摩訶不思議探偵局〜殺人ラブデート〜
主な登場人物( )内は読み、【 】内は役
相上 謎事(あいうえ めいじ)…【探偵】
事河 謎(ことがわ めい)…【探偵】
高雅 鵡誄(こうが むるい)…【従業員】
高岡 満里子(たかおか まりこ)…【客】
長崎 恭助(ながさき きょうすけ)…【高岡の部下】
藤井 愛(ふじい あい)…【高岡の部下】
浜谷 和(はまや かず)…【高岡の部下】
長谷 愛斗(はせ あいと)…【客。田辺の恋人】
田辺 沙耶華(たなべ さやか)…【客。長谷の恋人】
はしがき;さて、いよいよ事件です。

摩訶不思議探偵局〜殺人ラブデート〜レストラン編

 電車乗り遅れ、路頭迷い、その他諸々…。
 5時半着予定だったレストランに、謎事たちはついた。現在時刻は午後6時過ぎ。どこをどう迷ったか、30分も遅れてしまった。
謎「やっと着きましたね」
謎事「あ、ああ…」
「ハハハ…」と、謎事は力なく笑った。
 レストランと言っても、普通のレストランではない。いま2人の前にそびえ立っているのは、80階もある高層ビル。ここの80階、つまり最上階に、超豪華展望レストランがあるという。メイはともかく、謎事にははっきり言ってお世辞にも似合いそうな場所ではない。「子ども」と言うだけで、ここにいるのは明らかに異様だろう。
謎「すごい所ですね…」
 メイは、半ば呆気にとられて呟いた。
謎事「ま、まぁ、な…」
 大人同士のデートならば、こういう場所でも違和感はないのだろうが…中学3年の、それも別に付き合っているわけではない者同士が来ると、明らかに違和感を感じる。オマケに、メイも謎事も特に正装と言うわけではない(当たり前だが)。
謎事「と、とりあえず、入ろうか」
 謎事とメイは、連れ立って中に入った。

ロビー
 これまた豪華なロビーだが、人は少ない。従業員らしき人が、驚いたような目で謎事とメイを見ている。まぁ、当然の事だろう。くどいようだが、どう考えたって似つかわしくない。
 謎事とメイはエレベーターに乗り込み、「80」と書かれたボタンを押した。エレベーターがゆっくりと上昇を始める。やはり、80階ともなると、相当な時間が掛かる。まどろっこしくもあるが、謎事にとっては別に構わなかった。何しろ、メイと2人っきり…。
謎「あ、着きましたね」
 などと考えていると、あっという間についた。「ティーン」と言う無機質な音とともにドアが開く。メイが先に出て、後から謎事も続いた。エレベーターの目の前がレストランだったが、左右には長い廊下が続いている。調理場につながっているのか、全く無関係の所につながっているのか…。
 メイと謎事は中に入る。2人とも、その豪華さに驚いた。壁はほとんど全てがガラス張り。テーブルもかなりの数が並べられている。日がまだ沈んでいないため、西側から赤い光が飛び込んできている。
ウェイター「いらっしゃいま…せ?」
 人が入ってきたので反射的に言ったのだろう。だが、入ってきたのが子ども2人だったため、ウェイターは思わず止まった。
ウェイター「あっ…何名様でいらっしゃいますか?」
 謎事は指を2本立てた。
ウェイター「…お2人…?」
 ウェイターは不審そうに謎事とメイを見た。と、謎事がウェイターの目の前に、例のチケットを差し出す。
ウェイター「え? あ、ああ、はい、かしこまりました。ただいま、お席へご案内いたします…」
 ウェイターがメニューやらナフキンやらを取り、謎事とメイを席へと導く。周りを見渡しても、客の数はほとんどない。数組の客がいるだけだ。まだ、食事時ではないのだろうか?
 謎事とメイは、ウェイターに案内された席に座った。客が少ないので、ガラスの目の前。広大な景色を拝むことが出来る。若干西日が強いが、それもすぐに消え、美しい夜景が広がることだろう。っていうか、ここはどこなんだ、とは突っ込まないように。
謎「すごい所ですねぇ…」
 メイは外を見て、思わず呟く。いくら社長令息だからとは言え、まさかこんな所のチケットを入手するとは…。
謎事「まぁ、な」
 別に、謎事が造ったわけではないのだが。
 メイはメニューを広げ、見る。一応、知識としてはあれど、食べたことはおろか、見たことすらない豪華な料理の名前が連なっている。
謎「…そういえば、お金は…大丈夫なんですか…?」
 メニューの横に巨大な数字を見つけ、メイが思わず聞く。いくら半額とは言えど、かなりの額だ。
謎事「ああ、大丈夫。全部、父さんのつけになる」
謎「つけ…? いいんですか…?」
謎事「父さんが良いって言ったし…」
謎「そうですか…。でも、よく良いって言ってくれましたね。どうやって、説得したんですか?」
謎事「い、いやぁ…まぁ、な…。べ、別に、普通に頼んだだけだよ。ハハハ…」
「ああ、いいとも。未来の娘のために、いくらでもお金を出してやる」
 謎事が謎事の父、社長(たかたけ)に今回の事を言ったら、こう言われたらしい。謎事は慌てて顔を真っ赤にして、否定したのだが…そのことは、恥ずかしすぎてとてもじゃないが、メイには言えない。
謎事「そ、それよりも、早く決めようぜ」
 恥ずかしさのあまり、謎事はメニューへと視線を落とした。

 十数分後、謎事とメイのテーブルに、なんとも豪華な料理が運ばれてきた。それと同時に、だいぶ暗くなってきたので、ロウソクも一緒に運ばれてきた。どうでもいいが、毎度毎度ドラマなどでテーブルの中央にあるロウソクを見ると、「倒れないのか?」と不安になるのはワタクシだけか?
 そろそろ客の数も増えてきたか? と思ったが、相変わらずチラホラだ。意外と、流行ってないのかもしれない。入ってきた時より、減っている。
謎「お客さん…少ないですね、ここ」
謎事「ん? そういえば、そうだな…」
 謎事は周りを見渡して、
謎事「でもま、そっちの方が貸し切りっぽくていいじゃん。やっぱりデートは、誰にも邪魔されずに…」
謎「…デート…?」
 メイが思わず聞き返した。
謎事「あっ、い、いや、その…」
「げっほ、げほげほ…」と、謎事は思わず咳き込んだ。オレらはまだ付き合ってるわけじゃない。これはデートではなく、一緒に出かけてるだけだ!!
 余談だが、「デート」とは一般に「恋人同士が一緒に出かける事」だと思われがちだが、定義上、恋人同士ではなくとも、男性と女性…つまり異性同士で出かければ、それは立派な「デート」と呼べる。謎事はわざわざ咳き込む必要も無かったわけだ。
 と、その時だった。
 突如、視界が完全に真っ暗になった。
謎事「な、なんだっ!?」
謎「何が…起こったんですか…?」
 謎事もメイも、思わず立ち上がった。ロウソクの炎が揺れた。他の客の騒ぎ声も聞こえてくる。「何が起こった!?」
謎事「停電…らしいな」
 謎事はすぐに落ち着きを取り戻し、窓の外を見た。ここだけではない。周りのビル全ての電気が消え、美しい夜景は一転して漆黒の闇と化していた。下の方には、行き来する車のライトや、信号機の光だけが見える。
 余談だが、信号機と言うのは停電になってもちゃんと点くような装置が取り付けられている。信号機のついている電柱の下にある、大き目の箱がそれだ。警察のマークがつけられているので、見ればすぐにわかるだろう。あれは信号機(正しくは「時差式信号機」と言う)の点灯時間を制御するもので、全て警察の管理システムの下で動いている。
「おい、非常灯…非常灯はどうした!?」
「そうよ、普通は点くはずでしょ!?」
 遠いロウソク付近から、声が聞こえてくる。若い男女の声だ。
「も、申し訳ございません…!」
 先ほどのウェイターの声が聞こえた。
「じ、実は…こちらの…その…何と言うか…」
「何よ!? まさか…壊れてるんじゃないでしょうね!?」
「すみません! こちらの整備ミスで…」
謎事「そ、そんなバカな…。そんな事が…」
 謎事も思わず呆気に取られた。
謎事「よ、弱ったな…。なぁ、メイちゃん」
謎「え、ええ……」
謎事「どうした? メイちゃ…あ」
 そういえば、メイは暗闇が苦手なのだった。お化け、幽霊、超常現象…。メイは、こう言ったオカルト系が大の苦手で、その関係で暗闇も苦手なのだ。そしてそれだけではない。停電…メイは以前、この中で最愛の妹を失い、その後兄も失った。
 謎事は急いでテーブルの反対側、メイ側に周った。
謎事「大丈夫だ、メイちゃん。オレがついて…」
謎「結構です」
 メイは冷たく言い放った。
「と、ともかく皆様、落ち着いてください!!」
 ウェイターの声がした。
謎事「メイちゃん。オレらもあっちへ行った方が良いかもな…」
謎「え、ええ…」
 2人は、ロウソクを取り、ウェイターの声のする方へと歩み寄った。
謎事「すいません…」
「あ、お客様。申し上げございません!」
謎事「あ、いや、申し上げられないのはもういいんで…何が起こったんスか?」
「すみません…。全くわからないのです。ただ、この辺一帯が停電になったようで…」
謎事「停電…」
「あ、そうだ。ハマヤ、あんた確か携帯ラジオを持ってたでしょ!?」
ハマヤ「あ、そうでした」
「たっく…。すぐ思い出しなさいよ、そういうことは!」
ハマヤ「す…すみません…」
 ハマヤと呼ばれた男は携帯ラジオを取り出し、つけた。チューニングを合わせる。しばらくして、ニュースが聞こえた。
《…の変電所が突然故障し、付近一帯が完全に停電致しました。故障の原因はわかっておりません。繰り返します。先ほど午後6時半頃、東京都…》
 そこまで聞けば、全て明らかだった。
「ちょっと、つまりどういうことよ!?」
ハマヤ「つ、つまり、停電したと…」
「そんな事わかってるわよ!!」
「お、落ち着いてくださいよ、タカオカ様…」
 タカオカと呼ばれた女は、別の女性になだめられ、ひと呼吸置いた。
謎事「みなさん、ともかく落ち着いてください」
 謎事が言った。
謎事「オレら、みんなここに閉じ込められちゃったみたいだし…電気が戻るまで、まぁ、全員でこう会話でもしながら…」
「閉じ込められた!? ハッ、何がだ!? ここは都会のど真ん中。出ようと思えばすぐに…」
「何言ってんのよ、アイト。ここは80階よ!?」
アイト「それがどうした?」
「電気が止まってる…つまり、エレベーターが使えないのよ!? どうやって下りるって言うのよ」
アイト「………ぁあ! そ、そうか…っ!」
 ダンッ、とアイトはテーブルを叩いた。
「じゃ、とりあえず自己紹介でもしましょうかね」
 陽気そうな男が言った。
長崎「わたしの名前は長崎 恭助(ながさき きょうすけ)。え〜っと…なに言えば良いですかね?」
タカオカ「知らないわよ! わたしの部下だとでも言っておきなさい!」
長崎「あ、は、はい! え〜…こちらの、高岡 満里子(たかおか まりこ)様の部下でして……え…部下です」
高岡「ったく…。わたしは高岡 満里子。副社長って身分ね」
 どちらかと言うと、嫌味なお局と言うとこか。
藤井「わたしは藤井 愛(ふじい あい)。同じく、高岡様の部下です」
浜谷「浜谷 和(はまや かず)…同じく、です」
 一瞬、間が出来た。
「ほら、アイト」
アイト「あ、なに、オレ?」
 アイトはコホンと咳払いし、
長谷「長谷 愛斗(はせ あいと)です。え〜…サヤカの彼氏ッス」
田辺「田辺 沙耶華(たなべ さやか)です。愛斗の彼女です」
謎事「えっと、相上 謎事…中3です。で、こっちが…」
謎「事河 謎。同じく中学3年生です」
 メイは軽く会釈した。もっとも、暗くて見えないが。
長谷「ほら、ウェイターさん。あんたも言ったらどうだ?」
ウェイター「えっ!? あ、わたくしもですか? え…高雅 鵡誄(こうが むるい)…え…ここの従業員です」
謎事「…そういえば、他の従業員の方は…?」
高雅「ええ、いるにはいるのですが…現在、全員他の階にいるかと…」
謎事「ああ、そうなんですか」
長崎「ま、とりあえず相手の顔が見えない奇妙な状況ですけど…電気が回復するまで、皆さん楽しくやりましょうや」
 長崎が楽しげに言った。
 …こうして、奇妙な舞台が出来上がった。

Countinue

〜舞台裏〜
や…やっと停電が起こったよ…。やれやれ。デートだけで2編行かなくてよかった(行ってたまるか
今回のゲストは………誰にすりゃいいんだ?
まぁ、じゃぁ今日は気分を変えて、1人で。

さてはて、こうして出来上がったのは都会の密室。もしかしたら、人によっては気付いてますかねぇ…?
ええ、そうです。西村 京太郎さん著、『トンネルに消えた‥』収録の短編「闇の中の祭典」と同じ舞台です(ぉぃ
これを読んだ瞬間、「ここで殺人事件を起こそう!」と思い立ち、早数ヶ月…。
やっとこさ、夢が叶ったわけですね。
ちなみに、「闇の中の祭典」では殺人は起こらず、ちょっとした大人のヒューマン・ドラマが繰り広げられるだけです。

ではまた。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

停電編を読む

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