摩訶不思議探偵局〜電話の向こうの殺人事件〜
容疑者リスト
野村(のむら)…【レストラン従業員】
江田(えだ)…【レストラン従業員】
八代(やしろ)…【レストラン従業員】
横瀬 神海(よこせ こうみ)…【神奈川県警警部補】
その他のレストラン従業員10余名

摩訶不思議探偵局〜電話の向こうの殺人事件〜真相編

美登理≪真解、あったわよ。真解が言ったとおりの場所に、真解の言ったとおりの物が≫
真解「わかった…それじゃ、お母さん。真相編の始まりだ。みんなを集めて」
 そう言うと、真解はニヤリと笑った。
真解「見えた…」
 それだけ、小さく呟く。クラス32人+先生1人の視線が、真解に注がれている。「なんであの人が犯人なんだ?」と言う呟きが聞こえてくるが、とりあえず今は放っておいた。どうせ、すぐに説明するんだ。

≪あら、意外とあっさり許可してくださるんですね、警部補さん≫
≪手がかりの足しになるかもしれんと思ってな≫
≪手がかりではありませんよ? …真相です≫
 美登理の勝ち誇った声が、スピーカーから流れた。関係者は全員…集まったようだ。
真解「それじゃ…真相編を始めようか。お母さん、これからボクが言う事、そっくりそのままみんなに話してね」
美登理≪わかってる。準備は万端よ♪≫
 真実にそっくりな美登理(と言うか、真実が美登理にそっくりなのだが…)の、陽気な声を聞き、真解は軽くため息をつく。クラス中の視線が、真解に集中する。真解の噂は耳にしていても、実際に真解の推理を耳にした事がある者は、このクラスでもわずかな者(真実、謎事、メイ、澪、真澄、澪菜、那由他)だけだ。さぁ、噂の名探偵の実力はいかに…?
真解「まず、現場に残されていた、3つの手掛かりを皆さんに見せます」
美登理≪まず、現場に残されていた、3つの手掛かりを皆さんに見せます≫
真解「1つ目は、ダイイングメッセージ。被害者の物と思われる血で、カタカナの『エ』と書かれていました。2つ目は、凶器の刺さっていた角度。その角度から、犯人は左利きであると推測できます。そして3つ目は、凶器に残されていた指紋。凶器には手袋の跡が無いことから、犯人は手袋をしていなかったと思われます」
 美登理がそっくりそのまま向こうの人たちに伝える。特に、誰からの反応も見られない。
真解「さて、犯行推定時刻は今日の午前11時ごろ。その時更衣室に入ったと自ら名乗り出たのは3人。江田さんと、野村さんと、八代さん。そして何故か、3つの手掛かりは、この3人に分割されています。ダイイングメッセージはカタカナの『エ』。江田さんの頭文字も『エ』です。犯人は左利きで、野村さんも左利き。更に凶器からは、八代さんの指紋が出てきました」
 ここで初めて、向こうの反応が聞こえた。野村の声だ。
≪いや、だけど、ぼくは犯人じゃないですよ!!≫
 それに便乗するように、江田、八代の声も続いた。
≪そうそう、殺された柿本とだって、あんまり面識ないし!≫
≪それに、更衣室に入ったってだけで、犯人と決め付けられちゃ割りにあわない…≫
≪そうスよ、奥さん。それに、なんでケータイずっと持ってるんスか?≫
 奥さん…とはまぁ、美登理の事だろう。
美登理≪容疑者にしたのはわたしじゃなくて、こっちの警部補さんよ。そんでもって、このケータイは、名探偵と繋がってるの!≫
真解「お母さん、今は、そんな話良いから…」
 美登理の言葉で≪名探偵??≫と言うざわめき声が聞こえた。
真解「…。とにかく、話を聞いてください、皆さん」
 真解が言ったとおりに、美登理が伝えた。みんな、なかなか素直なようだ。すぐに静かになった。
真解「そう、確かに、江田さんの主張はもっともです。ですから、こちらも、3人を重点に置き、かつ従業員全員を容疑者として推理しました。そしたら、ただ1人…3つの手掛かりに共通する人物が浮上しました」
≪ちょっと待った。名探偵とやら≫
 横瀬の声だ。美登理ではなく、直接自分を名指しされ、真解は一瞬驚いた。
≪なんで現場にいないあんたが、容疑者のプロフィールを知っている?≫
真解「いや…まぁ、たまたまの偶然が重なっただけでして…」
美登理≪名探偵だから、知らなくても推理できるのよ。すごいでしょ、うちの息子≫
真解〔お母さん、頼む! 正確に伝えてくれ!!〕
 横瀬がどんな顔をしたかはわからないが、疑惑の目を向けている事だけはなんとなくわかる。
真解「とにかく! 話が横道にそれてばかりですが…3つの手掛かりに共通する人物が、存在するんです」
≪その人物とは??≫
 誰かの声がした。
真解「その人物とは…工藤 春子さん、あなたです」
≪なにぃっ!?≫
 工藤の前に、横瀬の声がした。
≪ちょ、ちょっと待て! 3人の中にいるんじゃないのか!?≫
真解「いなかったみたいです。どうやら」
 クラスの者は、真解が美登理に証拠探しを依頼する際、犯人の名を聞いている。だから今は驚かないが…聞いた時は、横瀬と同じ反応をした者もいた。だが考えてみれば、いつもいつも犯人が容疑者の中にいるほど、現実甘くはない。
≪で…なんでわたしが?≫
 工藤の声だ。落ち着いた声。動揺は見られない。
真解「まず、ダイイングメッセージですが…先ほど、カタカナの『エ』と言いましたが、実は違います。これは工藤さん…あなたの苗字の頭文字、工藤の『工』なんです。そして工藤さん。あなたは確か、左利きですよね…?」
≪ええ…。でも、どうして知ってるのかしら?≫
真解「ボクは以前、そちらのレストランに行った事がありまして…。その時、その…妹と一緒に、あなたのプロファイリングをしたのですが…覚えてます?」
≪……ああ、あの時の子!? 確かに、言われてみれば名探偵っぽい子だったわね。少ない手掛かりからバシバシわたしのプロフィールを言い当てて…≫
真解「その時のデータを、未だに妹が覚えてましてね」
≪ふぅん…≫
真解「そして3つ目…。横瀬警部補」
≪あ?≫
 突然呼ばれたせいか、横瀬の声は、ぶっきらぼうな声になっている。
 余談だが、「ぶっきらぼう」とは「ぶっ切った棒」の意味で、「ぶっ切った棒」が「ぶっ切り棒」になり、それが転じて「ぶっきら棒」になったらしい。「ぶっ切った棒」の「ぶっ」は「打っ」と書き、強調の意味を持つ。つまり、「打っ切った」とは、「思いっきり切った」と言う意味だ。「思いっきり切った棒」がどんな棒なのか、よくわからないのが残念だが。
真解「確かあなたは、八代さんに指紋の件について話した時、八代さんから、『アルバイトだから付いていて当然』と言い返されてましたよね? そしてその時、八代さん以外に、指紋が付いていたアルバイトとして、『富山 仁とか、工藤 春子とか、江角 莉緒とか…』と言っていましたよね?」
≪…覚えていないが…リストには確かに、工藤 春子の名はあるな≫
 ここに来て突然、ギャラリーの声がざわめき始めた。3つの手掛かり全てが、工藤を通して1つに繋がった…! 電話の向こうの名探偵が、この事件の真相を解き明かすのか!?
真解「そう言う事です、工藤さん。全ての手掛かりが、あなたを指し示しています。…いかがですか?」
 工藤の返事はない。≪工藤さん??≫と呼びかける美登理の声がする。
≪あの、刑事さん?≫
 横瀬を呼ぶ、工藤の声。≪はい?≫と横瀬の声がした。
≪今の状況で、わたしを逮捕できますか?≫
≪え? あ〜‥‥‥いや、無理だな。確かに状況証拠はバッチリだが…決定的証拠とは、言いがたい≫
≪ですよね!≫
 突然、工藤の声が大きくなった。勝ち誇ったように、鼻で笑った音がした。
≪証拠がありませんよね? そんなに言うなら、証拠を出してくださいよ!≫
真解〔久しぶりだな…こう、わかりやすく反論してくる犯人って…〕
 証拠が無いのに、全員を集めて推理ショーを開くなど、ただ自分の恥を晒すだけに決まっている。こう言う状況で、「証拠は!?」と言う犯人がよくいるが、証拠が無いわけが無い。いったい何を考えているのかと、真解は常々思う。
真解「証拠はありました。残念でしたね。とっとと処分してしまえばよかったのに」
美登理≪実はさっき、女性更衣室のあなたのロッカーを探らせていただきました≫
工藤≪なんですって…!?≫
美登理≪そしたら案の定…ほ〜ら、血が付いたあなたの可愛いTシャツが♪ ブラウスも一緒にあったけど、そっちは全く血が付いていなかった…。つまりあなたは、柿本さんを殺害する際…ブラウスを脱ぎ、Tシャツ姿になっていたわけ。そうすれば、血が付くのはTシャツだから、帰る時は上にブラウスを着ていけば、血を隠す事が出来る。でしょ? そしてスカートの方は、パッと見、血が付いてたのか付いていないのかわからなかったけど…当然ね。少し赤みがかった黒色だったんだもの。血は固まると、黒くなる。だから、その色のスカートなら、血が付いていてもパッと見わからない…≫
 美登理は、真解が喋る前にどんどん喋った。もっとも、先ほど美登理がロッカーを探った時、真解が言った事なので、美登理の推理ではないのだが。
美登理≪始めっから、全部赤っぽい黒にしておけば、よく見ないと血だってわからないから、ばれなかったかも知れないのに…。まぁ、警察にはばれちゃうでしょうけど。…あ、警部補さん、はい、これ≫
 美登理は手に持っていたTシャツを、横瀬に渡したようだ。≪あ、ああ…≫と言う横瀬の声が、小さく聞こえた。
美登理≪さぁ、これであなたの負けです、工藤さん。警察が調べれば、あの血が誰のものか、すぐにわかるんですよ? すごいわよね、今の科学って。血から色々わかっちゃうんだから≫
 余談だが、現在の科学(医学)力で、血液からわかる事は、血液型はもちろん、アレルギー、中性脂肪の量、風邪を引きやすい(病気にかかりやすい)か否か、栄養状態、疲れやすい(だるくなりやすい)か否か、など様々。ちなみに、血液型性格判断が流行っているが、心理学的には血液型と性格の関係は完全否定されている。
≪で…だが…動機はなんだ?≫
 横瀬が言った。美登理より、工藤に聞いている感じがする。
≪…ちょっと前まで恋人だったんですよ。龍さん≫
 真解はふと、真実が工藤のプロフィールを復唱していた時、出てきた言葉を思い出した。「結婚してないけど恋人がいて…」その恋人が、柿本 龍か?
≪ここで知り合って、付き合い始めて…でも、手酷く裏切られて…。だから、いっその事、殺してやろうと…≫
≪…よくある愛憎劇か≫
 ボソリ、と横瀬が呟くのが聞こえた。
≪まぁいい。こんなところじゃ話しづらい内容だろう。来い。あんたには、狭い部屋で刑事と向かい合って話してもらう≫
 ガチャッと、冷たい金属音がした。

「すげぇな、実相! 噂は本当だったのかよ!?」
「しかも、こんな早く解いちゃうなんて…信じられない!」
「神だ神! あり得ねぇ!!」
 瞬間、真解を大絶賛する声が、クラス中で沸き起こった。担任教師の龍川でさえ、遠巻きに驚いた表情をこちらに向けている。…そんなに生徒を信じていなかったのか。
真実「どう? すごいでしょ? わ・た・し・の・お兄ちゃん!」
 何故か真実は、「わたしの」を強調した。まぁ、真解にはその理由がなんとなくわかるが。
真実「いい? わたしのお兄ちゃんだからね? みんな、絶対惚れちゃダメよ??」
「もう遅い…」
 どこからか、女子の小さな声がした。真実が、声のした方をキッと睨み付けた。壮絶な愛憎劇の始まりを…昼休み終了のチャイムが、告げた。

Finish and Countinue

〜舞台裏〜
ああ…またやってしまった。容疑者リストに無い人物が犯人と言う反則(?)技…。
と言うわけで、摩探のカンを失くしかけてるキグロです(ぉぃ
その証拠に、今回の話は「余談」も少なかったですし…。まぁ、最近は何故か減少傾向にあるのですがね。
今回のゲストは、またまた誰かに惚れられてしまった真解くん。
真解「…あのなぁ…」
いやぁ、いいオチが思いつかなかったもんで。つい。でも、まんざらでもないだろ?
真解「…いや…あんまり…」

さて、では正解者の発表です。
全て解けた方>夢魔さん、ユーマさん、ワールさん、さくらさん、BCDさん、kanameさん
だぁ〜っ!! 今回簡単すぎたぁっ!!
真解「正解者数、最高記録だな…」
いつもは、メールを下さった方全員に返信しているんだけど…今回、多かったせいで、あとの方の人は、返信してませんし。
真解〔いや…返信してない人の方が、多いだろ…〕
やっぱり、2度も同じ手は使えなかったか…。
真解「2度…ああ、『容疑者リストに犯人が入ってない』ってヤツか」
それ。真実を誘拐した時は、それほど解けた人がいなかったんだけど…。推理小説は、同じ手が使えないのがきつい。
真解「いや、推理小説に限らないだろ、それは」
ま、そうだけど。
真解「まぁ…でも、正解者がたくさんって事は、見方を変えれば『ちゃんと解決できる事件を書けてる』って事にもなるし」
! そうだよな! 「推理力と、記憶力と、観察力と、知識があれば、絶対解ける」って言う鉄則が、ちゃんと守られてる証拠だよな。さすが真解、たまには良い事を言う!
真実「お兄ちゃんは、たまにじゃなくて、いつも良い事言うわよ!!」
真解「真実…お前、どこから現れた…?」

正解者の皆さんには、後日メールをお送りします。ではまた次回。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

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