摩訶不思議探偵局〜彼の犯行、彼女の推理〜

主な登場人物( )内は読み、【 】内は役
実相真実(みあい まさみ)…【探偵】
横瀬神海(よこせ こうみ)…【神奈川県警警部補】
皆木弥生(みなぎ やよい)…【神奈川県警警部補】

摩訶不思議探偵局〜彼の犯行、彼女の推理〜プロローグ

…あなたの最大の失敗は ボクを殺害できなかった事です。

謎事「あれ? 今日、真解は?」
 真実が教室に入ってくるなり、謎事が聞いた。
 朝。いつもなら8時ジャストに真実と真解が入ってくるのに、今日は真実1人。しかも、時間も15分ほど遅い。真実はカバンを机の上に置くと、ため息をついた。
真実「お兄ちゃんね、風邪引いて…」
謎「風邪? 珍しいわね…」
真実「でしょ? しかも、微熱よ微熱!」
澪「何度なの?」
 騒ぎ(?)に気付いて、霧島 澪や江戸川真澄、高麗辺澪菜、那由他真直…と、仲良しグループの面子が集まってきた。いつもは8人でワイワイやっているのに、今日は7人。なんとなく、違和感。
真実「38度」
澪「高ぇ!」
真実「連れて来ようと思って一生懸命引っ張ったんだけど、頑としてベッドから出てこなくて…」
 真実の言葉で、全員無意識に、真実に引っ張られる真解を想像した。なんとなく笑えるような、なんとなく泣けるような…。
真澄「でも、寝てれば治るんじゃないの?」
真実「う〜ん…風邪は治ると思うけど…他に心配な事が…」
 思わせぶりな真実の態度に、全員がわずかに興味を示す。あまり描かれる事は無いが、このグループの7人は、意外と真実に振り回される事が多い(振り回されるのは、主に真解だが)。たまに澪菜も振り回すが、那由他と強引に付き合い始めたおかげで、彼女の欲求が全て那由他1人にぶつかり、他の者は被害を受けなくなっている。
澪「心配って、なに?」
真実「お兄ちゃん、このところ引きこもりがちなのよ! だから、このまま風邪を理由に寝込んで、不登校になったらどうしよう…!」
謎事「引きこもり? 真解が? なんで?」
真実「最近よく言ってるの。『ボクは疫病神だー』って。ほら、お兄ちゃんって、どこかに出かけると必ず殺人事件に出くわすでしょ?」
 真実の言葉で、全員無意識に、いままでの真解との付き合いを思い出した。澪たちは、真解と一緒に出かけて殺人事件に直接出くわした事は、今まで一度も無い。しかし、真解と一緒にいる時に、学校で殺人事件に出くわした事はある。それに、謎事とメイは、一緒に出かけるといつもいつも事件に出くわす。次の日には忘れてしまうような小さな事件から、一生忘れられない大きな殺人事件まで、その内容は多種多様…。
真澄「そう言われてみれば、そうね。運命?」
真直「嫌な運命だなぁ…」
真実「そう言うわけだから、お兄ちゃん、最近出かけるのを嫌がって…」
 外出するたびに殺人事件に出くわすのなら、誰だって鬱になる。もし治療しようと精神科へ行けば、おそらくその途中で事件が起こる。病気や怪我で下手に病院にいけば、そこの医者が殺されるに違いない。
真実「兜警部が家に事件の話をしに来た事はあるけど、家の中で事件に出遭った事は、いままで一度も無いから…もしかしたら、引きこもっちゃうかも…」
 真実の言葉で、全員無意識に、引きこもりの真解を想像してみた。…ちょっと想像できないな、と全員が思った。

 真解は、浅い眠りから目を覚ました。いま何時だろうと思って、時計を見た。午後3時半。そろそろ真実が帰ってくる頃か?
真解〔…もう少し、寝てようかな…。真実が帰って来たら、寝れないだろうし…〕
 先ほどまで見ていた夢の続きを見ようと、目を閉じた。だが、妙に目が冴えて、眠れない。
 そもそも何の夢を見ていたかな、と真解は考えた。不思議な夢だったのは覚えているが、どんな夢だったか思い出せない。ほんの1分前までは見ていたはずだが、夢とはそう言う物だ。
 1階から、カチャカチャと物音がする。もう、真実が帰ってきたのか? いやしかし、それなら真っ先にこの部屋に来て、無理矢理自分を起こすはずだ。となると、母親か?
真解〔…そう言えば、お昼ご飯食べてないや…〕
 目が冴えていたのは、空腹のためだと気が付いた。気付いた瞬間、空腹感が増して、胃がキリキリと痛み始めた。
真解〔…なんか食べよう…〕
 布団を跳ね除けて、ベッドから降りた。パジャマに染み込んだ汗が、ベタベタして気持ち悪い。着替えようかどうしようか悩んだが、結局そのまま下へ降りていった。
真解「お母さん、お腹空いた…」
 リビングのドアは開いていた。真解はそのまま、フラフラと室内に入り、カチャカチャという音の正体を見た。
 室内にいたのは、母親ではなかった。頭には黒い布を被り、黒いセーターに、よくあるジーパンを履いた、ナゾの人物…。先ほどまで暑い布団の中にいた真解は、「暑そうな格好だな」と場違いな事を考えた。
真解〔…って、あいつ誰だ!?〕
 寝起きのせいか、頭の回転が悪い。真解にとって運の良い事は、向こうがこちらの存在に全く気づいていない事だ。
 よくよく見てみると、リビングは激しく荒れている。あらゆる棚の扉が開けられ、物が散乱している。そして、黒い人物は、なおも「荒らし」を続けている。
真解〔…泥棒…か? って事は…えっと……とにかく、警察だ!〕
 急いでリビングを出て、2階へ駆け上がり、110番通報する。なんなら、兜に直接電話をかけても良い。
 真解がそう考えて、部屋を出ようとした、まさにその時…相手がこちらを振り向いた。
真解「!」
 どうでもいいが、キグロは時々疑問に思う。よく、漫画などで、頭からすっぽり黒いマスクを被った銀行強盗が描かれる。目と口と鼻のところだけ穴が開き、顔の残りの部分を覆い隠すようなマスクだ。アレは、どこかに売っているのだろうか? それとも、自分で作ったのだろうか?
 こちらを振り向いた黒い人物も、そのマスクをつけていた。あの格好で町中を歩けば、怪しまれる事この上ない。と言う事は、室内で被ったに違いない。では、何のために? 住民に見つかった時の為だろうか? しかし、泥棒と出くわして動揺した住民が、泥棒の顔を覚えられるものだろうか? キグロは、英単語ひとつ覚えるのにも四苦八苦するというのに。
真解「〜〜〜〜〜!!」
 真解はとりあえず、大声を出した。いや、出そうとした。だが出なかった。恐怖と驚愕で口がすくみ、足がきけない。
真解〔いや、だが、相手もそれは同じはず…!?〕
 動揺していても、頭だけは働く。寝起きでなければ、真解の頭脳はいつでもフル回転だ。
 だが、頭だけ動いていても仕方が無い事を、真解はこの後、すぐに学んだ。
 この勝負、敵の方に分があった。相手の方が一瞬早く冷静さを取り戻し、真解の方に駆け寄った。
真解「あ…」
 真解が逃げようとする間すらなく、相手は懐から大きなナイフを取り出した。銀色に輝く刃、金色に染まった柄。その柄をしっかりと逆手で握る、黒い手袋。
ドンッ
 駆け寄ってきた勢いのまま、相手が真解にぶつかった。その勢いで真解は後ろへ倒れ、相手も真解の上に覆いかぶさるように倒れこんだ。
 相手は素早く体勢を立て直すと、ナイフを持ったまま立ち上がった。銀色に輝く刃は、赤色に光っていた。
真解「な…」
 真解は、すぐに自分の身に起きた事を理解した。
 胸を刺された…!
 相手はリビングのテーブルの上にある黒いカバンを掴むと、その中にナイフを裸で仕舞い込み、割れた窓から外へと飛び出していった。
真解「そんな…ウソだろ……」
 警察と、救急車を呼ばなければ…。だが、動けない。大量の血が、胸からあふれ出ていくのがわかる。
 自分はここで、窃盗犯に胸を刺され、短い生涯を終えるのか?
 殺人事件に出遭い続けた人生を、殺害されて終えるのか?
真解〔なんとか…しなくては…〕
 だが、真解の意識は急速に薄れていった。そしてすぐに、失われた。

Countinue

〜舞台裏〜
はい、と言うわけで、真解を殺しました。
真実「死んだの!?」
アレで死なないのは、漫画の主人公だけだよ。
謎事「真解も主人公だぞ?」
小説のね。ニヤリ。
謎事「でも、真解死んだら摩探、終わるじゃん」
わからんよ。「幽霊探偵」ってのもありだし、真実を主人公にするのもありだし。
真実「わたしが主人公?」
……たぶん、波乱な小説になるだろうな。

しかしまぁ、なんと言うか。
真実「なによ?」
久々に『摩探』を書いたせいか、勘が鈍ってるね。うん。
真実「そうなの?」
この『彼の犯行、彼女の推理』は、前に考えたネタを使ってるんだけど…この次の話が、いまだに思いつかない。
真実「は?」
あ〜…誰か良いトリックをください。
真実「頼ってどうするのよ!?」

ところで今回、タイトルを考えるのにも苦労して。
真実「へぇ? そうなの?」
うん。ま、いつもタイトルには苦労するんだけどさ。
初めは普通に『名探偵殺人事件』とか考えてたんだけど、なんかなぁ…と思って。
他にも『美少女探偵の事件簿』とか『実相真解殺人事件』とか、色々考えたんだけど……。
真実「でも、このタイトルだと恋人の彼氏が犯行をして、それを彼女が解決するって感じが…」
まぁ、そこは気にしない、気にしない。
謎事「……って、ちょっと待て2人とも。『名探偵殺人事件』でも『実相真解殺人事件』でも、真解死んでるぞ!!」
まぁ、そこは気にしない、気にしない。
謎事「するだろ!」


では、また。

作;黄黒真直

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