摩訶不思議探偵局〜魅惑の恋人たち〜
主な登場人物( )内は読み、【 】内は役
実相 真解(みあい まさと)…【主人公・探偵】
実相 真実(みあい まさみ)…【探偵】
相上 謎事(あいうえ めいじ)…【探偵】
事河 謎(ことがわ めい)…【探偵】
兜 剣(かぶと つるぎ)…【警部】
ユーマ(ゆーま)…【南の恋人】
南 百子(みなみ ももこ)…【ユーマの恋人】
恩田 悠(おんだ ゆう)…【二階堂の恋人】
二階堂 絵真(にかいどう えま)…【恩田の恋人】
天木 大地(あまぎ だいち)…【ペンションオーナー】
天木 空恵(あまぎ そらえ)…【オーナー夫人】

摩訶不思議探偵局〜魅惑の恋人たち〜プロローグ

大丈夫だ。ばれていない、ばれていないはずだ…。

 摩訶不思議探偵局兼真解と真実の部屋に、兜がやって来た。
兜「お前ら、これ、行くか?」
 その日、兜は突然探偵局にやって来て、いきなり真解たちにチケットを差し出した。チケットは全部で3枚ある。
謎事「足らないッスよ?」
兜「1組2名様の半額チケットなんだよ」
謎事「…ああ」
 なるほど、合点がいったようだった。確かに、チケットには「1組2名様まで」と書いてある。
 真解と真実が1枚のチケットを、謎事、メイがそれぞれ1枚ずつチケットを覗き込む。
 兜が持って来たチケット、それは、小さなペンションの半額券だった。
真実「『ペンション空(そら)』? 聞いた事無いわね…」
兜「ああ、あまり有名なところじゃないらしいがな」
 兜が付け加え、一同はさらに読み進める。
 そのペンションは、周りに自然がいっぱいで、静かで、とてもいいところらしい。三食温泉つき。このチケットでは、二泊三日が出来るとの事だった。
謎「でも…聞いた事ないですね…」
 真実と同じ事を、メイも言う。真解も謎事も、『空』と言うペンションは聞いた事がないようだった。
真解「第一、兜警部はどうやってこのチケットを?」
兜「ああ、それは…ほれ。蘭栖からもらったんだ」
真解「ランス? …ああ、兜警部の娘さんでしたっけ」
兜「そうだ。蘭栖の夫、一人くんが福引で引き当てたらしい。それも、一挙に3枚も」
真実「くじ運良いですね」
兜「確かにな。まぁしかし、当ててきたのもまた事実。どうだ? それ、一緒に行くか?」
 兜が再度聞く。全員、首をひねる。どうも、おかしいような気がする…。
真実「兜警部。確か、兜警部って、4人、娘さんがいるんですよね?」
兜「ああ、そうだ」
真実「じゃ、なんで娘さんと、奥さんと、兜警部の6人で行かないんですか? ちょうど、数が合うじゃないですか。2×3=6なんですから」
兜「いや、それがな…」
 やや恥ずかしそうに、兜が言う。
兜「蘭栖は、知っての通り結婚してるだろ? で、あのレストラン、個人営業だから、蘭栖が抜けると、色々大変らしくてな」
真実「じゃぁ、残りは?」
兜「2人目と3人目の娘は、『お父さんと一緒に旅行なんか行きたくな〜い』と言ってな…。末の娘は行きたがったんだが、ヨメが『2人を置いて行くわけにはいかない』と言い張ったんだ」
真解〔つまり、行けるのは末っ子と兜警部のみ、と…〕
 だが、それだとチケットが余る…。だから、真解たちの方へやって来た、と言うわけだ。
真実「じゃぁ、末の子は、来るんですか?」
兜「いや…。末の子はまだ小学生でな。『あの子は、あなたには任せられない』とヨメに猛反対を食らって…」
真解〔…もしかして、兜警部の家ってカカア天下なのか…?〕
兜「ま、理由はともかく、そういうわけで、お前らを連れて行く事が出来るようになった。普段事件を解決してくれるお礼だと思ってくれればいい。どうする? 行くか、行かないか…?」
 真解たち4人は、顔を見合わせた。さて、どうしようか…? しばらくして、4人は軽く頷いた。そして、一斉に口を開いた。
「止めておきます」「行きます!」「学校があると思うんですけど」「楽しそうじゃん」

 しばらく議論をした後、結局4人は行く事になった。
 そうと決まれば、早速真実は「ペンション空」について調べ始めた。
 オーナーの名前は、天木 大地(あまぎ だいち)。『大地』なのに何故『空』なのかと思ったら、奥さんの名前が空恵(そらえ)だった。このペンションはたった2人で始めた、個人経営のペンションとの事。
 また、理由はわからないが、知る人ぞ知る、密かなデートスポットらしい事もわかった。
 デートと言っても、ペンションである以上、泊まらなければ入れない。デートと言うには、時間的に長すぎるかも知れないが。とにかく、そんなわけでカップルの宿泊客が多いとの事だ。
「温泉つき」についても調べたところ、小さな露天風呂が計3つある事がわかった。
 女湯、男湯、そして混浴場だ。
 その他にわかった事と言えば、大して景気が良いわけでもなさそうだ、と言う事だった。そのため、兜がもらったようなチケットをばら撒き、客を呼び込もうとしている、と言う事がわかったわけだ。
真実「ま、でも、楽しければいっか」
真解〔…楽しければな〕
 チケットに書いてあった「自然がいっぱい」と言うのは、本当のようだ。ペンションを外から撮った写真が何枚か見つかったが、そのどれもが、美しい森をバックにしていた。
真実「お兄ちゃん、綺麗なところだよ!」
真解〔それって、単に山の中って言うだけなんじゃ…?〕
 様々な思いを胸にしつつ、いよいよ予定の日がやって来た。

美登理「じゃぁ警部さん。4人を、よろしくお願いしますね」
 朝、出発の時、美登理が玄関で真解たち5人を見送っていた。
兜「大丈夫ですよ、奥さん」
 兜が、にこやかにそう言う。
美登理「じゃぁ警部さん。4人に、迷惑をかけないでくださいね」
兜「大丈夫ですよ、奥さ………。いえ、わたしが迷惑をかけるんですか…?」
 何故!? と、兜は思わず突っ込みたくなった。
真実「それじゃ、お母さん。行って来るね」
美登理「いってらっしゃい」
 美登理が、5人を笑顔で送った。

 ペンション空までは、兜の車で向かう。
 兜が運転席、謎事が助手席、真実が後部座席の真ん中に座り、真解がその左、メイがその右に座った。
 余談だが、車の助手席に何故「助手」と言う単語がついているかと言うと、実は、昔はホントに「助手」をしていたから、らしい。と言っても、助ける相手は運転手ではなく、客。と言うのも、「助手席」と言うのは本来タクシー業界用語で、大正時代、初めてタクシーが現れた頃、お客はみんな着物姿。となれば、乗り降りするのにも手助けが必要。と言うわけで、客を手助けするために乗っていた、通称「助手さん」が座っていた席なので、「助手席」と言うようになったのだ。
 ペンションに着くまでの長い時間、真解たちは適当に雑談を交わし、全員が持って来たお菓子をむさぼった。
真実「ペンションで、何が起こるかな?」
真解「別に、何も起こりはしないだろ?」
真実「そうかな…? わたし達が行くんだもん。殺人事件のひとつやふたつ…。ちょうど、2時間サスペンスにピッタリの、温泉もあるし♪」
真解「…物騒な事を言うな」
 と、言いつつも、本当によく事件に出遭う。まさか、今回も…? 「やっぱり、止めときゃよかった」と、真解は今更ながら後悔した。

 和気藹々と話すうちに、お菓子はどんどん減っていった。そして、お菓子が半分ほど減り、座っているのに疲れた頃だった。
兜「ついたぞ」
 駐車場に車を入れながら、兜が言った。全員が、窓の外を覗き込む。
 目の前には、森に囲まれた素敵なロッジハウスがあった。背景と調和していて、「自然がいっぱい」と言うのは、ウソではなかったようだ。時刻はお昼を少し過ぎた頃。木洩れ日がペンションに降り注ぎ、絵画的な趣を出している。
 車が停まり、真解が降りると、真実も即座に飛び出した。そして、ペンションの目の前へ駆けていく。真実はそこで、ペンションを見上げた。2階建てのペンション空。近くで見ても、綺麗だった。
真実「早く〜!」
 振り向いて真実が言う。そしてそのまま、真実は中へ入って行った。
真解〔あいつは…いつまでも子どもみたいな…っ〕
 真実の分の荷物も背負いながら、真解は心の中で悪態ついた。

??「あ、ようこそいらっしゃいませ」
 真実が玄関を開けて中に入ると、すぐ目の前にカウンターのような物があり、そこに立っていた女性が言った。オーナー夫人、天木 空恵(あまぎ そらえ)だった。
 カウンターの中には、空恵しかいなかったが、カウンターの前には、二十歳ぐらいの4人の男女がいた。空恵が言うと、全員、一瞬真実の方を見た。
??「あら、お嬢ちゃんも泊まるの?」
 その中で、1人だけ、話しかけてきた。長髪で少しおっとりとした、優しそうな女性だ。
真実「え、あ、はい、そうです」
??「そう。わたしは、二階堂 絵真(にかいどう えま)。同じペンション内なら、たぶんまた会うから、その時はよろしくね」
真実「はい! あ、わたしは、実相 真実です」
 真実が可愛らしく答える。二階堂がニッコリと笑った。どうやら、子ども好きらしい。二階堂と一緒にいる3人が、「やれやれ…」と言う顔をした。
二階堂「お嬢ちゃん、小学生? お母さんたちと一緒?」
真実「は…? あの…わたし、ちゅうが「真実!!」
 真実のセリフが、真解のセリフでかき消された。真実は慌てて後ろを向く。
真解「真実…自分の荷物ぐらい、自分で持ってってくれ…」
真実「あ‥うん、ごめん♪」
真解〔反省してない…絶対反省してない…〕
 真解はまたため息をついた。その真解の後ろから、謎事、メイ、そして兜も入ってくる。
兜「やっと着いたな…」
 兜がため息混じりにそう言う。二階堂が、兜の顔をじっと見た。
兜「何か?」
二階堂「…父子家庭ですか?」
兜「…誰がですか」
 疲労のせいもあってか、兜の声はやや低くなっていた。

 真実と二階堂の友好的な出会いのせいか、5人と4人…計9人は、すぐにその場で打ち解けあった。真実が小学生ではなく中学生の、しかも3年である事や、兜は別に真解たちの父親ではない事も、そして真解たちの関係も、すぐに伝わった。
二階堂「あ、そうなんですか」
 と、二階堂は少し照れくさそうに笑った。
??「お前はいつも、早とちりが過ぎる…」
 そう言ったのは、二階堂の恋人、恩田 悠(おんだ ゆう)。二階堂と恩田が恋人なのと同様、残り2人も恋人同士である事を、すぐ知った。
 残り2人のうち、男の方はユーマ(ゆーま)、女の方は南 百子(みなみ ももこ)と名乗った。
真実「みなさん、お知り合いなんですか?」
南「もっちろん♪ 全員、大学のサークル仲間なの」
 と、ユーマに微笑みかけた。ユーマは、なかなか頭の良さそうな好青年だった。
真解〔2組のカップルに、3つの温泉…。殺人事件には、ピッタリだな…〕
 車の中での真実のセリフを思い出し、真解はまたもため息をついた。
??「なにやら、賑やかですな」
 カウンターの奥から、男が現れた。50代ぐらいの落ち着いた声の男だ。真実はすぐに、ペンション空のオーナー、天木 大地だとわかった。
大地「おや、やけに一度に大勢のお客さんが来ましたな」
空恵「ええ、今日から泊まる9名が、全員来ましたわ。…チェックインがまだですけど」
兜「! おお、そう言えば忘れてました。すみませんね、奥さん」
 兜はそう言って、慌ててカウンターに歩み寄った。空恵が紙とペンを渡し、兜がそこになにやら書き込む。
ユーマ「そう言えば、君たちはお昼ご飯は、どうするんだい??」
 キラッと白い歯を光らせながら、ユーマが聞いて来た。なんだかわからないが、妙に光っている男だ。メガネも一緒に光っている。見た目は頭良さそうだが、話し出すと、あまり頭良さそうには感じない。「黙ってりゃ良い男」と言う奴か。
 余談だが、「白い歯」と言うのはあまり良い物ではないらしい。歯は表面がエナメル質で、その下が象牙質になっている。エナメル質は半透明の乳白色で、象牙質は黄色いのだ。そして、カルシウムが多い…つまり、丈夫な歯だと、エナメル質はどんどん透明度が増して行き、奥の象牙質が見える。つまり、黄色い歯ほど丈夫な歯、と言えるのだ。…もっとも、「汚れていて黄色い歯」では全然意味ないが。
謎事「そう言えば、どうするんだ? ここで食うのか?」
真実「ここで食べるんじゃないの?」
兜「ここで予約しているのは、朝と夜だ。昼は外で食う」
真実「え〜、だって、『三食温泉つき』って、チケットに…」
兜「それは、『三食予約できる』と言うだけで、『三食予約しろ』と言うわけじゃない」
恩田「ふぅん…じゃぁ、我々と一緒だ」
二階堂「わたし達も、昼ご飯は予約してないものね」
謎「それは…奇遇ですね」
真解〔…まぁ、昼は観光に行くしな…〕
 だけど、この周りで観光に行けそうな場所など、あったかな…? 真実がはしゃいでいたので、仕方なく一緒にパソコンの画面を覗き込んだが、周りは木ばかりで何もなかった気がするが…。
真解〔ここが流行らないのは、ペンションが悪いんじゃなくて、立地条件が悪いんじゃないのか?〕
 もう少し、観光地の近くに建てれば良かったのに…。真解は、そう思った。
ユーマ「ま、それじゃ…俺たちと一緒に、食べに行きますか!」
 キラーン、とユーマは歯を輝かせ、勝手に決定した。

Countinue

〜舞台裏〜
ちゅ、中途半端だ…。キグロです…。
今回のゲストは、兜 剣警部です。
兜「どうも、こんにちは」
さて、始まりました、新事件。今回は、登場人物に前回の正解者をお招きしております。
兜「…ん? だが、前回の推理募集の時、『小説に出れる』などと言っていたか?」
あ〜、え〜っと…。言ってはないんですけどね。実は、何も知らせずに突然正解者賞品を変更しまして。
兜「…は?」
まぁ、詳しい事は、この事件の推理募集の時に、お話します。

字数もギリギリなんで、この辺で。また次回。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

初日編を読む

戻る inserted by FC2 system