摩訶不思議探偵局〜のどかな休日〜

主な登場人物( )内は読み、【 】内は役
実相真解(みあいまさと)…【主人公・探偵】
実相真実(みあいまさみ)…【探偵】
実相美登理(みあいみどり)…【真解たちの母】
実相解実(みあいとみ)…【真解たちの父】

摩訶不思議探偵局〜のどかな休日〜日常編

今回の事件は妙な事件だ。いくら考えても袋小路に入る

 実相家は3階建てとも、2階建てとも言える。真実は「3階建て」と主張しているが、両親は「2階建て」だと思っているようだ。真解はと言うと、事実をありのまま受け止めて「中2階のある2階建て」と考える事にしている。ここでは、真解の考え方を採用する事にしよう。
 実相家は中2階のある2階建てである。1階にリビングやキッチンなどがあり、1階から2階へ続く階段を上っていくと、突き当たりに扉がある。この扉の向こうが真解と真実の部屋、すなわち摩訶不思議探偵局である。階段はそこからぐるりと向きを変え、反対方向へ上っていく。上りきったところが2階で、両親の自室や寝室などがある。
 余談だが、「ぐるり」とは漢字で「周」と書く。そして「くるり」は漢字で「転」と書く。ちなみに「転転」と書いて「くるりくるり」と読む。今度使ってみてはいかがだろうか。
 実相解実は、自室でパソコンに向かっていた。仕事の続きだ。今日は土曜日。会社は休みだが、やりかけの仕事が残っていた。
 いつの間にかに日は沈み、部屋の窓から満月が見える。現在時刻午後7時。そろそろ夕食の時間かな、と思ったら、案の定真実のドタドタと言う足音が階段を上ってきた。
真実「お父さん、ごはーん!」
解実「はいはい」
 真実が扉を開けて、首を突っ込んでくる。いつまで経ってもヤンチャだなと解実は思い、それは妻の美登理も同じ事か、と思った。
真実「あ、お父さん、それわたしの湯飲み!」
 真実が机の上を指差して言った。解実が1階から持ってきていた湯飲みだ。中にはお茶が入っていたが、1時間以上も前に飲み干していた。
真実「下に来る時忘れずに持ってきてね! いっつも忘れるんだから」
解実「わかってるよ」
 真実が扉を閉めて、再びドタドタと階段を駆け下りていった。

 解実が1階に下りると、既に夕食の準備が出来上がっていた。テーブルを囲むように4つの椅子が並び、4枚の1人用テーブルクロスが敷かれた上に、料理達が静かに整列していた。
解実「お、おれの好きな料理だ」
真実「え? お父さんの好きな料理ってなんだっけ?」
解実「おれが好きなのは、美登理が作った料理だから」
美登理「まぁ、解実さんったら♪」
真解〔…付き合ってられん…〕
 真解は何も言わずにお箸を取って、ご飯を食べ始めた。
美登理「真解、『いただきます』ぐらい言いなさい」
真解「…いただいてます」
 余談だが、マナー的には和食の場合は味噌汁から食べ始めるのが良いらしい。味噌汁でお箸を濡らしておくと、その後ご飯粒が付きにくいため綺麗に食べられるのだそうだ。だったらご飯に納豆とかおくらとかを載せれば良いのでは、とも思うのだがそうなっているらしい。しかし真解はそれに反してご飯から食べ始めた。
 今日の夕飯は和食である。ご飯に味噌汁、アジの開きと添えられた大根おろし。それに酢の物と、その他諸々。以前家庭科の宿題で、1週間分の食事をメモして先生に見せたら、「豪華!」と驚かれた事がある。真解たちは生まれてからずっとこうだから、豪華なのかどうかよくわからない。
真実「そう言えばさ、さっき読んでたミステリーなんだけどさ」
 と真実が話し始めた。この家では食事中にテレビを見たりラジオを聞いたり雑談したりする。今日は雑談の流れのようだ。
真実「死体を消すトリックがあったの。2日ぐらいかかるんだけど」
解実「死体を消すね。燃やしちゃえば?」
真実「まぁそうなんだけど、もっと簡単に。食べちゃうって言う」
真解〔グロテスクだ〕
 食事時にする話ではないだろう、と真解は思った。
真実「気持ち悪いよねー。細かい描写は無かったんだけどさ」
真解「…待てよ。骨はどうするんだ?」
真実「砕いて生ゴミ行き。『骨付きステーキを食べたと思えば、乗り切れる』って言ってた」
美登理「量が半端ないわね。ステーキ何人分かしら…」
解実「それをたった2日で食べきるってのもすごいな。朝昼晩、毎食ステーキだ」
美登理「豪華ね」
解実「豪華だな」
真解〔死体なんだけど〕
 しかし冷静に考えれば、自分達が食べているものは全て死体だ。今お箸を突き刺しているこのアジだって、元々は海で幸せに暮らしていたのを人間が獲って殺して食べてるのだ(いや、養殖かも知れないが)。しかもお腹を開いてから、である。
 食事が終わると、真解と真実は食器を下げて、そのまま中2階の自室へと向かった。解実も自室へ戻って仕事の続きに取り掛かる。解実の分は美登理が下げて、せっせと皿洗いを始めた。普通の家庭はこうだろう。子ども達は皿洗いを手伝う事はまれで、父親も然り。たいてい母親(主婦)が1人でせっせと皿洗いをしている。よくある光景だと思うが、今この文章を書いたら、まるで主婦を奴隷のように扱っている気になった。何故だろう。
 自室に戻って、真解はベッドに横になる。別に寝るわけではなく、ただごろごろしているだけだ。真実はパソコンでしばしゲームをした後、「お風呂入ってくる」と言って部屋を出て行った。
 真解は何をするでもなく、ベッドの上で転転(くるりくるり)と寝返りをうっていた。と、月曜締め切りの宿題が出ていた事を思い出して、ベッドから降りると机に座った。今日は土曜日だから、まだ1日猶予はある。しかし今日やらない理由は特に無い。真解は数学の教科書とノートを開いてシャーペンをノックし、二次方程式を解き始めた。

 お風呂から上がった真実は、キッチンへ赴き食器棚を開けた。喉が渇いたので水を飲もうと自分の湯飲みを探したが、見つからない。
 真実の湯飲みは、この家に2つしかない。灰色の地に紅色と藍色の縦縞が描かれた柔らかいデザインの湯飲みと、下方が橙色をして、上方が白く塗られた湯のみ。先ほど父親の部屋にあったのが灰色の方であり、夕飯時に使用したのが橙と白の物だ。そのどちらも食器棚に無いと言う事は、片方はまだ父の机の上にあり、もう片方は食器洗い機の中にあるのだろう。
 “3階”まで行くのが面倒くさかったので、真実は食器洗い機を開けて橙と白の湯飲みを取り出して水道から水を注いだ。この家には麦茶も無ければジュースも無い。蛇口から水が出てくるのに、わざわざ飲み物を新たに買うのが馬鹿らしい、と考えているのだ。
 余談だが、お風呂上りに水を飲むのは良くないらしい。良くない、と言うか、お風呂に入る前に飲んどいた方が良いらしい。渇いてから飲む、のではなく、渇く前に飲む、と言うわけだ。
「ふぅ」と軽く息を吐いて、真実は湯飲みを流し台の中に置いた。本当なら皿洗い機の中に入れるべきだが、まぁどうせ後で美登理が入れてくれるだろう。

 次の日。今日は日曜である。朝の弱い真解としてはいつまでも寝ていたいところだが、ニワトリより早起きな真実が真解を叩き起こす。今うっかり「ニワトリより早起き」などと書いてしまったが、本気でニワトリより早く起きたら大変だ。まだ日の出前である。
真実「お兄ちゃん、朝ご飯だよ!」
 いつもの決まり文句だが、7割方朝ご飯は出来ていない。今日は3割の日なのだろうかと思いながら、真解は布団から這い出してきた。真実を部屋から追い出して、「そろそろ自分だけの部屋が欲しい」と思いながら服を着替える。真実の方は思わないのだろう。たぶん。
 1階に下りると、今日は3割の日だった。テーブルの上にお皿が並んで、スクランブルエッグと蒸かしたジャガイモなどの野菜がその上に飾られている。その皿の隣にはスープもある。テーブルの上のホットプレートでは、トーストがもう少しで出来そうだ。
 父親の解実はまだいないが、美登理と真実が既に朝食を食べ始めている。
真実「お兄ちゃんおはよー」
真解「おはよう…」
 自分の席について、目の前に置かれたお皿から料理を食べ始める。真実がポットを取って自分のカップに紅茶を注ぎ始めたので、真解も自分のカップを差し出して注いでもらった。
 のどかな休日の朝の風景であり、実相家では毎週恒例の風景だ。
 朝食を食べ終わってから昼食まで、部屋でゴロゴロしているのも毎週恒例の真解の風景だ。たまに外に行く事もあるが、たいてい部屋で二度寝しているか、マンガを読んでいるか、どちらかである。
 真実の方は、毎回予測がつかない。外に出かける事もあれば、パソコンでゲームをする事もあるし、怪しげな実験をしている事もある。真解にちょっかいを出す日もあるし、静かに勉強している日もある。何をするかは、その日の気分で決まる。
 今日の真実は、机に向かって怪しげな実験をしていた。実験と言うより工作か。古い電流計を分解して中身を取り出し、そこに銅線を繋げている。何を作っているのやら。真解は少し気になったが、かかわらないようにして寝たふりをした。

 午後になると、真解と真実は外へ出かけた。今日はメイの家のペット、タマを散歩に連れて行く約束だった。タマは猫ではなくハスキー犬である。犬に「タマ」と名づけるのはオリジナリティがあるようで、意外とない。裏の裏をかいて普通に「ポチ」と名づけた方が、むしろオリジナリティがあるかもしれない。
 メイの家では、既に謎事とメイがタマと戯れていた。
真解「…謎事とメイがタマと戯れている、謎事とメイがタマと戯れている、謎事とメイがタマとたまま…」
真実「お兄ちゃん、なにブツブツ言ってるの?」
真解「いや、なんでもない」
 真解は早口言葉の練習を始めたようだが、すぐに止めた。
 早速散歩に出かける。特にコースは決まっていない。気が向いた方向に、フラフラと歩いていく。タマが先頭を切る時もある。


 その日は、ごくごく平和な日曜日だった。
 夕方までは。
 事件が起こったのは――否。
 事件が発覚したのは、真解と真実が家に帰った時だった。

Countinue

〜舞台裏〜
こんにちは。摩探作者のキグロです。
さて、今回は実相家の日常を描いてみたわけですが…。
謎事「こんな日常だったのか」
ちなみに、モデルは我が家です。
謎「こんな日常なんですか」
ええ。
……あ、でも「おれが好きなのは、美登理が作った料理だから」的な発言は、うちの父親一切言いませんが。
謎「まぁ、男の人って普通そうですよね」
謎事「オレは言うぞ、メイちゃん」
謎「………」
謎事「せめてなんか突っ込んでくれよ…」

普段はセリフが多い摩探が、今回は話の都合上、と言うか構成上、文章だらけに。
謎事「読みづらい」
ん〜…なんと言うか、最近気付いたんだけど。
謎「なんですか?」
メモ帳で小説を書いてるときは気付かないんだけど、ブラウザーでできた小説を見てみると、文字が詰まってて読みにくいんだよね。特にこんな風に、画面の端から端まで行っちゃうような長い一文だと。普通の日記とかエッセイとかの文章だったら適当なところで区切っちゃっても良いけど、作文のルールを守りながら書く小説だとそう言うわけにもいかず。どうしたものかと考えてるんです、最近。
謎事「意外に色々考えてるんだな」
そう。特に摩探だと、短いセリフが連続した後に長い説明が入る、ってパターンが多いから、余計に読みにくい。
適当なところで改行するなり、HTMLで端から端まで文字が詰まらないようにするなり、色々方法はあるにはあるんだけど。
謎「で、結局どうするんですか?」
何もしない。
謎事「………。えっ?」

では、また。

作;黄黒真直

非日常編を読む

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