摩訶不思議探偵局〜電話の向こうの殺人事件〜
主な登場人物( )内は読み、【 】内は役
実相 真解(みあい まさと)…【主人公・探偵】
実相 真実(みあい まさみ)…【探偵】
相上 謎事(あいうえ めいじ)…【探偵】
事河 謎(ことがわ めい)…【探偵】
実相 美登理(みあい みどり)…【真解の母】
横瀬 神海(よこせ こうみ)…【神奈川県警警部補】
遊学学園中学3年生の生徒たち
はしがき;今回の登場人物は、ある意味、摩探史上最多です。

摩訶不思議探偵局〜電話の向こうの殺人事件〜事件編

これらがそれぞれ、別の人間を指し示しているんだよ!

 遊学学園は、高校以上は弁当だが、何故か中学以下は給食だ。そして、いま中学校は給食の時間帯。この学校では、給食中は机を自由に動かして、適当なグループ同士で食べる、と言うのが習慣になっている。真実は当然、真解たち探偵団の4人組と、霧島 澪たちも引っ張って、8人グループで食べていた(真解は既に食べ終わっていたが)。
 余談だが、「給食」とは、「食べ物を配る」と言う意味らしい(「給」が、与える、などの意味)。つまり、食べる前に、昼食をみんなに配る事が「給食」であり、それ以降の事は「給食」ではないのである。
♪〜♪〜♪〜
 真実たちのグループの中で、突然、携帯電話の着信メロディーが流れた。時刻は12時45分。給食の時間帯だが、真実は自分の物が鳴っていると気付くと、すぐに引っ張り出した(給食中は、携帯電話の使用は許可されている。もっとも、誰も使わないが)。
真実「あ、お母さんからだ」
 液晶画面に映った、「お母さん」の文字を見て、真実が言った。ピッと「通話」ボタンを押すと、自分の耳に電話を当てた。
真実「お母さん? なに? …え? わかった」
 それだけ言うと、すぐに真実は真解に携帯電話を手渡した。「?」と言う表情で、真解がそれを受け取った。
真解「もしもし…?」
 真解の気だるそうな声に反して、真解と真実の母、美登理の声は、緊迫していた。
真解「え…!? 殺人…!?」
真実「!?」
 その声に、瞬間的に真実は反応した。真解から携帯電話を奪い取り、それをグループの机の真ん中に置き、音量を最大にする。これで、グループ全員で聞く事が出来る。
美登理≪そう、その通り! 殺人事件が起こったのよ! 真解、どうしよう…!!≫
真解「お母さん、とにかく、一旦落ち着いて!」
 慌てふためく美登理の声に、真解も動揺する。しかし、今ここで落ち着きを無くすわけには行かない。真解は電話に呼びかけた。
真解「お母さん、落ち着いて、深呼吸して、それから…そうだ。警察への連絡は!?」
美登理≪それはさっき、ここの従業員さんが、しに行ったわ!≫
真解〔従業員…?〕
 一体、どこにいるんだ? 真解は首を傾げた。
真解「お母さん、いま、どこにいるんだ?」
美登理≪レストランよレストラン!≫
真解「レストラン…わかった。とにかく、一旦落ち着いて」
美登理≪ええ、わかってるわ…≫
 深呼吸する声が、電話からする。真解も、軽く深呼吸する。そして…自分が、クラス中の注目を集めている事に気がついた。
真解「あ…」
 思わず固まり、辺りを見渡す。全員がこっちを見ている…。
「何が起こったの?」「殺人?」「警察って…え?」
 ざわめき声がする。真解は今まで多くの事件に関わって来たが…こんなに野次馬がいて、しかもそれが全員知り合い、と言うのは珍しい。そして、非常にやりにくい。
澪菜「ねぇ、よく聞こえないからさ、ケータイにこれつけてくれない?」
 グループの内、一番遠くの席に座っていた澪菜が、スピーカーを取り出した。MDを聞くための、極薄のスピーカー。真実はそれを受け取ると、携帯電話に接続した。これで…クラス中が、美登理の声を聞く事が出来る。
真解「…。まぁ、いいや…。 お母さん、とにかく、何があったか、ゆっくり説明して」
美登理≪ええ、まかせて!≫
 美登理はすっかり、落ち着きを取り戻していた。

美登理≪今わたしがいるのは、レストランのカプリチオ。で、そこでお昼ご飯を食べて、会計をしようとしたら、そこのレジの子が、クドウさんだったから、話し込んじゃったのよ≫
真解「クドウさん?」
真実「ほら、あの人よ」
 美登理の代わりに、真実が答えた。
真実「カプリチオでしょ? お母さんとお兄ちゃんとわたしで食事に行った時にいたアルバイトさんで、わたしとお兄ちゃんでプロファイルした人よ。今でも覚えてるわ。工藤 春子(くどう はるこ)、21歳の大学生で、結婚してないけど恋人がいて、左利きで、料理作りは下手だけどお菓子作りが上手くて、サークルはスキーで…」
 真実が次々と「クドウさん」のデータを挙げる。真実は自己主張が激しいのか、こういうパフォーマンスをよくやる。周りの人間は感心しているが、真解は気にせず、美登理に話しかけた。
真解「それで?」
美登理≪それで、そう、話してる時に、奥の方から男の人の悲鳴が聞こえたのよ。それで思わず、2人で従業員さんしか入れないところに行って…え〜と…≫
真解「行って、なに?」
美登理≪えっと、そうそう、男性更衣室から、男性の従業員さんが腰を抜かして出てきたから、そこに飛び込んだの。そしたら、中で人が…倒れてて…慌てて、真解に電話を…≫
真解「…お母さんは、いまどこにいるの?」
美登理≪同じ場所…男性更衣室。それで、いま、目の前に、その死体が…≫
真解「…わかった。それじゃお母さん。現場の状況を、詳しく教えて。その人の倒れている向きとか、部屋の広さとか」
美登理≪え、えっと…この人は、今、わたしの方に、うつ伏せで倒れてて…部屋の広さは、6〜7畳…ね≫
 カリカリ…と、紙の上にシャーペンを走らす音がする。真澄が、美登理の言う事を要点をまとめて、ノートにメモしていた。さすがはジャーナリストの卵。速記をやらせたら右に出るものはいない。
真解「あと、他には?」
美登理≪他には、そう、ここ、ものすごく狭い≫
真解「狭い? …ああ、ロッカーで?」
美登理≪ええ。6〜7畳はあると思うんだけど、部屋を2つに分けるようにロッカーが1つあって…あと、入り口と反対側の壁にもロッカーが置いてある。…その間の通路には、ひと1人が通れるぐらいの幅しかないわ≫
真解〔着替えられないじゃないか〕
美登理≪で、死体は、中央のロッカーと、部屋の奥のロッカーの間に倒れてて…だから、入り口からは見えなくなってる≫
真解「ふぅん…他には?」
美登理≪他には…あ、警察が来た≫
真解「警察…」
 そこで、真解はハッと気がついた。警察…真解たちは、いつも兜警部と何故か鉢合わせする。だが…。
真解「真実、あのレストランって、東京か? 神奈川か?」
 真解たちが住んでいるのは、神奈川県(遊学学園は東京)。従って、実相家の近所のレストランは…。
真実「…あ! 神奈川…!」
謎事「って事は、兜警部じゃないってことか?」
真解「そうだな…となると、面倒な事になるな…」
 電話の向こうでざわめき声がする。そして、美登理に話しかける男の声がした。
≪奥さん…こんなところで、何をやってる?≫
≪あ…じ、事件の捜査です!≫
≪バカ言うな、奥さん。それは我々警察の仕事だ≫
≪いえいえ、警部さん、うちの息子は名探偵なんですよ!≫
≪…知らん、そんな事。それに、俺はまだ警部補だっ!≫
≪警部補さん?≫
≪そうだ。ほら、これが警察手帳。とにかく、とっとと出て行け!≫
 ほらほらほら、と言う、警部補の急かす声が電話から聞こえた。美登理はどうやら、外へ放り出されたようだ。
美登理≪今の警部補さん、横瀬 神海(よこせ こうみ)って言うみたいよ。どっちが苗字だかわからないわね≫
 よほどムカついたのか、鼻であしらった。
真解〔『真解』なんて名前をつけておいて、よく言うよ…〕
 言ってやろうかと思ったが、かわいそうなのでやめておいた。とにかく今は、事件の解決の方が先だ。
≪第一発見者は誰です?≫
 先ほどの警部補、横瀬の声がした。乱暴、と言うか偉そうな声だ。
≪あ、自分です≫
≪名前は? それと、どうしてこの更衣室に?≫
≪富山(とみやま)です。自分は早朝アルバイトで、午前6時から午後1時までのバイトで、帰るために着替えようと思って。で、自分のロッカーの方へ行ったら、血まみれで誰か倒れてて…≫
≪ほぅ…。わかりました≫
 2人の会話はそこで途切れ、横瀬は別の刑事に、富山に聞き込むよう、指示していた。

美登理≪死亡推定時刻が出たみたいよ。概算みたいだけど≫
真解〔早いな…〕
 数分後、美登理が言った。電話の奥で、先ほどの横瀬の声がした。
≪被害者は、ここのアルバイトをしている、柿本 龍(かきもと りゅう)。犯行推定時刻は、本日午前11時ごろ。この時間帯、あの更衣室に入った人はいますか? いないわけないよな。事件が起こったんだからな≫
 横瀬の質問に対する、何人かの返事が聞こえる。
美登理≪死亡推定時刻は午前11時。その時間更衣室に入ったのは3人…≫
 美登理が逐一解説する。
美登理≪3人の名前は…名札には苗字しか書いてないわね…。1人目が野村(のむら)さん、2人目が江田(えだ)さん、3人目が八代(やしろ)さんね≫
≪全員、それぞれ何時何分に、なんの目的で更衣室に入りました?≫
 美登理の解説の直後、横瀬の声がした。それに続き、若い男の声がする。
≪ぼくは、11時前、ですけど。着替えるために≫
≪…当たり前だろ。もう少し、詳しく言ってくれませんか?≫
 横瀬の突っ込みが聞こえた。それに混ざって、美登理の声がする。
美登理≪いま突っ込まれた人が、1人目の野村さん≫
≪ってか、俺ら3人とも、11時からのアルバイトなんスよ。だから、そのぐらいの時間に、更衣室に入るんスよ。今日は、俺が一番だったかな?≫
 今度は別の男の声。美登理曰く≪2人目の江田さん≫だそうだ。
≪と言うことは、そっちの八代さんも?≫
≪はい、そうです。我々の中では、わたしがラストでしたね。今日は≫
≪なるほど…。他に入った者は?≫
 横瀬の声。しかし、他に名乗り出る者はいない。
真直「…。犯人は、この3人以外、だね」
 那由他がスパっと言う。「なんでだ?」と澪。
真直「だって、もしボクが犯人なら、名乗り出たくないもん。名乗り出たら、容疑者の仲間入りじゃん。でも、名乗り出なければ、容疑者から外れる」
真解「確かに、それも一理あるにはあるが…」
 と、真解が反論した。
真解「この3人の中に犯人がいた場合、名乗り出ざるを得ない。何故なら、他の2人が、自分も更衣室に入った事を知っているからね」
真直「あ、そっか…」
澪「問題は、この3人以外が犯人だった場合、だな…」
≪…とりあえず、みなさん。本日午前11時ごろのアリバイを、少し調べさせていただきます≫

 アリバイを調べるのに要した時間は、ほんの数分。従業員は10人程度しかいないため、これで十分。
 また、従業員室への入り口は、レジの横と建物の裏口の2箇所のみ。レジには常に人がいたし、裏口には防犯カメラが設置してあり、従業員以外の出入りは無かった。つまり、外部の者の犯行、と言う可能性は薄かった(と、美登理が解説してきた。例のクドウさんに聞いたようだ)。
 もうひとつ、外部犯ではない、と示す手がかりに、凶器があった。凶器は、このレストランで使用している包丁で、外部の人間が持ち出すのは、かなり難しいと思われた。
≪この凶器は、ここのものか? 『カプリチオ』の刻印がされているが…≫
≪あ、それ、2〜3日前に無くなった包丁!≫
 誰かの声。他の従業員たちも、≪ああ、そういえば≫と同意していた。
真解〔2〜3日前に無くなった…? って事は、これは計画殺人なのか?〕
 従業員なら、包丁を持ち出すのも難しくは無い。あらかじめ盗んでおき、どこかに隠して機会をうかがう。うまく被害者・柿本と2人きりになれたら、そこでグサリ…。
美登理≪とりあえず、隙ができそうだから、もう一度現場を見てみるわね≫
 小声で美登理が言ってきた。横瀬は聞き込みで忙しく、美登理に気づかないのだろう。
美登理≪きっと、何か手がかりが残ってるはずだから≫
 なんでそんな事わかるんだよ…。真解は無言で突っ込んだ。

Countinue

〜舞台裏〜
こんにちは、キグロです。
さて、今回はいつもと少し違った趣向を試してみました。
と言うわけで、ゲストは美登理さん。
美登理「こんにちは」
今回は、美登理さんが大活躍するわけですが…。
美登理「もしかして、わたしが推理するのかしら??」
いえ、まさか…。まぁ、当初はその予定だったんですが。
美登理「…どういう事かしら?」
当初は、この話は、摩探外伝の「美登理編」にする予定だったんです。でも、美登理さんなら絶対真解に電話するだろうなぁ…と考えていたら、こういう話に。
美登理「…真解め…わたしの役を…」
自分の子どもですよ…?

では、また次回…。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

推理編を読む

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