摩訶不思議探偵局〜のどかな休日〜

今回、容疑者リストは省きます。

摩訶不思議探偵局〜のどかな休日〜真相編

 次の日…すなわち月曜日の朝。真解は真実に叩き起こされ、着替え、1階リビングへと向かった。既に美登理と真実が座って朝食を食べている。
真実「お兄ちゃんおはよー」
 と間の抜けた声で言ってから、
真実「で、わたしの湯飲みどこに行ったか、わかった?」
 と聞いてきた。
 真解は言われて、一瞬「?」と思い、そしてすぐに思い出した。そうだ、確か昨日真実の湯飲みが無くなったんだった。そして真実に言われて推理して、湯飲みの場所を突き止めたのだった。
真解「ああ、わかったよ」
真実「え、本当!? さっすがお兄ちゃん! どこどこ!?」
真解「…順を追って、説明しようか」
 真解は言いながらキッチンに入って行き、自分のマグカップを取り出すと戻ってきた。席について、朝食を食べ始める。
真解「今回の事件は妙な事件だ。いくら考えても袋小路に入る」
真実「と言うと?」
真解「まず、湯飲みが自分でどっかに歩いて行ってしまう、と言う事はありえない。また煙のように消えてしまう事も。となると、どこかへ転がって行ってしまったか、誰かが持ち去って行ったか…そのどちらかだ。
 もし仮にどこかへ転がって行ってしまったのだとしたら、真実の徹底的な捜索で見つかるはずだ。だが見つかっていない。つまり湯飲みはどこかへ転がって行ってしまったのではなく、誰かが持ち去って行ったと言う事を意味する」
真実「そう、わたしはそう思って、真っ先にお父さんを疑ったのよ。だからお父さんの部屋に行ったんだけど、そこには無かった」
真解「ではお母さんか、ボクか、あるいは真実自身か…」
真実「そんな! わたしがわたしの湯飲み隠して、なんの得があるの?」
真解「そう、真実にとってはなんの得も無い。まぁ、ボクを振り回したいのであれば得だけど…」
 紅茶をひと口飲んでから、
真解「そんなの、わざわざ湯飲みを隠してやる必要はないし、湯飲みが無いと真実が不便だ。もし真実がボクを振り回したいのであれば、自分は困らない方法を取るはずだ。よって真実ではない」
真実「……なんか釈然としないけど、わかった」
真解「ではボクなのか、と言うとそれもあり得ない。何故ならそんな事をしたら、真実がボクを頼るのは目に見えている。真実はムリヤリボクに推理させようとするハズだし、事実そうした。ボクにとってこれは苦痛でしかないのだから、ボクが犯人でもない」
真実「……やっぱり釈然としないけど、そうね」
美登理「ちょっと待ちなさい、真解」
 今まで黙ってた美登理が口を開いた。
美登理「じゃあ、私だと言うの?」
真解「…犯人はお母さんだと仮定して、その動機は何か」
美登理「そんなものないわよ。真実の湯飲みを隠したって、私には得する事なんて何もないわ」
真解「その通り。と言う事は、今回の事件、容疑者4人のうち4人とも、犯人ではないことになってしまう」
真実「じゃあ、部外者?」
真解「泥棒が犯人? それもない。湯飲みだけ盗む泥棒なんて、まず考えられない」
美登理「確かに、袋小路ねぇ」
 どこか他人事のように、美登理が言った。真解も他人事のように、朝食を食べる。
真実「それじゃ、お兄ちゃん、真相は!? わたしの湯飲みはどこへ消えたの?」
真解「…実は今回の事件は、事件じゃなくて事故だったんだ」
真実「え?」
 真解は卵を咀嚼してから、事件の――いや、事故の解説を始めた。
真解「真実が昨日、家中を徹底的に捜索した時、真実は気付かなかったようだけど、実は湯飲み以外にも2つ、無くなっているものがあった」
美登理「2つも無くなったんじゃ、事故じゃなくて泥棒じゃないの?」
真解「……。まず第一に、真実は皿洗い機を見た、って言ったよな?」
 真実は黙ってうなずいた。
真解「その時、中にはなにが入ってた?」
真実「え? 普通に食器だけど?」
真解「いつの? 朝ご飯? 昼ご飯?」
真実「あ、えっと…日曜の朝と、昼…」
真解「そこがおかしい」
 真実も美登理も首を傾げる。
真解「真実は土曜の夜、皿洗い機から湯飲みを取り出している。これはつまり、土曜の夜の時点では、皿洗い機の中には土曜の夕ご飯の食器が入っていた、と言う事を意味している。なのに、真実が日曜に開けた時は日曜の朝と昼しか入っていなかった」
美登理「そりゃそうよ」
 当たり前じゃない、と言いたげに美登理。
美登理「夜のうちに皿洗い機、回しておいたんだから」
真解「そう。土曜の夕がなくて日曜の朝がある、と言う事は、土曜から日曜にかけて皿洗い機を動かした事になる。ところでここで問題だ。皿洗い機を回したらなにが出てくる?」
真実「え? なにって……なに?」
真解「水だ。放水ホースから水が出て、それは流し台を流れて排水溝へと向かう。この時この水は、流し台にある全ての物を押し流す。ナイフだろうが、フォークだろうが、湯のみだろうが」
 真実がハッと気がつき、「まさか、排水溝に流されたの!?」と叫んだ。叫んだ直後、
真実「あ、でも待って。排水溝にはネットがあるわ。生ごみを捕らえるための」
真解「あるね。で、ここで2つ目の無くなった物だ」
真実「なに? まさかネットが無くなってた、とか?」
真解「違う。日曜に真実は排水溝も覗き込んだって言ってたよな。中はどうなってた?」
真実「空だったよ。湯飲みなんて無かった。断言できるわ」
真解「無くなったものその2。生ごみだ。日曜は朝ご飯も昼ご飯も家で食べていると言うのに、何故日曜の夕方の時点で、排水溝に生ごみの1つ、無いんだ?」
美登理「そりゃそうよ」
 なにが不思議なの、と言いたげに再び美登理。
美登理「生ごみは、昼ご飯の後…あなた達が外に遊びに行っている間に、ネットごとゴミ箱に捨てたんだから」
真実「そっかー、それじゃ当たり前よねぇ……って、え!?」
 真解はニヤ、と笑った。真実は思わず立ち上がって、キッチンに走った。
真解「そう、これが真相。真実の湯飲みは夜のうちに皿洗い機の放水によって排水溝に落とされ、次の日の朝食、昼食の生ごみが上から湯飲みを埋め尽くした。そのためお母さんは湯飲みの存在に気付かず、ネットごと生ごみとして捨ててしまった」
 真解が言い終えた時、「あったーーー!」と言う真実の歓声が聞こえた。

 その日学校につくと、真実は早速先の事件を謎事とメイに話した。
謎事「へ〜、そんな事が」
謎「なんでも推理で出てくるものなんですね」
真解〔いや、なんでも、ってわけじゃないと思うぞ〕
謎事「そのせいで真実、なんか少し臭うのか」
 謎事がポツリと言うと、真実は「ひどい!」と怒り出した。ケンカし出しそうな2人をなだめて、真解は別な話題を切り出した。
真解「だけど真実。気付かなかったみたいだけど、お前は自分ですごいヒントを言ってたんだぞ」
真実「ヒント?」
真解「土曜の夕ご飯のときに話してた事、覚えてるか?」
真実「……確か、この間読んだミステリーのトリックで…死体を食べて、骨を生ごみとして処分……ああっ!」
 死体の骨は生ごみになっていた。真実の湯飲みも生ごみになっていた。
 真相は全て、生ごみにあり。


Finish and Countinue

〜舞台裏〜
こんにちは、キグロです。
さてさて、話す事も特にないので早速正解者の発表を…。

と思ったものの、今回は推理メールが届きませんでした。
誰も解けなかったのか、誰も読まなかったのか……。
やはり商品無しではダメか。
真解「それは関係ないだろう」

そうそう、今回の事件、実は実際にあった話を元にしてるんですよ。
解実「実は実話?」
実は実話。ええ。
美登理「誰かの湯飲みがなくなったのかしら?」
ボクの湯飲みが無くなったんですよ。3つあったうちの、2つが。
解実「途中で気付かなかったのかね?」
ええ。実はこの2つ、デザインが全く同じなんですよね。3つ目は違うんですけど。
美登理「2つが同じデザイン、と言う事は……」
2つをそれぞれ湯飲みA、湯飲みBとすると、Aが無くなってもBがあればAが無くなった事にはなかなか気付きませんよね? だって、手に取ったのがAなのかBなのか判断できないし、1つあればもう1つを探そうなんてしないし。
解実「そうだろう」
だからなのかなんなのか、2つも無くなっちゃって…。
美登理「ちなみに、見つかったの?」
いえ。多分、生ごみと一緒にゴミ処理所へ行ったと思われます。
解実「……それは、残念だったな」

では、また。

作;黄黒真直

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