摩訶不思議探偵局〜死に際のメッセージ〜
容疑者リスト
萩原 直也(はぎわら なおや)…【1人目の客】
最上 卓三(もがみ たくぞう)…【2人目の客。通報者】
荒綿 浩幸(あらわた ひろゆき)…【3人目の客】

摩訶不思議探偵局〜死に際のメッセージ〜推理編

真実「でもさ、自分が殺した直後に通報するとも思えないから、犯人は1人目の…萩原さんじゃないの?」
 真解が本を読み始めて、最初に口を開いたのは真実だった。
兜「ふむ…完全に否定は出来ないが、絶対にそうとも言い切れん」
真実「そうなんですか?」
兜「ああ。その証拠に、第一発見者が犯人と言うのは良くある事だ」
真実「…………」
 真実が、呆れた顔で兜を睨みつけた。
兜「冗談だ。だが、事実、容疑を逃れようと思って通報するケースは無くは無い」
真実「ふぅん…」
 推理が否定され、「じゃぁ、他には…」と真実は考えを巡らした。とりあえず、ジャンジャン推理すればどれかは当たるだろう…とでも考えているのだろうか?
兜「だから我々警察は、そのふざけた暗号を解いて、萩原か最上…どっちが犯人か、見極めようとしてるんだ」
 兜は黙って本を読んでる真解に目を向けた。
謎事「ダイイング・メッセージは…『P18,48,102,154』か」
 真解が自分の目の前に置いている写真を、謎事は横から見た。そこには、被害者・吉本の血で、ダイイング・メッセージらしき4つの数字が並べられている。
謎事「でもよ、兜警部」
兜「?」
謎事「萩原か最上のどちらかが犯人なんだろ?」
兜「とりあえず、最重要容疑者、と言うことになっているな」
謎事「って事はさ、この数字1つが平仮名1文字に相当すると考えれば、犯人は4文字の…萩原、じゃないんスか?」
兜「! ……た、確かに…」
「そんな単純な事に気が付かなかったとは…!」と驚いたような表情で、兜は写真を覗きこんだ。確かに、言われてみればその通りだ。この数字が犯人の名前を表しているとしたら…萩原しか考えられない。
真実「え〜、でもさぁ、フルネームって可能性もあるんじゃない?」
兜「フルネーム…? あ」
 兜は慌てて警察手帳をめくった。三容疑者の名前は…全員、漢字4文字。数字一つ一つが漢字に相当しているならば、誰が犯人でもおかしくない。
謎「それに…数字ひとつが平仮名一文字に対応しているとしても、『タクゾウ』と書いた可能性もありますし…」
兜「タクゾウ…? ああ、最上 卓三か」
真実「一応容疑者から外れてる荒綿って人だって、ちょっとは怪しいんでしょ?」
兜「まぁ…その日、会う予定だったからな…。だが、被害者を恨んでいて、4文字の名前の人間など、ごまんといると思うぞ…」
謎「そのため、暫定的に萩原さんと最上さんが容疑者にされている…でしたよね?」
 なんとなく、「おさらい」状態になってしまった。

真解「4つのページに共通している部分がある…」
 突如、真解が言った。
真実「え? なになに??」
 真実が、お茶菓子をほうばりながら期待の眼差しを向ける。
真解「いや、まだそこがダイイング・メッセージに関係するかどうかはわからない…。でも、なんとなく気になるんだ。この、共通部分が」
謎事「何が共通してるんだ?」
真解「この4つのページには…それぞれ、サブタイトルがついてるんだ」
謎事「サブタイトル?」
真解「ああ」
 真解がパラパラと本をめくる。
真解「まず、さっき真実が読んでくれた18ページ…ここのサブタイトルは『初デート』。そして次の48ページは…『女探偵・友紀』。102ページは『疑惑の目』。最後の154ページには『ラブバトル&追跡調査』…と」
真実「ふぅん…?」
 真実が首を傾げた。
真実「よくわからないね…。本文の方に、何かあるんじゃない?」
真解「かも知れないと思ってさっきから注意深く読んでるんだけど…」
 と、真解も、首を傾げる。
真解「これらのページに犯人の名前と同じ名前の人物が登場しているのかとも思ったんだけど…よくよく考えると、それだったら1ページ示すだけでいいから、違う気もするんだよな…」
謎事「4つのページで1つの名前を示してるってことか? やっぱ」
真解「だと思う」
謎事「じゃぁ…この間みたいに、題名の頭文字つなげてみたらどうだ? あの暗号、ニュースとかでも結構流れてたから、被害者が知っていてもおかしくは…」
真解「それはボクも真っ先に思いついた。でも、あいにく並べてみても『はおぎら』と意味のわからない単語が出てきただけだ」
謎事「あ、そう…」
 う〜ん…と、謎事まで首を傾げた。
兜「だが、いくらサブタイトルがあったとしても、偶然じゃないのか? それは」
真解「かもしれません。まだそれはわかりません。でも…解いてみせますよ。絶対に」
 真解はそう言うと、また本を広げた。

兜「そうだな…とりあえず、推理の参考になるかも知れないから、わかってる事は全部話すとしよう」
 兜は警察手帳を広げ、言った。
真解「そうですね…。ダイイング・メッセージの方はまだ解けないし、それが良いですね」
 真解は一旦本を閉じ、兜の話を聞くことにした。同時に、他の3人も「聞く」体勢に入る。
兜「そうだな…まずは、容疑者たちの接点からだな」
 兜はお茶菓子を1つつまんだ。
兜「被害者があまりに多くの人間から恨まれていたので、こっちは共犯まで考える破目になった。そこで調べた所…この三容疑者には、被害者以外の接点は全く無く、お互い顔も名前も知らなかったそうだ。今回の事件での事情聴取で、初めて顔をあわせたらしい」
真解「初対面って事ですか…」
兜「ああ。警察の捜査でも裏付けられているし、共犯は考えなくて良いだろう」
 兜は警察手帳のページをめくった。
兜「そうだ。重要な事を忘れていた。被害者・吉本は、自宅に1人で住んでいて、結構用心深い性格だったそうだ。訪ねていくと、いつも1回チェーンロックをしたままドアを開け、相手を確認していたらしい。つまり、第三者の犯行の可能性は、かなり低い」
「まぁ、低いだけで、絶対無いとは言えないが…」と兜は小声で付け加えた。
兜「そういえば、萩原が被害者宅を訪れたのは、1時15分頃のようだ。隣人の目撃証言がある。予定より、少し遅れて着いたらしいな」
真解「ちなみに…それは、金を借りるために行ったんですか? 返すために行ったんですか?」
兜「萩原本人の証言だと…返済期日を延ばしてもらうため、だそうだ。期日はその日の次の日だったのだが、どうしても金が都合できなかったらしい」
「ついでに、後の2人は…」と、兜はお茶菓子片手に警察手帳をめくる。
兜「最上も期日の延長、そして荒綿は、返しに来た、と証言している。実際、荒綿は、その証拠に40万円ほどの札束を我々に見せた」
真実「40万…!? そんなに借りたんですか!?」
 真実が驚きの声を上げる。真実は結構、金勘定にうるさいタイプだ。と言っても、ケチと言うわけでもない。
兜「いや、借りたのは30万円らしい。それに利子がついて、40万。借りた理由については、喋らなかった」
真実「30万円借りて、利子10万…。トイチでおよそ1か月…」
 何やらブツブツと呟いている。ちなみに、トイチとは10日で一割と言う高い利子の事で、この利子で金を貸すのは、法律違反に当たる。
兜「ちなみに、萩原が訪問した時、隣人たちが口論を聞いている」
謎事「…って事は、その時カッとなって…」
兜「ブスッとやった、と言う可能性はあるな。…お、もう1つ重要な事を忘れていた。凶器のナイフだが、あれは被害者の自室…つまり犯行現場に元からあった物らしい」
真解「つまり、被害者の物…と?」
兜「ああ、そうだ。容疑者たちが3人ともそう言っていたから、まぁ間違いないだろう」
謎「そういえば、お腹を裂かれての失血死と言うことですけど…お腹を裂かれたぐらいで、失血死するんですか?」
兜「ん? ああ、腹と言っても、かなり上の方だ。小鳥遊が言うには、心臓のすぐ真下に伸びる…何とか動脈…」
謎「下行大動脈ですか?」
兜「ああ、そうだ、それだ。それの下の方を切られたらしい。現場を見ればわかるが、かなりの出血だ」
 残念ながら兜が渡した写真だと、被害者が両腕を上に伸ばしているため、その大量の血は見えない。…まぁ、好んで見たいとも思わないが。
兜「…の割りに、容疑者の中に返り血を浴びている奴はいなかった。運が良いもんだ」
真解〔犯人は、あらかじめ返り血対策をしていたのか…? いや、違うな。室内の凶器を使ったんだ。衝動的な殺人に違いない。たまたま運が良かったんだな…〕
 真解はお茶菓子を1つつまみ、また写真に目をやった。
真解〔『P18』…か〕
 う〜ん…と、真解はうつむいた。やっぱり、これは『噂の彼』のページ数を表しているとしか思えない。でも、その4ページにはヒントらしいヒントが何も無い…。
真解〔待てよ…。もしかして、ダイイング・メッセージはこの数字だけで、小説は犯人が混乱させるために持たせた物…? …いや、違うな。それなら、数字をかき消してしまった方が手っ取り早い。わざわざこんな事をする意味が無い…〕
 あまり妙に考えると、ますますわけがわからなくなる。ここは1つ、素直に4つのページをもう一度見てみよう。
 真解はそう思って、ペラリとページをめくった。
 実際、どこにヒントがあるのかはわからない。やはり、4つのページの共通点である、サブタイトルが犯人の名前のように思えてならないのだが…。
『初デート』『女探偵・友紀』『疑惑の目』『ラブバトル&追跡調査』
 被害者が『噂の彼』の作者・清泉 悦男が、自分の13個の作品に残した暗号を知っていれば、この4つのサブタイトルの頭文字をつなげれば、犯人の名前になりそうな物だが…。
真解〔ならないよなぁ…〕
 またお茶菓子をつまむ。
謎事「ならないんじゃ、本文の方に手がかりがあるんじゃねぇの?」
真解「……」
 真解は、黙ってページをめくった。
真解「でも…兜警部」
兜「なんだ?」
真解「被害者の持っていた小説のページには、何か被害者が書き記したような物は無かったんですよね?」
兜「ああ、そうだ。あったらこんな苦労はしていない」
真解「…となると、本文中のどこに注目すればいいかも、記されていなかったわけだ。本文は長いからな…印が無いって事は、サブタイトルに注目した方がいい」
謎事「そうなるのか…? じゃぁ、本文の最初の1文字は?」
真解「本文…?」
 パラパラとページをめくる。
真解「友紀…放課後…周囲…友紀…。頭文字をつなげると、『ゆほしゆ』。名前には見えないな…」
謎事「そうか…」
 そう言うと、謎事は黙り込んでしまった。真解は本と写真を手に取り、交互に目をやった。さて、この暗号はどう解くのか…?

数十分後
兜「それで…どうだ? そろそろ解けそうか?」
 兜は、お茶菓子を1つつまんで、聞いた。真解は、写真と本とを、見比べている。
真解「そうですね…」
 真解は、パタン、と本を閉じた。
真解「…奇妙な事に、解けましたよ」
 その一言で、数瞬の間、探偵局に静寂が訪れた。…それを、真実が破った。
真実「本当!?」
真解「ああ。このダイイング・メッセージ…読み取れたよ」
 そして真解はニヤリと笑った。
真解「見えた…」

Countinue

〜舞台裏〜
はい、と言うわけで次回はいよいよ真相編です。
今回のゲストは…真解君!
真解「なぁ…ボクのゲスト率、異様に高くないか?」
それが主人公の宿命さ。
真解「……なんだそれ」

今回の物語。実は「初心に戻ってみよう」と言うところから出発した物なんですよね。
真解「初心…?」
そう、初心。別に、何が初心かって言う具体的な定義は無いけど。
真解「じゃぁ、何に戻ったんだ?」
そうだねぇ…まぁ、考え方としては、「最近あまりやっていない、ミステリーの定番をやってみよう!」と言う風に考えていったわけ。
真解「定番?」
定番。で、「そういや最近、ダイイング・メッセージが無いなぁ」と思って、今回の物を作り上げました。
真解「とことん、ダイイング・メッセージが中心になってるな、確かに…」
オマケに、『100%のアリバイ女』とは違って、現場にすら行かず。
真解「アームチェア・ディティクティブ…だっけ?」
そうそう。一度やって見たかったんだよねぇ。

と言うわけで、今回は推理を募集します。
真解「募集内容は2つ。『ダイイング・メッセージの解き方』。そして『犯人は、誰か?』」
募集方法はメールで。間違っても掲示板等に書き込まないでください。
真解「メールアドレスは【kiguro2@yahoo.co.jp】です」
推理メール、お待ちしております。

では、また次回。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

真相編を読む

本を閉じる inserted by FC2 system