摩訶不思議探偵局〜彼の犯行、彼女の推理〜
容疑者リスト
猪狩広恵(いかり ひろえ)
白鳥成海(しらとり なるみ)
出嶋 笑(でじま しょう)
五十嵐千明(いがらし ちあき)

摩訶不思議探偵局〜彼の犯行、彼女の推理〜真相編

横瀬「連れてきたぞ、小娘」
 横瀬が、真解の病室に入ってきた。真実は「ありがとうございます」と言いながら、ベッドから飛び降りた。
真実「それでは、お兄ちゃん殺害未遂、及び神崎医師殺害事件の真相編を、始めましょうか?」
 横瀬が連れてきた人物…“犯人”に向かって、真実は言った。
 “犯人”は、病室に入るや否や、起き上がっている真解を見て表情を変えた。「真解くん…目覚めたの?」と小さく聞く。
真解「ええ…おかげさまで」
真実「そして、あなたにとっては残念な事に」
 真実はニパッと笑うと、“犯人”に指を突きつけた。
真実「これから、あなたの昨日と今日の行動を、ここで解説しましょう」
 “犯人”は顔をしかめた。真実は気にせずに、探偵口調で語り始めた。
真実「昨日の午後3時前…あなたは病院を抜け出し、わたし達の家へ向かった。実際には真っ直ぐ向かったんじゃなくて、たまたま見つけたうちに入ったんでしょうけどね。窓ガラスを割って室内を物色中…運悪く、お兄ちゃんに発見された。そこであなたは、ナイフを取り出して、お兄ちゃんを刺した。お兄ちゃんの証言によると、時刻は午後3時半…。うちからこの病院まで歩いて30分ぐらいだから、あなたがこの病院に戻ってきたのは4時頃って事になるわね」
真解「しかし…勢い任せにボクを刺したため、ボクは即死せず、しかも真実に発見されてここに緊急搬送された」
真実「おかげで、お兄ちゃんは見事、助かったわけ。
 そして、その日の深夜…正確には今日の朝。午後1時ごろ、あなたが神崎医師を呼び出したのか、神崎医師があなたを呼び出したのかはわかりませんが、あなたは神崎医師と、この時間帯は使われていない2階の男子トイレで落ち合った。争った形跡が無い事から、あなたはお兄ちゃんを刺した時同様、素早く、正確に、胸を一突きした」
真解「ボクの時は勢い任せだったが、神崎医師は違った。胸を正確に狙えたから、即死させられたんだ」
真実「本来なら、凶器のナイフは持ち去って処分したかっただろうけど…ここで困った事が起こった。ナイフと言うのは、刺した時より抜いた時の方がよく血が出る。夜勤だったあなたは、この時まだ白衣を着ていた。その状態でナイフを抜けば、白衣に血がついて、自分が犯人だと即座にばれてしまう。だから諦めて、あなたはナイフを突き刺したままにした。おかげで、お兄ちゃんを刺したのと神崎医師を刺したのが、同一人物だってわかったわけだけど」
横瀬「それがどうかしたのか?」
 腕組して聞いていた横瀬が、痺れを切らしたかのように言った。
横瀬「そんなこたぁ、警察だってわかってる。こいつが犯人だろう、と言う目星も既に立てていた」
「え?」と“犯人”が横瀬を見た。横瀬は「ハッ」と軽く息を吐き出して、
横瀬「そこの少年と、神崎医師を刺した凶器が同じものだと言う事は、既にわかっている。となれば、両事件の犯人は同一人物である可能性が高い。そこの少年の家の周りで聞き込みをしたら、『犯人は男だと思う』と言う証言が複数得られた。両事件の発生推定時刻にアリバイが無い人間のうち、男なのはお前だけ…。だが、証言は曖昧だから、もう少しちゃんとした証拠が見つかるまで、野放しにしていたんだ」
真実「ところが! なんとお兄ちゃんが、『ちゃんとした証拠』を見つけちゃったのよ!」
横瀬「……だからか。それでこんな推理ショーみたいな事を…」
 真実は楽しそうに微笑む。真解はその後ろで小さく顔をしかめた。何故真実は、毎度毎度殺人事件が起こっても楽しそうなのだろうか。こういう人間は医者になって欲しくない、と真解は思った。別に、真実が「医者になりたい」と言った事は一度も無いが。
横瀬「それで? その証拠はどこにあるんだ?」
真実「いま、皆木警部補に頼んで、探してもらってます」
横瀬「自分で探せよ」
真実「だって…。こういうのは警察の方が得意だし、わたしが見つけてきて、わたしが犯人にされても困るし」
真解〔真実は、ボクが刺された時も、神崎医師が刺された時も、鉄壁のアリバイがあるんだから平気じゃないか?〕
 ガラリ、と病室の扉が再び開いた。「皆木…」と振り返った横瀬が言った。皆木警部補が、手に持った黒いカバンをみんなに見せた。
皆木「マサミちゃん、持って来たわよ。お探しの物」
真実「ありがとうございます♪」
横瀬「なんだ? そのカバンは」
真解「…あなたの最大の失敗は」
 真解は“犯人”を指差した。
真解「ボクを殺害できなかった事です。あの時はボクも慌ててましたが、あなたも慌てていたんですね。せめて、死亡の確認ぐらいはするべきでした」
横瀬「だから、あのカバンはなんなんだ?」
真解「ボクは見てました。あなたの行動を。ボクを刺したナイフを、袋にしまうでもなく、裸のまま、そのままカバンにしまうところを。当然、カバンの中は、血だらけになっているはずです」
 皆木がカバンを開いて、みんなに見せた。黒いカバンの裏地は白かったが、その白のほぼ全体が、黒く変わっている。血が付着して、それが固まったのだ。
真解「その血を調べれば、ボクの血だとわかります。つまり、そのカバンの持ち主が、ボクを刺した犯人と言う事になるんです」
横瀬「だが、そのカバンの持ち主は、本当にこいつなのか? 仮にこいつだとしても、誰かが盗んで少年の家に持って行ったのかもしれないじゃないか」
皆木「その可能性ぐらい、マサミちゃんも気付いてたわよ。だから、ついでに防犯カメラの映像も調べた。この病院は、全ての出入り口に防犯カメラがついている。そして、昨日の午後2時30分にこのカバンを持って外に出て行くあなたと、午後3時42分にこのカバンを持って、走って中に入っていくあなたの様子が映っています」
 皆木は、横瀬の隣でうろたえる“犯人”を指差した。2人の刑事と2人の中学生探偵に囲まれて、“犯人”はしどろもどろしていた。
皆木「このカバンはゴミ箱の中から発見されましたが…残念ながら、ナースステーションの人はみんな、このカバンがあなたの物だって事を覚えてました。1人だけですが、ゴミ箱に捨てるところを目撃した人もいました」
真解「頭に被っていたフードやセーター、手袋、ジーパンなら、どこかの公園のトイレで脱いで捨ててしまえばいい。着替えを置いとけばいいのだから。しかし、あなたが普段から持っているカバンは、指紋と血がたくさんついていて、その場に捨てると自分が犯人だとばれる恐れがある。だから、一旦持ち帰って厳重に処分したかった。ところが、あなたには家に帰るチャンスが今まで無かった。しかし、心理的にそのカバンをそばには置いておきたくない…。そこで苦し紛れにゴミ箱に捨てたんでしょうが、無意味でしたね」
 “犯人”は一度唇を噛んだ後、「待ってくれ」と言った。「確かにそのカバンは僕のです。ゴミ箱から発見されたのなら確実です。ですが、だからと言って、犯人とは…」
真実「何を聞いてたんです? わたしの家からここまで歩いて30分。お兄ちゃんが刺されたのが午後3時半、あなたが防犯カメラに映っているのが午後3時42分。走った、と考えれば計算が合います」
犯人「そうじゃなくて…。真犯人が、僕のカバンを盗んで真解くんの家に行って真解くんを刺し、それから逃走中に僕にそのカバンを渡したとすれば…」
真実「誰かに渡されたんですか?」
犯人「っ」
 “犯人”は、一度目を泳がせ、苦し紛れか、本音か、「神崎医師です」と言った。
真解「ありえません」
 真解が即答した。
真解「ボクを刺した犯人は身長170cmぐらい。そして真実が言うには、神崎医師の身長は2メートル近い」
皆木「193cmって言ってたわね」
真解「そう。仮に神崎医師があなたの共犯だとしても、ボクを刺した実行犯も、神崎医師を殺した犯人も…」
 真解は漫画の名探偵よろしく、人差し指を“犯人”に突きつけた。
真解「白鳥さん! あなたしかありえないんです!」
 白鳥はひざをついた。まだ何か考えている風だったが、横瀬に肩を叩かれると、諦めたようだった。

 ところで、白鳥が男だと言う事実は、実は『事件編』の方には書かれていない。ただ、白鳥以外、全員女だという事は書かれている。猪狩は「看護婦」と書かれているし、出島もしかり。そして五十嵐は、真実がはっきり「女医さん」と言っている。犯人が男である以上、消去法で、白鳥が犯人だということになるのだ。

 後日、白鳥が語ったところによると、事件の真相はこうだった。
 白鳥は空き巣の常習犯で、仕事の休憩時間を利用してはしょっちゅう空き巣に入っていたらしい。いつもはうまくいくのだが、今回に限って真解に発見されてしまった。そこで念のため携帯していたナイフで刺した。病院に戻ってからそのカバンを処分しようとしたのだが、ナースステーションに入ってすぐ、別な看護師に呼ばれ、その時間がなかった。仕方なくカバンを机の上において仕事に取り掛かった。ところが、戻って来てみるとカバンがなく、代わりに神崎医師からの呼び出しのメモが置いてあった。深夜、指定された場所に行くと、神崎医師がそのカバンとナイフを持って、白鳥を問い詰めた。そこで、逃げられないと思った白鳥は……。
 あとは、真実たちが見たとおりである。

真実「お兄ちゃん♪」
 真解の病室に、真実が入ってきた。事件解決の翌日、今日は真解の退院の日だ。
真解「真実…お前、学校は?」
真実「サボった」
真解「サボるな」
 余談だが、「サボる」の語源はフランス語の「サボタージュ」だそうだ。何故フランス語が日本語になったのか、詳しい経緯は知らない。ちなみに「ダルい」も英語の「ダル」から来ていると言われているが、「ダルい」と言う言葉は平安時代からある事がわかっているので、こちらは否定的な見方が強いらしい。
真実「いいじゃない。恋人の退院の日なんだし」
真解「恋人じゃない」
真実「じゃぁ、忌引きって事で」
真解「死んでない」
 身支度を整えると、真解はカバンを背負って立ち上がった。
真解「…まぁいい。帰ろうか」
真実「うん♪」
 しかし、どうしてこう、自分はいつも行く先々で殺人事件に出遭うのか。真解は思った。行く先々、どころか自宅ですら事件に出遭った。もはやこれは、逃れられない宿命なのか?
真実「お兄ちゃん、すごいよね。自宅でも事件にあっちゃうんだから」
 真解の思考を読んだかのように、真実が言った。
真実「ま、でもこれで、お兄ちゃんが引きこもりになる事もなくなったね♪」
真解「……は?」
真実「だってお兄ちゃん、このところ外に出たがらなかったし…『ボクが出かけるといつも殺人事件が起こるー』って言ってたじゃん」
真解「別にボクは引きこもってなんかない」
真実「38度の微熱で休んだし…」
真解「微熱じゃねぇっ!」
 そう言えば、いつの間にやら熱も下がっていた。明日から、また学校だ。
 今度はいつ殺人事件に遭うのやら…。ビクビクしながら、今日も真解は死なずに生きている。

Finish and Countinue

〜舞台裏〜
最後にオチ切れなかったキグロです。ってか、摩探って毎回オチてない気が…。まぁいいや。

今回の正解者は、ワールさんでした。おめでとうございま〜す。
……あ、もちろん、告知どおり商品無しです。
今回は推理編公開後、しばらく『摩探公式HP跡地』のメールフォームが使えなかったようで…(HPを移転したのに、設定を変えるのを忘れてた)。
すみませんでした。

ところで、今回は真実1人に行動させたわけですが。
真実「ですが?」
いやぁ〜…実に書きやすかった!
真実「は?」
いや、ホントに。今まで4人組をゾロゾロ行動させてたじゃん? それはそれで楽しいんだけど、4人をうまく働かせるっての、意外と難しいんだよ、これが。
真実「そうなの?」
特にメイちゃんがねぇ…。無口なキャラだから、余計目立たなくて。
謎「…別に、わたしは悪くありませんよね?」
うん、まぁ。4人でこの騒ぎだからね。8人なんて言ったら、もう!
真実「そんなもんなんだ」
うまくキャラを書き分けできないのに無駄にキャラを増やすとこうなるって言う、典型例だね。
これからは、今回みたいに4人揃って、じゃなくてバラバラで活躍する話も書くようになるかも。
真実「お兄ちゃん、主役なのに?」
う〜ん…ま、なんとかなるよ。
思えば『カービィ探偵団!』の時は、主人公が3人組だったとは言え、全員がそれぞれ探偵で、しかも互いにライバル意識を持ってたって事で、ある程度バラバラに動かせたんだけど…。
真実「わたし達、『4人で1人前』だもんねぇ」
全く…。第一、探偵に必要な能力を4人に分散させるって時点でどうなんだ。
真解「自分に言えよ」
ま、でも、手かせ足かせの中でいかに面白い物を書くかってのも、いい修行になるだろうし。
真解「……前向きだなぁ」
後ろ向きなのよりいいだろ?

では、また。いつになるかわからない次回作で。

作;黄黒真直

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