摩訶不思議探偵局〜殺人ラブデート〜
容疑者リスト
高雅 鵡誄(こうが むるい)…【従業員】
長崎 恭助(ながさき きょうすけ)…【高岡の部下】
藤井 愛(ふじい あい)…【高岡の部下】
浜谷 和(はまや かず)…【高岡の部下】
長谷 愛斗(はせ あいと)…【客。田辺の恋人】
田辺 沙耶華(たなべ さやか)…【客。長谷の恋人】

摩訶不思議探偵局〜殺人ラブデート〜推理編

謎「皆さん…冷静ですね」
 なんとなく話題が途切れたので、メイが藤井たちに切り出した。
藤井「え?」
謎「わたし達が今まで出会った事件では…多くの人が、疑心暗鬼に囚われていました。『あいつが犯人なんじゃないか』って…。今のような状態なら、なお更です」
長崎「愚問だね」
 長崎が鼻で笑いながら言った。
長崎「誰が犯人だって不思議じゃないし、誰が犯人だって不安は無い。あの女以外殺される事は無いんだし、あの女がこの世からいなくなったんだ。犯人に感謝したいぐらいだ」
浜谷「長崎さん…いくらなんでも、言いすぎじゃ…」
長崎「だが、浜谷…きみだって、そうだろう?」
浜谷「…………」
 浜谷は黙り込み、頬の傷をさすった。
藤井「でも長崎さん…もしも、何か別な理由で高岡様…いえ、高岡を殺したんだとしたら…?」
長崎「・・・・・・・」
 長崎は無表情になって、またコップの水を飲む。
長崎「どんな動機だ?」
 空になったコップを置きながら、長崎が聞いた。
藤井「わからないけど…」
長崎「どんな動機だろうと、わたしは怖くない。あの女とわたし…両方が同時に恨まれる動機など、存在しないからな」
藤井「そ、それはそうかもしれないけど…」
 藤井はそう言って、黙り込んだ。
謎事「動機なんて、今はどうでも良いです。それよりも…トリックを解明しないと…」
 謎事はうつむいた。真解のマネなのか…?
謎「真解は…いつも、どうやって推理しているんでしょうね…」
謎事「…さぁなぁ…」
 謎事は椅子に座って、伸びをした。
 余談だが、伸びをすると血行が一時的に良くなり、目が覚め、頭が冴えるらしい。そのため、動物は目覚めた直後に伸びをするし、朝起きた時に伸びをするクセのある人もいるだろう。これは、目を覚まさせようとする、生理現象なのだ。ちなみに、あくびにも似たような効果がある。
田辺「暗闇で見える方法って言うと…何がある?」
長谷「目をつぶるのも、眼帯も、さっき消えたぞ」
田辺「そ、そっか…。じゃぁ他には…何か、道具を使うしかない?」
長谷「そうだよなぁ……」
高雅「ですが、そんな都合よく暗闇で物が見える道具など…」
田辺「サングラスとか。誰か持ってない?」
長谷「俺」
田辺「そ、そういえば持ってたわね…」
謎事「でも、サングラスなんて部屋の中じゃ掛けないッスよね?」
長崎「少なくとも、我々の中には掛けている人はいなかった」
長谷「俺だって、掛けてないぞ」
田辺「そうよねぇ…」
藤井「誰か、ライターを隠し持ってたんじゃない…?」
謎「いえ…それなら、火をつけた瞬間、他の人にもばれますから…」
藤井「それもそっか」
長谷「しかしよぅ…」
田辺「今度は何よ?」
長谷「すぐ隣で殺人が起こってるってのに、あんたら本当に気付かなかったのか??」
田辺「ちょっ…愛斗! なんて失礼な…!」
長崎「………さぁ…」
 長崎は無礼な質問にも冷静に、キザっぽく足を組み、
長崎「どうだろうねぇ…?」
 と、意味ありげに微笑した。
長崎「もしかしたら、気付いていたかも知れないね…。いや、或いは3人とも犯人かも知れない……」
藤井「・・・・・・・」
浜谷「……………」
謎事〔…何故…何も言わないんだ…?〕
 謎事は、何か異様な物でも見るような目つきで、3人を見た。長崎も、さっきから意味ありげなことを呟いてばかりいる。一体…?
長崎「ま、どっちにしろ暗闇のトリックを暴かないことには、話は進まないけどね」
謎事〔暗闇のトリックねぇ…〕
 謎事は背もたれに寄りかかり、椅子の前足2本を浮かした。テーブルの支柱に足をかけ、ブラブラと椅子を揺らす。
謎事〔とりあえず、ゆっくり考えてみよう…〕
 謎事は、一連の事をゆっくりと思い出した。
 停電…集合…自己紹介…ロウソク収集…ライター点火…談話…殺人…。
謎事「ん?」
 謎事は椅子を本来の使用法に戻し、テーブルに頬杖をついた。
謎事「待てよ…」
謎「な、何かわかったんですか? 謎事くん…」
謎事「いや…ちょっと待って…」
 いつも、真解ならこの時点で全て見抜いちゃうんだろうなぁ…。謎事はそんな事を思いながら、ゆっくりと考えを巡らす。真解ほど速くないにしても、謎事の頭脳は回る。ゆっくりと旋回し…真相への糸口を探し出す。優れた洞察力を持つ謎事ならではの糸口を。
謎事「・・・メイちゃん。ちょっと…」
 謎事はメイを手招いた。
謎「なんですか…?」
 メイは謎事に近付く。謎事は他の全員からちょっと離れた所までメイを連れて行く。
謎「な、なんですか…?」
謎事「ちょっと…記憶の確かめをしたい」
謎「え…それでは…?」
謎事「…オレの記憶が確かなら、な」
 謎事は、メイに記憶を話した。若干おぼろげな記憶を。
謎「……ええ、その通りです。わたしも、はっきり覚えています」
 メイがうなずいた。謎事は、ニヤリと笑った。
謎事「見えた…見えたぜ、メイちゃん」
謎「ほ、本当ですか…?」
謎事「ああ」
 謎事はクルリと振り返り、全員を見た。そして、言った。
謎事「ナゾは、すべて解けた!」
長谷「……なぞはすべてとけた? …パクリか?」
田辺「あのマンガ、連載終わったにも関わらず有名だもんねぇ」
 このままでは世間話を始めそうで怖いので、謎事は咳払いをして話し始めた。
謎事「で、ですから、ナゾが解けたんスよ! この事件の真相が解ったんです!!」
長崎「ほ〜ぅ」
 長崎が腕を組んで、聞き返す。
長崎「犯人も、トリックも?」
謎事「もちろん。そして、証拠も」
長崎「しょう…こ…?」
藤井「証拠って、見つけるもんよね?」
浜谷「それを『解った』と表現するのは……」
謎事「〜〜っ!! ともかく、オレの話を聞いてください!!」
 謎事は思わず叫んだ。
謎「あまり、信用されてませんね。謎事くん」
謎事「ウウウ……」
 謎事は頭を抱えた。
長谷「どうした?」
謎事「なんでもないです…。と、とにかく!」
 謎事はキッと顔を上げた。
謎事「この事件のナゾは、全て解けた!」
 謎事は、ニヤリと引きつった笑みを浮かべた。どうも、調子が出ないようだ。


謎事「さて…どうだ? わかるか? 真解」
 謎事はニヤニヤしながら、お菓子をつまんだ。
真実「シツレーね! お兄ちゃんに解けないナゾは無いのよ! ね、お兄ちゃん!」
 真実は真解を見た。真解は方眉を上げ、
真解「まぁ…解けたけどさ…」
 と呟いた。
謎事「なんだよ、解けちゃったのかよ」
謎「流石、真解ですね」
真解「いや…」
 余談だが、「流れる石」と書いて「さすが」と読むこの熟語。この言葉は中国の故事成語、「枕石漱流(ちんせきそうりゅう/石を枕にして眠り、流れ(川)で口をすすぐ)」に由来する。昔の中国の 晋孫楚(しんのそんそ)と言う人がこの言葉を間違って漱石枕流(そうせきちんりゅう/石で口をすすぎ、流れを枕にして眠る)と言ってしまった。もちろん間違いを指摘されたが、孫楚は素直に間違いを認めず、「流れを枕にするのは耳を洗うため、石ですすぐのは歯を磨くため」と言い逃れ。そこで、中国では「漱石枕流」は負け惜しみの意味になり、日本語でもこの言い逃れがあまりに素晴らしかった(?)ためか、「さすが」に「流石」の字が当てはめられたと言われている。ちなみに、「夏目漱石」の「漱石」はこの故事から引用したらしい。「こんな変わった人間、まさに俺そのものではないか!」と思ったらしいのだが…。
謎事「なんでそんな簡単に解けるんだよ」
真実「お兄ちゃんだもん!」
真解「それは答えになってないと思うぞ、真実…」
真実「で、どんなトリックなの?」
真解「ん? ああ、特に難しい事はない」
謎事「あっ! 言うな真解!! オレの勇武伝がっ!!」
真解「ゆ、ゆうぶでん…?」
 一瞬、3人が固まった。
謎「謎事くん…もしかしてそれ、『武勇伝』の間違いですか…?」
 メイがメガネを押し上げながら、聞いた。
謎事「あ、あれ…? あ、そうか。ハハハ…」
 謎事は恥ずかしそうに笑った。
謎「どうやったらそんな間違いするんですか…。確かに、『勇武』と言う単語はありますが…」
謎事「い、いや、だって…なぁ?」
謎「『なぁ』と言われても困ります」
 はぁ、とメイはため息をついた。
謎「もう良いです。話を続けますね」
 メイはそう言って、"勇武伝"に戻った。

Countinue

〜舞台裏〜
はい、どうも。キグロです。
実は前回の「事件編」を濃縮して「推理編」にしてしまおうかと言う話もあったにゃあったんですが。
だけど、それだとあまりにもメインである事件が短すぎるので。
ええ、一応メインは殺人ですので。殺人。

そんなわけで、今回は舞台裏に使えるスペースがかなりあります。
今回のゲストは、メイちゃん!
謎「こんにちは」
はいどうも。こんにちは。
謎「やっと、次回が『真相編』ですね」
うん、そうなんだよ。いやはや、なんとも6編目! 長いねぇ…。
謎「その割りに、内容は薄いですね」
!? ………お、同じ質量でも、体積が大きいほど密度が小さいんだよ…っ!
謎「『レストラン編』や『停電編』を1編に纏めた方が良かったかも知れませんね」
う〜ん…当初の予定ではそうだったんだけどねぇ…。
謎「のめりすぎたんですか?」
ま、そう言うこと。もう、バババババッ…と。
謎「凄いのか凄くないのか、そこまで行くと判りませんね」
ハハハ…。

さて、そんなわけで今回は推理を募集いたします。
謎「推理は全てメールでお願いします。間違っても、掲示板等で書き込まないで下さい」
メールアドレスは【kiguro2@yahoo.co.jp】です。
謎「募集内容は【犯人は誰か?】と【暗闇で物を見たトリック】です」
今回は…そう、記憶力があれば、一発でわかる問題ですね。
謎事「…あれ? 観察力じゃないのか?」
ん〜…残念ながら。

まぁ、でも今回の事件。
謎「なんですか?」
確かに5編もあるけど、最初の1編は特別編みたいな感じだし、それを考えればプロローグ2編、事件2編と考えれば1:1で…真相編入れて3編の小説に匹敵するんじゃ…。
謎「計算上はそうなりますけど…」
それにホラ。「指輪物語」は最初の1巻は旅に出ないって言うし。読んだ事ないけど。
謎「それ…あまり関係ないと思います」
そうか…。

とまぁ、こんな具合に、会話が勝手に進んじゃうわけよ。
謎「? …あ、最初の話に戻るんですね」
ん、そう。「摩探」のHPで脇役5人に会話させるコーナーがあるんだけど、それも製作時バンバン書けたからね。この想像力を、トリック考察に使いたい…。
謎「その想像力は、どこから来るんですか…?」
さぁ? でも、頭ん中でいっつもキミら「摩探」メンバーがコントを繰り広げてるからね。特に授業中とか。
謎「………真面目に授業を受けてください」
…はい…。

ではまた次回。

おまけの名句珍言集(謎)「あなたは、可愛い可愛い愛すべき妹達に仕事をやらせるつもりなのですか?」
解説;「事河真実…」にて、剣斗が登代子に料理の手伝いを頼まれた時、「なんで俺だけ」と言ったら言い返された言葉。ちなみに、キグロ家でもたまに似たようなフレーズが飛び交う(「一体、誰があなたをそこまで育てたと思っているんですか?」等)。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

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