摩訶不思議探偵局〜殺人ラブデート〜
容疑者リスト
高雅 鵡誄(こうが むるい)…【従業員】
長崎 恭助(ながさき きょうすけ)…【高岡の部下】
藤井 愛(ふじい あい)…【高岡の部下】
浜谷 和(はまや かず)…【高岡の部下】
長谷 愛斗(はせ あいと)…【客。田辺の恋人】
田辺 沙耶華(たなべ さやか)…【客。長谷の恋人】

摩訶不思議探偵局〜殺人ラブデート〜事件編

藤井「高岡様…? どうしました…?」
 藤井が、横たわっている高岡におそるおそる近づいた。謎事も近付き、かがみ込む。そして手首を掴んで、脈を取った。
藤井「な、何やってるの…? まさか……?」
謎事「……………メイちゃん」
謎「な、なんですか…?」
謎事「…脈の取り方がわからねぇ。やってくれ」
謎「は?」
 ギャグか? それとも本気か? でも、こんな所でギャグを言うヤツもいないだろう。メイはメガネを押し上げて近付き、脈を取る。
謎「…」
謎事「どうだ?」
謎「…死んで…ますね…」
長崎「な、なんだって!?」
長谷「ちょっと待ておい! 冗談だろ!?」
 大声は張り上げるが、暗いので真偽を確かめに近付いて来る人はいない。謎事は立ち上がる。
謎事「メイちゃんは、こんな冗談言わない。本当に、死んでるんだ…」
長谷「――冗談じゃねぇっ!!」
 ダァンッ! とすざましい音がした。長谷がテーブルを思いっきり叩いたらしい。
 長谷はテーブルの上のナフキンを取り、それをねじ曲げ、メイと同じ要領で先端に火をつけた。メイのつけた炎のおかげで、さほど苦なくこなす事が出来る。
高雅「お、お客様、何を…」
 高雅が恐る恐る聞く。
長谷「決まってんだろ! 下りるんだよ、1階に!」
 その前に、そのナフキンの炎は手に燃え移らないのか? そんな愚問は微塵も浮かばず、長谷は歩き出した。
田辺「ちょ、ちょっと、愛斗!」
 田辺が慌てて追いかける。
田辺「どういうつもりよ!? ここは80階よ! どうやって下りるのよ!」
長谷「どうだって良い! 階段を下ってりゃいつか着くだろ! それに電気だって! どっちにしろ、俺は殺人犯と一緒になんかいたくない!」
田辺「さ、殺人犯…。どういうことよ!?」
長谷「どういうことだぁ? 考えてみろ! ここには、俺たちしかいない…つまり、犯人はこの中にいる!」
 長谷は振り返って、全員を見る。そして田辺に視線を戻し、
長谷「…そうだろ?」
田辺「そ、そうだけど…」
謎事「だとしたら…」
 謎事が言った。
謎事「だとしたら、なおの事下りてはいけない。いまのところ、犯人は誰だかわからない…。そう、もしかしたらあなたかも知れない」
長谷「ぁあ!?」
 長谷は戻って来て、謎事の胸倉を掴んだ。
長谷「小僧…どういう意味だ? 探偵だかなんだか知らんが、キサマみたいな小僧に…」
田辺「止めなさいよ!」
 慌てて田辺も戻ってきて、長谷を掴む。
長谷「なんだよ。このガキの味方をするのか!?」
田辺「ええ、そうよ」
長谷「!? ‥な、なに…?」
 長谷の手が少し緩んだ。
田辺「考えてみなさい。殺人が起こって、みんな混乱している…。だけど、そんな中で一番冷静なのは…だれ?」
長谷「・・・・・」
 長谷はチラリと謎事を見た。謎事は無表情で長谷を見返す。
長谷「チッ」
 そういって、長谷は謎事を離し、椅子に座った。
長谷「わかったよ。好きにしろ」
謎事「そうします。…けど長谷さん。その火、どうするつもりなんスか?」
長谷「ん?」
 長谷は自分の持っているナフキンを見た。先端が轟々と燃えている。
長谷「おい、ウェイター! 水だ水!!」
高雅「は、はいっ!」
長谷「あ、いや、これを持って行って、向こうで消せ!!」
高雅「は、はいっ!!」
 長谷は高雅にナフキンを渡した。高雅は急いでキッチンへと向かった。
謎事「あと、誰かケータイ持ってる人、いますか? 念のため、警察への連絡をお願いします」
藤井「わ、わかったわ」
 藤井が携帯電話を取り出し、110番した。これがカメラ付きならフラッシュ用ライトが付いているんだろうが、残念ながらこの携帯電話にはそれが無い。
藤井「とりあえずそっちへ行くけど、階段は上れないって」
 藤井は、電話を切って、言った。
長崎「電力の回復を待つしかないって事か」
藤井「そうみたいね…」
 謎事はため息をついて、メイを見る。椅子に座り込んで、微動だにしない…。やはり、あの事件を思い出しているのか…。妹を失った、あの事件を。
 謎事はメイに近付き、「大丈夫か」と声を掛ける。
謎「ええ…大丈夫です…ありがとうございます…」
謎事「え? い、いや、なに、ハハハ…」
 冷たく言い放たれるかと思っていたので、調子が狂った。
謎事〔って、『ありがとうございます』…?〕
 いままで、そんな言葉、メイから言われた事無かったのに…。
長崎「それより、早く解決してくれないか?」
 だいぶ冷静さを取り戻したのか、長崎が椅子にふんぞり返りながら言った。
謎事「わかってます」
 謎事は、高岡の死体に近付いた。
 高岡の首には、スカーフが巻かれ、それが首に食い込んでいる。おそらく、これで絞め殺されたのだろう。
謎事「高岡さん…スカーフ、巻いてました?」
藤井「え? ええ…」
謎事「どうやら…それで、絞め殺されたみたいです」
藤井「スカーフで…?」
謎事「ええ」
 そう言って、謎事は検死に戻る。
謎事〔暗くて、見づらいな…〕
 そう思っていると、突如手元が明るくなった。メイが、例の火をつけた皿を目の前に持って来てくれたのだ。
謎事「あ、ありがとう」
謎「いえ…。それと、わたしも手伝いますので…」
謎事「え、大丈夫…?」
謎「ええ」
 そう言ってメイは死体を挟んで謎事の反対側に座り込んだ。と言っても、特にやることも無い。死亡推定時刻もわかっているし、殺害方法が本当に絞殺かどうか、見るぐらいだ。
謎「首を絞めた事に間違いはなさそうですね。顔が膨らんでるところを見ると、頚動脈を圧迫されたという感じも…」
謎事「へ、へぇ…」
 謎事にとっては「『けいどうみゃく』ってなんやねん」と言う感じだが、いまはそんな事言ってられない。とりあえず、うなずくしかない。
謎「でも謎事くん…どうやって、犯人を割り出す気ですか?」
謎事「え? う、う〜ん…」
 謎事は頭を掻いた。何しろ、ここにいる誰もが、犯行が可能なのだ。あの暗闇の中、誰にも見られずに人を一人絞め殺す事ぐらい、簡単な事だろう。
謎事「いや、待てよ…」
謎「どうしました?」
謎事「『犯人を割り出す』の前に…犯人は、どうやって高岡さんを殺したんだ?」
謎「え?」
長崎「それは…絞め殺して、じゃないのか?」
 上から、長崎の声がした。
謎事「いえ、そう言うことではなく…考えてください」
 謎事は立ち上がり、説明する。
謎事「あの時…全てのロウソクとライターが消え…この部屋に、明かりは無かった。それは、オレらが殺人を見ることが出来なかったことが、何よりの証拠です」
長崎「あ、ああ…」
謎事「なら……どうやって、犯人は高岡さんを見ることが出来たんでしょう…?」
浜谷「! そ、そう言われてみれば…」
謎「確かに…そうですね…」
田辺「つ、つまり、どういうこと…?」
謎事「…ここにいる全員に犯行が可能。だけど、同時に全員、犯行は不可能…ってことッスよ」
謎「何らかのトリックを使った…そういうことですね」
長谷「トリック…」
高雅「それなら、こんな方法はいかがです?」
 いつの間にかに戻ってきた高雅が言った。
高雅「火が消える直前に、目をつむっておく…と言うのは?」
謎事「それが、手っ取り早い方法です。でも…そんな事やってる人、いなかったッスよ。暗かったから、正確にはわからないッスけど…」
高雅「あ、そうですか…」
藤井「誰か…眼帯、つけてないの?」
長谷「俺らはつけてないぞ」
高雅「わ、わたくしも…」
藤井「わたしたちもつけてないわよ」
浜谷「じゃぁ、どうやって…?」
長崎「ナゾは深まるばかり‥だねぃ」
 長崎が陽気に言った。
長谷「だがよ…もし殺すとしたら、あんたら3人なんじゃねぇか?」
藤井「ちょ、ちょっとどういうことよ!?」
長谷「だってよ。俺らも、このウェイターも、殺された高岡って女に面識はねぇからな。今回、初めて会ったし。大体、暗闇だったから顔だっていま初めて見たぞ」
浜谷「そ…それもそう…ですね……」
 浜谷が消え入りそうな声で言った。
謎「動機があるのは、3人…そう言いたいんですね?」
長谷「その通りだ。嬢ちゃん」
謎事「動機といえば…」
 謎事が、真解のマネなのか、うつむきながら聞いた。
謎事「あなた達3人とも…高岡さんに『様』をつけて呼んでませんでした? 『高岡様』って…。でも、ただの上司なんスよね…?」
「だったら、『高岡さん』で良いんじゃ…?」謎事がそう聞くと、3人とも黙ってうつむいてしまった。
謎事「ど、どうしたんスか?」
長崎「……あの人は…ただの上司じゃない」
 話し始めた長崎を、藤井と浜谷が思わず見る。
謎「どういう…事ですか…?」
長崎「“あの女”が、あの若さで副社長になれたのは、一種のコネだ。あの女は、会長の娘でな。彼女に逆らえば…確実に、クビだ」
 長崎はテーブルの上のコップを取り(誰のかわからないが)、水を飲んだ。
長崎「で、どういうわけか気に入られたのが我々3人。それ以来、わたし達は公私問わず奴の召し使い状態…。正直、この3人の中で誰が彼女を殺そうと、不思議じゃない。そうさ…もしかしたら、わたしかも知れないぞ…?」
 長崎はニヤリと笑って、謎事を見た。そして、視線を高岡の死体に移し、
長崎「当然の報い…と言うヤツか…。もしかしたら、3人で殺したのかも知れないな」
 と呟いた。
長谷「ハッ! ほれ見ろ!!」
 長谷はふんぞり返って言う。
長谷「やっぱり俺は犯人じゃねぇ。まぁ…今更下へ下りる気は無いがな」
 そう言って、長谷も誰のかわからないコップから、水を飲む。
謎事〔つまり…えっと、こういう事か〕
 謎事は、ゆっくり頭の中で整理を始めた。
謎事〔高岡さんが、どういうわけか長崎さん、藤井さん、浜谷さんの3人を召し使いにして、こき使った。で、この3人の誰かが、高岡さんを殺害した可能性が最も高い…と〕
浜谷「でも…」
 と、浜谷は頬の細い傷をさすりながら言う。
浜谷「どっちにしろ、暗闇での殺人のナゾを解かない事には…」
謎事「ええ。もちろん」
長谷「でもよぅ。暗闇でも結構、手探りで出来そうじゃねぇか?」
高雅「いえ、とんでもない…」
 高雅が答える。
高雅「わたしは先ほど、慣れているはずの道を歩きましたが、真っ暗だと色んな所にぶつかってしまって…」
 高雅は、頭をさすった。どうやら、壁にぶつけたらしい。
高雅「直線のはずなんですけどねぇ…?」
 また頭をさすりながら、言った。
田辺「って事は、慣れない殺人なんてとても無理、って事?」
高雅「おそらく」
長谷「いやだが待てよ…」
 長谷が、また言う。
長谷「あんたら3人は、この高岡って女のすぐそばに座ってただろ。それなら、手探りでも…」
謎「それでも…難しいのでは…?」
長谷「あ?」
謎「あの暗闇じゃ、30センチ先も見えません。なのに、高岡さんに触れずにスカーフを掴むなんて…不可能じゃないですが、危険極まりないです」
長谷「そうか…」
 長谷は引き下がった。なんだか、いつも謎事がやっている役を、やっているような気がする。
謎事〔とにかく…犯人がこの中にいるってことだけは確かだ。真解がいない今、なんとしてでも、オレが解決してみせる。…絶対に…〕

Countinue

〜舞台裏〜
どうも。何故か5編目に突入しようとしているキグロです。
ウワォ。どうあがいても真相編は6編目になっちゃうじゃん。『遺産相続権…』より1編少ないだけじゃん。
な、なんでこんなに長いんだ…(あんたが悪いんだ

さてさてそんなわけで、次回でやっとこさ事件編の最後になりまして、その次がたぶん真相編です。
しっかし、豪く時間が掛かってるなぁ…。ダメじゃん、謎事くん。
謎事「わ、悪いかよ!?」
悪くは無いけど…メイちゃんからしてみたら……。
謎事「!?」
まぁ…頑張れ。いつかきっと、振り向いてくれるさ。
謎事「って事は、今はまだ振り向いてないってことか…?」
さぁ? どうでしょう? ニヤニヤ。
謎事「止めてくれ。そのニヤケ面」

ではまた次回。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

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