摩訶不思議探偵局〜久が原高校殺人事件〜
容疑者リスト( )内は読み、【 】内は役
立花 真(たちばな まこと)…【監督】
戸津辺 百合太(とつべ ゆりた)…【子ども俳優】
清泉 悦男(きよいずみ えつお)…【演出家】
飯島 れい子(いいじま れいこ)…【育覧のマネージャー】

摩訶不思議探偵局〜久が原高校殺人事件〜真相編

C棟・多目的教室
 ここは、今回の事件の容疑者たちが集められている部屋。真解たち10人は、揃って突然ここに現れた。
兜「お、どうした?」
 ドアが開くと同時に兜がこちらを向き、聞いてきた。
真解「解けましたよ、ナゾが」
兜「何!?」
 椅子の背もたれから、思わず身を持ち上げた。他の人たちも、身を乗り出す。
飯島「すごいじゃない。それで? 犯人は??」
真解「その前に…トリックの説明をしましょうか」
 真解がそう言うと、真実と謎事が外へ出て、コンクリートブロックと長い木の棒、それから接着剤を持ってきた。
立花「それは…?」
真解「トリックに必要な道具です」
 謎事が手早くドアの端に接着剤を塗り、ピシャリと閉めた。
真解「もう少し待てば、この扉は犯行時の倉庫とほぼ同じ状況になります」
清泉「犯行時と同じ…?」
真解「ええ。実は犯人は、犯行を終えた後に、この接着剤で固定された扉を開けたのです。つまり、犯人が取った行動はこうです。皆藤さんを倉庫に呼び出すか連れ込むかして、倉庫内で殺害。その後、扉を閉め、つっかえ棒をします。そして…接着剤で固定された方の扉を開けたのです」
戸津辺「ど…どうやってさ」
 真解は、接着剤を塗ったドアの取っ手に手をかけた。完全に乾き、ドアは開かない。
真解「いま、この扉は接着剤で固定されています。…が、あるトリックを使うと、子どものボクでも簡単に開けることが出来るのです」
飯島「子どもでも…?」
真解「ええ。これは、トリックの初歩の初歩…誰でも簡単にできます」
 そう言って、真解はドアから50センチほど離れた壁に、コンクリートブロックを押し当て、その上から木の棒を当てた。その木の棒の先端をドアの取っ手に、そしてもう片方の先端を、自分で持ち、コンクリートブロックが落ちないように、固定した。
真解「これを見れば、もうわかるでしょう?」
戸津辺「て…テコ!?」
真解「その通り。そして、『テコでも動かない』とことわざにもなっているように、テコは、重い物を簡単に動かす事が出来る」
 育覧は、思わずチラリと真実を見た。そう言えばさっき言っていた。「お兄ちゃんはいま推理中なの。周りの音はほとんど聞こえないし、テコでも動かないわ!」
真解「コンクリートブロックを壁に固定する事が難しいですが、それさえ出来てしまえば、後は…」
 グググッ…と真解は木の棒を思いっきり押した。パキパキ…と、何かがはがれるような音がして……
バァン!
立花「開いた…」
 全員、その開いたドアを感心した顔で見た。
真解「このトリックが使われた証拠として…倉庫内の、丁度扉から50センチほどの所にある壁に、傷が付いていました。そして、その真下の床にも。…このトリックで扉が開いた瞬間、ブロックは木の棒から解放されて、一気に下に落ちます」
 真解は、教室の床に転がったコンクリートブロックを指差した。
真解「その時についたのが、倉庫内の傷です」
兜「なるほどな…」
 全員、納得したようだ。言われてみれば簡単な事だけに、「なるほど」と言う表情もいつもと少し違う。
清泉「それで…犯人は?」
兜「そうだ。それが一番重要だぞ?」
 全員の視線が、真解に注がれる。真実たちも、まだ犯人については何も聞いていない。真解を、じっと見る。
真解「…このトリック、いまは注意してやったので大丈夫でしたが、ヘタにやると、思いっきり顔を打つんです。そして…倉庫の床を念入りに調べたら、こんな物を見つけました」
 真解は何やら小さな袋を取り出した。警察が証拠品を入れておく、ビニール袋だ。その中に、小さなガラスの欠片のような物が入っていた。
立花「それは…なんだ?」
飯島「ガラスの破片?」
真解「一見すると、ガラスの破片のようですが…警察で調べてもらった結果、プラスチックで出来た、メガネの欠片だとわかりました」
戸津辺「め、メガネ…?」
 余談だが、今回はプラスチックで出来たメガネレンズだったが、実際にはガラス製のメガネレンズもちゃんとある。
真解「そういえば飯島さん、あなた、今日ボクらが清泉さんに頼まれて人を捜しに行った時、ボクらと出会いましたよね? 覚えてますか?」
飯島「え? ええ、まぁ…」
真解「その時確かあなた、こう言ってましたよね? 『メガネ掛けてたら、キヨさんだけど…メガネ掛けてた?』って」
飯島「言ったわ」
真解「そしてそれに、真実は答えた。『掛けてなかった気がしますけど』。真実はこのとき、『小太りのおじさんが…』と話を切り出したんです。小太りな人は、立花さんと清泉さんの2人…。だから、飯島さんは『メガネ掛けてたらキヨさんだけど』と言ったんです。しかし、実際にはその人はメガネをかけていなかった」
飯島「あれ? でも、実際にいたのは……確か、キヨさん…」
 全員が、恐る恐る“キヨさん”に視線を向いた。
真解「ええ、そうです。キヨさんこと清泉さん。あなたは、このトリックを実行し、壁に顔をぶつけてメガネを割ってしまったんです。そして、この破片が残った…」
清泉「・・・・・・・!」
 もうここまで来れば、次に来る言葉は言わなくてもわかる。トリックと証拠は先に示した。後は…。
真解「皆藤さんを殺した犯人は、あなたです!」
 ……‥‥・・。少しの静寂。そして、清泉はため息をついた。
飯島「キヨさん…?」
清泉「………」
立花「まさか、本当に、君が…?」
清泉「……………ええ、そうです」
 一瞬、ザワメキが起こった。
育覧「でも…何故なんですか?」
清泉「動機…と言うヤツか。……探偵くん、もしかして、君なら気付いているんじゃないか?」
 清泉は、力の無い顔で真解を見た。
真実「そうなの? お兄ちゃん」
真解「……やはり、そうでしたか。あれは、偶然でも無く、あなたのメッセージなんですね」
清泉「その通り」
立花「やっぱり、動機はあれなのか? 皆藤の周りの、噂が…」
真解「その通りです。『皆藤さんが誰かの作品を盗んでいる』…この噂は、真実です」
澪「それで…メッセージってのは?」
真解「皆さん、皆藤さんの作品…表向きには、皆藤さんが書いたとされる作品のタイトルを、第1作品目から言えますか?」
飯島「え?」
真解「育覧曰く、こんな噂もあるんです。『彼の作品を並べると面白いことがある』。第1作品から並べると…」
 と、真解は最初から言い始めた。
『危険なデート』『予感』『因幡(いなば)の白兎』『ずぶ濡れの殺人犯』『未知なる事件』『永遠の誓い』『津波のように』『億人の目撃者』『のちの被害者』『時計塔の罠』『噂の彼』『サーカス少年探偵団』『久が原高校探偵団』
兜「それの…どこが面白いんだ?」
真解「わかりませんか? 兜警部…。こう言うのは、書き並べてみるとわかりやすいですよ」
 真解は、おもむろにノートを広げた。さっき、13作品全てを書き並べておいた物だ。そこには、全作品が平仮名で書いてある。
飯島「なに…これ?」
真解「この作品名の最初の一文字を、繋げて読んでみてください」
立花「なに? ……き、よ、い、ず、み、え、つ、お、の、と、う、さ、く……清泉悦男の盗作!?」
真解「その通り。ですよね? 清泉さん」
 真解は、1人落ち着き払っている清泉に、視線を向けた。
清泉「…ああ、その通りだよ。あいつは、俺の作品を、片っ端から奪って行ったんだ」
飯島「でもあなた、演出家でしょ…?」
清泉「表向きには、な…。初めは、俺は脚本家を目指していたんだ。だけど…ある日、皆藤に借金をしたんだ」
真解「借金…」
清泉「そう。俺は不運にも、期日までにそれを返すことが出来なかった…。そしたら、皆藤は、俺がその時デビュー作にしようと書いていた脚本『危険なデート』に目をつけた。そして…それを、借金の肩代わりにしてやると言い出したんだ…」
戸津辺「それ以降、ずっと…?」
清泉「ええ。それからずっと、いままでの13作品は全て、俺が書いたものだ」
立花「ハッ…やっぱりそうか。皆藤に、どう考えてもあれだけの物を書く才能があるようには思えなかった! やっぱり、そうだったか!」
清泉「そうです…」
「ふぅ…」と、清泉はため息をついた。
清泉「今回の計画は、2作品目を奪われたときに、思いついたものだ。俺は1作品目、2作品目の頭文字が偶然にも『き、よ』と続いている事に気がつき、13作品目までは黙って書き続けることにした。そして…13作品目、初のドラマ脚本で、奴を殺す絶好のトリックを思いついたんだ。…俺は、アイツに知らしめてやりたかったんだ。本当の作者の手をすり抜け、別人に扱われる作品と、その登場人物たち…彼らが、どんな悲しい思いをするかって事を…」
 フッと笑い、清泉は続けた。
清泉「そうそう探偵くん、俺が考えていた14作品目のストーリーを教えよう」
真解「…?」
清泉「自分の子どもを拉致・殺害された主人公の男が、その犯人を日本中捜し歩く。そして見つけ出した犯人は、日本中で残虐な犯行を繰り返している卑劣な男だった。主人公は男を殺害し、『これで、いままでの被害者たちは浮かばれた』と思った。しかし待っていたのは犯人と同じ事をしてしまったと言う嫌悪感と罪悪感だけだった。そして、最後に主人公は自殺をしてしまう…そんな悲しいストーリーだ」
真解「…あなたは、その主人公であり、犯人の男は皆藤さんだ…と?」
清泉「その通りだ。あいつは、俺の子どもとも言える作品たちを拉致し、自分の物にした。俺は、あいつを殺した。でも…結局は、なんの解決にもなっていない…。そして最後には、逮捕され、牢獄へと堕ちてしまう…そんな、ストーリーだ」
真解「…」
 清泉は立ち上がって、兜に近付いた。
清泉「さぁ、物語を終わらせるのはあなたですよ、刑事さん」
兜「あ、ああ…」
 兜は手錠を取り出し、清泉の手首に、手錠を掛けた。
清泉「…これで、終わりか…」
真解「いえ、終わりませんよ」
清泉「!」
真解「主人公は逮捕され、牢獄へと堕ちた。しかし…そこで、罪を償い、新たな世界へと、飛び出す…そんな、ストーリーが待ってますよ」
清泉「……題名は、『奇妙によく似た2つの事件』 …『希望』の頭文字だな」
 そう言って、清泉は微笑んだ。

真解「だけど、よく事件に遭うね、育覧も…」
 ここは、遊学学園の正門。真解たちが帰る直前、真解が育覧に話しかけた。
育覧「でも、真解お兄ちゃんも遭ってますよね?」
真解「まぁ、そうだけどね…」
 真解は片方の眉を上げた。
育覧「そう言えば…その……真解お兄ちゃん、えと…わたしの出した暗号…解けました……?」
真解「育覧の? …ああ、『土佐舞 亜美』か。ひっくり返すと『実相 真解』になる例のアレか?」
育覧「あ、ば、ばれちゃいました? じゃぁ、『伊井島 明日偵』の方も、もちろん…?」
真解「……………。いや‥そっちはまだだ」
育覧「あ、そ、そうですか…わかりました…」
 育覧は少し、しょぼくれた。
育覧「そういえばわたし、実は転校することになったんです」
真解「転校?」
育覧「ええ、いままでは普通の学校だったんですけど、段々仕事が増えてきたんで、芸能人は特別扱いするところに転校するんです」
真解「ふぅん…どこ?」
育覧「え? えと…この辺の、学校です」
真解「…あ、そう」
 どこだろう? と、真解は首をひねり、帰る事にした。


『伊井島 明日偵』 このぐらいの暗号、真解に解けないはずは無い。真解は、既に解いていた。しかし…何故か、それを隠してしまった。まぁ、隠したくなるのも当然だが。
『伊井島 明日偵』 平仮名で書くと『いいしま あすて』。並び替えると…
真解「『愛しています』…か」
 帰りの電車の中、真解はポツリと呟いた。
真実「え、なに? お兄ちゃん、わたしの事愛してる?」
真解「ば、バカッ、そんな事言うか」
真実「だっていま、愛していますって…」
真解「違うって、今のは…!」
 慌てて、真実の口を塞ぐ。真解は、話題を変えた。
真解「そういえば真実、この辺で芸能人を特待している学校って、あるか?」
 ピタリ、と全員の動きが止まった。
謎事「どうした? 真解…」
謎「大丈夫ですか?」
真実「あるじゃん」
真解「え?」
真実「ほら」
 真実は、生徒手帳を真解に見せた。そこには、ハッキリこう書いてあった。
――芸能人特待制度 芸能人は、単位や登下校時間についてのみ、特別扱いをする。――

 数週間後、遊学学園小学校6年2組に、とても可愛い三つ編みの少女が転入して来たとか、来なかったとか…。

Finish and Countinue

〜舞台裏〜
はい、やっと終わりました、キグロです。
今回のゲストは…まぁ、順序から言って那由他 真直。
真直「ども」
前回はある程度セリフがあったけど、今回はほとんど無かったねぇ…。まぁ、真相編はいつも真解ばかりが喋ってるけどさ。
真直「そりゃ、ねぇ…」

さて、では正解者の発表です。
トリックが解かった方>無し!
犯人が解った方>まささん、ボルトさん、祐さん、27さん、カナメさん
「噂」が解けた方>同上
「暗号」が解けた方>アマノガワさん、まささん
全て解った方>いませんでした!
今回は、噂のナゾが解けたから、犯人が解った、と言う人が多かったみたいですね(推理で解いた人もいるけど)。
まぁ、「噂」を書きながら、「これ簡単すぎるかなぁ??」と思っていたのですが…。
ここまでたくさんの人に解かれるとは。摩探史上最多じゃないか? 今回…。
「解けたけど送らなかった」と言う人も、倍以上いそうな気も…。
正解者賞品はどうしようかなぁと考えているのですが…一応、基本的に「全て解った方」に送る事にしているので…。
悩みます。別に送っても減るもんじゃないのですが…。
でも、「噂」は簡単だったようですし、重要なのはトリックなので…(せこっ
真直「ってか、あの手がかりじゃ普通は解けないって…」
…それを言うな。

今回は、今までとは全く違った意味で、書くのが大変だったね。
真直「って言うと?」
ほれ、今回『時計塔の罠』や『噂の彼』『サーカス少年探偵団』『久が原高校探偵団』と、4つもの物語のストーリーを考えなきゃダメだったしさ。最後の、清泉さんの自供用のストーリーだって。
真直「ああ、なるほど…」
それに、トリックだってドラマ用と現実用の2つ、必要だし…。
真直「確かに…」
こっちの方が、よっぽど『2つの事件』だし。
真直「だから、最後のヤツが『奇妙によく似た2つの事件』なわけね…」
その通り。

〜次回予告〜
「ダイイング・メッセージ…」
次回は、兜の依頼第2弾!
「被害者が、自分の血で書いたものだろう」
「ふぅん……」
今度の依頼は、ダイイング・メッセージ!
「この写真を見てくれ」
「これは…?」
「見ての通り…ダイイング・メッセージだ」
被害者が残した、ナゾの暗号…。果たして、真解たちに解けるか否か?
次回『死に際のメッセージ』をお楽しみに。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

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