摩訶不思議探偵局〜魅惑の恋人たち〜
容疑者リスト
ユーマ(ゆーま)…【南の恋人】
南 百子(みなみ ももこ)…【ユーマの恋人】
恩田 悠(おんだ ゆう)…【二階堂の恋人】
二階堂 絵真(にかいどう えま)…【恩田の恋人】
天木 大地(あまぎ だいち)…【ペンションオーナー】
天木 空恵(あまぎ そらえ)…【オーナー夫人】

摩訶不思議探偵局〜魅惑の恋人たち〜初日編

 真解たちと二階堂たち9人は、全員自分の部屋に荷物を置き、外に出てきた。二階堂たちの乗って来た車は、ユーマのワゴン車だったので、それに全員で乗り込むことにした。9人だとやや狭いが、無理矢理入り込んだ。
ユーマ「さって、どこに食べに行きますかな??」
 運転しながら、ユーマが聞く。キラーン、とメガネが光る。
恩田「去年のところで良いんじゃないかな? なかなか、いい雰囲気のところだっただろ」
謎事「去年? 去年も来たんスか?」
二階堂「そうよ。同じメンバー、同じペンションでね。そうねぇ、あのお店は良かったわね…。じゃ、あそこにしましょ」
 二階堂がユーマに向かって言う。ユーマはニヤリと笑って、
ユーマ「おぅ、それじゃぁあそこにするかな!?」
 キラーン、と歯を光らせた。
真解〔なんなんだ、この人は…〕
 真解はすっかり引いていた。
謎「どんなところなんですか?」
二階堂「えっとねぇ…やっぱり森の中にある、洒落た感じのお店で…和食店よ」
真解〔やっぱり森の中って…やっぱり、ここ森しかないのか…?〕
 森の中とは言え、一応道路は整備されていた。自然豊かな森の中、ワゴン車が走り続ける。
ユーマ「着いた。ここだここだ」
 ユーマがワゴン車を道に停めた。すぐ横に、ペンション空と同じような、ロッジハウスが建っていた。ユーマはそれからもう少しワゴン車を動かし、駐車場と思われる狭いスペースに、車を滑り込ませた。
ユーマ「ここの和食が美味いの何の。さ、行こうか」
 エンジンを切り、シートベルトを外すと、ユーマがドアを開けた。他の者も、次々ドアを開け、外に出る。ユーマが暖簾を押し、ドアを開けて、中に入った。
 余談だが、「暖簾(のれん)」には、客をおびき寄せる心理的効果があるらしい。木で出来た重い引き戸を開けるのには、体力がいる。そのため、中に入るには、ある程度の決心が必要だ。しかし、暖簾ならば、手で軽く押すだけで、簡単に中に入れる。だから、扉よりも、暖簾だけの方が、客が多く来る…と言うのだ。
「いらっしゃいませー」
 若い女性の声が聞こえる。すぐに、着物を来た女性が現れた。ユーマが人数を告げると、女性はすぐに席まで案内した。さすがに9人一度に座れる席はなかったので、4:5に分かれる事にした。
二階堂「折角だから、バラバラに分かれない? 親睦深めるために」
 と言う二階堂の提案により、兜・真解・真実・ユーマ・二階堂と、謎事・メイ・恩田・南の2組に分かれる事にした。
真実「な・に・に・し・よ・う・か・な?」
 嬉しそうに、真実がお品書きを広げる。メニューはさほど数がない。定食や、うどんや、そば…など、定番のメニューが10個ほど並べてあった。
 食べたいものも決まったので、先ほどの女性を呼んだ。9人はそれぞれに品物を言う。
謎事「オレ、うどんで」
真解「ボクは、『定食ろ』ってヤツを…」
真実「あ、じゃ、わたしもそれにする」
恩田「僕は、『定食い』を」
兜「天丼の味噌汁付きを頼みます」
メイ「わたしは、『定食は』を」
ユーマ「俺は天ぷらうどん」
二階堂「じゃ、あたしも」
南「わたしも‥それ」
 全員が言い終わると、「ご注文、確認させていただきます」と女性が言い、「以上で宜しいでしょうか?」と聞いて来た。全員が反射的に頷くと、女性が「では…」と言って、立ち去った。
二階堂「そう言えば、みんなこの後はどうするの?」
 二階堂が、目の前の謎事に聞いた。
謎事「え? あ、え〜っと、そうッスね…」
 と、兜の方を見た。
兜「別に、予定は何も立てていないぞ」
謎事「らしいッス」
二階堂「ふぅん…」
ユーマ「どうする? 一緒に、観光にでも行くかい?」
真実「え? 観光地、あるんですか?」
ユーマ「いや、無いけどな。自然は一杯だ」
 キラーン、と歯を光らせた。
真実「自然公園とか、無いんですか? この辺…」
南「さぁ? わたしは知らないけど」
真解〔無さそう…な、気がする〕
恩田「『自然が一杯』と言うのが、キャッチフレーズだからね」
真解〔単に開拓されてないだけじゃぁ…〕
二階堂「だからいいのよ」
真解「…。はぁ…」
「そうですか」と真解は小さく返事をした。真解はあまり、こういう何もないところは好きではないようだ。…かと言って、あまりごちゃごちゃしたところも好きではないようだが。
「お待たせしました」と、着物の女性が料理を運んで来た。謎事の頼んだうどんと、兜の頼んだ天丼の味噌汁付きだった。
兜「では、お先に‥」
 そう言って、兜は割り箸を割り、天丼を食べ始めた。
 余談だが、マナー上正しい割り箸の割り方は、割り箸を横向きにして、手を上下に引き、パキッと割る、らしい。ついでに、味噌汁から食べ始めるのも、マナーだそうだ。ご飯から食べ始めると、お箸にご飯粒がこびり付いてしまい、大変見っとも無いが、先に味噌汁を食べていると、お箸が湿るので、ご飯粒がお箸に付きにくくなるんだそうだ。兜が性格上、100%マナーに反したのは、言うまでも無い。
 そこからは、次々と料理が運ばれて来た。全員、雑談を交わしながら、箸を口へと運んでいった。

 食べ終わり、行くところもないのでとりあえずペンションに戻ると、時刻は2時を回ったところだった。
空恵「あ、お帰りなさいませ」
 扉が開く音が聞こえ、空恵は玄関へと出向いた。9人を見つけるなり、そう言った。それぞれに、計5個のカギを渡す。3つを兜が、1つをユーマが、残りの1つを恩田が受け取った。
二階堂「これから、9人でトランプでもやりましょうか?」
 二階堂の提案に、特に反対するものはいなかった。
 ペンション空は、2階建ての小さな民宿。2階は全て客室で、客室は計10部屋だ。どれも、あまり広い部屋ではない。そして1階には、管理人室(つまり、大地と空恵の仕事部屋)、露天風呂とその脱衣所、キッチンに食堂、管理人の自室(つまり大地と空恵の生活スペース)、そして客なら誰でも使ってよい、ラウンジがあった。それほど大きな部屋ではなかったが、9人ぐらいなら、余裕で入る事が出来る。テーブルもあるし、トランプをやるには絶好の空間だった。
 とりあえず、全員1度部屋に戻り、コートを脱いだりカバンを置いたりした。そして二階堂は、トランプをカバンから引っ張り出した。
 余談だが、トランプの4つのマークはそれぞれ14〜5世紀のヨーロッパ社会層のシンボルを表しているらしい。当時のヨーロッパでは、社会は貴族、商人、農家、僧侶に分かれており、スペードは槍=貴族を表し(当時、貴族は槍を持っていた)、ダイヤは宝石=商人を表し、クラブ(色々な読みがあるが、本来は「クラブ」)は棍棒=農夫(農家)、ハートは聖杯=僧侶を表しているのだ。ちなみに、スペードのエースが大きい理由は、当時のイギリスがトランプに課税していたため。その課税証明として、スペードのエースが印刷されたのだ。そのため、偽造できないよう、柄を大きくし、細かい装飾を施したのだ。
 ラウンジの天井では、小さくレトロなシャンデリアが輝いている。少し大きめのテーブルと、その3辺を取り囲む3つの大き目のソファー。残った1辺には、1人掛けのソファーが3つ、並べて置いてある。
 一番に入って来た真実は、大き目のフカフカのソファーに寝転がった。そして嬉しそうに、伸びをする。
謎「他の人たちは、まだみたいね」
 少し遅れてメイが入ってきて、真実の頭の方にある、1人掛けのソファーに座った。
真実「そうねぇ」
 寝転がったまま、真実が言った。
真解「何でもいいけど、3人掛けを1人で占領するな」
 入り口から真解が現れた。一緒に、謎事もいる。
真実「あ、お兄ちゃん♪」
 真実は起き上がり、ソファーに腰掛けた。真解に隣に座るよう、無言で伝える。真解はため息をついて、それに従った。
 そして、続々と、他の人々も集まり出す。割とすんなり全員が揃い、トランプ大会が開始された。とりあえず手始めに、ポーカー大会が開始される。
大地「楽しそうですな」
 通りかかったオーナー大地が、話しかけてきた。
真実「あ、オーナーさん。一緒にやります?」
大地「いや、わたしは結構」
 大地は片手を軽く振った。
真解「そう言えば…ボクら以外の宿泊客を見かけませんが、他にいないんですか?」
 唐突に聞く。「ええ、まぁ」と大地は軽く答えた。
大地「あなた方の泊まる、二泊三日の期間中は、あなた方以外、誰も泊まりませんよ。どうぞ、ごゆっくり」
 そう言うと、大地は食堂の方へと姿を消していった。
ユーマ「へぇ、我々だけとはね。なんとまぁ」
二階堂「いいじゃない。貸切みたいで」
ユーマ「確かにな」
 ユーマは自分の手中のトランプに、目を移した。物凄く負けそうな札だ…と、思った。

二階堂「真解くん、すごいわね…! 連戦連勝じゃない!」
 10回やり終えた時、二階堂が思わず言った。他の全員も、同じ事を思っていたようだ。
恩田「運良いんだねぇ」
真解「はぁ…まぁ…」
 なら、なんでいつもいつも事件に巻き込まれるんだ…? 心の中で、呟いた。それとも、運が良いから、なのか?
謎事「なのに、なんでオレは毎回ビリなんだ?」
「少し運を分けてくれ」と真解に言った。「無茶な…」真解は言い返した。
真実「でも、毎回役無しってのも、確率的にはすごい事よ? だって、ポーカーでワンペアが出る確率が、約50%なんだから。まぁ、配って終わり、じゃなくて、何回か交換できるから、話は違ってくるけど…」
真解〔…って、じゃぁ確率はもっと低くなるってことか?〕
真実「うん、そう言う事。でも、他の人が何引いたかわからないと、確率計算できないけど」
真解〔…だから、人の心を読むな〕
真実「52枚のトランプの中からランダムに5枚引き出して、10回中1回もワンペアが出てこない確率は‥1024分の1。およそ0.1%! 謎事くん、すごいじゃない!」
謎事「嬉しくねぇよ!!」
 謎事が突っ込み返した。
真解〔しかもそれって、あくまで『ワンペアが出ない』確率なんだろ? って事は、ツーペア、スリーカードが出る確率もそれに含まれるわけで…〕
 真解も思わず考え出したが、これ以上思考が進まない。真解はあっさり諦めた。
謎「では…運だけではなく、作戦も練れるゲームにします?」
謎事「でもオレ…作戦立てるの、苦手なんだよな…」
兜「全部ダメと言う事ではないか」
謎事「う…」
 思わず、言葉に詰まった。

空恵「お夕食の時間ですので、そろそろ食堂にお集まりください」
 食堂から顔を出し、ラウンジの9人に空恵が言った。「は〜い」「わかりました」「了解」などなど、色々な返事が返ってきた。それを聞き、空恵は顔を引っ込める。
大地「今回のお客さんは、楽しそうだね」
 料理の仕上げをしながら、大地は空恵に言った。
空恵「ええ。楽しんでもらえて、何よりね」
 ニッコリと微笑んで、空恵が言った。
大地「ああいうお客さんが来てくれると、ペンションを作って良かった、と思える…な」
空恵「そうね。でもあなた…」
大地「なんだい?」
空恵「たぶんそれ、塩じゃなくて砂糖だと思うわ」
大地「・・・・・・・・・・・・・・・あ」

大地「申し上げございません!」
 誤って砂糖を入れた事を、大地が深々と謝った。
兜「いや、大丈夫ですよ。食べられますから」
「作り直します」と大地は言ったが、「大変でしょうから」と、兜はそれを拒んだ。間違って砂糖をかけたのは、最初の一皿だけだったらしい。一皿だけなら、わざわざ作り直すより、誰かがそれを食べた方が良い。兜はそう言ったのだ。
 食堂には、洒落たテーブルクロスのかかった、4人掛けのテーブルと2人掛けのテーブルがいくつかあった。そのうち、4人掛けを2つ、2人掛け1つをくっ付けてもらい、真解たちはそこに座った。
 目の前に、洋風料理が運ばれてくる。さほど豪華でもないが、美味しそうだ。
「いただきます」と小さく言って、真解は料理を食べ始めた。
真実「あれ? お兄ちゃん、飲み物取ってこないの?」
真解「え?」
 真解は顔を上げた。そして、左前方に逆さになったままのカップがある事に気がついた。振り向くと、キッチンの近くに、ポットがいくつか置いてある。飲み物は自分で注ぐらしかった。おそらく、いくつか種類があるのだろう。
真実「いいや。わたしが取ってくるね」
 真実は手を伸ばして、真解のカップを取り、ポットの方へと歩いて行った。謎事、メイ、兜も一緒に行ってしまった。
 そこには、真解だけが残された。

南「いただきます♪」
 嬉しそうに南はそう言い…食べるのかと思いきや、突然後方を見た。南にとっての後方…キッチンの方である。
ユーマ「どうしたんだ?」
 何も言わず、黙々と食べ始めていたユーマが聞く。南は答えず、目を鋭くしたまま後方をしばらく確認し…パッと前方を見た。
南「ほら、これ、可愛いから♪」
 そう言うと、南は突然砂糖の入った細い紙のパック(いまだにこれの名前がわからない…)を鷲掴みにし、自分のポシェットの中にぶち込んだ。
ユーマ「…お前は…全く…」
 額に手をやり、ユーマは呟いた。
南「あ、自分の砂糖まで入れちゃった」
 南は1度しまった砂糖を、またポシェットから引っ張り出し、自分のコーヒーに入れた。
二階堂「あれ? モモ、コーヒー、ダメなんじゃなかった?」
 ザーー ー ・・・ と砂糖を注ぎながら、南が止まった。「あ」と小さく言った。
恩田「ダメ?」
二階堂「ほら、いつだったか、コーヒー飲んで気持ち悪くなっちゃった時が…」
恩田「ああ、そう言えばそんな事が」
南「忘れてた…ねぇ、エマ、飲んでくれない?」
二階堂「ごめ〜ん。あたし、コーヒー好きじゃないから…」
南「あれ? そうだったっけ?」
二階堂「うん、なんとなく…」
ユーマ「俺が飲もうか? この紅茶やるから」
南「あ〜、いや…いいわ。換えさせてもらってくる」
 南はカップを持って立ち上がった。
二階堂「…ま、いいや。あたしも、いただきます」
 そう言って、二階堂も目の前の入れ物から、砂糖の入った細い紙のパック(やはり名前がわからないが…)を一袋取り、自分の紅茶に入れた。
兜「俺は砂糖よりも、塩が欲しいところだな…」
 兜が小さく、ポツリと呟いた。
真解〔…大人って、大変だなぁ…〕
 真解は小さく、ポツリと感謝した。

Countinue

〜舞台裏〜
どうも、キグロです。今回のゲストは謎事くん。
謎事「どうも。…って、ホントに順番バラバラだな」
まぁ、良いじゃん。今までだって、別に規則的にやってたわけじゃないし。

さて、今回はやたらと長くなります。
謎事「へぇ? なんでわかるんだ?」
今までは、本編と舞台裏を平行して書いていたんだけど、今回はわけあって、本編だけを先に全部書いてね。
謎事「ふぅん…。何編ぐらいいくんだ?」
それは…なんとなく秘密。ただ、「真相編だけで2編行く」とだけ…。

では、この辺で。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

登山編を読む

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