摩訶不思議探偵局〜偏食主義の理由〜 主な登場人物
実相真解(みあい まさと)…【探偵】
実相真実(みあい まさみ)…【探偵】
相上謎事(あいうえ めいじ)…【探偵】
事河謎(ことがわ めい)…【探偵】
光安那由他(みつやす なゆた)…【依頼人代理】
高麗辺澪菜(こまのべ みおな)…【那由他の彼女】
光安 京(みつやす けい)…【依頼人】

偏食主義の理由〜事件編

こんな日は飲んだ方がいいわ

 金曜日。と言えば週末であり、完全週休2日制が採られている遊学学園の生徒にとっては、休暇の前日である。
「きりーつ、れーい」
 クラス委員である及川の号令で「さよならー」の挨拶がなされ、生徒たちは各々荷物を持って教室を出て行く。金曜日のこの瞬間には、なんとなく解放感がクラスを満たすものである。
「お兄ちゃん、帰ろ」
 真実が真解の元に駆け寄る。「ああ」と言いながら、真解がカバンを背負うと、そこに那由他が近付いてきた。
「あの…真解くん。お願いがあるんだけど…」
「?」
 真解は那由他の顔になにか深刻そうなものを感じた。真実も「?」という表情で固まる。
「なにがあったんだ?」
「いや、大したことじゃないんだけど……」
 頬を爪で掻きながら口ごもる。横にいた澪菜がイラついて、「早く言いなさいよ!」と那由他の横腹を小突いた。
「う、うん。実は、ボクのお姉ちゃんがね…」
「お姉ちゃん?」
 真実が驚いたような声を上げた。
「那由他くんってお姉さんいたの? 初めて知った」
「うん。いま大学1年生なんだ」
「それで、そのお姉さんに何があったの?」
「昨日、お姉ちゃんがボクに言ってきたんだけどね…」

『那由他、あんた確か少年探偵やってる友達いたでしょ?』
 昨日の夜。バイト先のスーパーから帰ってくるなり、那由他の姉が言った。
『ちょっと調べて欲しいことがあるんだけど』
『なに?』
『おとといからさ、うちのスーパーに変な人が来るようになったのよ』
『変な人?』
『そう。カップ麺ばっかり、毎日20個も買っていくのよ、その人。
 変だと思わない? 一日だけなら、買いだめってことで説明つくわ。
 でもその人、昨日も来て、今日も来たのよ。やっぱり大量のカップ麺を買いにね』
『単に大食いなんじゃないのかな?』
『でも太ってないのよ。フツーの体型。変だと思わない?』
『澪菜もいつもお菓子食べるけど、痩せてるよ?』
『そりゃ、澪菜ちゃんはまだ若いからよ。とにかく、気になるから調べてみてくれない?』

「と、言うわけなんだけど」
「は?」
 那由他の説明に、真解は呆気にとられた。
「そんなことを?」
「う、うん…。断りきれなくて…」
 確かに、気になる。一体何を考えて、その人はカップ麺を毎日20個も買っているのか。
「大家族なんじゃないか?」
 謎事が思いついた事を言った。
「もちろんボクもそう言ったよ。そしたら、『じゃあ、大家族だって言う証拠をつかんで来てよ』って」
 自分でやれよ、そのぐらい、と真解は思った。
「ま、いいわ」と真実。「簡単な依頼でつまらないけど、引き受けましょう!」
 つまらないと言いつつ、1人だけテンションが高い。
「じゃ、これから早速、お姉さんがバイトしてるスーパーに行きましょう」
 真解はあからさまに「ゲ」と言う顔をした。それを見て真実は、
「そうね。じゃ、お兄ちゃんは那由他くんの家に行って、お姉さんの話をもっと詳しく聞いてきて」
 どちらにせよ真解は「ゲ」と言う顔をしたが、那由他が口を挟んだ。
「あ、お姉ちゃんは今日もバイトなんだ」
「そうなの? お姉さん、週に何回バイト入ってるのよ?」
 那由他の姉は、那由他に昨日「おとといから」と言った。つまり、今日から見て3日前から連日バイトに入っていることになる。
「普段は月水木の3日なんだけど、今週はバイトの1人が怪我で入院したらしくって…」
 と言うことは、今週は月から金までフルでバイトに入ってることになる。
「明日と明後日はさすがに休みらしいんだけど」
「大変ね、お姉さん」
 結局、真解はこっそり家に帰ることにした。

 結局、スーパーに来たのは真実と那由他、澪菜の3人だけだった。
「みんな薄情なんだから」
 頬を膨らませながら、真実がブツクサ文句を言う。
「ま、ブツクサ言ってもしょうがないわね。で、那由他くん。お姉さんってどれ?」
 真実がレジの方を見る。
 このスーパーは、レジを見渡せる場所に休憩所がある。昼間は子連れ主婦たちの憩いの場所となり、夕方には健全な学生たちの喫茶場所となる。真実たちも休憩所の椅子に座り、レジを見渡す。
 レジはそれなりに混んでいた。どのレジにも2〜3人の主婦が並んでいる。ピッピッと言うバーコードリーダーの音が騒がしく鳴っていた。
 那由他はしばらく首をキョロキョロ動かして、
「あ、あそこ。あの3番のレジ」
 と指差した。
「へー、綺麗な人じゃない」
 と真実。澪菜は何回も会ったことがあるようだったが、
「ま、あたしの方が胸は大きいけど」
「確かに。わたしぐらいしか無いわね」
 2人の会話を聞いて下を向いた那由他を、澪菜が小突く。
「なに恥ずかしがってるのよ」
「だ、だって……」
 2人のやり取りを見て、わたしもしかしてお邪魔だったかなー、と真実は思った。
 思いつつも、真実は那由他に質問した。
「ところで那由他くん。あなたのお姉さんの名前って、キョウって言うんじゃない?」
「え、どうしてわかったの?」
 店員は全員名札をつけているが、ここからでは遠すぎて、名前が一文字であることぐらいしかわからない。
「ほら、『那由他』って数でしょ? 第二子に『那由他』なんてマニアックな名前つけるんだから、第一子も数から名付けるはず。他に名前になりそうな数って言うと、『京』ぐらいかなって。一応『千佳』とか『百子』も考えられるけど、一文字っぽいから」
 目を丸くする那由他の横で、澪菜が「え、え?」とおろおろする。
「那由他って数なの?」
「そうよ。数学の教科書に載ってるけど、見てない?」
 早速澪菜はカバンから教科書を取り出して開いた。
「本当だ、10の60乗だって。あんた背小さいくせに名前は大きいのね」
 那由他の頭を掴む澪菜を見て、やっぱりわたしお邪魔だったかなー、と真実は思った。

「あ、来た!」
 澪菜が言った。3番のレジに、その人物が現れた。
 やって来たのは、中肉中背の若い男だった。20代後半だろうか。男物のショルダーバッグを提げ、カップ麺を山盛りにした買い物カゴを持ち、そわそわしながら中年女性たちの後ろに並ぶ男の姿は、妙に目立っていた。
「なにそわそわしてるのかしら、あの人」
「もしかしたら…」真実が真剣な顔で言う。「なにかやましいことがあるのかも…」
「例えば?」
「犯罪者をかくまってる、とか。それも何人も。だから、大量にカップ麺を買うのよ!」
 いくらなんでもそれはないんじゃないかな、と那由他は思ったが、澪菜は真剣な顔で「その可能性はあるわね」と頷いた。
 男が京の前に来た。京は営業スマイルでお辞儀をすると、カゴからカップ麺を取りバーコードリーダーで読み込んでいく。
「1、2、3…」
 京が手に取るたびに真実がカウントアップする。どうやらカップ麺の個数が気になるようだ。理系の人間は暇つぶしに数を数えることが多いように思う。家から学校までの歩数や、学校の階段の段数を数えた理系人間は少なくないはずだ。
「ジャスト20個か…」
 つぶやくと、真実は席を立った。那由他も澪菜も続いて席を立つ。男を尾行するためだ。
 両手に白いビニール袋をぶら提げた男がスーパーから出て行く。真実たちはそれより十数秒遅れて自動ドアをくぐった。ドアを出たところは駐輪場だが、男はそこを素通りする。どうやら歩いて帰るようだ。
 日が沈みかけているが、あたりはまだ明るい。気付かれないよう出来る限り距離をとって真実たちは後をつけた。駅から歩いて数分にあるスーパーから、更に10分ほど男は歩いた。人気がなくなって来たところで、男は道路を逸れて一棟のアパートに入っていった。
「ここが犯人グループのアジト…」
 いつの間にグループになったのか。3人は恐る恐る男が入っていったドアに近付く。
 ごく普通のアパートだった。2階建てで、部屋は8部屋だ。男が入っていったのは1階の右から2番目、103号室だ。
「ニッシン…」
 と澪菜は言ったあと、
「違う、ヒダカ・セイ、か」
 と言い直した。澪菜の視線の先、表札には『日高 清』とある。
「裏に回ってみましょう。室内が見えるかもしれない」
 真実を先頭に3人はアパートの裏へと回る。裏は広々としていて、駐車場のようだ。白いラインが引いてある。103号室の窓を覗き込む。
「残念。明かりはついてるけど、カーテンが閉まってるわ」
「やっぱり見られたくないものがあるのかしら?」
「普通、帰ってきたらカーテンを閉めるんじゃないかな…」
 いつの間にかにあたりは暗くなっている。普通はカーテンを閉める時間だ。
 真実は窓に耳を押し当てた。テレビの音や人の足音が聞こえるが、会話らしきものは聞こえない。
 念のため、窓についた指紋をふき取りながら、
「仕方が無い。明日、昼間に来ましょう。そしたらカーテンが開いてるかもしれない」
 幸い、明日は土曜で学校は休みだ。朝早くからこのアパートを見張ることも出来る。
 明日も来るのか、と那由他はアパートを見上げた。
「とりあえず、大家族ってことは無さそうだね…」
「そうね。表札にも1人の名前しかなかったし、この時間に1人しかいないみたいだし。たぶん、大学生が下宿してるんだわ」
 1人暮らしの大学生がカップ麺を大量購入する理由の解明は、明日までお預けのようだった。

Countinue

〜舞台裏〜
お久しぶりです!!
約3年ぶりの『摩探』新作、いかがでしょうか?
真解「と聞かれても、まだ事件編なんだが」
まあそうだけど。
真実「どうしてこんなに間が空いたの?」
ん〜、なんでだろうなぁ。自分でもよくわからないけど、色々忙しくって。
こういうのって、一度休止しちゃうとなかなか再開しないもんなんだね。
謎「そもそもどうして休止したんですか?」
大学入試があったからです。
謎事「……リアルな理由だな」
君たちと違って、ボクはリアルの世界に生きてますので。
真解「ちょっと待て。大学入試が3年前ってことは、今度は就職活動があるんじゃないのか?」
よくおわかりで。
真解「また休止するのか?」
さぁ?

さてさて、約3年ぶりと言うことで、作者も勝手を少し忘れてまして。
真解「例えば?」
色々だねぇ。まず読んですぐ気づいてもらったと思うけど、今までセリフの前につけてた名前を消しました。
真実「そうそう、気になった」
摩探以外でこの形式で書いてる小説って、無いんだよ。『カービィ探偵団!』はこの形式だけど、いま書いてないし。
それで、今回も名前をつけて書き始めたんだけど、どうも書きにくいというか……。
謎事「あれ? 摩探は書いてなくても、他の小説は書いてたのか?」
うん。書くのが好きだから、未公開の小説ってけっこう書いてるんだよね。面白く仕上がったのはmixiとかで公開してるけど。
だから、名前をつけない形式の方に慣れてしまったので、摩探も形式を変えました。
元々連載休止する前から、「この形式変えた方がいいかなぁ??」と悩んでいたので、いいキッカケになりました。

謎事「ところで、1ついいか?」
ん、なに?
謎事「那由他の名前って、あんなんだったか?」
真実「あ、言われてみればなんか変」
………。気のせいです。
真実「えー、絶対違ったよ」
気のせいです。
真実「………」
いや、なんていうか、自キャラに自分の名前を使うのがちょっと恥ずかしかったんです。
真解と真実の「真」は、ボクの名前だけどさ…。
真解「初めからやらなければよかったのに」
摩探がこんなに続くとは思わなかったんだよー。初めは10話ぐらいで終わらせるつもりだったし。
謎「そうだったんですか?」
前も言った気がするけど、元々は「どうしてメイちゃんが無表情なのか?」と「どうして真解は探偵局を作ったのか?」が、回を重ねるごとにちょっとずつ明らかになっていく、と言うストーリーにするつもりだったんだよ。
謎「完全に破綻してますね」
メイちゃんの方は解明したけどね……。

では、また。

作;黄黒真直

推理編

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