨日から今までで何かわかった事は…?」
桜井「そうねぇ…」
 桜井はパラパラと警察手帳をめくり、
桜井「渋谷犯人説が浮上したわね」
 と言った。
真実「え!? なんでですか!?」
桜井「渋谷の指紋が、部屋のいたるところから発見されたのよ」
真実「え…? でも、この部屋に指紋があるのは、別に…」
桜井「考えてもみなさい」
 桜井は嫌みったらしくため息をついた。
桜井「証言を信じるならば、事件発生前、渋谷はホンの数分しかこの部屋にいなかった。ならば、そんなに大量の指紋が残るわけがない。それに、通常ならばありえないような、クローゼットの奥やベッドのサイドテーブルの引き出しの奥からも指紋が出てきたのよ。これは、強盗殺人に見せかけるために荒らしたときについたものと考えらえるわ」
真解「凶器には?」
桜井「残念ながら、凶器には指紋は被害者の分しか残ってなかったわ。ついでに、被害者の爪の隙間も調べたけど、犯人のものらしき皮膚は残念ながら出てこなかったわね」
真解「ふぅん…」
 桜井が手帳を閉じて、肩を叩き始めた。
真実「でも、問題は『2人は常に一緒に行動していた』って事なのよねぇ…」
桜井「ま、その程度なら、署に連れてって尋問すれば、大抵の犯人は口を割るけど」
真実「そんなもんなのぉ?」
桜井「そんなもんよ」
 桜井はサラリと言ってのけた。
桜井「で、どうするの? …と言っても、現場検証はあんた達、出来ないけど」
真実「え、どうしてですか?」
桜井「我々警察が調べてるからに決まってるでしょう!!」
真実「え〜、でもそんなぁ! 検証できなきゃ、事件解決出来ないじゃん!!」
桜井「そっちはこっちがやっておくから、あんたらは待ってなさい!」
真実「え〜、え〜、やだ〜!」
桜井「ああ、うるさい!!」
真解「〜〜〜〜」
 真解は、両耳を思いっきり塞いだ。この2人、ホントとことん仲が悪い。まぁ、現実主義者と理想主義者だ。かみ合わないのも無理は無い。しかし、このまま耳を塞いだまんまと言うわけにもいかない。真解は、渋々2人を止めることにした。
真解「あの…じゃぁ、事情聴取、やらせてもらえませんかね…?」
桜井「あの2人に会わせろって?」
真解「ええ、早い話がそういうことです」
桜井「わかったわよ、ついて来なさい」
 桜井は、とっとと歩き出した。

 昨日入ったのと、同じ部屋に真解たちは通された。そこには、昨日と同じように2人が座っていた。ほとんど眠っていないのか、目は明らかに死んでいる。この状態じゃぁ、質問にちゃんと答えてくれるかどうか、不安になる。
桜井「2人とも、起きてください」
 桜井が、2人の目の前で警察手帳を上下させた。
布川「起きてますよ…」
 怒り口調で、布川が言った。ホントに、眠ってないのか…?
渋谷「きみは…昨日の警察犬の子、よね?」
真解〔け…警察犬…〕
 そういえば、桜井がそんな風に紹介していた。
真解「ま、まぁ、そうです…」
 真解は息を整えて、
真解「これから、少し教えて欲しいことがあるのですが、いいですか?」
布川「わたしは構わないわ」
渋谷「わたしも」
真解「ありがとうございます」
 真解はそう言ってから、切り出した。
真解「とりあえず…昨日、ここに来てから死体発見までの事を、詳しく教えてもらえませんか?」
渋谷「ええ、いいわ」
 2人は代わる代わる話し始めた。
渋谷「昨日、このホテルについて、部屋に入った後、わたし達はちょっとの休憩を入れて、すぐにレストランに向かったわ」
真解「その休憩時間は…?」
布川「さぁ…? 5分くらい? 部屋を出たとき、12時20分ぐらいだった気がするんだけど…」
真解「12時20分…間違いないですか?」
布川「ええ…ホテルの時計を見ましたから、それはおそらく…」
真解「その後、すぐにレストランへ?」
布川「ええ、直行しました」
真解「…。その休憩時間中は、何を…?」
渋谷「別に特に何も…。3人とも、トイレに行ったり、荷物整理したり、お化粧直したり…。そのぐらいよ」
真解「そうですか。…それで、堺さんとはいつ別れたんですか?」
渋谷「あれは、そう、部屋を出るときね」
布川「レストランに行こうって事になって、部屋を出たんだけど、莉遊が先にお風呂に入りたいって言ったから、わたし達だけ先に行ったのよね」
渋谷「でも、バスルームにいなかったって事は、わたし達が部屋を出た直後に殺されたって事なんですよね……」
真解〔或いは、バスルームから出た直後か…。でも、髪が濡れてなかったから、おそらく2人が部屋を出た直後だろうな〕
 そう思った時、突然、渋谷が首を落とした。いくらこき使われていても、死なれてしまうと悲しいものなのか、それとも…。
真解「そういえば、カギはもちろん…?」
布川「ええ、掛けてませんでした。鍵は1個しか渡されてないし、莉遊が部屋の中にいたから…」
真解〔カギを掛けてしまうと、堺さんが部屋を出るときカギを掛ける事が出来ない。それに、最近の女性は部屋にいるときはカギを掛けないことが多いと言う…。その習慣が身についてしまっていれば、カギを掛けずに外に出るのは、当たり前と言えば当たり前か〕
布川「そしてその後、レストランに行ったんです。で、しばらく待っても莉遊が来ないんで、何かあったのかと思って、部屋に戻ってみたら…」
真実「死んだ、堺さんがいたわけですね…?」
布川「ええ、そうです」
真解「見つけた時、どうしました?」
布川「先に、理香子が莉遊に駆け寄って、わたしがその後に駆け寄りました。で、わたしが部屋の電話からフロントに電話を掛けて、警察を呼んでもらったんです。その後、レストランに戻ったんです」
真解「駆け寄った時、堺さんに触れましたか?」
布川「理香子が、揺すってましたが、わたしは怖くて触れませんでした…」
真解「…わかりました。ありがとうございます」
 真解はそう言ってスッと立ち上がり、部屋を出て行った。真実も、桜井も、その後に続いた。

 真実が部屋を出ると、真解は既に現場の部屋に入り込んで、うつむいていた。推理をしている時の、ポーズだ。
桜井「ちょっとこら、入るなって」
真実「邪魔しないで下さい!!」
 真実が桜井の腕を引っ張った。突然の事で驚いたように桜井が真実を見た。
真実「お兄ちゃんは今、推理中なんです。邪魔しないで下さい!」
桜井「邪魔ったって、あんた…」
 桜井はそう言いつつ、真解の方を見た。そして、ギョッとした。今まで以上に、知的な顔つきをしていた。これが、中学3年生? とても、そうは見えなかった。
 突然、真解がニヤリと笑って、何かを呟いた。「見えた…」
桜井「『ミエタ…』? ちょっと、少年。何が見えたっての?」
 真実の腕を振り払い、桜井はズカズカと真解に近寄った。真実も慌てて後を追ったが、桜井を止めはしなかった。何しろ、既に推理は終了しているのだ。真相に、たどり着けているのだ。
真解「言うまでもありません。この事件の真相です」
 真解がニヤリと笑いながら言った。
桜井「な…なんですって…?」
 桜井は驚きを隠せなかった。こんな少年に、たかが中学3年に。そんなバカな!
真解「ただ…」
 と、真解は付け加えた。
真実「ただ?」
真解「証拠が…ない」
真実「え? 無いの…?」
真解「ああ。よっぽど、運が良かったのか、用意周到だったのか…」
 真解はチラリと、桜井を見た。ニヤ〜っとイヤらしく笑い、警察手帳で肩を叩いている。思わず、固まった。
真解「な、なんですか…?」
 桜井は、スッと警察手帳を真解に突きつけた。
桜井「証拠が無けりゃ、作っちゃいなさい」
真解「は…はい?」
 桜井は、ニヤッと笑った。まるで、悪魔の如く………。

Countinue

〜舞台裏〜
いよいよ次回は真相編です。キグロです。今回のゲストは、初登場、桜井警視!
桜井「こんにちは。桜井です」
いやぁ、桜井警視。とことん真実と仲が悪いですね。
桜井「ホントよ全く。何かとわたしにケチつけて…」
いや、あんまケチもつけてないですけどね。
桜井「彼女の恋人のことを言うと、何でも反論してくるわよ」
まぁ、それが真実だし。…いや、だから真解は真実の恋人じゃないってば。

さてさて、今回は推理を募集いたします。
募集内容はもちろん、
桜井「犯人は、布川、渋谷の果たしてどちらか? そして、どうやってもう1人の目を誤魔化したか?」
の、2点です。
また、今回の正解者は久々に、次回の小説に容疑者として登場できます!
桜井「ただし、『容疑者』としてであると言うことを、お忘れなく」
あまりに正解者が多かった場合は、犯人になる可能性も、被害者になる可能性もありますので、十分ご注意下さい。
ただ、次回はあまり容疑者が多くなかったりもするんだよね…。
桜井「どうすんのよ」
ま、まぁ、あまりに正解者が多かったら、そのまた次回にするよ。
桜井「結構、いい加減ね…」

あ、あと、推理は全てメールで。間違っても掲示板等に書き込まないで下さい。
メールアドレスは【kiguro2@yahoo.co.jp】です。
では、たくさんの推理、お待ちしております。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

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