摩訶不思議探偵局〜電話の向こうの殺人事件〜
容疑者リスト
野村(のむら)…【レストラン従業員】
江田(えだ)…【レストラン従業員】
八代(やしろ)…【レストラン従業員】
横瀬 神海(よこせ こうみ)…【神奈川県警警部補】
その他のレストラン従業員10余名

摩訶不思議探偵局〜電話の向こうの殺人事件〜推理編

 真解は視線を感じていた。真解のクラスの生徒は、全部で33人…。そして真解は、32人+担任1人の視線を一身に集めていた。
美登理≪進入成功♪≫
 美登理の楽しげな声が聞こえて、真解はまた、携帯電話につけられたスピーカーに、視線を戻した。殺人現場で、楽しげな声を出せるとは…さすが、真実の母親だ、と真解は感心した。
真実「お兄ちゃんのお母さんでもあるんだよ?」
真解「…それは言うな」
≪何の話?≫と美登理から聞かれたが、「とにかく、現場を調べて!」と真解は急かした。
≪ちょっと奥さん! なんで入ってるんですか!!≫
 若い刑事の声がする。横瀬の声ではない。現場なのだから、刑事がいるのは当然だ。美登理は、その刑事の群れを、無理やり突き進んでいるらしい。
真解「お母さん、そこまでして調べなくていいから!」
 恥ずかしさの余り叫んだのだが、美登理は真解の気持ちを解さない。そして、≪あっ!≫と叫んだ。
美登理≪ごめん、真解! さっき、すごい重要な手がかり、見逃してた!≫
真解「な、なに?」
美登理≪ダイイング・メッセージ!≫
「!!」
 その言葉で、クラス中の視線が、スピーカーに注がれた! 推理物でよく目にする物…。それがいま、自分たちの目の前に!
≪ほら、奥さん! 頼みますから出て行ってください!!≫
 若い刑事の哀願する声が相変わらず聞こえるが、もはや真解の耳にすら届いていなかった。
真実「で、お母さん、メッセージの内容は!?」
美登理≪えっとね…カタカナの、『エ』!≫
澪「カタカナの、『エ』?」
 澪がオウム返しに聞いた。外に追い出される音と共に、≪そう、そうよ!≫と言う美登理の声がした。
真澄「ふぅん?」
 真澄がノートに、『ダイイング・メッセージ』と記し、その下に『エ』と書いた。
真直「『エ』にも見えるけど、工作の『工』かも…」
澪菜「アルファベットの『H』とか?」
真解「お母さん、書かれてたのはそれだけだった?」
美登理≪ええ…見えた範囲では。当たり前だけど、血で書かれてたわ≫
謎「何かの書きかけ、と言う可能性も考える必要がありますね」
謎事「…! じゃぁ、犯人は、エダさんか!?」
 謎事が声を上げた。「あっ!」と言う声が、クラス中から聞こえる。
謎事「カタカナで、『エダ』と書こうとして、最初の一文字で力尽きた…とか」
真直「あ、そうかも!」
澪「いや、そう考えるのはまだ早い。もしかしたら、暗号かも知れないし…」
謎事「暗号? …そうか?」
謎「否定はできませんよね?」
澪菜「メイちゃんの言うとおりよ。否定は出来ないわ」
「他に、『エ』から始まる従業員はいないのか!?」「ハ行で始まる人かも! だって、『H』かも知れないんでしょ?」「いやいや、これは暗号だよ」「工作好きの人が犯人だよ!」「もしかしたら、何か別な記号かも」
 次々と、クラス中から声が上がる。「3人寄れば文殊の知恵」とは言うが、その11倍の33人もいると、果たしてどうなるのか。ただうるさいだけで、意見もまとまらず、なんの解決にもならないのではないか。真解はそう思った。
謎「真解はどう思いますか?」
真解「…なんとも言えないね。従業員全員の名前がわからない限り」
≪横瀬警部補!≫
 電話の向こうで声がした。≪なんだ?≫と言う横瀬の乱暴な口調が聞こえた。
≪鑑識からの連絡ですが……≫
 途端に声が小さくなる。なにを言っているのか、全く聞こえない。
≪よしわかった。…奥さん、近付き過ぎだ!≫
≪だって、聞こえないんですもの。しょうがないじゃないですか≫
≪聞かなくて良い!!≫
 荒っぽい横瀬の咳払い。そして、例の3人を呼ぶ声がした。
≪なんスか?≫
 江田の声がした。ダイイング・メッセージの示す人物…なのだろうか?
≪我々は今のところ、あなた方3人を容疑者として扱っている。他にも何人かアリバイの無い人間はいたが、とりあえず、そちらは保留だ≫
≪な、何故ですか!?≫
 八代の声。続いて、≪そうですよ、ぼくらはアルバイトだし…≫と訴える野村の声。
≪そんな事は、今は問題じゃない。…あなた方の中に、左利きの人間はいるか?≫
真解〔左利き…?〕
 真解は眉をひそめた。それと同時に、≪あ、ぼくが≫と言う野村の声がした。
≪ぼく、左利きですよ。でもそれが?≫
≪そうか…。じゃぁ、我々は、とりあえず、あんたを最重要容疑者としておく≫
≪………。ええぇ〜〜っ!? な、なんでぇっ!?≫
≪殺害現場は、非常に狭い。そのため右手に包丁を持ち、向かって左側に、向かって左側から包丁を刺すのは、非常に困難。よって、左利きの人間が犯人である可能性が高い≫
真直「え? どう言う事??」
真解「つまり、包丁が被害者の体に対し、斜めに刺さっていた。その刺さり具合からして、犯人が左利きである可能性が高い。そう言う事だ」
真直「ああ、なるほど…」
「このぐらい、わかりなさいよ!」と言う澪菜の声の後、「ドコ」と言う低い音がしたが、真解は気にしないでおいた。
真澄「あれ? でもちょっと待って。何がどう間違ったら、ダイイング・メッセージである『エ』が、野村さんを指すの?」
謎事「あ、そういえばそうだな」
澪「カタカナのエ、漢字の工、アルファベットのH…。どう考えても、『野村(ノムラ、のむら)』は指さないよな…?」
真実「下の名前なんじゃないの?」
真解「さぁ…それはわからない」
≪横瀬警部補!≫
 また声がした。野村との怒鳴り合いを一旦止め、≪なんだ?≫と横瀬が聞く声がした。
≪凶器の包丁に指紋が残っていた人の、リストです≫
 ピクッとクラス中が反応した。これで、江田か野村の指紋があれば、全て決定だが…。
≪指紋ね。犯人が手袋をしていた可能性は?≫
≪凶器の包丁には、指紋がたくさんついていて…犯人が手袋をしていたら、少しでも指紋がふき取られているはずです。しかし、鑑識の話では、それが無かったと…≫
≪つまり犯人は、大胆にも素手で持ったわけだ≫
 カサッと紙をめくる音。
≪奥さん、覗き込もうとするな≫
 横瀬の声がして、≪良いじゃないの≫と言う美登理の声がした。しかし横瀬は、≪ダメだ≫の一本張り。見るのは難しいようだ。
 しばらくして、横瀬が≪ほっほぅ!≫とわざとらしく言った。
≪野村さん。とりあえず、一旦はあんたの容疑をはずしてやる。凶器に、あんたの指紋は無かった≫
≪! ほら、言ったとおりじゃないか! ぼくは犯人じゃない!≫
≪ふん…。で、八代さん≫
≪…え?≫
 八代の声が裏返った。まさか…?
≪凶器には、あんたの指紋があったとの事だが?≫
≪…!? なっ、いや、そんな…ああっ!!≫
≪どうした?≫
≪わたしは、ほら、アルバイトと言えど、ここで働いてますから…包丁に触れる事だって、ありますよ! きっと、その時についたんだ…。その包丁は、ここの物ですし…!≫
≪ほぅ? 確かに、あんた以外にも、アルバイトの指紋は残っていたようだがな。第一発見者の富山 仁(じん)とか、工藤 春子とか、江角 莉緒(えすみ りお)とか…≫
≪でしょう? それでですよ≫
≪ふん…≫
 横瀬は小ばかにしたように鼻を鳴らしたが…真解は、それどころではなかった。クラスの中にも、何人か気づいたものがいるようだ。
真解「そんなバカな…」
 真解がつぶやく。クラス中の視線をまた集める。
美登理≪え? 何がバカなの?≫
真解「お母さん…頼むから、気付いてよ。
 容疑者は今のところ、とりあえず3人。犯行推定時刻に更衣室に入った、野村さんと、江田さんと、八代さん。
 ダイイング・メッセージは、カタカナの『エ』。これはそのまま解釈すれば、江田(エダ)さんを指し示すもの。包丁の刺り方から、犯人は左利きの可能性が高い。3人の中で左利きなのは、野村さんのみ。そして、凶器の指紋を調べたところ、3人の中では八代さんの物のみ出てきた…」
美登理≪あ…!≫
真解「やっとわかった? そう、今まで出てきた3つの手がかり…これらがそれぞれ、別の人間を指し示しているんだよ!」

「ダイイング・メッセージと、利き手は誤魔化せるけど、指紋だけは無理だろ? だったら、犯人は八代じゃねぇのか?」「誰が犯人かは、被害者が知っている。ダイイング・メッセージの指し示す、江田が犯人だよ」「心臓は向かって右にあるんだから、左利きでもない限り、向かって左に包丁は刺さない…。だから、犯人は左利きの野村よ!」
 いろんな意見が、あちこちから飛び出してくる。論理が通っているものから、突拍子の無いものまで、多種多様。
澪「色んな可能性があるなぁ…」
真実「感心してる場合じゃないって、澪くん…」
澪「わかってるよ。これでも考えてるんだ」
 一方、横瀬の方も、同じ事に気付いていた。
≪しかし、妙な事件だな。一見単純だと言うのに。…奥さん、やっぱりあんたが一番怪しいな≫
≪それはありえませんよ、警部補さん。だって、外部犯の可能性は無いんでしょ?≫
 わたしは外部の人間ですから。そう言って≪ホホホ≫と笑う美登理の声。
≪『無い』とは言っていない。『低い』と言ったんだ。…って、何故それを知っている?≫
≪ホホホ…≫
真解〔って言うかお母さん、いつまで横瀬警部補に付きまとってるんだ…〕
 これ以上、手がかりは出てきそうに無い。真解は、真澄からノートを借りて、整理されたデータを見た。
 ダイイング・メッセージを信じるか。利き手を信じるか。指紋を信じるか。
真解〔いや…この3つ、全てに共通する人間が、必ずいるはずだ…〕
 真解の頭脳が、フル回転を始めた。3つの手がかりを、うまく融合させ始める…。
真解「あ、待てよ…」
 ふと真解が顔を上げた。
美登理≪なに、何かわかった!?≫
 美登理の興奮した声が、スピーカーから流れた。全員が、真解の推理に期待する。
真解「…3つの手がかりがうまくつながる人物が、1人だけいる…」
美登理≪!! だ、誰!?≫
真解「ただし、証拠が無い…」
美登理≪あら、証拠ぐらい、お母さんがいくらでも探し出してあげるわよ。何を見つければ、証拠になるかしら??≫
真解「え…? あ〜…そうだなぁ…」
 真解が考え込むと、電話の向こうで若い刑事の声がした。
≪横瀬警部補。例の3人のロッカーにしまってあった服を調べましたが…血痕のようなものはありませんでした≫
≪そうか…あれだけの出血なら返り血を浴びているはずだと踏んだが…読みが外れたな≫
真解「…血痕か…」
美登理≪もう一度、血の跡を調べる?≫
真解「…そうだね。じゃぁ、あの人のロッカーの付近を、入念に調べてよ」
美登理≪あの人?≫
真解「そう…。3つの手がかりが指し示す、あの人物だよ」

Countinue

〜舞台裏〜
どうも。摩探を書くのが久々なせいか、ちょっとカンを忘れてしまったキグロです(何
今回のゲストは…初登場、横瀬警部補。
横瀬「俺?」
はい、声だけの出演、ありがとうございます。
横瀬「まさか、俺が抜擢されるとは思わなかったな…」
まぁ、今度いつでるかわかりませんけど。
横瀬「…一度だけの出演なのか!?」
しかも声だけ。

さて、今回は一応手がかりは出揃いましたので(証拠はまだですが)、推理を募集します。
募集内容は、ズバリ、『犯人は誰か?』 これだけです。
横瀬「シンプルだな」
今回は、忘れかけたカンを取り戻すために書いたような物でもありますし。
横瀬「なんだそれは」
(推理メール募集は終了いたしました)

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

真相編を読む

本を閉じる inserted by FC2 system