摩訶不思議探偵局〜魅惑の恋人たち〜
容疑者リスト
ユーマ(ゆーま)…【南の恋人】
南 百子(みなみ ももこ)…【ユーマの恋人】
恩田 悠(おんだ ゆう)…【二階堂の恋人】
二階堂 絵真(にかいどう えま)…【恩田の恋人】
天木 大地(あまぎ だいち)…【ペンションオーナー】
天木 空恵(あまぎ そらえ)…【オーナー夫人】

摩訶不思議探偵局〜魅惑の恋人たち〜推理編

 温泉から上がり、メイは温泉の入り口のドアを開けて廊下へ出た。慌てて入ったため、替えの服を用意し忘れていたのだが、真実が用意してくれたらしい。メイが温泉から出ると、脱衣所にはメイの着替えが用意してあった。
 廊下に出て、ラウンジへ向かう。が、ラウンジ内からは、誰の声もしない。不審に思い、メイはラウンジのドアの窓から、中を覗き込んだ。中には、ソファーに向かい合って座る南と恩田の姿がある。ユーマと二階堂は…ベランダにいた。先ほど、メイと謎事をびしょ濡れにした雨は、既にすっかり止んでいる。ユーマと二階堂が空を見ながら会話をしているところを見ると、おそらく、雲も無いのだろう。山の天気は変わりやすい、と言う事か。
 余談だが、山の天気が変わりやすい理由は、その激しい起伏。暖かい空気は上へ行き、冷たい空気は下に行く。そして両者がぶつかるところに雲が出来る。山は起伏が激しいので、両者がぶつかりやすく、雲が出来やすい。そのため、天気が変わりやすいのだ。
 ラウンジには、真実たちの姿は無い。だが、ドアの死角になって見えないだけかも知れない。メイはドアを開けた。
南「あら、メイちゃん」
謎「今晩は…」
 ドアから半分体を乗り出し、メイは小さく頭を下げた。
謎「あの…真実ちゃんたちは…?」
恩田「あの子たちなら、さっき上に行ったよ。兜さんの部屋に集まるって。君への伝言を僕に頼んで」
謎「そうですか…ありがとうございます」
 軽く頭を下げ、ドアを閉めた。
 メイは少し混乱していた。南とユーマ、二階堂と恩田が、それぞれ恋人同士のはず…。だが、いま、それが入れ替わっていた。サークル仲間と言うから、別に、仲が良くても全く不思議はないが…。
 階段を上るとすぐ目の前が兜の部屋である。メイはノックして、ドアを開けた。
真実「あ、メイちゃん。お帰り!」
 入り口の正面、窓の手前。入ってきて真っ先に目に留まる位置に、真実が座っていた。配置は、昨日と全く同じだ。
謎事「お帰り、メイちゃん」
真解「お帰り」
「お帰り」…なのかどうかわからないが、真実につられ、謎事、真解も「お帰り」と声を掛けた。それにつられて、メイも「ただいま」と返事をした。
兜「お帰り、事河嬢…」
 兜が小さく言った。兜は、何やら自分のバッグを漁っている。何かを探しているようだ。
謎「どうしたんですか? 兜警部…」
兜「いや、それがな…タバコが無くてな…」
謎「タバコ…?」
兜「ああ、そうだ…さっきからずっと探しているのだが…」
 困ったような顔で、ひっきりなしにカバンを漁る。「『タバコを吸うな』って言う神の啓示よ!」と、楽しそうに真実が言った。
真解〔真実が隠したんじゃないだろうな…?〕
 が、真実はそんな事まではやらない。たぶん、違うだろう。
 余談だが、タバコにはニコチン、アルデヒド、アンモニア、酢酸、硫化水素、カテコール、シアン化水素、フェノールなど、ありとあらゆる有毒物質が含まれている。タバコの中身を水に浸すとこれらが流出するので、タバコを道に捨てたり、排水溝に入れたりすると、これらが溶け出してとんでもない事になる可能性がある。逆に、これらが流出した液体を蒸留し、出来た液体を針につけて人に刺すと、相手を殺害する事が出来る。が、決してやってはならない。
謎事「それよりオレは、あっちが気になる…」
真実「? どうしたの、謎事くん。珍しく真剣な顔で」
謎事「め、珍しく…?」
 じゃぁ、オレは普段どんな顔をしてるんだよ…。突っ込みたかったが、悲しくて突っ込む気力が出なかった。
謎事「あれだよ。メイちゃんの目の前に花びんが落ちてきたやつ!」
 謎事が声を大にして言う。「確かに、そうだな…」と真解が小声で呟いた。
真実「そうよねぇ…あんないたずら、誰がやったのかしら?」
 真実が小首を傾げた。メイが、真実の横にストンと座る。
真解「いたずらにしては、度が過ぎると言うか、面倒と言うか…」
 第一、あんないたずらをしそうな人間が、いま、このペンションにいるとは思えない。
謎「兜警部は知っているんですか? 花瓶の一件は」
兜「ああ。さっき、3人から聞いた」
 やはりタバコを探しながら、兜が答えた。
兜「だが、話を聞くと、どうも不思議でならない」
真実「何がですか?」
兜「それをやった奴は…どんなトリックを使ったんだ?」
真解「? と、言いますと?」
兜「つまりだ、事河嬢がドアを開けた瞬間、花びんが落ちてきたんだろう? どんなトリックを使ったんだ?」
真実「そのぐらいは簡単ですよ!」
 普段、推理は専ら真解の仕事だが、今回は真実が説明を始めた。
真実「あそこには、ドアとほとんど同じ高さの棚が、ドアのすぐ横にあります。だから、あの花びんを、ドアのすぐ近く、ギリギリのところに、落ちる直前ギリギリのバランスで置いたんです。そうすれば、ドアを開ける勢いで花びんが落ちるでしょ?」
兜「だが、そしたら、犯人はどうやって外に出たんだ? ドアを閉める時の勢いで、花びんが落ちそうだが…」
謎事「それは簡単スよ」
 今度は謎事が説明を始めた。
謎事「あの時、ドアは微妙に半開きだった。だからたぶん犯人は、棚とドアにまたがって花びんを置いたんスよ。半開きのドアの隙間から、腕を通して」
兜「ああ、なるほどな…。それなら、ドアを開けた瞬間、必ず花びんが落ちる…」
謎事「問題は、『誰』が…? そして『何のため』に…?」
「珍しく真剣な顔」で、謎事が考え込んだ。そう、確かにその通りだ…と真解は思った。さっき言ったとおり、いたずらにしては少し行き過ぎている気がする。
謎事「犯人は、メイちゃんの直前に温泉に入った人……南さん?」
真実「え〜、そうかなぁ?」
 謎事の推理を、真実が否定する。
真実「確かに、最後に温泉に入ったのは南さんだけど…南さんがラウンジに戻ってきてから、みんな、何回かラウンジ出てるよ。トイレ行くとか、ジュース買って来るとかで…。それに、大地さんと空さんは、ラウンジに顔出さなかったし…」
謎事「そうか…じゃぁ、誰が犯人でもおかしくないのか…」
 ハァ、と謎事はため息をついた。犯人は、誰なんだ…?
真実「誰かしらねぇ…?」
 なんとなくのん気な声。真実は立ち上がり、昨日と同じく窓を開けて身を乗り出した。涼しい風が、部屋の中へ入ってくる。
真実「…南さん、もう寝ちゃったのかな? さっき部屋に戻ってたけど、明かり点いてないし…」
 隣の部屋の窓を見て、真実が言う。窓から明かりが漏れていない。眠っているのか、また外に出たのか。
謎「南さんならさっき、ラウンジにいたわよ。 …恩田さんと一緒に」
真実「恩田さんと?」
 真実がメイの顔を見る。メイは黙って頷いた。
真実「じゃぁ、ユーマさんは? 恋人なのに」
謎「ユーマさんは、二階堂さんと一緒にベランダで談笑してたわよ」
真実「……ふぅん…」
 ニマッと真実が笑った。
真実「怪しい臭いがするわね。いよいよサスペンスの始まり?」
真解「いや、別に怪しい事無いだろ。大学のサークル仲間なんだから」
真実「いやいや、これはきっと、何かあるわ。2時間サスペンスみたいな、何かが…」
 ニマニマ笑いながら、真実はまた窓の外に身を乗り出す。隣の窓からは、まだ明かりが漏れてこない。
真実「……あれ?」
「ねぇねぇ、お兄ちゃん…」と、真実は真解に呼びかけた。
真解「なんだ?」
 立ち上がらず、真解は聞く。それでも構わず、真実は続ける。
真実「ミカンのトゲが、無くなってる」
真解「…トゲ?」
 真解は思わず眉をひそめた。トゲが無い? そんなバカな。自分の目で確かめようと思ったが、メイと謎事が立ち上がったので、止めた。メイも首を外へ出し、謎事もその後ろから身を乗り出す。
真実「ほら、あそこ」
 と、真実は隣のミカンの木を指差した。
謎事「ホントだ…窓に近い部分にあったトゲが、無くなってる…」
謎「…でも、何故でしょう…?」
真実「さぁ…? 兜警部のタバコも、ミカンのトゲも無くなっちゃった…」
真解〔タバコとトゲ、ねぇ…〕
 奇妙だが、微妙な偶然だ。真解は色々考えたが、考えるに値しないと結論付けた。
真解〔………タバコと、トゲ、ねぇ…?〕
 考えるに値しない……と思ったが、何故か考えを止められなかった。何か…気になるような……?
真解「・・・・・・・・」
 真解はうつむいて考え始めた。なんだ? 何かが…。
 そして、その時だった。
 パシッと言う音がし(たような気がし)て、真解の視界が一瞬真っ白になった。そして…今までの全ての事が、瞬間的に脳裏に流れた。
 兜が家にチケットを持ってきて、車に乗り、遠路を走り、ペンション空にやって来て、ユーマたちと出会い、昼食を食べ、トランプをやり、夕食を食べ、次の日の朝食、山登り、昼食、トランプ、雨、そして、今に至る…。その全てが、瞬間的に、しかし少しの漏れも無く、脳裏を駆けた。
 まさか、そんなバカな…いや、だけど……!
真解「見え、た……?」
 自分が信じられなかった。だが、無理矢理信じた。もしそうだとしたら、時間が無い。
 いつもは、目に見える事件が起こってから、事件を解決する。だが今回は…「目に見える事件」が起こっていない。しかしそれでも、事件は事件だ。「目に見えない事件」が…「殺人未遂」と言う名の事件が、既に2つも起こっている。そして、おそらく、次こそホントに「目に見える事件」が…。
(キグロ注;この時、真解は知らなかっただけで、実際には3つの事件が起こっている)
 ガタッと真解は突然立ち上がった。クルリ、と振り向き、ドアに向かって歩き始めた。
真解「行くぞ、3人とも。急いで真相編の準備だ! 2時間サスペンスにはさせないぞ」
真実「え、お、お兄ちゃん?」
 慌てて真解を振り向く。真実も謎事もメイも、動揺した目で真解を見た。
真実「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん、どうしたの? どこ行くの? 真相編って…何の?」
 真実の問い掛けに、真解はドアの目の前で足を止めた。そして、またクルリと振り向いて…ニヤリと笑い、言った。
真解「これから起こる、殺人事件の真相編…さ!」

Countinue

〜舞台裏〜
さぁ! やっと、今回の事件の全貌をお見せする事ができました!
今回のゲストは、実相 真解くんです!
真解「なかなか事件が起きないなぁと思っていたら…」
そう、その通り! 事件は既に起きていた!
真解「…なんか、今日はハイテンションだな、キグロ」
ニヤリ。
真解「…ボクのマネか?」

と、言うわけで、今回は推理を募集いたします。
真解「と言ってもなぁ…。今回はいつもと少し違うし…」
そう、今回の事件は、「連続殺人事件」ならぬ「連続殺人未遂事件」!
真解「しかも、事件らしい事件、ほとんど起きてないし」
と、言うわけで…募集内容は、今回たくさんありますよぉ…。
「犯人は誰か」「“被害者”は誰か」「殺人未遂はどこで起こっていたのか」「これから起こる殺人事件とは何か」
この4つです!
真解「1つヒント…殺人未遂は3回起こっていますが、“被害者”は1人です」
なお、今回は2人(ユーマさんと二階堂 絵真さん)、ゲストが来ていますが…この配役は「人生ゲーム」のルーレットを使って決定したものですので、この2人のどちらかが、犯人(又は“被害者”)である可能性も、もちろんありますよ…?
あとそれと、「動機」も、100%ではないけど、ある程度予測する事は可能です。余裕のある方は、どうぞ。
真解「推理のあて先は、【kiguro2@yahoo.co.jp】です。間違っても、掲示板等には書き込まないでください」
(推理の募集は、終了いたしました)

そして…今回のプロローグの舞台裏で言ったとおり、前回から、正解者賞品の形式が、すこ〜し変わりました。
今までは、こちらが決めた賞品を強制的に送りつけていたのですが、前回から、選択式に。
主に、「摩探外伝」と「小説登場」のどちらかを選んでいただく事になります。
「摩探外伝」は、そのうち一般公開しますが、小説と言うのは、何度も書き直すもの…。
ここで送らせていただくのは、「直す前」の小説。つまり、一般公開されるのとは、微妙に違う部分がある、と言うわけです。まぁ、言ってみれば「レア物」ですね。

さらに、今回からの変更点。
そろそろ、「別に大した賞品じゃねぇんだから、出し惜しみすんな!!」と苦情が来そうで怖いので、正解者賞品を送る条件をやや緩和。
今までは全問正解者だけでしたが、今回のように数が多い場合は、こちらで正解数を指定。その数を上回って入れば、賞品を送らせていただきます。
今回の場合、上では「4つ」と書きましたが、「殺人未遂」は3回起こっているので、実際は6つ…。
と言うわけで、今回は4つ正解すれば、賞品を送らせていただきます。
真解「…結構、出し惜しんでないか?」
いやね…。今回、「2つ」解ける人は多いんじゃないかなと。で、「3つ」となれば、その半数ぐらいで…「4つ」なら、だいぶ難しいかな? と。
真解「…あっそう」

では、皆さんの推理、お待ちしております。

「摩探公式HP」⇒【http://page.freett.com/kiguro/makahusigi/index.html

作;黄黒真直

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