摩訶不思議探偵局〜逆密室殺人事件〜
容疑者リスト
事河 謎(ことがわ めい)…【探偵】
高部志穂(たかべ しほ)…【被害者の母親】
三井 善(みい よし)…【被害者の友人】
小立 唯(こだち ゆい)…【被害者の友人】
青山のどか(あおやま のどか)…【被害者の友人】

摩訶不思議探偵局〜逆密室殺人事件〜推理編

 警察署の中を、出口に向かって歩きながら、真解たちは話していた。
謎事「でもなんで犯人は、メイちゃんを犯人に仕立て上げたんだ? 何か恨みでもあるのか?」
 まだ犯人がやったと決まっちゃいないし、メイが犯人と決め付けられているわけじゃないが…と真解は心の中で突っ込んだ。
真解「今回メイが容疑者になったのは、『部屋に髪の毛が落ちていたから』だ。だが髪の毛なんて、手に入れようと思って手に入れられないハズ…」
真実「そう? 簡単だと思うけど。えいっ」
 と言うと、真実は謎事の髪の毛を1本、抜き取った。
謎事「てっ。な、何をする!?」
 余談だが、髪の毛1本むしり取るだけで、刑法第204条「傷害罪」が成立する。15年以下の懲役、又は50万円以下の罰金となる。
真実「問題は、取るのは簡単だけど、ばれるって事よねぇ」
真解〔『取る』と言う行為には、『ばれない』事も含まれるんだがな…〕
謎「それにわたしは、誰かに髪の毛を取られた記憶は、ありませんよ?」
謎事「落ちてた髪の毛、拾ったんじゃねぇのか?」
真解「抜き取るよりは、そっちの方が簡単だろうな…」
真実「でも、メイちゃんの髪の毛がいつ落ちるかなんて、わかんないのに…」
真解「いや、そうでもない…。犯人が『偶然』メイの髪の毛を拾ったとしたら、どうだ?」
謎事「偶然…?」
真解「そう。犯人は、高部先輩を殺す気でいた。そこで偶然、メイの髪の毛を拾った。あるいは逆で、元々メイと高部先輩に恨みを持っていて、メイの髪の毛を拾った瞬間、今回の作戦を思いついた」
 余談だが、人間の髪の毛は1日に100本ほど、抜けている。1時間当たり約4本抜けている計算だ。だが、それが落ちるとなると、話は別である。頭に密集している髪の毛に邪魔されて、なかなか落ちないからだ。
真解「どちらにせよ、メイの髪の毛を手に入れたのは、犯人にとって運の良い偶然だろう」
 エレベーターのボタンを押しながら、真解が言った。
真解「わからないといえば、もう1つ。外側の密室は、何のために?」
真実「合鍵を作る事自体は、難しくないのよね?」
真解「猫山さんの話じゃ、合鍵があっても無くてもおかしくないって事だった」
 エレベーターが到着したので、中に入った。ドアが閉まって、下降を始める。
真実「あと、動機の問題もあるわよね?」
謎事「あ、そうか」
真解〔忘れてたのか…?〕
謎「わたしと高部先輩、両方を同時に恨む人…」
真実「青山先輩かしら?」
真解〔青山先輩…高部先輩の元恋人、か〕
真実「メイちゃんに色目を使うのを見て冷めたから、自分からフッた…って言ってたけど、本当は冷めてなくて…」
謎事「確かに、他に動機がありそうな人もいないしな…」
 そう言ったところで、エレベーターのドアが開いた。1階についたようだ。真解たちはどやどやとエレベーターから降りた。
 と、男に会った。
真実「あ、タカナシさん。お久しぶりです」
 タカナシだった。「あ、やぁ」とタカナシは言った。真解は久しぶりすぎて、一瞬「タカナシ」の字を思い出せなかった。「小鳥遊」である。鑑識の。
小鳥遊「きみ達、どうしてこんなところに?」
真実「あ、知りませんか? 高部先輩の事件…。メイちゃんが容疑者にされたやつ」
 小鳥遊は一瞬メイを見て、
小鳥遊「ああ、そうか。思い出した。髪の毛が落ちてたんだっけ?」
謎事「小鳥遊さん、メイちゃんの髪の毛って…間違いじゃないんスか?」
真解〔そこを質問しても、意味ないだろう〕
小鳥遊「まぁ、そうだねぇ…。今までにあの部屋を訪れた人の数が、数百億人以上いれば、間違いの可能性もあるけど…」
 余談だが、警察はDNAを全て調査するわけではない。DNAのうちの一部を調べるのだ。そのため、数十億から数百億人に1人、自分と同じ“DNA”を持つ人間が出てくる可能性がある。だが言うまでもなく、可能性は限りなくゼロだ。ちなみに、一卵性双生児のDNAは一致するが、真解と真実は二卵性双生児なので、DNAは一致しない。
小鳥遊「常識的に考えて、ありえないだろ?」
謎事「………」
小鳥遊「あ、そうだ。現場の写真、いる?」
 小鳥遊はカバンを開けて、何枚か写真を取り出した。…何故、いま持っているのだ? 真解は思ったが、敢えて突っ込まない事にした。
真実「いります、いります! ください!」
 真実が差し出した手の上に、小鳥遊は写真をおいた。
小鳥遊「じゃぁ、ぼくはこれで…。頑張ってね」
 小鳥遊はそう言うと、エレベーターのボタンを押して、扉を開けた。

 探偵局に帰ると、真解たちは早速、先ほどの写真を部屋に広げた。写真は全部で5枚。意外と少ない。
真実「さてと…何かいい手がかりが写ってるといいんだけどな…」
 全員、適当に写真を手にとって、じっくりと見始めた。
 真実が手に取った写真には、大きな布が写っていた。この布の下に、高部の死体があるのだ。そのすぐ横に、コップが2つ、置いてある。これが例の、「自動塩素発生装置」。もう塩素は発生していないようだ。それ以外、特にめぼしい物は写っていない。
 真解が手に取ったのは、テーブルの上に載ったコップの写真だ。紅茶のカップである。片方は空で、もう片方は中途半端に紅茶が入っている。おそらく飲みかけだ。高部はこの紅茶に睡眠薬を入れられて、眠ってしまったのだ。高部は“親しい”友人と紅茶を飲んだのだ。まさかその相手に殺されるとは、思いもしなかったろう。テーブルの上には、その2つのコップ以外、何も置かれていない。
 メイが手にしたのは、現場の写真では無かった。現場の扉を、階段から撮った物のようだ。扉は半開きにされており、踊り場の壁には絵画が置いてある。これが、高部を部屋に閉じ込めていた絵だろう。大きな風景画。この角度ではよくわからないが、踊り場に伏せたら確実に扉が開かなくなるだろう。ちなみに、扉に鍵らしきものは無い。
 謎事が手にした写真には、懐中電灯が写っていた。それと、茶色い手袋。床に落っこちていたのだろう。写真の左端ギリギリのところに、ベッドらしき物が写りこみ、反対側のギリギリのところに、いつも死体にかかっている、見慣れた布が写っていた。ベッドと高部の死体の間に、この2つが落ちていたようだ。懐中電灯が点いているのか消えているのか、この写真ではよくわからない。手袋はどこにでもある、普通の革製の物で、真新しい染みがついているように見える。
 誰も手に取らなかった最後の1枚は、部屋の入り口から部屋全体を写した写真だ。性格とは裏腹に、整然と整えられた部屋の様子が、そこには写し出されていた。壁に掛かった制服一式。そのすぐ下にカバン。部屋には机が2つあり、片方にはコップが2つ、もう片方にはスタンドが1台とノートパソコンが1台。部屋の隅に本棚があり、本が詰まっている。そしてその上に、換気扇。その近くには、ベッドがあった。後は、その他諸々の物が綺麗に置いてあるだけだ。
 全員、写真をまじまじと見た後は、互いに交換して、別な写真を見た。写真を見終わって真っ先に口を開いたのは、謎事だった。
謎事「特に、手がかりは写ってない気がするんだけど?」
真実「そうね…同感」
真解〔それじゃ困るんだけどな…〕
謎「唯一引っかかったのは、部屋が意外に綺麗だった事…ぐらいでしょうか?」
真実「あ〜、そうねぇ。高部先輩、ずぼらそうだったのに…」
真解〔女たらしだしな〕
 そんな事はどうでもいいのだ。真解はとにかく、推理を始めた。いつものように、軽くうつむき、考え始める。他の3人は真解を気にせず、話し始めた。
真実「写真がダメなら、動機で考えるしかないわね。メイちゃん、何か心当たり、ない?」
謎「………別に…」
 最近メイと高部は親しかった…と言っても、高部の方から一方的に話しかけてくるだけだ。動機なんて、知る由も無い。
謎事「……」
 と、突然、謎事が立ち上がった。
真実「どうしたの、謎事くん」
謎事「悪い、ちょっとトイレ行ってくる」
 なんだ、トイレか、と真実は落胆した。恋人(じゃないけど)が容疑者になっているのに、間の抜けた男だ。謎事は部屋のドアの取っ手に手をかけて、こちらを振り返った。
謎事「……トイレ、どこだっけ?」
真実「…謎事くん、何回この家、来てるの?」
 まぁ、何回来ていても、毎回トイレに行くわけではない。覚えていなくとも仕方が無い。真実がトイレまでの道筋を説明し、謎事は部屋を出て行った。
謎「……話すなら今のうち…で、しょうか…?」
真実「? 何が?」
謎「その…事件とは関係ないと思いますし、なんとも言いにくい事なんですけど…」
真解「なんでもいい」
 いつの間にかに、真解が推理を中断して、こちらの話を聞いていた。
真解「いまは手がかりが欲しい。なんとなく、犯人の影は見えている…あと一押しだ」
謎「そうですか…。ではますますいらないかも知れませんが…」
 しかし、過去に「つまらない手がかり」が解決へ導いた事も無くは無い。メイは言う事にした。
謎「実はその…ほんの2週間ほど前の話なのですが…わたし、放課後に高部先輩に呼び出されて…」
真実「あ、そう言えば、『用事があるから先に帰ってて』って言った事、あったわよね。あの時?」
謎「ええ…。実はその時、高部先輩に告白を…されて…」
 それだけで、メイは顔を赤らめている。いやはや、いまどき珍しい純情な少女だ…って。
真実「ほ、ホントに!?」
謎「ええ、まぁ…」
謎事「何がだ?」
 ちょうどその時、謎事が部屋に入ってきた。ギリギリセーフだ。
真実「なんでもないわ」
謎「なんでもありません」
真解「なんでもないさ」
 3人は同時に言った。危ない危ない……。もしも謎事が今の事を聞いたら、どうなった事か…。まぁ、高部はもう、死んでしまっているが。
真実「ま、まぁ確かに、手がかりにはならなかったわね」
謎「ですよね?」
謎事「………?」
 首を傾げながら、謎事は自分が先ほどまでいたところに座った。「まぁいいや」と呟いた。
謎事「で、真解。ナゾは解けたか?」
真実「謎事くん、『オレが解く』って高らかに宣言してなかった?」
謎事「う、いやまぁ、そうだけど…ハハハ…」
 愛のために宣言した事だが、結局は真解になげうってしまったようだ。笑う謎事を見ながら、真解は軽くため息をついて、重い口を開いた。
真解「…なんとなく、見えたような気はする」
真実「な、なにそれ…?」
真解「ほとんどの疑問に答えは出た。犯人の正体もわかった。状況証拠もある。ただ…物的証拠があるとは思うけど、確信が無い。それに、動機もわからない」
 証拠が無いんじゃ、犯人を追い詰める事は出来ない。悩む真解を見て、真実はニヤッと笑った。
真実「そんなの心配いらないわよ」
真解「どうして?」
真実「兜警部に犯人が誰か言えば、きっと証拠を見つけてくれるわよ! ほら、言って」
 真実は早速携帯電話を取り出すと、アドレス帳から兜の電話番号を見つけ、電話をかけた。それを強制的に真解に押し付ける。押し付けられた真解は、しばらくの間、無機質なコール音に耳を傾けた…。

Countinue

〜舞台裏〜
はい、と言うわけで、次回は真相編でございます。
真解「意外に普通の長さだったな」
どんな大長編になると思ってたんだよ…。
真解「逆だ。短いと思ってたんだ」
…あ、そう。

さて、ではいつもどおり、推理の募集を…。でもちょっといつもと違いますが。
真解「何がどう違うんだ?」
いやぁ…なんか言いづらいんだけど…今回からしばらく、賞品がなくなります。
真解「…やっぱり」
いや、「やっぱり」ってなんだ。
真解「次回作がいつ出せるかわからないって事は、『次回作出演』が募集できない…。さらに『外伝小説』も書けないとなれば、賞品がなくなるのは当然…」
う…そうズバズバ言い当てられると気分悪いな…。一応、外伝小説は書き溜めてあるんですけどね…そろそろ一般公開したいな、とも思って。まだ2本しか一般公開してないし。
真解「…しばらく本編が書けないから、外伝小説でその『間』を埋めようと言うわけか?」
ま、まぁ、そんな感じかな? ははは…。

と言うわけですので、推理を送りたい方は、【kiguro2@yahoo.co.jp】へ直接送るか、【摩探公式HP跡地】よりメールをください。
もちろん、送ったところで何も起きないので、「解けたぜ!!」と言う報告用にお使いください。
メールアドレスをご記入いただければ、そのうちキグロより返信が行く…かもしれません。
(推理メールの受付は、終了いたしました)

最後に、ひとつだけちょっとヒント(?)を言っておくと…。
キグロが好きなのは、数学の問題のように、
「なかなか解けないんだけど、あるひとつの事に気がつけば、スパパパパーン!と解ける」
と言う、解いた時に快感が得られるものです。
『摩探』は出来る限りこれを目指して書いているのですが…
今回は、ちょっとミスをして、これからかけ離れたものになってしまいました。
まぁ、いままでも、あまり成功した事は無いのですが(ぉぃ
…以上がヒントです。では、また次回。

作;黄黒真直

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