摩訶不思議探偵局〜久が原高校殺人事件〜
容疑者リスト( )内は読み、【 】内は役
立花 真(たちばな まこと)…【監督】
戸津辺 百合太(とつべ ゆりた)…【子ども俳優】
清泉 悦男(きよいずみ えつお)…【演出家】
飯島 れい子(いいじま れいこ)…【育覧のマネージャー】

摩訶不思議探偵局〜久が原高校殺人事件〜事件・推理編

真解「窓は無く、唯一の出入り口は固定されていた…か」
 臨時休校となった遊学学園の校舎の目の前で、真解は倉庫を眺めていた。無論、中で皆藤が死んでいた倉庫だ。すぐ横で、真実たちが何やら話しているが、全く耳にしない。
真解〔倉庫の扉は、横にスライドさせる引き戸…。しかし、普通開ける手前に来ている左側の扉は、撮影の都合上、接着剤で固定されていた。アレは、大人が2人に子どもが2人…まぁ、たぶん大人3人が寄ってたかって、やっと開く強度だ。そして奥にある右側の扉は、犯人がやった物なのか、つっかえ棒で開かないようになっていた…〕
江戸川「どう? 真解くん。何かわかりそう?」
真解「まだ、何も……って、なんで江戸川さんがいるんです!?」
 真解は思わず振り向いて叫んだ。
江戸川「真澄から通報が入ったのよ。それで、飛んできたってわけ。ね?」
真澄「ん、その通り」
 真澄が後ろからひょっこり顔を出し、言った。
真実「あ、真澄ちゃん。おはよう」
真澄「オハヨ」
江戸川「事情聴取は、もう終わったの?」
真解「ええ、一通り。アリバイも取りました」
真直「でもさぁ」
真解〔ど、どこにいたんだ…?〕
真直「え? さっきからずっと」
真解「…………『でも』、何?」
真直「『アリバイ』ったって…誰のアリバイ調べたの?」
育覧「それはもちろん、わたしも含めた、今回のドラマ撮影関係の人たちです」
真直「でもさぁ、殺されたのは学校でしょ? 外部犯かも知れないじゃん」
兜「その可能性は我々警察も指摘した」
 突然、ヌッと兜が登場した。
真解〔今日は、突然人が現れる日だな…〕
兜「だがしかし…殺された状況を見て、犯人はそこの相上 育覧を含めた今回のドラマ撮影関係者の人たちの中にいると、断定したのだ」
澪菜「状況…? 倉庫の中で、殺された事が?」
真解「ああ。今回のドラマ撮影…どんなドラマか、もちろん知ってるだろ?」
澪「確か、『久が原高校』とか言う高校を舞台にした、推理ドラマ…」
真解「その通り。そして皆藤さんは、そのドラマと同じ状況で、殺されたんだ。更に、監督さんの話によれば、ドラマの『ナゾ』は、一切外部に洩れていないという。つまり犯人は、そのドラマを知っている人たち…今回の、ドラマ撮影関係者に絞られるってわけだ」
真直「なるほどねぇ」
真解「そして、俳優達を含めた、全ドラマ関係者のアリバイを調べたところ、みんな大体アリバイがあった。なかったのは、監督の立花さん、演出家の清泉さん、育覧のマネージャーの飯島さん、伊井島役の戸津辺くん、そして育覧の5人だ」
澪菜「5人…手ごろな数字じゃない?」
真解〔‥どうでもいいが、いまレイ君と澪菜はどこから現れたんだろうか…?〕
 そんな真解の疑問は他所に、周りの会話は進む。
真実「でも、兜警部は何故突然ここに?」
兜「ああ…容疑者達を一部屋に集めたら、相上 育覧だけがいなくなっていたんでな。もしやと思って、慌てて捜しに来たんだ」
真解〔そしたら案の定、いたってわけね…〕
 育覧は、真解の後ろに隠れた。真実が、それを思わずにらみつける。
真実「じゃぁ、もめんちゃんは、みんながいる部屋に行った方がいいわね?」
 真実がにこやかに笑いながら言う。
育覧「べ、別に、ここにいたって良いじゃないですか…」
 育覧が、真解の背中を掴みながら言う。真解を挟んで火花が散る。なかなか2人とも、真解好きだ。
真実「お兄ちゃん、なんか言ってよ」
育覧「別にいいですよね? ここにいても…」
 兜の視線まで感じ、真解はだんだん混乱してきた。どうすればいい…?
――容疑者たちは、やっぱり一部屋に集めておいた方が良いけど、個人的にはここにいて欲しいような…いや、でも、別にそんないて欲しくもないか…? やっぱ、一部屋に集めておかないと…。でも、監視するという点から考えれば、ボクらと一緒にいても何も問題ないわけで……。
 様々な思惑が真解の脳裏を駆け巡る。育覧と一緒にいる理由もないわけだから、別に容疑者たちが集められているの部屋に連れて行った方が…。
真解〔って事は、一緒にいる理由があれば、連れて行かなくていいって事か…〕
 何故か、そんな事を思いつく。
真解「ま、まぁ、ドラマについての情報も欲しいし、彼女には少しここにいてもらった方が、都合がいいような…」
 苦笑いをしながら、真解が言う。
兜「そうか…。まぁ、ならいい。情報を引き出したら、連れて来い。この目の前の校舎の、多目的教室に全員集めている」
 兜はそう言って、校舎に入って行った。
真実「なんでよ、お兄ちゃん」
真解「だから、情報を貰うためだよ」
 膨れ面をする真実を、真解は必死でなだめる。前回、育覧と初めて出会った時の事件を解決した後…真実は、とてつもない怒りをあらわにしていた。「真実、お前とボクとはただの兄妹なんだ。わかってるか? 兄妹なんだ」と、何度言った事か…。しかし、それでいてメイに抱きつかれた時は何も言わなかった。何故だろう…?
謎「でも、情報を貰うと言っても…どんな情報を貰うのですか?」
真解「う…そうだな…」
 真解が考え込んでると、謎事が言った。
謎事「じゃぁさ、育覧。ドラマではどんなトリックが使われてんだ?」
育覧「え?」
謎事「ほら、だから、ドラマでのトリックだよ。とりあえず、まずはそれから検証しようぜ。意外と、それで解決するかも知れないぜ?」
育覧「…さすがに、それで解決はしないと思うけどな…」
真解「ボクもそう思うけど…まぁ、参考までに聞くだけ聞こう。どんなトリックだ?」
育覧「えっと…」
 育覧に、全員の視線が集まった。
育覧「天井から、針金でつっかえ棒を操り、はめるんです」
真澄「け、結構単純じゃない…?」
真解「具体的には、どうするんだ?」
育覧「えと…。犯行後、一旦普通に外に出て、倉庫の屋根に上るんです。そして、屋根の扉ギリギリの所に小さい穴を2つ開けて、長い針金を中へ入れて…そしたら、今度はもう一度倉庫内に戻ります。で、中に垂れてる針金を釣り針状に曲げて、そこに先端に接着剤をつけた木の棒を載っけて、自分はもう一度外へ。扉を閉めて、倉庫の屋根に上り、針金を引っ張ると、木の棒はつっかえ棒の位置に来て…後は、針金を一度押して、もう一度引けば、木の棒の位置からずれて、針金だけ回収できる…と言うトリックです」
「なるほど…」と全員、頷く。
真解「ちなみに、倉庫の中身を一部外へ出したのはなんでだ?」
育覧「えっと…単純に、被害者を倉庫の中に呼び出していたので、殺害しやすいようにスペースを空けただけです」
真解「なるほどね…」
謎事「それじゃぁ、とりあえず倉庫に上ってみようぜ」
 謎事はそう言って、倉庫に向かって走り出した。真解たちも、後を追う。
澪「だけど、そんな単純に解決するもんか?」
真解「さぁね…。少なくとも、前例はないな」
 乾いた笑みを浮かべ、倉庫前についた。
猫山「おや、真解君たち…どうした?」
謎事「上らせてもらっていいッスか?」
猫山「え? 何に?」
謎事「この倉庫」
 謎事は、屋根を指差した。
猫山「いや…まぁ、別に良いけど…」
真解〔いや、良くないと思うけど…〕
 問答無用で謎事は上り始めた。足がかりなど無いように見えるが、するする上る。さながら、クモ人間か…。
育覧「ちなみに、ドラマだとシールが貼ってありました。穴に」
真解〔貼ってないと、倉庫の中で扉を閉めたら、そこから漏れる光でトリックがわかってしまうから…か?〕
 謎事は、倉庫の上にたどり着いた。一歩歩くたびに、ダンダンとすごい音がする。警官達が、慌てて上を見上げた。
謎事「穴は、どこにあるって?」
育覧「扉のすぐ近く、ほとんど真上です」
謎事「どれ…」
 謎事は四つんばいになって探し始めた。はたから見ると、とても妙だ。何故か最近、謎事はこういう役が多い気がする。
謎事「特に怪しいシールは無いぞ!」
 謎事の声が、屋根の上から聞こえてきた。
澪「と言うことは?」
真解「ドラマ通りのトリックじゃない…って事か」
江戸川「まぁ…当然よね…」
 そんなトリックを使ったら、解いてくれと言わんばかりだ。
 謎事が、ストン、と華麗に屋根から飛び降りてきた。何故か、微妙にカッコイイ。
真解「‥でも、誰が倉庫の屋根になんか上ったんだ? ドラマじゃ」
育覧「戸津辺くんが演じる、伊井島 明日偵です。『視点を変えて、上に上ってみよう!』と言って、上るんです」
真解〔無茶苦茶だな…なんか…〕
澪菜「でも、イイシマ アステなんて、変な名前ね。真直といい勝負じゃない」
真直「どういう意味だよ…」
澪菜「本当じゃない。那由他クン?」
真解〔『高麗辺』も十分変わった名前だけどね…〕
 真解は冷ややかな目で、2人を見守ることにした。
猫山「ところで、いまの会話全部聞いてたんだけど…ドラマ通りじゃないのは、間違いないのかい?」
真解「ええ、たぶん」
猫山「そうか…」
真実「…? どうかしたんですか?」
猫山「いや、警部が『ドラマの台本を持って来い!』と言っていたから…」
真解〔兜警部…〕
 真解は、目頭が熱くなった。

謎事「でも、他にどんなトリックがあるんだ?」
 ここは、倉庫の中。真解たち10人は、ズカズカと中に入り込んだ。…はっきり言って、結構邪魔だ。
真解「さぁな…」
澪菜「こんなのどう?」
真解「なんだ?」
澪菜「あっちの、開く方の扉を一旦外して、つっかえ棒をセッティングしたら、外に出て、扉を戻す! どうよ?」
真澄「あ、いいじゃん、それ!」
真解「いや…一見、いい線を言っているし、ドラマの状況なら、それもありうる」
真直「どういう意味?」
真解「ドラマでは、つっかえ棒は接着剤で固定されていた…だけど、見てみな。ここには、接着剤がつけられていない」
澪菜「え!?」
 全員、慌てて駆け寄った。9人が一箇所に集まる様は、なんとも絶景だ。
江戸川「あら、本当ね…。これじゃ、いまの澪菜ちゃんの方法は取れないわね」
澪菜「え〜? 真直、あんた何か細工したんじゃない?」
真直「な、なんでボクなんだよ!?」
謎「でも待ってください。ここに接着剤が使われていないという事は…」
真解「ああ、その通りだ」
 真解は、1回大きく頷いて、意味深に言った。
真解「犯人は、扉を閉めた上で、内側から木の棒をはめた事になる」
真実「う、内側!?」
真解「内側からかどうかはわからないが、少なくとも内側から力をかけなければ、そのようにつっかえさせる事は不可能だ」
江戸川「確かに、そうよね…」
 江戸川は、木の棒を軽く掴んで、
江戸川「おまけに、しっかり固定されてるし。これは、針金なんかでどうこうできる状態じゃないわね…」
真澄「うそ〜!? でも、そんな、それじゃぁ、犯人はどうやってここから出たのよ!?」
澪「一。『外から木の棒に内側から力をかけた』」
真解「二。『何らかの方法で、大人3人でやっと開く扉を1人で開けた』」
澪「三。『接着剤を使わずとも、針金などでどうこうする方法がある』」
真解「たぶん、このうちのどれかだ」
澪菜「そうねぇ…」
真解「ま、なんにしても…」
 真解は、軽くため息をついた。
真解「こんな狭いところで、10人がひしめき合う必要は無い。澪、真直、澪菜、真澄、それと江戸川さん」
5人「何?」
真解「ボクらは、トリックを考える。みんなは、被害者・皆藤 哲也さんが殺された、その動機について調べてくれ」
真澄「わかった」
江戸川「調べものなら、わたしと真澄が合わされば、もう最強よ?」
 江戸川は、フフフと不敵に笑った。それを真解は、ハハハと苦く笑い飛ばした。

Countinue

〜舞台裏〜
こんにちは。キグロです。
今回のゲストは澪くんです。
澪「どうも」
今回は遊学学園での事件と言うことで、真解くんと共同推理、のようで。
澪「いやなに、それほどでも」
ってか、あんたら喋りすぎだよ。今回大部分がセリフで埋まってるぞ。
澪「まぁ、いいじゃん」
しかも、都合上次回もたくさん出さなきゃならないしさ…。
澪「…ダメじゃん」

特にネタも無いので、この辺で。
ではまた次回。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

推理編を読む

戻る inserted by FC2 system