摩訶不思議探偵局〜ハートの奪い合い〜 事件関係者リスト
実相真実(みあい まさみ)
相上育覧(あいうえ いくみ)
及川美雪(おいかわ みゆき)
霧島 澪(きりしま れい)


ハートの奪い合い〜限定ジャンケン編その1

 真実が「ハートの奪い合い」を提案した1週間後、すなわちゲーム本番の日。真実、育覧、及川、澪の4人は、放課後の教室に残っていた。教室にはもう、誰もいない。廊下にも人気はなく、校庭から運動部の掛け声が聞こえてくるだけだ。
 真実は、小さな青い蝶の形をしたヘアピンをいじり、髪を左側に留め直すと、3人を見て言った。
「準備OK。じゃ、始めましょうか、ゲーム」
 4人の前には、位置を変えられた机が3つ。2つは向かい合わせに、もう1つはその横に、2つの机を見れるように置かれている。
「出題順は育覧ちゃん、及川さん、わたし、だったわね。それじゃ育覧ちゃん、その席に座って」
 と真実は、横の机を指差した。真実と及川は向かい合わせに座る。澪も、適当に近くの席に座った。
 真実はケースからチップを取り出すと、3人の前にそれぞれ10枚ずつチップを置いた。及川も育覧も、それをスカートのポケットにしまう。真実も一応、ポケットに入れた。
「えっと…それでは、始めます」
 育覧が、チラチラと澪を見ながら言った。そんな育覧を、真実はニヤリとしながら見た。
「わたしが出題するゲームは、『限定ジャンケン』です」
「限定ジャンケン?」
「はい。このカードを見てください」
 と、育覧はカードを10枚、机の上に出した。裏は黒く、表にはジャンケンの手が描かれている。
「へー、こんなカードがあるんだ」
「はい。限定ジャンケンでは、このカードを使ってジャンケンをしてもらいます」
 育覧は机に置いたカードを再び束ねると、5枚2組に分け、2人に1組ずつ渡した。
「今回お2人が使えるのは、今渡した5枚のカードのみ。その5枚のカードを使ってジャンケンをしてください。なお、カードの内訳は2人とも同じです」
 2人とも、自分のカードを見た。渡されたカードの内訳は、こうだった。
「パーが3枚、チョキとグーがそれぞれ1枚…」
「異様にパーが多くない?」
「仕様です」
 と、堅苦しい言葉で育覧が言う。
「ゲームは1セット5試合。カードを1枚ずつ机の上に伏せて置き、2人のカードが出揃ったらわたしが“オープン”します。勝敗のつけ方は、普通のジャンケンと同様です」
 すなわち、チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝ち、グーはチョキに勝つ。3すくみの構造。
「使ったカードは、そのセットが終わるまで再使用できません。つまり、使えるカードがどんどん減っていくわけですね。当然、5試合目は勝負する前から結果がわかるわけです」
 1試合ごとに出したカードは育覧が回収し、2人は手元に残ったカードのみで戦う。カードはたった5枚だから、相手が今持っているカードは容易にわかることになる。
「チップの交換ですが、単純に1試合ごとに敗者から勝者に1枚渡してください」
「あいこのときは?」
「1回目のあいこに関しては、チップの移動は行いません。でも、2回目以降のあいこでは、親からわたしにチップを1枚渡してもらいます」
「親? …の前に、どうして1回目はチップを渡さないの?」
「カードは5枚、うち3枚がパー。なので、どう頑張っても1セット中最低1試合は必ずあいこになってしまうからです」
 及川は少し考えて、
「ああ、そっか」
 とうなずいた。あいこにならないためには、2人が違うカードを出す必要がある。が、違うカードが出せるのは最高4回までなのだ。プレイヤーAが出した2枚のパーとプレイヤーBが出したグー、チョキがぶつかり、Bが出した2枚のパーとAが出したグー、チョキがぶつかる。これがあいこにならない最長の方法で、最低1回はパー同士がぶつかってあいことなる。
「で、親と子は、あいこのときにチップを失うか否か、の違いだけです。それ以外の優劣はありません。あと、最初の親はコイントスで決めますが、以降は1セットごとに交代していきます。なお、ゲームは4セット20試合です」
 育覧のルール説明は以上だった。
 使えるカードは5枚。うち3枚がパー、残りはグーとチョキ。互いに同時にカードを1枚ずつ出して勝負し、勝てば相手からチップを1枚得られる。それが基本的なルールだ。
「ルール自体は簡単ね」
 と及川はつぶやき、考えた。
 単純に考えて、このゲームは「いかに相手のチョキをグーで殺すか」が肝になる。パーが3枚もあるのだから、グーを出せば高確率で相手のパーに負け、チョキを出せば高確率で勝てる。逆を言えば、相手がチョキを出したときにグーを出し、相手のチョキを殺す必要がある。
「………」
 2人が思案する中、育覧は不安そうに澪を見た。澪は「大丈夫だよ」とアイコンタクトを送った。

「これで…わたしにチップは入るんですか?」
 話は土曜日に遡る。育覧は首を傾げながら、説明を終えた澪を見た。
「入る」
 澪は自信満々の声で答えた。
「最低でも4枚。もしかしたらもっとかもしれない」
「え、どうしてですか?」
「この『限定ジャンケン』でのカードの出し方って、全部で何通りあると思う?」
「何通りって…えっと…」
 パー、パー、パー、グー、チョキ。パー、パー、パー、チョキ、グー……と育覧は数え始めたが、すぐに音を上げた。
「何通りですか…」
「この5枚のカードを出す方法は、全部で20通り」
 あ、意外と少ない、と育覧は思った。
「だけど、相手が出すカードを考慮すると、20×20で400通りになる」
「そんなに?」
「うん。問題はこのうち、育覧ちゃんにチップが入らない…つまり、あいこが1回しかないパターンは何通りあるか、だけど…」
「何通りなんですか?」
「あいこを1回で済ませるためには、一方がパーを出したとき、もう一方がパー以外を出す必要がある。逆に一方がパー以外を出したら、もう一方はパーを出さないといけない。1回でもグーとチョキがぶつかったら、パー同士のあいこが2回以上になるからね」
 育覧はしばらく考えてから、そうですね、とうなずいた。
「そう考えると、あいこが1回になるためには、自分と相手のカードが【パー、パー】【パー、グー】【パー、チョキ】【グー、パー】【チョキ、パー】の組み合わせでぶつからないといけない。この組み合わせになるパターンは、全部で120通りとなる」
「…割と多くないですか?」
「でも、全部で400通りなんだよ? なら、1セット中あいこが1回となる確率は30%だ」
「え…」
「だから、あいこが2回以上になる…つまり、育覧ちゃんがチップを手に入れる確率は、70%にもなる」
 その数値に、育覧は大きな瞳を丸くした。
「すごい…それなら、1セット中1枚はチップが手に入りますね!」
「うん。しかも、このルールを聞いた2人は、絶対にこう考える。『どうやって、相手のチョキに自分のグーをぶつけようか』って」
「え? …あ、そっか。そうしないと、自分のグーはパーに負けるか、あいこになっちゃうんですね」
「そう。でも、その考えは僕らの思う壺。さっきも言ったとおり、グーとチョキがぶつかったら、絶対2回以上パーがぶつかるからね。すると…」
「わたしにチップが入るわけですね!」
 澪はニッコリうなずいた。

 話を戻して、ゲームの席。澪との会話を思い出し、育覧は軽く深呼吸した。
「2人とも、心の準備は整いましたか?」
「もち」
 カード5枚を手中に収め、及川が答える。真実も「ええ」と答えた。
「それでは、まず親を決めます」
 育覧が自分のチップを取り出し、手に乗せる。
「ハートが表ってことで…表と裏、どっちがいいですか?」
 育覧の問いかけに、及川がすかさず「表」と言い、真実があとから「じゃあ裏で」と言った。
 2人の答えを聞くと、育覧はチップを弾いた。弾かれたチップは机の上に落ち、数度のバウンドと回転を行うと、上を向いた。出てきたのは、裏だ。
「それでは、1セット目は真実お姉ちゃんが親ってことで」
「わかったわ」
 育覧は弾いたチップを回収すると、高らかに宣言した。
「それでは、『限定ジャンケン』1セット目、スタートです!」

 どうしたものか、と及川は自分のカードを見ながら考えた。
 1試合目は、互いに何を出すか全く読めない。お互い手の内は同じなのだから、1試合目に勝てるかどうかは運と言ってもいい。
〔…一応相手の心理を読めば、わからなくもないのかしら…?〕
 首を捻って考える。真実は何を出す気だろう、と真実を伺うと、ちょうど手札からカードを1枚引き抜くところだった。
「え、もう決まったの?」
「…ええ」
 と真実はカードを机の上に置いた。
 もしかして、真実は運任せなのだろうか。しかし何か引っかかる、と及川は思った。運なら運で、何かいい方法があるはずだ。
〔……そうか、確率!〕
 ハッとして、及川はカードを見た。確か、真実は数学が得意だった。確率の計算だって出来るはずだ。
 この5枚のカードの中で、どれを出せば一番勝つ確率が高いか、を考えればいい。相手の手札のうち、一番多いのはパーだ。ならば、パーに勝つチョキが一番勝つ確率が高い。
〔そっか…勝つ確率が高いチョキはセットの前半で、負ける確率の高いグーはセットの後半で出した方がいいんだ…〕
 当然、その中間がパーになる。問題は…。
〔実相さんがいま出したカードが、チョキかどうか、ってことだけど…〕
 もし真実がチョキを出して、及川もチョキならあいことなる。せっかくのチョキを無駄にすることになるが…。
〔あ、でも待って。今わたしは子なんだから、何回あいこになっても痛くも痒くもない。いえ、それよりもむしろ、早めに1回あいこになった方がいい。だって、親がチップを失うのは、2回目以降のあいこ。1試合目であいこになれば、以降親は辛くなる〕
 となると、決まった。自分が出すべきカードはチョキだ。
 及川は手札からチョキを取り出して、机に伏せた。これで2枚のカードが出揃った。
「それじゃ、いいですね?」
 育覧が手を伸ばして、2枚のカードを掴む。
「オープン」
 カードをひっくり返すと、出てきたのは。
「及川さんがチョキ、真実お姉ちゃんがパー。…と言うことで、真実お姉ちゃんの負けです」
「えっ! …や、やった!」
 及川がガッツポーズをする。真実は一瞬顔をしかめたが、すぐにもとに戻した。そして黙ってポケットからチップを1枚取り出すと、及川に渡した。
「ふふ、実相さん、幸先悪いんじゃない?」
「……さあ、どうかしら?」
 あくまで澄ました顔で真実が答える。口元には笑みも浮かんでいる。
 だが本音を言うと、真実は内心焦っていた。何かがおかしい、と思っていた。
 真実の読みでは、及川はパーを出してくるはずだったのだ。いきなり読みが外れ、真実は冷静さを奪われた。
「さ、次、やりましょう」
 そう言って、育覧の方に机のカードを追いやった。

 1セット目、第2試合。及川は、再び確率論で考えていた。
〔実相さんのカードはパーが2枚、グーとチョキが1枚ずつ。私のカードは、パーが3枚、グーが1枚〕
 確率的に考えれば、パーを出すのが最も有利である。パーなら2分の1の確率であいことなり、4分の1の確率で勝ち、4分の1の確率で負ける。グーを出すと、2分の1の確率で負け、4分の1の確率で勝ち、4分の1の確率であいことなる。
〔実相さんからパーが出てくる確率は2分の1になるはずだから、こっちもパーを出すべき? でも、裏をかいてチョキを出すかもだし…〕
 チラリ、と真実を見ると、真実も色々考えているようで、顔が険しい。何故及川がパーではなくチョキを出したのかを考えているのだが、もちろん及川はそんなことは知らない。
 しばらく真実の険しい顔を見ていると、真実と目が合った。
「及川さん、一体何を考えてるの?」
「え?」
「……いえ、なんでもないわ」
 真実は軽くため息を吐いて、カードを1枚出した。
 なんだ今のは、と思った。及川の目には、真実が考える事をやめたように見えた。諦めたのか、考えがまとまったのか。
〔ため息、ってことは諦め?〕
 すると、裏をかくのをやめたのか。ならば、真実が出したのはパーか。
〔じゃあいいわ。グーを出したら負けちゃうし、パーで行きましょう〕
 及川もカードを1枚取り出して、机に伏せた。
「では」と育覧が手を伸ばして、カードを掴んだ。
「オープン」
 カードが表に返された。
「…2人ともパーですね。よって引き分けです」
 ふぅ、と2人が安堵のため息を漏らす。しかし真実はすぐに首を傾げる。及川の考えが全く読めない。
〔単に、最初だから思慮が浅いだけだったりして〕
 と、真実は思った。
「それでは、3試合目、始めてください」
 カードを片付けながら、育覧が言った。

 さて困った。及川は自分のカードを見てうなった。
 及川の手元には、パーが2枚とグーが1枚。一方、真実の手元にはグー、チョキ、パーそれぞれ1枚ずつ。
〔パーを出してもグーを出しても、私が勝つ確率は3分の1、ってことか。純粋に運になっちゃったわね〕
 何か考える術はないだろうか。
〔あ、そうか。実相さんの立場に立って考えればいいのか〕
 及川から考えると、真実が何を出すかわからない。一方、真実から見れば、及川がチョキを出さないことは確定している。チョキを出さないのだから、パーを出せば絶対安全だ。
〔チョキを出しても、勝つ確率は3分の2。グーを出すと、負けるかあいこになる〕
 なら、真実はパーを出してくるのだろうか。すると、こちらはパーを出さないと負けてしまう。
 出す札は決まった、と及川は一瞬思ったが、何か引っかかるな、と考えた。
〔あ、違う。実相さんはあいこになってもダメなんだ!〕
 真実は現在親であり、既に1度あいこになっている。つまり、次にあいこになると、真実はチップを1枚育覧に渡さなくてはならなくなる。
〔親にとって、負けるのとあいこになるのは同じこと…。だから、パーは絶対安全なわけじゃない…3分の2の確率でチップを失うカードなんだ!〕
 すると真実は、グーを出しても確実にチップを失うことになる。グーはあいこか負け、だからだ。
〔つまり、実相さんが出すカードはチョキ!〕
 及川はそう結論付け、手札からグーのカードを取り出し、机に置いた。
 それを見て、真実もカードを取り出して机に伏せた。
「2人のカードが出揃いましたね」と育覧。「では…オープンです」
 育覧が2枚のカードを表に向けた。
「及川さんは、グー。真実お姉ちゃんは……グー。よって、引き分けです」
「……あれっ?」
 及川は身を乗り出して、カードを確認した。しかし、何度確認しようと、結果は同じである。
「なんで?」
「なんでって言われても…」と真実は言葉を濁した。
 実を言うと、真実は及川がグーを出すと読んでいた。真実はここまで、2回連続でパーを出している。だから及川が、「実相さんが3回連続でパーを出すはずがない」と考えると思ったのだ。とすれば、及川は真実がグーかチョキを出すと考えるはずである。真実がチョキなら及川はグーを出すべきであり、真実がグーでも、及川はグーを出して構わない。何故なら、真実のチップを減らすことが出来るからだ。だから、及川はグーを出すに違いないと、真実は踏んでいた。
 では何故、真実はグーを出したのか。……それは、現状ではまだ言えない。
「あなたこそ」真実は話を逸らすことにした。「どうしてグーを出したの?」
「それは…」と及川は素直に答えた。
「私はパーを2枚、グーを1枚持っていた。一方、実相さんはグー、チョキ、パーを1枚ずつ…。もし実相さんがグーを出せば、実相さんが勝つ確率はゼロ。チョキを出せば、勝つ確率は3分の2。パーなら3分の1でしょ? だから、てっきりチョキを出すかなって…」
「…………」
 及川の説明を聞いて、今度は真実が愕然とした。
「あの、及川さん…授業、ちゃんと聞いてる?」
「な、なによ? どういう意味よ?」
「あのね、確率って言うのは、『起こりうる全ての出来事が、無作為に起こる場合』にのみ、考えることが出来るの」
 及川が眉をひそめたので、真実は「えっと…」と少し考えてから、説明した。
「例えば、『コインを投げて表が出る確率が2分の1』とかは、コインを投げたときに表と裏が無作為(ランダム)に出るからこそ、考えることが出来るの」
 もう少し正確に言うと、ランダムに出ると「期待できる」から、確率を考えることが出来る。
「一方、『わたしがコインを表に置く確率』なんてのは考えることが出来ないの。何故なら、わたしがどうコインを置くかは、わたしが作為的に決めることが出来るからよ」
「ちょっと待って…それじゃ、相手がチョキを出す確率、なんてのは…」
「数学的に、全く無意味な思考。そんなもの、求めることは出来ないわ。相手が作為を持って決められるんだから」
「んん? それじゃ真実」
 今までずっと黙っていた澪が、口を開いた。
「この前、数学の授業で『3人でジャンケンをして、あいこになる確率を求めよ』ってあったけど、あれはどうなるんだ?」
「あれも、数学的に言えばナンセンス。単に暗黙の了解として、『全員がランダムに手を出す』と仮定しているのよ。だから例えば、全員が互いに相手の心理を読みあい、出す手を決めていたら、あいこになる確率は求められないわ」
「………」
 澪を含め、場にいる4人が黙り込んだ。
 育覧はチラリと澪を見た。今の真実の話が本当だとすれば、澪の言っていた「育覧が勝つ確率が70%」というのも怪しくなる。が、澪は「大丈夫だから」とアイコンタクトを送った。
 確かに、確率は関係ない。しかし、育覧の勝ちパターンが多いのもまた事実。それに澪が考えたとおり、このゲームはどちらかが勝とうとする限り、親のチップが育覧に流れるようになっているのだ。
「でも、そうか…確率で考えていたら、確かに最初の1枚はチョキよね…」
「逆に聞きたいけど、どうして実相さんは、最初にパーを出したの?」
「簡単なことよ」真実はため息混じりに答えた。「あなたは今、子なのよ? そしてわたしは今、親でしょ?」
「え、ええ、そうね」
「親は2度目以降のあいこではチップを1枚育覧ちゃんに渡す…でも、子はあいこになっても被害がない。なら、子は出来る限り早い段階で1度目のあいこを済ませておきたいわよね? 親を追い込みたいなら」
 それは及川も気付いていた。無言で頷く。
「なら、出来れば1試合目であいこになりたい。そして、どうあがいても必ず1回はパー同士のあいこになる。なら、最初にパー同士のあいこを作っておいた方が、子にとっては有利よね?」
「……あれ? でも、だったらなおのこと、親である実相さんがパーを出したのはおかしくない? チョキを出すはずじゃない」
「そんなことないわ。確かに、親にとってはチョキを出した方がいいけど、もし親がチョキを出すなら、子はグーを出すべきよね。すると親は負けてしまうから、負けないためにはパーを出した方がいい」
「で、でもそしたら、子はチョキを出した方がいいってことにならない?」
「勝とうと思うならそうね。でも、あいこにしようと思うなら、パーのあいこを作るべきよ」
「そっか……」
 及川はまだ混乱していたようだが、一応納得したようである。真実が及川を受け流すように言った。
「ところで、このセットはもう、やる必要がないわよね? 及川さんはもうパーしか持ってないんだし」
「そうすると…」と育覧が考えた。
「まず、いまの勝負で真実お姉ちゃんから私にチップが1枚」
 育覧が言うと、真実はチップを黙って育覧に差し出した。
「次に、残りの2つの試合では、真実お姉ちゃんがパーで及川さんがパー、真実お姉ちゃんがチョキで及川さんがパー、の2通りが起こるから……」
「真実パー、及川パーのときに、真実から育覧ちゃんにチップが1枚」
 と澪が口を挟んだ。真実は再び、育覧にチップを渡した。
「真実チョキ、及川パーでは、及川が真実にチップ1枚渡す」
 及川がポケットからチップを1枚取り出して、真実の前に置いた。
 すると。
「……あ、あれ? なんかおかしくない?」
 及川が自分のチップを全て机の上において言った。
「私、チップ10枚なんだけど?」
「まあ、そういうこともあるでしょうね」
 特に驚く様子もなく、真実は淡々と答えた。
 ちなみに、真実の収支は−2。現在チップ8枚だ。
「それでは」チップが2枚増え、12枚となった育覧が進行させる。「2セット目に行きましょう」

Countinue

〜舞台裏〜
さて、いよいよゲームが始まりました。キグロです。
謎事「全20試合って…長いな」
んー、でも1試合が割と短いから、何とかなるかなと思ってる。

この話を読み返していて気付いたんですが…
謎「なんですか?」
澪くんの名前、「レイ」って読むのに、読み返してるといつも「ミオ」って読んでしまいます。自分のキャラなのに。
っていうか、読者の中にも絶対「ミオ」って読んでる人、いるんじゃないかなー…。
謎事「しかも、『澪菜』は『ミオナ』だから、余計混乱するよな」
うん…ってか、どうして摩探ってこんなにレギュラー陣の名前似てるんだろう?
真解と真実は双子だからいいとしても、真澄だっているし、謎事とメイも似てるし、澪と澪菜も似てるし…。
唯一、最近名前を変えた那由他だけは他と被らない名前だけど、「那由他」なんて読めないし。
真解「キグロが自分でつけたんだろ?」
ま、そうなんだけどさ。あの時は考えなしで適当に決めてたから……。
謎事「考えなしで名前を決められたオレ達っていったい」

ではまた次回。

作;黄黒真直

限定ジャンケン編その2

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