摩訶不思議探偵局〜殺人ラブデート〜
容疑者リスト
高雅 鵡誄(こうが むるい)…【従業員】
長崎 恭助(ながさき きょうすけ)…【高岡の部下】
藤井 愛(ふじい あい)…【高岡の部下】
浜谷 和(はまや かず)…【高岡の部下】
長谷 愛斗(はせ あいと)…【客。田辺の恋人】
田辺 沙耶華(たなべ さやか)…【客。長谷の恋人】

摩訶不思議探偵局〜殺人ラブデート〜真相編

謎事「暗闇で物を見る…特別条件が無ければ、この程度、簡単に出来るって事ぐらい、知ってますよね?」
 謎事はレストラン内を歩き回りながら、話す。メイは別段、その後を追おうとはしない。暗くて危険そうな気がするから。
高雅「目をつぶる…?」
謎事「その通り」
 4分の1回転して、高雅に右人差し指を突きつけた。高雅はちょっと引いた。
謎事「しかし、実際火が消える直前、目をつぶっている人間はいなかった…そうッスよね?」
長崎「ああ、その通りだ。だから考えてるんだろう」
謎事「しかし…考えてください。あの状況なら、目をつぶらなくてもつぶったのと同じ状態を作り出せると思いませんか……?」
田辺「どういうこと?」
謎事「思い出してみてください。火が消える直前の事を」
田辺「直前?」
 全員、一斉に思い浮かべる。
長谷「確か、お前らが事件の話をしてたな」
田辺「そうそう、最初に出遭った事件の話!」
藤井「そういえばアレ、警察が出てきたところで終わっちゃったわよね。後で続き、教えてね」
謎事「ああ、はい、良いッスよ。 ……って、ですから、まじめに…!」
 まるでコントだ。謎事は思った。
長崎「あの時、確か………何があった?」
藤井「事件の話した事しか覚えてないんだけど」
謎事〔こ、この人たちは、殺人が起こったってのにのん気な…っ!〕
 さすがの謎事も、これにはいらだってくる。
長谷「そうイラだつな。ちゃんと覚えといてやった」
謎事「! では長谷さん、どうぞ」
長谷「……今の説明で、俺もやっと解った。犯人はあんたなんだな」
 長谷は、謎事の役目を奪って……ある人物に、指を突きつけた。
長谷「他でもない…浜谷…なんとか。犯人は、あんただ!」
浜谷「!?」
藤井「は、はまやぁ!?」
 藤井は驚いて浜谷を見た。しかし、長崎はいたって冷静に「ほぅ」と呟いただけだった。
謎事「ちょ、ちょっと長谷さん…オレの役、取らないで下さいよ…」
長谷「…一度、言ってみたかったんだ…」
 長谷が呟いた。
謎事「え? なんですって?」
長谷「い、いや、なんでもない。後はお前に任せる」
 長谷は棄権したらしい。
「ゴホン」と謎事は咳払いした。そして、浜谷に指を突きつけ、
謎事「そう…犯人は、浜谷 和さん…あなたです」
 …どうやら、誰もが一度は言ってみたいらしい。
長崎「2度も言う必要はないんじゃないかい?」
浜谷「そうですよ…。それに、何故わたしなら暗闇で高岡を殺せたと?」
謎事「思い出してください…。オレらが事件の話を始めたときのこと…」
――浜谷「わたしは、ちょっとトイレに行ってきます」
 謎事「あ、じゃ戻ってきてから話します?」
 浜谷「あ、いえいえ…どうぞ、お構いなく…」
 田辺「ロウソクはいらないんですか? …何とかさん」
 浜谷「ハマヤです。ええ、ロウソクはいいです。手探りで何とか行って来ます…」――
謎事「…こんな会話が、されませんでしたっけ?」
藤井「つ、つまり、浜谷はトイレへ行った…」
謎事「そう…。それも、ロウソクを持たずに…」
田辺「ロウソクを持たない…? あ…」
謎事「その通り。ロウソクを持たずにこの部屋から出れば、当然外は真っ暗。目をつぶったのも同じ状態です。そしてこの部屋へ戻ってきた時、偶然にも全ての火が消えていた。しかし、既に暗闇に慣れていた浜谷さんの目は、それでもボンヤリ目が見えた…」
長谷「理屈は通ってるな」
謎事「ええ。それに、浜谷さんが外にいた時間はかなり長い。さっき高雅さんがナフキンの火を消しに行った帰りは、そこら中に頭をぶつけたみたいスけど、浜谷さんはそんな様子は無かった」
浜谷「………」
謎事「そして、この部屋に戻って来た浜谷さんは、自分以外全員がまだ暗闇に目が慣れていない事に気がついた…。そこで、思わず犯行に及んだんです!」
藤井「『思わず』…なの?」
謎事「さっき、ラジオで『変電所が突然故障し…』って言ってたじゃないッスか。これは、どう考えても浜谷さんがやったとは思えません。だから、この殺人は思わずやった物なんです」
藤井「ま、まぁ、それもそうね…」
 謎事は浜谷に近付こうとした。と、ガタン、と言う音がした。謎事が椅子につまづいたらしい。メイの予想的中、と言うところか。謎事はすぐさま体制を整え、椅子に座った浜谷に近付いた。
謎事「どうスか? これが…この事件の真相です。あなたは偶然暗闇に目が慣れ、偶然他の人が慣れていないことに気付き、思わず高岡さんを殺してしまった…違いますか?」
浜谷「………さっき…」
謎事「?」
浜谷「さっき、証拠が解ったって言ってたね…。それを、見せてごらんよ」
 浜谷はゆっくりと謎事の顔を見上げ…ギョッとした。謎事がニヤリと笑っている。
謎事「良いッスよ」
 そう言うと、謎事は浜谷のアゴをつかんで、顔を横に向けさせた。
長崎「おいキミ、何を…」
謎事「浜谷さん…」
浜谷「ぬゎんです?」
 アゴをつかまれていて、呂律が回らないらしい。
謎事「ここ…ほっぺた、なんか引っかき傷みたいな細い傷がありますね…どうしたんスか?」
浜谷「ふぇ? すぁ、さぁ…?」
謎事「しかも、真新しいッスよ? この傷跡…」
浜谷「…………」
謎「! まさか…」
 後ろの方で、メイの声がした。
謎「謎事くん、その傷はもしかして、高岡さんを絞め殺した時の…」
謎事「その通り」
藤井「まさか、高岡が抵抗して…!?」
謎事「そう! スカーフを引っ張られて首を絞められた高岡さんは、必死で抵抗した。その時、犯人である浜谷さん、あなたの顔を引っかいたんです。その時についた傷が…この、真新しい傷跡です!」
浜谷「………!」
長谷「だけどよ、それが一体何になるんだ?」
 長谷の言葉で、メイが立ち上がって歩み寄ってきた。
謎「現在の日本の科学捜査能力と言うのは、実に優れているんです」
 謎事は、なんとなくメイをカッコよく思った。
謎「もしもその浜谷さんの頬にある引っかき傷が、高岡さんが抵抗した時についた物だとすると…高岡さんの10本の指の爪のどこかから、高岡さん以外の皮膚が発見されるはずです。そして、それはDNA鑑定と言う鑑定を行えば…誰の皮膚か、ズバリと解ってしまうのです」
長谷「そ、そんな事が出来んのか!?」
田辺「ヤダ。常識じゃない」
長谷「知らなかったぞ、俺は」
田辺「あなただけよ」
 メイは2人を横目に、謎事の横まで来た。
謎「言ってしまえばこんな事件、わたし達が乗り出すまでも無かったんです。絞殺死体なら、警察が必ず爪の隙間を調べますから。そうすれば、確実にあなたの皮膚が発見されるはずです。そしたらもう…言い逃れは、出来ませんよ?」
 謎事は、浜谷のアゴから手を離した。浜谷は顔の角度を元に戻し…言った。
浜谷「その通り……わたしが、やった」
藤井「浜谷…」
長崎「ハッ。まさか浜谷とは…。一番、やらなさそうな気がしてたんだけど…人は見かけによらねぇな」
藤井「ちょっと…それって裏を返せばわたしを犯人だと思ってたってことじゃない」
長崎「ダメか?」
藤井「当たり前よ!!」
 藤井は突っ込んでから、
藤井「でも浜谷…動機は?」
浜谷「…聞くまでも無い」
藤井「あの女の…横暴なまでの扱い…」
長崎「言われてみりゃ…奴は浜谷を一番“気に入っていた”からな…。一番苦しめられていたのは、浜谷だったかもな」
謎事「でも…そんな、殺すほどの事だったんですか…?」
長崎「…ハッ。愚問だな」
 長崎が冷たく言い放った。
浜谷「彼女に逆らえば、わたし達はどうなるか分かったもんじゃない…。会社をクビにされるぐらいならまだ良い。ヘタすりゃ、社会的に抹殺を喰らうかも知れない…。そうなる前に……」
長崎「……でもま、一概にお前ばかりを責める事は出来ないけどな。わたしだって、あの女を殺してやりたかった」
藤井「それは…同感よ、浜谷」
浜谷「………」
「殺してやりたい」か…。謎事は、「社長令息」と言う己の身分を、恐ろしく思った。
謎「でも…殺人だけは、やってはいけません」
 メイが、浜谷に向かってキツイ口調で言う。
謎「殺した所で、どうにもなりません。確かに、あなたを脅かす人はいなくなるかも知れません。でもやっぱり…罪の意識は、いつまでも残るんです。そして、それがやはり、あなたをいつまでも脅かすことになるんです。例え、どんなに時が流れても…」
「わたしが、無実の罪で脅えていたように…」
 メイは、小さくそう呟いた。
浜谷「………どうすれば、良い…?」
謎「…わたしには、わかりません。おそらく…自分なりの方法で、自分が納得行くように、罪を償うしか無いのではないでしょうか…?」
浜谷「………そう…ですね……」
 浜谷が、ガックリとうな垂れた。罪の意識を、その背中に背負って…。
 瞬間、明かりがついた。

謎事「最後…あんな事になっちまって…」
 駅からの帰り道。謎事はメイを家まで送っていた。その途中で、謎事がメイに話しかけた。
謎「別に…謎事くんのせいじゃありませんし。それに、わたし達が事件に出遭うのは、良くある事ですから」
謎事「そ、それもそうだけどな…」
 その一言で片付けられる彼らは、ある意味凄いかも知れない。
「ワン!」と、イヌの鳴き声がした。「タマ」と名付けられた、ハスキー犬の声だ。
謎「あ、着きましたね。それでは謎事くん。さようなら」
謎事「あ、ああ…」
 謎事は力なく右手を挙げた。メイが、門に手を掛けた。
謎事「…あ、あのさ、メイちゃん……」
謎「え?」
 メイは門から手を離し、クルリと振り向いた。
謎「なんですか?」
謎事「そ…その〜……」
 謎事は顔を赤らめた。何故か? 理由は簡単だ。デート直後。2人きり。これ以上無い絶好のチャンス…そう考えているからだ。 何の? 簡単だ。告白の。
謎事「えっと…あ〜…」
「ゴホンゴホン」と謎事は咳き込み、言った。
謎事「…オ‥オレ…実は…メイちゃんの…事が……」
「好きだ…!」
 そう叫ぶのと、タマが吠えるのが同時だった。
謎「……すみません。タマが吠えて、聞こえませんでした。もう一度、お願いします」
謎事「はぇっ?」
 謎事は拍子抜けた。目が点になった。今だかつて、ここまで拍子抜けた奴はいただろうか…。いや、いない。謎事は、メイの向こう側にいるタマを、「マジかよ」と言う目で見た。
「ワウゥゥゥ…!」
 タマが、遠吠えした。謎事を慰めるかのごとく。
謎事「い、いや…何でも無いよ」
謎「そうですか‥。では、お休みなさい」
謎事「あ、ああ。お休み…」
 …門が、閉まった。

謎「…と、言うわけです」
真実「大変だったねぇ、2人とも」
真解〔特に謎事はな…〕
謎事「ま、そんなわけで事件は無事解決したわけよ」
 謎事はそう言って、お菓子に手を伸ばした。
真実「あっ! ダメッ!!」
謎事「え、あ、な、なんでっ!?」
真実「最後の一個…わたしの物!」
謎事「な、なんでだよ!?」
真実「良いからホラ、渡しなさい!」
謎事「ヤだよ」
 2人が言い合ってると、美登理がジュースを持って上ってきた。
美登理「4人とも、楽しんでる? 真実、飲み物持ってくの忘れてたでしょ。ノド渇かなかった?」
真解「渇いたよ」
美登理「ホラ、お母様が持ってきてあげました。感謝しなさい」
 そういって美登理は、ふと皿に目をやった。
美登理「あら、お菓子が一個余ってるじゃない。それじゃ、チップとしていただくわね」
 美登理はヒョイとお菓子を摘んで、口に放り込んだ。
「!?」
 真実と謎事が、口を半開きにして、美味そうにお菓子をほお張る美登理を見上げた。

Finish and Countinue

〜舞台裏〜
あ〜、長かった…っ! キグロです。
さてさて、「摩探」初の試みである「2つの事件」、やっと終了いたしました。
今回のゲストは告白し損ねた謎事くん。
謎事「なぁ、キグロ…」
なんだ?
謎事「オレって、回を増すごとに悲惨にあってる気がするんだけど…?」
まぁ…当初から、そういう設定だったし。
謎事「!?」
そのおかげで人気者になってるじゃないか! 摩探HPの人気ランキングも、今んとこボク、真解に続いて3位だよ?
謎事「…人気よりも、メイちゃんが欲しいんだけど…」
……恥ずかしくないか? そのセリフ。

さて、今回は真相編。と言うわけで、正解者の発表。
犯人が解った方>さくらさん
全て解った方>玉葱さん、カナメさん、27さん
え〜…はい。今回…解けた人、多過ぎ。
いえ、「多過ぎ」ってほどでもないですけど、いつもよりもぐ〜んと増えてます。
やっぱ、簡単すぎたかなぁ…。どうも、舞台作りに固執し過ぎて、トリックの方がおろそかになってしまいましたね。
メインなのに…。しかも、5編も使ってるのに…。
簡単かなと不安になり、長崎さんに怪しげな言動と大いにさせたのに、全く無意味。
誰も、彼に目を向けてくれませんでした。
怪しすぎると逆に怪しくなくなると言う事が、身に沁みてわかりました。
やっぱり、謎事くんでも解けるように簡単にしたのがまずかったか…。
謎事「オレのせいかよ!?」
(全て解った3名の方には、後日、メールで何かお送りさせてもらいます。さくらさんは残念ですが…賞品は無しです)

しっかしまぁ、謎事くん。今回はちょっと可哀想だったねぇ。最後。
謎事「ホントだよ…。なんで、タマ…っ!!」
まぁ…人生、色々あるよ。
謎事「15歳で、人生語るな」
キミより1歳年上だぞ。それにホラ。まぁ告白は出来なかったけど、結構カッコイイシーンはあっただろ?
謎事「事件解決?」
そう。今回はそれが目当てでやったようなもんだし。謎事とメイのデートと、謎事のカッコイイシーン。
謎事「………なぁ、キグロ…」
2度も3度もやらないぞ。長ったらしいったらありゃしない。
謎事「な、何故わかったっ!?」

〜次回予告〜
「真解お兄ちゃん!」
次回は、またまた登場相上 育覧!
「ドラマの撮影って言ってたよな?」
「ええ、そうです」
「土佐舞、亜美…?」
そして起こった、見立て密室殺人。
「だから、密室だったんですよ」
「ドラマと、同じなんだよ」
1つの事件に2つの“答え”。
「ドラマ通りのトリックじゃない…って事か」
「まぁ…当然よね…」
果たして、もう1つの“答え”は見つかるのか!?
次回、『久が原高校殺人事件』をお楽しみに!

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

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