摩訶不思議探偵局〜逆密室殺人事件〜
容疑者リスト
事河 謎(ことがわ めい)…【探偵】
高部志穂(たかべ しほ)…【被害者の母親】
三井 善(みい よし)…【被害者の友人】
小立 唯(こだち ゆい)…【被害者の友人】
青山のどか(あおやま のどか)…【被害者の友人】

摩訶不思議探偵局〜逆密室殺人事件〜真相編

 コール音は、数秒で切れた。「もしもし」と言う兜の声が聞こえた。
真解「兜警部ですか? 真解ですけど…」
兜『おお、どうだ? ナゾは解けたか?』
真解「ええ…まぁ…証拠も動機もありませんけど」
兜『元気ないな?』
真解〔そりゃぁ、証拠も動機もなけりゃなぁ…〕
 真解は頭をかいた。とりあえず、犯人の名前と、それを示す状況証拠を兜に告げれば、後は向こうがやってくれるだろう。真解は一度咳払いすると、話し始めた。
真解「一応、犯人はわかりました」
兜『ほぅ、誰だ?』
真解「…被害者、高部文男自身ですよ」
兜『…は?』
真実「じさつぅ!?」
 兜より、真実の方が大声を上げた。真解は、ケータイにつけていない方の耳を塞いだ。うるさい。
真実「あの先輩が!? どうして!?」
真解「だから、それがわからないんだってば」
兜『何か、根拠はあるのか?』
真解「根拠と言うか…状況証拠が4つ、あるんです」
兜『話してみろ』
真解「そうですね…。とりあえず、あの日、あの場所で何が起こったのか、順を追って説明します」
 状況証拠が出て来た時、それについて語りますから…と、真解は自分の推理を話し始めた。

事件当日 深夜
 高部文男は、自室にて、これからやる事を確認していた。床にはお椀が二つ。1つには薬局で買ってきたさらし粉。もう1つには、台所から頂戴したお酢。どちらのお椀にも、指紋がつかないよう、手袋をして持ってきた。
 高部は手袋を外すと、床へ投げ落とした。普段は散らかり放題の部屋だが、その時は、床にはお椀と、偶然手に入れた後輩の少女(事河 謎)の髪の毛以外、何も置かれていない。

真解「最初の状況証拠は、これです」
兜『? 手袋か?』
真解「手袋も、もしかしたらお酢が検出されるかもしれませんが…。そうではなく、部屋が異様に綺麗だった事です」
謎「立つ鳥、跡を濁さず…」
 メイがポツリと言った。自殺をする者は、その前に身辺整理をし、部屋を掃除する…と言うのは、よくある話だ。高部のケースも、これだったのかもしれない、と真解は言った。
兜『なるほどな…。それで?』

 高部は一度部屋から出て、再度台所へ向かった。紅茶のパックとコップを2つ用意して、カップに紅茶を注ぐ。片方にはたっぷりと、もう片方は半分程度。
 それを持って、再び自室へと戻る。テーブルの上に2つのコップを置けば、準備は完了。高部はたっぷりと紅茶を注いだカップに、睡眠薬を溶かした。カップを少し回してそれを溶かした後、一気に飲み干した。

真解「2つ目の状況証拠が、これです」
兜『なんだ?』
真解「2つの紅茶のカップには、高部先輩の指紋が残っていたんですよね? そして、それ以外には何も残っていなかった」
兜『ああ。…睡眠薬の痕跡は発見されたが』
真解「でしょう? でも、それっておかしいですよね。片方の紅茶は、飲みかけだった…。ならば当然、それを飲んでいた人間の指紋がつくハズです」
兜『拭き取ればいいじゃないか』
真解「そしたら、高部先輩の指紋も消えるハズです。犯人が高部先輩の指紋を拭き取れるチャンスは、高部先輩が眠った後だけ。と言う事は、それから指紋がつく事はありません。もちろん、つけようと思えばつけられますが…犯人に、そんな事をするメリットは無い」
「そうか…」と兜は納得したが、謎事が「手袋してたんじゃねぇの?」と突っ込んだ。
真解「それも無い。そんな事してたら、高部先輩に不審がられる。…ちなみに兜警部。聞き込みに周った人間の中で、常時手袋をしていた人間は?」
兜『…いない』
 真解は謎事を見た。それなら、手袋をしていたら不審がられるだろう。そんな危険を冒すより、最後に指紋を拭き取った方が良い…。しかし、そのような形跡は無い。つまり、指紋の人物…高部自身が犯人、と言える。
真解「ちなみに、兜警部は『飲みかけのカップ』と言う表現をしましたが、そのカップは飲みかけだったのではありません。元々半分しか紅茶を入れていなかった…ただそれだけの話です」
 コップに入った水の量が少しの時、それが「初めから少ししか入れなかった」のか、「少し残して他を飲んだ」のか、後から見た人間には判断がつかない。「飲み残し」だと一度思い込んだら、「初めから少しだった」とは考え付かない物だ。
真解「話はまだまだ、続きます」

 ここからは時間勝負だ。高部は思った。睡眠薬が効き、眠ってしまう前に、全ての用事を済ます必要がある。
 まず、2つのお椀に布を渡した。毛細管現象…この間、生物の授業で習った現象だ。まさか、学校の授業がこんなところで役立つとは…夢にも思わなかった。
 余談だが、植物は水を吸い上げる時に、(本人達が自覚しているかどうかはともかく)この毛細管現象を利用している。
 次に、懐中電灯を持つと、急いで部屋から出た。そして、2階へと階段を駆け上がる。物置と化した部屋の戸を開けると、物をかき分けて、奥にあるブレーカーを目指した。高部は背伸びをすると、自分の部屋の電源を完全に落とした。

真解「3つ目の状況証拠がここ…。高部先輩の家のブレーカーは、2階の、しかも物置と化した部屋の奥にあった。そんなところにあるブレーカー…その家の人間でなければ、所在を知っているはずがありません」
兜『…言われてみれば…そうかも知れないな…』
真解「他人の家の部屋割りって、意外と覚えてないものですからね。さっきだって、謎事は我が家のトイレの場所を忘れていました」
真実「あ、そう言えば」
「トイレどこだっけ?」と聞いてきた謎事に場所を教えたのは、真実だ。
真実「でもお兄ちゃん。高部先輩に聞けば、わかるんじゃないの? ブレーカーの場所ぐらい」
真解「うん…実は、ボクもそれは思った。だから、この状況証拠はちょっと弱いと言わざるを得ない」
兜『…それで、4つ目は?』
真解「4つ目は…」

 ブレーカーを落とした後、今度はリビングへ向かい、壁に掛かった巨大な絵を外した。この絵の寸法が、ちょうど地下室の踊り場と同じサイズである事は、既に確認済みである。
 それを持って地下室へ降りる。踊り場の壁に絵を不安定に立てかけ、ドアをそっと開ける。部屋の中は真っ暗だ。普段なら聞こえる、換気扇のブーーーンという音もしない。静かなものだ。
 高部は目を閉じて、ドアを勢いよく閉めた。バン! と言う音が、2度連続で聞こえた。最初の音は、ドアが閉まった音、2度目の音は…絵が倒れた音、のはずだ。
 高部はドアを開けようとしたが、当然開かない。作戦は成功した。後は…眠るだけだ。
 懐中電灯の明かりを頼りに、2つのお椀に歩み寄って、そのすぐ横に寝た。懐中電灯の電源を切ると、ポイと放った。ベッドの上に投げたつもりだったが、ゴッという音がした。外れたようだ。一瞬、拾い上げようかと思ったが、真っ暗闇で何も見えないので、諦めた。
 高部は胸の前で手を組んで、目を閉じた。そして、これまでの事を、これからの事を、考えた。
 自分は死ぬ…。「外から鍵を掛けられた」部屋の中で死ぬ。自殺か、他殺か? 他殺だとすれば、犯人は? 自殺だとすれば、その動機は?
 …そして次第に、高部は意識が遠くなっていった…。

真解「えっと…すいません、4つ目を話しそびれました」
兜『な、なに?』
真解「4つ目は、玄関に鍵が掛かっていた事です。高部先輩は、本当は開けておくつもりだったんでしょうけど…つい忘れてしまったんでしょう。そのため、高部先輩にとってはあまりありがたくない、2重の密室が出来上がってしまった」
兜『…ふむぅ…』
真解「とにかく…以上が、ボクが見つけた状況証拠です」
 真解が言った後、兜はしばらく黙っていた。真解の言った状況証拠を、もう一度整理しているようだ。
兜『…残る問題は2つ。物的証拠と、動機だ。高部文男は、何故自殺を?』
真解「動機はわかりません。ただ、物的証拠…になるかもしれない物があります」
兜『なんだ?』
真解「手袋です。高部先輩の部屋に落ちていた、茶色い革の手袋…。部屋にあったお椀には、指紋がひとつもついていなかったんですよね?」
兜『ああ』
真解「と言う事は、犯人は犯行後指紋を拭き取ったか、手袋をしていたか、のどちらか…。もし高部先輩が犯人で、手袋をしていたのなら…。革の手袋ならば、手袋の内側に指紋が残ります。高部先輩の指紋と、お酢の痕跡が革の手袋から発見されれば…」
兜『高部が、その革の手袋をはめて、お酢を扱った証拠になる…と言う事か?』
真解「ええ。写真で見たところ、手袋には真新しい染みがついていました。もしかしたら、アレがお酢なのかも…と」
兜『わかった。とりあえず、調べてみよう。だが、自殺となれば動機が不明ではなぁ…』
 兜も真解も、ため息をついた。高部は、はっきり言って自殺をするような性格じゃない。むしろ、自殺をするぐらいなら、自殺をせざるを得ない状況に追い詰めた相手に復讐するような…。
謎「あの…真解? もしかして、わたしが原因って事は…ありませんよね?」
真解「…それはないだろう。たぶん」
兜『? なにかあったのか?』
 謎事も首を傾げてメイを見る。真解と真実は目を合わせ、眉をひそめた。あの高部先輩が、その程度で自殺するとも思わないが…どうなのだろう?
真解「あの…実はですね、言いにくいんですが…。メイが、2週間ほど前に高部先輩に告白されたと…」
謎事「なっ!?」
 真解は謎事を見て、真実を見た。真実は肩をすくめる。やれやれ…。
謎事「ちょっと待て、ホントかそれ!?」
真解「謎事。気にするな」
謎「それに、わたしは一応、ふりましたし…」
謎事「あ、そ、そう…か」
 さすがの謎事も、故人に対して怒りをぶつけるような事は無いようだ。真解は兜に聞きなおした。
真解「どう思います?」
兜『わからんな…。被害者は、2ヶ月ほど前に恋人にふられている。…そう言えば、被害者の母親、妙にサバサバしていたな』
 そう言えば、猫山さんもそう言っていたような? と真解は思い出した。
真解「母親の、息子への愛情が薄れてた?」
兜『さぁな…。被害者の両親は共働きで、2人とも朝早く出かけ、夜遅くまで帰ってこなかったと言うからな…』
真解「オマケに、高部先輩はみんなから嫌われていた。もし本人が、その事に気付いていたら?」
兜『………ん?』
真解「どうしました?」
兜『いま、何か強烈なデジャヴに襲われたな。そんな話を、つい最近どこかで聞いたぞ?』
真解「はい?」
真実「あ、そう言えば、わたしも聞いた」
 真実まで言い出した。謎事もメイも、真解もそんな話、記憶には無い。何故真実と兜が? 2人が同じ話を見聞する機会など、どこにあろうか?
真実「……。あ、そうか。思い出した」
真解「何だ?」
真実「高部先輩が書いた小説…まさに、この通りだった…。周りの人を殺す、ってところだけ違うけど…」
兜『そうか、思い出した。被害者の部屋にあったパソコンに、その小説が入っていたんだ。おれはそれを読んだから…それで知ってたんだな』
真解「…待てよ、真実…。それじゃ、高部先輩は、自分をモデルにミステリーを書いて、そのミステリーに沿って自殺をしたって言うのか?」
真実「わかんない…。でも、悲しい話だったから。主人公が最後自殺する時の心理は…本当、『なんでこんなの書けるんだろ?』って思うぐらいリアルだったから。だけど、今思ったら、それは文字通り『リアル』だったのかも…」
 真解は、たまにしか見なかった高部の顔を思い出した。会うたびにバカ騒ぎをしていたが、アレは全て空元気だったのか? だが…自分の推理は「そう」だと言っている。ならば…そうだったのだろう。

 次の日、兜から「手袋からお酢と指紋が発見された」と電話が入った。更にその2日後、高部文男の遺書が「発見」された。
真解「遺書が…? どこにあったんです?」
兜『空の上だ』
真解「は?」
兜『被害者の父親が海外へ出張中だと言ったよな? その父親宛に、被害者が遺書を郵送していた。国際便が配達されるには、だいたい3日から6日掛かるからな』
真解「それで…今頃?」
兜『ああ。これは遺書に書いてあったのだが、被害者は自分が周りから見捨てられたと思っていたようだ』
 事実、ある意味ではそうだったのだが…と真解は思ったが、口には出さないで置いた。
兜『そこで、最期に周りに大混乱を巻き起こして自分に注目させようとして、今回の事を思いついたらしい。事河嬢の髪の毛は、偶然手に入っただけのようだが…』
真解「…そうですか…。わかりました」
 はぁ…。真解の口からため息が漏れた。真解は探偵局に集まっている3人に向かって、
真解「これが真相だそうだ」
真実「高部先輩…性格直せば良かったのに…」
真解〔そういう問題ではない〕
謎「…前にも聞きましたけど、わたしが、高部先輩への最後の一押しを押したって事は…ありませんよね?」
真実「たぶん…それは無いわよ、きっと」
謎事「そーそー、気にし過ぎだって、メイちゃん! メイちゃんが人を殺すはずが無いって!」
兜『おい、真解! 聞こえてるか!』
 と、真解の持っている携帯電話から、声がした。「なんです?」と聞くと、『事河嬢に代わってくれ』と兜が言った。
謎「もしもし? 代わりましたけど…」
兜『事河嬢。今の話だがな…安心していいぞ。その事も遺書に書いてあった』
謎「…?」
兜『お前は、高部がお前にふられたから今回の事件を思いついたと思っているようだが、真相は逆だ。高部は今回の事件を思いついた後、「誰かにふられる」ために、お前に告白したんだそうだ』
謎「な…なんですって!」
 メイが珍しく大声を上げた。探偵団の3人も、兜も、驚いて身を引いた。さらに、明らかに本気で怒った顔をしている。こんなメイは初めて見た。
謎「そ、それじゃ、わたしはこの数日間、自分で自分を苦しめていただけだと…?」
兜『そのようだな』
謎「・・・・・・・・!」
 唖然、絶句、二の句が継げぬ…メイはそのまま黙り込んだ。
謎事「め、メイちゃん…大丈夫か?」
謎「……ダメかもしれません」
 怒りの混じった口調で、メイが呟いた。
謎事「……メイちゃん。でも安心しろ。オレはメイちゃんにそんな思いをさせ」「結構です!」
 いまは、メイに冗談は通じない(いや、謎事は本気だろうが)。謎事は悲しげな目で真解を見、真解は「どうしろって言うんだよ…」と肩をすくめた。
 今の真解に出来る事と言ったら、謎事が自殺しないよう祈ることだけ、だろうか…。

Finish and Countinue

〜舞台裏〜
う〜む、なんか微妙なオチになってしまったぞ。キグロです。
真解「本当はどうするつもりだったんだ?」
本当はと言うか…まぁ、特に考えてなかったんだけどさ。
真解「…そりゃ、微妙なオチになるだろうな」

え〜っと…では、正解者の発表です。
今回の正解者は、first1さんとユーマさん(先着順)でした!
真解「今回は少ないな、正解者」
そもそも、メールの数がいつもより少なかったね、今回は。
真解「どうして?」
さ、さぁ…。しばらく休止してたから、再開したことに気づかなかった人が多かったのかも。
それに今回は、「ともとものぺーじ」の方に載せなかったから、そのせいもあるかと。

そういえば、最近知り合いに『摩探』を見せたところ、
「ミステリーと言うより、パズルだな」
と言われました。
真解「どう違うんだ?」
まぁ…………うん、違うんだよ。
真解「だから、どう違うんだよ」
自分も確かに、ミステリーよりパズルの方がどちらかと言うと好きなんですよね。まぁ、ミステリーを読んだ回数が少ないってのもありますが。
真解「答えろよ」
と、言うわけで、摩探は次回から「ミステリー小説」ではなく、「パズル小説」として再デビューします。
真解「で、再デビューはいつになるんだ?」
…………1年後?
真解「遅すぎるだろう」
受験なんだよっ! いいよなお前ら、時間が止まってるから、永遠に受験が来なくてさ。
真解〔中学3年で止まってるから、永遠に受験生だけどな…〕

では、また次回…。

作;黄黒真直

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