摩訶不思議探偵局〜死に際のメッセージ〜
主な登場人物( )内は読み、【 】内は役
実相 真解(みあい まさと)…【主人公・探偵】
実相 真実(みあい まさみ)…【探偵】
相上 謎事(あいうえ めいじ)…【探偵】
事河 謎(ことがわ めい)…【探偵】
兜 剣(かぶと つるぎ)…【警部】
はしがき;さて、今回はアームチェア・ディティクティブ(現場に行かずに事件を解決する探偵)に挑戦です。

摩訶不思議探偵局〜死に際のメッセージ〜依頼編

このダイイング・メッセージ…読み取れたよ。

【ダイイング・メッセージ(Dying Message)】
 死に際の伝言、などとよく訳される。一般に、誰かに殺されかけている人間が、何らかの方法で残すメッセージを言う。その多くが暗号で、犯人の名前を示している。推理小説では重宝されるが、現実の殺人現場で、これが残されている事は無いと言う。状況証拠にはなるが、明確な物的証拠にはならない、と言うのが通常の考えである。
兜「それで…どうだ? そろそろ解けそうか?」
 兜は、お茶菓子を1つつまんで、聞いた。真解は、写真と本とを、見比べている。
真解「そうですね…」
 真解は、パタン、と本を閉じた。
真解「…奇妙な事に、解けましたよ」

 ここは真解と真実の部屋兼摩訶不思議探偵局。今日も、探偵団4人が仲良く談話をしていると、兜がやって来た。以前、一度やって来た時同様、今回も事件の依頼だと言う。
兜「殺されたのは、吉本 徹(よしもと とおる)と言う45歳の男だ」
「これが、被害者の写真だ」と言いながら、兜は真解に写真を渡す。生前の写真で、見た目は普通のおじさんだ。
兜「死体の発見・及び通報者は、被害者の知人・最上 卓三(もがみ たくぞう)。その日…今日からジャスト1週間前だが、被害者と会う約束をしていたんだ」
 兜は、出されたお茶菓子を1つつまむ。
兜「場所は、被害者の自宅。当然、死体も自宅の自室に転がっていたわけだ」
真解「死因は?」
 真解は、写真を返しながら聞いた。
兜「ナイフで腹の上部を裂かれたことによる、失血死。ナイフは現場に落ちていたが…指紋は一切出てこなかった。その代わり、拭き取った跡が発見された」
真実「それで…? また、犯人が鉄壁のアリバイを持っているとか?」
兜「そう何度も似たような事件に出くわしてたまるか」
真解〔似てなくても事件に出くわすのはたまらないけどな…〕
 兜はまたお茶菓子をつまんで、続ける。
兜「被害者のそばに、被害者の手帳が落ちていた」
 兜は、自分の警察手帳を広げた。
兜「そこに、事件当日の予定が書き込まれていた。予定では、被害者は3人の人間に会うつもりだったらしい」
真解「3人…」
兜「1人目、午後1時に会う予定だった、萩原 直也(はぎわら なおや)。2人目は、最上 卓三。さっき言った通報者で、午後2時に会う予定だったらしい。3人目は荒綿 浩幸(あらわた ひろゆき)。午後3時に会う予定だったらしい。我々が捜査をしている途中、やって来た。とりあえず、今の所一番怪しくない人物、だな」
真解「何故です?」
兜「通報があったのが、荒綿の前の人間からだし、何より死亡推定時刻の午後1時半から午後2時半まで、ほぼアリバイがある」
謎事「へ? 2時半?」
 謎事が慌てて聞き返した。真解も聞き返したいのだろう、妙な顔つきをしている。
謎事「でも、その通報した…最上って人は、2時に会う予定だったんだろ? だったら、死亡推定時刻は午後2時半じゃなくて2時まででいいんじゃ…?」
兜「ところがそうでもない」
 兜は、警察手帳のページをめくった。
兜「被害者は、常に電話を留守電にしていてな。そこに、最上のメッセージが入っていた。内容は、『都合が出来たので、2時半に伺う』と言う物だ。被害者の手帳にも、『午後2時半に変更』と言うメモが残っている」
真解「で、最上さんが吉本さんの家についたのが、午後2時半?」
兜「そういう事だな。ちなみに、通報があったのが、午後2時35分。2時半ちょっと前に被害者の家に行き、誰も出てこないので勝手に中に入り、被害者の死体を発見。少し凍りついて、通報した…。ま、そんなところだろう」
真解「ふぅん……」
 と、真解は呟き、
真解「で?」
 と聞き返した。
兜「で? とは何だ?」
真解「いや、ですから、何がナゾなんですか? わざわざここに来たって事は、通常の捜査じゃどうしようもない壁にぶち当たったってことですよね?」
兜「ああ、その通りだ。実はな、捜査がどうにもこうにも行き詰ってしまってな…」
真解「容疑者は、絞れてるんですか?」
兜「もちろんだ。あの、手帳に書いてあった3人だ」
真解「…その根拠は? そもそも、動機はなんですか?」
兜「ああ、それがな…」
 兜はまた、お茶菓子をつまんだ。そしてお茶を一口飲んだ。
兜「被害者は1年ぐらい前に失職して、今は無職なんだ。それで…頭のいい奴だったんだろうな。『個人ヤミ金』とでも言うべき代物を始めたんだ」
真解「個人ヤミ金…?」
 真解は、胡散臭そうに聞き返した。
兜「ああ。金に困ってる友人・知人に金を貸し、大量の利子をつけて奪い返すんだ。それでなかなか、儲けていたらしい。もちろん、恨まれる事も多いだろう」
真実「って事は…その容疑者の3人は?」
兜「もちろん、金を借りていた人間達だ」
真解「そして、金を返せなくなったから…と言うのが、警察の見解ですか?」
兜「その通りだ」
真解〔なんと言うか、妙に現実味溢れた動機だな…〕
 真解は思わずため息をついた。
真解「ちなみに、お金を借りていたのはその3人だけですか?」
兜「いや…他にも、5人ほど借りていたようだが、その5人には運がいい事にアリバイがある。一応、容疑者からは外してある」
真実「え〜。でも、そんなのトリックかもしれないじゃん!」
兜「いや、まぁ、そうだがな…」
真解「真実。たぶん、それはない」
真実「え? なんで?」
真解「…兜警部。被害者が、『個人ヤミ金』をやっていて、結構恨まれていた事は有名なんですか?」
兜「ああ、そうだな。近所に聞き込みをしたら、すぐ『個人ヤミ金』の話が出てきた。かなりの有名人だったようだ」
真解「…と言うことはつまり、わざわざトリックなんか使ってアリバイを作らなくても、他の恨んでいる人間が大量にいるはずだから、自分だけがアリバイが無い、と言う状況には滅多にならない…。と言うことはつまり、アリバイ工作などしない、と言うことだ」
真実「ああ、なるほどね…」
兜「それで、だ…。重要なのは、ここからだ」
真解「え?」
兜「この写真を見てくれ」
 兜は、2枚の写真を取り出した。1枚は、被害者の左手付近の写真。そして最後の1枚は、被害者の右手付近の写真。
真実「これは…?」
兜「見ての通り…ダイイング・メッセージだ」
謎事「ダイイング・メッセージ…」
 謎事は、2枚の内1枚をとった。その写真には、被害者の左手と、左手に持たれた一冊の本が写されている。
兜「被害者には、抵抗した跡がある。そのためか、部屋の本棚から、かなりの本が落ち、そのうちの一冊が恐らくそれだ」
謎事「題名は…『噂の彼』? …どっかで聞いたことのある気が…」
真実「何言ってんのよ!? この間の事件のキーワードだったじゃない!!」
謎事「あ、あれ? …あ、ああ、そうか。そうだったな。ハハハ…」
 謎事は苦笑いした。
謎「この間、遊学学園で起こった殺人事件が話題を呼び、いま、皆藤さん…清泉さんの書いた作品のノベルス版が、次々と出版されてるんです」
謎事「へぇ」
真解「これは…第1作品目、だったかな?」
謎「ええ、そうですね」
真実「この本なら、わたしもこの間買ったよ」
 真実はそう言って立ち上がり、自分の勉強机に歩み寄った。そこから一冊の本を引っ張り出し、戻ってきた。
真実「ほら、これ」
 真解は、無意識にそれを受け取った。
兜「そしてこっちが、右手の写真だ」
 そう言うと、兜はもう1枚の写真を真解に手渡した。
真解「これは…?」
兜「被害者が、自分の血で書いたものだろう」
真実「…?」
 真実も、真解の背後で立てひざをつき、後ろから真解の首に腕を巻きつけ、写真を覗き込んだ。真解は、その腕を振り解きながら、写真を見た。
真実「何これ? 『P18,48,102,154』?」
兜「ああ、恐らくそうだろう。『1』が英語の『I』に見えないこともないが…な」
真解〔左手に小説、右手に数字…これってやっぱり…〕
謎事「ページ数か?」
兜「それは我々も考えた。だが、実際そのページを開いてみても、被害者が書いたと思われるものは何もなかった」
真解「…と言うことは、重要なのは本の内容…か。真実。ちょっと読んでみろ」
真実「ん、わかった」
 真実は真解から本を受け取り、ページを開いた。本は文庫サイズで、1ページ40文字×17行の物だ。
P18

  2.初デート

 友紀(ゆき)は、朝から上機嫌だった。
 日曜日はいつも、昼過ぎまで寝ている。でも、今日は午前中の、それも午前10時とい
う、友紀にとってはかなり早い時間に起きた。心地よい朝の日差しを浴び、清々しい気分
で目覚めた。いつも母親に叩き起こされて不機嫌に起きるので、それがないだけでも上機
嫌だ。ベッドから出て、服を着替える。
――今は、まだ普段着でいい…。
 友紀は、さほど派手じゃないTシャツの上に、無地のブラウスを着る。そして、Gパン
を穿(は)いた。
 自室を出て、リビングへと向かう。
「あら、今日は早いじゃない」
 母親が、キッチンから振り返って、言う。既に起きていたようだが、まだ朝食が用意さ
れていないところを見ると、起きてからさほど時間が経っていないようだ。
――いつも怒って叩き起こすくせに…。
 友紀は少し不満を持ったが、この後の事を考えると、上機嫌になれる。
「今日は、お昼ご飯いらないんだっけ?」
「うん。…友達と、出かけるから」
――なんちゃって。
 友紀は心の中でほくそ笑んだ。
 今日は、友紀にとって、記念すべき日。人生最初の…デートの日。大学で、たまたま知
り合った彼…ナルミとのデートだ。
 と言っても、友紀はナルミと付き合っているわけではない。一昨日の金曜日…デートを
申し込んだだけだ。ナルミは返事2つでOKしてくれた。
 友紀はナルミを好きだが、ナルミは友紀をどう思っているかまだわからない。第一、友
紀はナルミの事を知らなさ過ぎる。色んな人にナルミの事を聞いたが、ほとんどの人が、
ナルミについて詳しい事を知らない。友紀も、彼が「ナルミ」と言う名前であることは
知っているが、それが名字か名前かすらわかっていない。「鳴海」と言う名字かもしれな
いし、「成実」と言う名前かもしれない。だから…今日は、友紀はナルミを質問責めにす
るつもりだ。
――まず、フルネームでしょ、年齢でしょ、学部や学科も聞かないと…。所属サークルに
ついても聞かないとね!
 友紀は頭の中で質問を反芻(はんすう)していた。聞きたい事は山ほどある。
――それから…好きな人についても、聞かないと!
 もしもナルミに、自分以外に好きな人がいれば、その人物と自分は、恋のライバルと言
うことになる。もしもナルミに好きな人がいなければ、これからナルミの気をこちらに惹
かせなければならない。そして、もしもナルミの好きな人が自分ならば…。
「ほら、ご飯よ」
 友紀の思考は、母親の言葉に遮られた。友紀は箸を取ると、

 そこで、真実は読むのを止めた。
真実「ここまでが、18ページ」
謎事「微妙に中途半端だな」
真実「まぁ、1ページだけだし…」
真解「48ページは?」
真実「えっとね…」
 真実はパラパラとページをめくった。
真実「読む?」
真解「…いや。それよりも、ちょっと貸してくれ」
真実「? いいけど?」
 真実はそう言って、真解に本を手渡した。真解はそれを黙って受け取ると、黙ってパラパラと本をめくり始めた。他の4人は、それを見守りながら、お互いに推理を飛ばす事にした。

Countinue

〜舞台裏〜
うわ〜…滅茶苦茶中途半端やなぁ〜…。
と言うわけで、ゲストは中途半端な兜警部です。
兜「な、何故オレが中途半端なんだ!?」
いや、単なるギャグだから。気にしないで。
兜「…そうか。ならいいんだがな」
うん…なら良かったのにね。
兜「……………おい」

さて、「久が原高校殺人事件」に引き続き、今回も作中作に挑戦してみました!
兜「なんだ? 作中作って」
作中作とは、作品…物語中に、別の物語が語られる事です。
兜「ああ、なるほど。確かに、『噂の彼』の一部が語られてるな」
うん。前回も、いくつかの物語のあらすじだけ、登場させたし。
兜「『噂の彼』も、そのうちの1つだったな?」
ええ、そうです。だからまぁ、ある程度書きやすかったっちゃ書きやすかったんだけど…。
兜「けど?」
なんか、『噂の彼』の1ページを書いていたら、段々…。
兜「段々?」
書きたくなってきた。『噂の彼』。
兜「…書けば良いじゃないか」
でも、ネタが浮かばないんです…。彼の秘密が思い浮かばないんです…。
兜「……まぁ、頑張れ」

ではまた次回。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

推理編を読む

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