摩訶不思議探偵局〜久が原高校殺人事件〜
容疑者リスト( )内は読み、【 】内は役
立花 真(たちばな まこと)…【監督】
戸津辺 百合太(とつべ ゆりた)…【子ども俳優】
清泉 悦男(きよいずみ えつお)…【演出家】
飯島 れい子(いいじま れいこ)…【育覧のマネージャー】

摩訶不思議探偵局〜久が原高校殺人事件〜推理編

真解「そういえば、小鳥遊さん。何かトリックの痕跡のような物は、見つかってるんですか?」
 真解は、倉庫内にいた小鳥遊に、聞いた。…思えば小鳥遊、久々の登場だ。
小鳥遊「いや…まだ、それらしい物は見つかってないよ。…もっとも、見つけててもそれがそうだとわかってないだけかも知れないけどね」
 ハハ…と小鳥遊は小さく優しく笑う。
真解「それじゃ謎事、お前の出番だな」
謎事「おう。何から調べる?」
真解「そうだな…まぁ、扉、かな?」
謎事「わかった」
 謎事はそそくさと扉に向かった。
育覧「謎事兄ちゃん、なんかこき使われてるね」
 育覧が、謎事の横から言った。
謎事「…どういう意味だよ、育覧…」
育覧「だって、なんとなくそんな感じがしたんだもん」
謎事「お前はいいから真解のとこ行ってろ!」
育覧「は〜い」
 育覧はスタスタと真解の所に戻って行った。
真解「ボクらもボクらで、何か調査をしよう。…いや、その前に」
 真解は小鳥遊に向き直った。
真解「この倉庫って、ドラマのスタッフが用意した物なんですよね?」
小鳥遊「ああ、そうらしいね」
真解「と言うことは、この倉庫の中や、外に出されたガラクタは…?」
小鳥遊「これらも、ほとんどスタッフが用意した物らしい」
真実「…? そんな事聞いて、どうするの?」
真解「いや…。でも、もしもスタッフがこれらのガラクタを用意したのならば、その用意をする時に、何かトリックに必要な材料を混ぜる事が出来るな、と思ってな。まぁ、計画犯罪なら、の話だけど…」
小鳥遊「あ、でも計画犯罪だと思うよ」
真解「え?」
小鳥遊「凶器のロープには、被害者の指紋はついていたけど犯人の指紋が付いていなかったし、扉にも怪しい指紋は付いていなかった。あのつっかえ棒も念入りに調べたけど、真解くんの指紋以外ついてなかったよ」
真解「え? ボクの指紋?」
小鳥遊「たぶん、中に入る時、間違って触っちゃったんじゃないかな?」
真解〔いや、そうじゃなくて、いつの間にボクの指紋を採ったんだ…?〕
小鳥遊「…ま、ともかく、それだけ付いてないと犯人は手袋をつけていた可能性が高い。少なくとも、衝動的な犯行じゃないよ」
真解〔ふぅん…〕
 真解は、軽くうつむいた。
謎「ちなみに、皆藤さんはここで殺害されたんですか? それとも別な場所で殺害されて、ここに運ばれたんですか?」
小鳥遊「あ〜…死体に移動した形跡は無かったからね。たぶん、ここで殺されたんじゃないかな?」
真実「皆藤の爪からは、何か出てきました?」
小鳥遊「今のところ、凶器のロープの繊維しか出てきてないよ」
真実「そうですか‥」
謎事「なぁ!」
 突然、扉を調べていた謎事が言った。
謎事「扉の横の壁だけど、なんかへこんだ傷があるぞ」
真解「凹んだ傷?」
 どれどれ…と、4人が謎事の元に近付いた。
謎事「ほら」
 謎事が指差したところを、真実が懐中電灯で照らした。そこには、若干の凹みがある。倉庫の壁は金属で出来ている。そこに、何か硬い物が押し付けられ、擦れて、傷がついた、と言う感じだ。石か何かを、思いっきり叩きつけたようにも見える。
育覧「なんなんですか? これ」
真解「さぁな…もしかしたら、トリックに一枚噛んでるかも知れないけど…いまは、何もわからないな」
 じっと見つめながら、真解の頭脳が動き始めた。

多目的教室
江戸川「失礼させてもらうわ」
 そう言って、江戸川は思いっきり教室のドアを開けた。
兜「! 江戸川リポーター! なんだ、一般人は立ち入るな!」
江戸川「ジャーナリストだって言ってるでしょうが!」
 もうすっかりお馴染みの挨拶だ。
兜「どっちだって良い。ともかく、一般人はいまはまだダメだ」
真直「そう言わずに、入れてくださいよ」
兜「ダメだ」
真澄「お願いします、刑事さん」
 突然真澄が、猫撫で声で言った。
澪菜「わたし達、真解くんに言われて、捜査のお手伝いをしてるんです」
 澪菜も、それに続いた。
真澄「お願いします。ちょっとぐらい、入れてくださいよ。ね?」
澪菜「本当にお願いします。刑事サマ」
真澄「ね? 良いでしょう??」
 あま〜い声と、潤んだ瞳で、2人は兜に急接近した。兜は対応に困り、
兜「あ〜、わかったわかった! 入れてやる、入れてやる!」
真澄「ありがとうございます、刑事さん!」
澪菜「感謝します、刑事サマ!!」
 2人の瞳が、輝いた。
江戸川「いい? ああ言うのに騙されちゃダメよ?」
 江戸川は、澪と那由他に言った。澪も那由他も、苦笑するしか無かった。

江戸川「と言うわけで皆さん、ちょっとわたし達の捜査に協力してもらえますかしら?」
清泉「は、はぁ、良いですよ…」
 先ほどの真澄と澪菜の「刑事騙し」を見て、全員少なからず、引いている。
江戸川「わたし達が知りたいのは、被害者・皆藤さんが殺害された、その動機です。どなたか、知っている方はいらっしゃらないですか?」
 江戸川は、全員の顔を見渡す。こんなストレートに聞いては、誰も言わないか…? そう思ったが、飯島が言った。
飯島「彼について、こんな噂を聞いたことがあります」
澪「! なんですか!?」
飯島「『皆藤は、誰かが書いた作品を、盗んでいるのではないか?』…と言う噂です」
澪菜「盗作って事?」
戸津辺「その噂なら、僕も聞いたことあります」
 戸津辺が、思わず手を挙げた。
戸津辺「なんか、誰かに脚本を『書かせている』んじゃないかって…」
澪「ゴースト・ライターがいるって事か」
真直「ゴースト・ライター?」
澪菜「脅迫されて、本書いてる人よ! 前後の意味から判断しなさい! ってか、英語を訳しなさい!」
真直「…なんで毎回怒られなきゃならないんだ? ボク…」
清泉「そういえば、俺もその話なら聞いたことあるな。その時は本気にしなかったが…」
 次々と、みな言い始めた。誰かが言うと、不思議とスムーズに話せるようだ。
立花「そうか…そんな噂が立ってるのか」
飯島「あら、立花さんは知らなかったんですか?」
立花「ああ。…だが、どうも彼からはあまり『出来る男』と言う印象が得られなかった。とても、彼があんな良い作品を書けるとは、想像できなかった。なるほどな…やはり、そうだったか…」
 立花は、何やら1人納得している。ウンウン、と1人大きく何度もうなずいた。
 その他には大した情報も無く、5人は引き上げる事にした。

澪菜「ただいま〜」
真実「あ、お帰り〜」
 澪菜が倉庫の中に顔を出し、真実がそれに返事をした。
真解「どうだった? 何か、動機らしい物はわかった?」
澪「ああ、1つ、皆藤さんについての噂を聞けたよ」
 澪は、その『噂』を真解たちに話した。
真実「盗作ねぇ…」
育覧「あ、わたしもその噂、なんとなくですけど聞いたことがあります」
真解「ふぅん…結構、芸能界には広く広まった噂、と言うわけか…」
育覧「あ、あと、こんな話も聞いたことがあります」
真解「え? 何?」
育覧「えっと…なんだっけな……つい最近ですけど、確か、最新の4作品を並べると面白いことがある…? なんて話を、聞いたことがあるような気がします」
真解「作品を…? 誰か、最新の4作品言える人」
謎「‥たぶん、言えると思いますけど…」
真解「お、じゃぁ並べてくれ」
謎「はい」
「えっと…」とちょっと考え、メイは並べ始めた。
謎「確か…10作品目が『時計塔の罠』、11作品目が『噂の彼』、12作品目が『サーカス少年探偵団』、そして最新の物が『久が原高校探偵団』です」
 メイが言い終わると、全員今の4つを頭の中で反復した。
真直「…これの、どこが面白いの?」
育覧「え? さ、さぁ…?」
 全員、考え込んだ。所詮は噂だし、嘘っぱちなんじゃないか? と言う気もしてくる。
真解「作品と言えば、育覧。『久が原高校探偵団』の今回の事件…殺されるのは何人だ?」
育覧「え? 確か、1時間で解くやつだから、1人です」
真解〔“1時間”…ね〕
 ドラマの探偵は良いよなぁ…と、真解は痛烈に思った。
育覧「でもそれが?」
真解「ほら、今回見立て殺人だろ? って事は、ドラマが連続殺人なら、同じ人数、殺される可能性が高い…。でも、そうじゃないなら大丈夫そうだな」
 ひと1人殺されていることには変わりないのだから、何も「大丈夫」ではないのだが。
澪「そういえば真解。例の、トリックの方はどうだ?」
真解「そっちもまだサッパリだ。一応、謎事が妙な傷を見つけて、いま小鳥遊さんに調べてもらってるけど…」
 真解がチラリと壁を見た。小鳥遊が、「とりあえず、簡単な捜査を…」と言って、調べ始めて数分経っている。先ほどから、ルーペのような物で壁を念入りに調べている。さて、何が出てくるか?
小鳥遊「真解くん」
 と、小鳥遊は真解を振り向いて、言った。
真解「あ、何かわかりました?」
 真解は、小鳥遊に歩み寄った。
小鳥遊「いや…あまり」
真解「え?」
小鳥遊「一応、コンクリートの欠片、のような物は発見できたけどね」
 小鳥遊は手のひらを開けて見せた。白い手袋の上に、灰色の2ミリぐらいの小さな欠片が載っている。真解の後ろから、真実や謎事たちも覗き込んだ。
真解「いつついた傷か、わかりますか?」
小鳥遊「う〜ん…傷がまだ綺麗だからね。少なくとも、1週間は経ってないよ。2日か、3日か…あるいは、もっと最近か」
謎事「ってことは、事件当日って可能性は?」
小鳥遊「もちろん、ある」
真解〔と言うことは、トリックに一枚噛んでいるかも、と言う事か…?〕
澪「でも、まだまだ手がかりが足りない気がするね」
真実「え? なんで?」
澪「いや…カン」
真解「カンねぇ…」
 まぁ、確かにこんな傷を見たぐらいでナゾが解けたら、苦労はしない、か…。
育覧「でも、ドラマにはありませんでしたからね…。ドラマにあった物が無くて、無かった物がある…とすれば、それは…」
真解〔トリックに噛んでいる、か…。でも、まだ何か足りないな…〕
 真解も、傷を良く見てみた。位置は、接着剤で固定された扉の、すぐ横の壁。扉から、4〜50センチぐらい離れた所だ。高さは、丁度取っ手の高さ。大人の腰ぐらいの高さでもある。
謎事「あれ?」
 謎事が、小鳥遊の足元を見て言った。
真解「どうした?」
謎事「そこにも、傷があるぞ」
真解「え?」
 全員、一斉に見る。位置は、丁度壁の傷の真下の床。壁に叩きつけたコンクリートブロックが、そのまま真下に落ちた…そんな感じだ。「落ちた」のか「落とした」のか「叩きつけた」のかはわからないが。
真解「もう1つ、傷か…」
小鳥遊「こっちの傷も、真新しいね…。まぁ、壁の傷との位置関係からしても、同時についたと考えるのが妥当かな」
真解〔トリックの際、付いた…或いは付けられた、と言うことか…〕
 真解は、うつむいて考え始めた。決して1人では開けない扉。外からはめる事は不可能なつっかえ棒。何故か付いている壁と、その真下の傷……。真解の頭脳が、回転を始めた。

Countinue

〜舞台裏〜
こんにちは。やっとこさ、手がかりらしい手がかりが出てきましたねぇ。
そんなわけで、今回のゲストは江戸川 真澄に。
真澄「全く関係ないじゃん」
まぁ、そうなんだけど。でも、順番的にキミだし。
真澄「少し、内容と合わせたら…?」
ほら、ここ「舞台裏」だから。
真澄「何の根拠にもなってないわよ」

さてさて、今回出てきたのは妙な傷と、妙な噂。
真澄「露骨に手がかりが出すぎて、逆に疑いたくなるってヤツね」
そうそう。そしてその逆に疑いたくなる心理を逆に利用するってヤツ。
真澄「………いまあんた、自分ですごいヒント言ったことに気がついた?」
……え?

ではまた次回。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

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