摩訶不思議探偵局〜逆密室殺人事件〜

主な登場人物( )内は読み、【 】内は役
実相真解(みあい まさと)…【主人公・探偵】
実相真実(みあい まさみ)…【探偵】
相上謎事(あいうえ めいじ)…【探偵】
事河 謎(ことがわ めい)…【探偵】
兜 剣(かぶと つるぎ)…【警部】
猫山検事(ねこやま けんじ)…【警部補】
小鳥遊市医(たかなし いちい)…【鑑識】
高部文男(たかべ ふみお)…【被害者】
高部志穂(たかべ しほ)…【被害者の母親】
三井 善(みい よし)…【被害者の友人】
小立 唯(こだち ゆい)…【被害者の友人】
青山のどか(あおやま のどか)…【被害者の友人】
はしがき;今回は、久々に猫山さん、小鳥遊さんが登場します。

摩訶不思議探偵局〜逆密室殺人事件〜事件編

そいつの正体、オレが暴いてやるさ。絶対に!

 摩訶不思議探偵局兼真解と真実の部屋に、三度兜が事件を持ってやってきた。
真実「またですかぁ、兜警部」
兜「いや…確かに事件は事件だが、今回は『捜査依頼』じゃない」
真解「と、言いますと?」
兜「ただの事情聴取だ。いま調べてる事件の被害者とお前らが、親しかったと言う情報を入手してな…」
謎事「親しかった?」
兜「ああ、そうだ。おととい発生したばかりの事件で…昨日は遊学学園に聞き込みに行ったんだがな。珍しくお前らに出くわさなくてな」
真実「おととい…って事は…あ、高部(たかべ)先輩の事件ですか?」
兜「その通りだ」
 そして兜は手帳を取り出して、広げた。お茶を少し口に入れてから、話を続けた。
兜「被害者は、お前らも知っている高部文男(ふみお)。高校2年の17歳。お前らと同じ部活で、親しい間柄、と言う情報を得たが?」
謎「親しい…と言いましても、それほどでは…」
兜「なんだ? そうなのか?」
真実「はい。…そうね。メイちゃんはやたらと話しかけれれてたけど」
謎「それもそうですね…。わたしは先輩にほとんど口を開いてませんけど、先輩は一方的に話し続けますから…傍から見れば、親しい間柄だったかもしれません」
兜「ほぅ…」
 兜は一瞬何かを考え込み、手帳に何かを書き込んだ。
兜「じゃぁ、他の3人とは、あまり親しくなかったんだな?」
 念を押して、その事をさらに書き加える。
兜「しかしお前ら、部活に入ってたんだな。昨日までまるで知らなかったぞ。確か…ミステリー部?」
真実「ミステリー研究会ですよ。自分が作ったミステリーや、身の回りで起こった不可解な事をまとめたレポートをなどを、先生に提出するんです。先生がミステリーマニアだから」
兜「………それだけか?」
真実「それだけです。…そう言えば、高部先輩はよくミステリーを書いてましたね。この間高部先輩が書いたミステリー、わたしも読ませてもらったんです」
 真実は小さく、「…あんまり面白くなかったけど」と付け加えた。友人たちから次々と絶交され、恋人にふられ、両親からの愛も受けられなくなった男が、狂気のあまり、周りの者を殺して自分も死ぬ話だったのだが、真実はあまり好きな話ではなかった(そもそもミステリーなのか? と言う疑問もある)。
真実「一応部室はあるんで、そこでみんなでミステリーについて語ったり、自分たちの持ってる推理小説を批評しあったりもしますけど…。これは自由参加なんで、わたしたちはほとんど出てませんね」
兜「変な部活だな」
 と、そこで…兜は、真実が目を爛々と輝かせてこちらを見ているのに気がついた。不審に思い、怪訝そうな目をする。真解は、ちょっと嫌な予感がした。
真実「と言うわけで兜警部…。わたし達のレポートのネタとして、高部先輩の事件、教えてください!」
 やっぱりな…と、真解は心の中でため息をついた。兜がここにやってきて、「捜査依頼じゃない」と聞き、少し安心したのも束の間…。本当に、真実は余計な事をしてくれる。
兜「そうだな…まぁ、どうせ話す事になるだろうし、いつも世話になってるし…。良いだろう、話してやろう」
真実「やったぁ♪ お兄ちゃん、頑張って解いてね♪」
真解〔自分で聞いたんだから、自分で解けよ!!〕
 真解の心の叫びもむなしく、いつものように、真解は事件概要を聞かされる事になった。
兜「事件が起こったのは、被害者の自室…。被害者宅にある、地下室だ。そして、現場となったその部屋は、なんと密室だった」
真実「!! 密室!?」
兜「…と言っても、普通の密室とは、少し違う密室だがな」
謎「何がどのように?」
兜「そうだな…『逆密室』とでも名付けようか。事件現場は、なんと『外から』鍵がかけられていたんだ」
真実「………なにそれ。そんなの、密室でもなんでもないじゃない!」
 真実の主張はもっともだ。口に出さずとも、全員そう思ったようだ。外から鍵をかけるなら、簡単じゃないか。
兜「今回の事件の場合は、そこが重要なポイントなんだがな…」
謎「? 外から鍵をかける事が、重要…? いったい、どんな事件なんですか?」
兜「被害者は、塩素によって毒殺された…。そしてその塩素は、装置を作ってから、しばらく経ってから発生するよう仕組まれていた。被害者は睡眠薬で眠らされていたが、万が一、死ぬ前に目が覚め、外へ逃げようとした時の事を考えて、開けられないようにしたのだろう」
真解「え? でも、部屋の中からなら、鍵を開けられるのでは?」
兜「…言い方がまずかったな。正確には、鍵がかかっていたわけじゃない。被害者の部屋にはドアが1つしかなく、窓はない。外開きのドアを開けると、すぐ目の前が階段…。ドアの横幅と階段までの距離がほぼ同じだから、ここに何かが置かれると、中の人間は外に出る事ができない…。今回の場合、ドアから階段までの間に、大きな1枚の絵が置かれていたんだ」
謎事「絵?」
兜「ああ。額縁ごとな」
真解「仮に被害者が目を覚まし、ドアを開けようとしても、額縁がひっかかり、開ける事ができない…と」
兜「そういうことだ。理解したか?」
謎「はい…。それで、塩素発生装置、と言うのは?」
兜「まぁ…理科室で作りそうな物だ。現場には、使い捨てのプラスチックのお椀が2つ並べておかれていた。片方にはさらし粉、もう片方にはお酢だ」
謎事「さらし粉?」
真実「あれよ。一般的な名前だと、『カルキ』」
 理科室だのさらし粉だのお酢だの…と来れば、化学系のネタに違いない。真実が生き生きとした声で、兜の代わりに説明し始めた。
真実「さらし粉は、塩素を含んだ化合物で、これに酸性の物質をかけると化学反応を起こして、塩素が発生する…。お酢は酸性だから、さらし粉と反応させれば、塩素が出るはずよ」
 余談だが、これ以外に家庭にあるもので塩素を発生させる方法は、熱して溶かした食塩に電気を流す事である。こうすると、食塩が分解され、水酸化ナトリウムと塩素が発生する。ちなみに、水酸化ナトリウムを肌に塗ると、皮膚が溶ける。
真解「で、2つのお椀がどうなってたんですか?」
真実「たぶん、毛細管(もうさいかん)現象じゃないかな?」
兜「その通りだ、真実嬢」
謎事「なんスか、それ」
真実「ぞうきんの一部と水につけると、ぞうきんが水を吸い上げるでしょ?」
謎事「ああ」
真実「それが毛細管現象。たぶん、お椀に布が渡してあったんじゃないかしら?」
兜「ああ、そうだ。布がお酢を数時間かけて吸い上げて、隣のさらし粉にふりかける…。じわじわと塩素が発生し、すぐそばで寝かされていた被害者は、それを吸い込む。被害者は眠ったまま嘔吐し、吐瀉物が気管支に入り込んで窒息死した」
謎「先輩は、どうやって寝かされていたんですか?」
兜「頭のすぐ横に、塩素発生装置があった。まぁ、賢い寝かせ方、だな」
真実「ふぅん…」
 真実はちょっと考えてから、
真実「睡眠薬を飲まされて…って事でしたけど、犯人はどうやって先輩に睡眠薬を飲ませたんですか?」
兜「被害者の部屋にテーブルがあってな。その上に、コップが2つ置いてあった。片方は紅茶が飲みかけで残っており、もう片方は飲み干されていた。そして後者からは、睡眠薬が検出された」
真実「先輩はその時、誰かと一緒に紅茶を飲んでいた…?」
兜「と、考えられる。おそらく犯人だろう」
真解〔犯人が、先輩のコップの中に睡眠薬を入れ、先輩を眠らせた…か〕
真解「もう1つのコップからは、何も…?」
兜「ああ。何も検出されなかった。…被害者の指紋だけ、出てきたな」
 兜はまた手帳を広げ、何かを確認した。
兜「ちなみに、第一発見者は被害者の母親。発見したのは、被害者が死亡した次の日の朝だ」
真実「次の日の朝??」
兜「被害者の両親は共働きで、2人とも夜12時ごろにならなければ帰ってこない…。そして、両親は帰ってきてからすぐ寝てしまうため、被害者と会話を交わすことはほとんどなかったそうだ。で、翌日、被害者がなかなか起きてこないのを不審に思った母親が発見した」
真解「ふぅん……って、じゃぁなんでその母親は死ななかったんですか? 塩素が部屋に満ちてたんですよね…?」
兜「確かに、普通塩素で満たされた部屋に入れば、咳と嘔吐を引き起こし、呼吸不全で死亡する。ただ、室内の塩素は、量も濃度も非常に少なかった。母親の証言じゃ、部屋には1分もいなかったから、平気だったんだろう。塩素は空気よりも重いしな」
真解「そうですか…」
真実「…で、どう? 犯人わかりそう?」
真解〔いや、まだ無理だろ〕
兜「そう、まだ無理だ」
 兜が小さくため息をついた。
兜「だが、現場に犯人を示す決定的な証拠が残されていた」
謎事「証拠? 何が出てきたんスか?」
兜「髪の毛だ」
真実「か、髪の毛?」
 全員、拍子抜けたようだ。髪の毛が発見されたのなら、DNA鑑定をすればすぐに犯人がわかるではないか。
兜「容疑者全員分のDNAを採取し、現場に落ちていた髪の毛と照合させたところ、DNAが見事に一致する人物がいた」
謎事「なんだ。もう解決されてるんじゃん」
兜「まぁ、落ちていただけで『犯人』と断定は出来ないがな。被害者宅を訪れた事だけは確かであり、つまりそれだけ親しい人物、と言うことだ」
真解「まぁ、そうでしょうね」
 兜は煙草を取り出したが、真実ににらまれたので、火をつけずに口にくわえた。
兜「で、だ。もしそのDNAの持ち主が、『被害者と親しくは無かった』と証言したら、どう思う?」
真実「犯行がばれないよう、ウソをついたと考える?」
兜「その通り。そして、おれはいま、まさにそう証言した人物と出会った」
 真実はハッと、昔の事を思い出した。そう言えば、小学生の時に、一度だけ警察にDNAを取られた事があった…。
 真解もそれを思い出し、あからさまに嫌な顔をした。兜の言いたい事を、全員が理解した。
真解「で? そのDNAの持ち主は、誰なんですか?」
兜「ああ、その人物は…」
 名探偵気取りなのか、なんなのか。兜は口にくわえていた煙草を指で挟むと、それをビシッと「人物」に突きつけた。
兜「お前だよ。事河 謎嬢」
謎「わ、わたし……!?」
兜「そうだ。高部文男殺害事件の容疑者として、君に任意同行をしてもらう」

Countinue

〜舞台裏〜
皆様、長らくお待たせいたしました…摩探の新作です。
真解「ホントに長かったな」
ええ、まぁ、いやはや…。まぁ、待ってた人がどのぐらいいるのかは知りませんけどね…。
真解〔案外、いなかったりして…〕

さて、久々に書くということで、ウォーミングアップとして兜警部の依頼シリーズ第3弾を書いてみたのですが…どう言うわけか、メイちゃんを容疑者にしてしまいました。
真解「謎事が怒るぞ」
大丈夫。この事件が終わるまで、舞台裏に出さないから。
謎事「出さなくても出てやるぞ! キグロてめー! よくも(強制終了)
…ね?
真解「…何が、『ね』なのか、ボクにはよくわからないんだけど…」

兜警部の依頼シリーズは、基本的に「ミステリーの要素を1個だけ導入する」と言う方法で作っています。
真解「ミステリーの要素?」
そう。今までやったのは、アリバイ崩し(100%のアリバイ女)とダイイングメッセージ(死に際のメッセージ)。で、今回が「密室」です。
真解「…って割には、『外密室』なんて、妙な物に仕上がってるな。オマケにメイが容疑者になると来た…」
う〜ん…初めは純粋な「密室事件」を書くつもりだったんだけどねぇ…。どこでどう間違ったのやら。
おまけに、今までの経験上、1回の事件で2個以上の要素を入れようとすると、何故かどれも中途半端に終わっちゃうんだよねぇ。
謎「二兎追う者は、一兎も得ず?」
そう、まさにそんな感じ。さてはて、今回はどうなるやら…。

では、また次回お会いしましょう。

作;黄黒真直

事情聴取編を読む

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