摩訶不思議探偵局〜ハートの奪い合い〜 事件関係者リスト
実相真実(みあい まさみ)
相上育覧(あいうえ いくみ)
及川美雪(おいかわ みゆき)
霧島 澪(きりしま れい)


ハートの奪い合い〜限定ジャンケン編その2

 育覧が持って来たゲーム「限定ジャンケン」では、ジャンケンの手が描かれたカードを使って勝負を行う。
 配られるカードは1人5枚。その内訳は、パーが3枚、グーとチョキがそれぞれ1枚。これを、2人が同時に提出しながら、ジャンケンを行う。
 ゲームは5試合を4セット行い、全20試合。1試合ごとにチップを1枚ずつ賭ける。
 基本的に、チップの支払いは勝敗通り。ただし、2度目以降の引き分けでは、親だけ育覧にチップを支払わなければならない。

 2セット目、第1試合。
 第1試合では、パーを出すのが妥当である。何故なら、パーが3枚と言うルール上、パーが最低1回あいこになるからだ。親は2度目以降のあいこでチップを失うのだから、1回目でパーをあいこにしておけば子にとっては有利だし、親にとってもパーを出すタイミングを読まなくて済むので楽なのだ。
 及川は、真実に言われたこの説明通りパーを出そうとしたが、ふと手を止めた。
〔いえ、待って。なんで私はパーを出そうとしてるの? 実相さんはああ説明したけど、それはここで私にパーを出させるためのハッタリだとしたら…?〕
 すると、ふたを開ければ真実はチョキ、と言う可能性が高い。及川は手をグーに移し、カードを置いた。真実も既にカードを置いていたので、育覧が「オープン」とカードをめくった。
「及川さんがグー、真実お姉ちゃんがパー。よって、真実お姉ちゃんにチップ1枚です」
「あ、あれ?」
 真実は及川からチップを奪うように受け取りながら、「あんたバカ?」とばかりに及川に冷たい視線を送る。
「第1試合はパー同士のあいこを作るべきだって、言ったじゃない」
「ぐぐ……」
 もしかして、ここまで読まれていたのだろうか。いや、それとも本当に第1試合はパーを出すべきなのか。
 及川は段々混乱してきた。

 第2試合。
「もう、変に考えるのはよした方がいいんじゃない?」
 真実が言いながら、すぐさまカードを置いた。
「………」
 及川は答えず、真実をただ睨み、カードを置いた。
「はや…」と澪が思わず口にする。
「では、オープン」
 カードをめくると、2人ともパーだった。よって、チップの移動は行われない。

 第3試合。
〔問題はここからね…〕
 と及川は思った。
 ここまでの2試合で、真実はパー2枚、及川はグーとパーを出した。つまり残りのカードの内訳は、真実が3種類持ち、及川はパー2枚とチョキ1枚だ。なんだか1セット目と似ていると、及川は思った。
 と、真実がすぐにカードを置いた。
「え、もう決まったの?」
「まぁね」と真実が不敵に笑う。「あなたの出すカードがわかってるから」
「な、なんで…」
 真実は小首を傾げながら、「確率?」と答えた。明らかにバカにしている。
「く……」
 及川はイライラしながら手元のカードを見る。
 それにしても、真実はえらく早くカードを出したな、と思った。試合が始まって10秒も経ってない。
〔もしかして…カードを出すべき順番が決まってる、とか? だから悩む必要がないの?〕
 うーん、と及川は考えた。1セット目、真実はパー、パー、グーの順に出し、及川はチョキ、パー、グーと出した。残りの2回は、勝負を行なわずチップの交換だけ行なった。
〔…あれ、ちょっと待って…〕
 及川はスカートのポケットを触った。中にはチップが9枚入っている。
〔最後の2回は勝負をしてない。なのにチップの交換がちゃんと出来たっておかしくない?〕
 一度いまの勝負を忘れ、ゆっくりと考える。
〔最後の2回。もし実相さんがチョキ、パーの順に出したとすると…私は1敗1分け。もしパー、チョキの順だとすると…やっぱり1敗1分け。あ、そうか、いいのか〕
 でも何か引っかかる。何故1セット目は、チップの収支がゼロになったのだろう。
〔よく思い出そう。私はチョキ、パー、グーの順に出して、勝ち、あいこ、あいこ、だった。つまり1勝2分け。残りの2回を合わせると、私は1勝1敗3分け。だから、チップを1枚得て、1枚失った。……あ、そうか!〕
 ようやく気付いた。及川は目を見開く。
〔このゲーム、1セットごとに考えればカードを出す順番は関係ないんだ! 最終的な勝敗数がチップの枚数を決めるのか!〕
 凄い発見をした! と思い、真実を見る。途端にあれ、と思った。
〔だったら、なおのこと出すカードに悩みそうだけど? それとも、本当に私の出すカードがわかってるわけ?〕
 及川は首を傾げたが、「順番は関係ない」という考えが間違っているとは思えない。
〔いいや、実相さんの思考は一旦置いておこう〕
 自分の手元を見る。残ったカードはパー2枚とチョキ1枚。順番が関係ないのなら、チョキを真実の何とぶつかるか、だけを考えれば良い事になる。
〔残りはたったの3枚なんだし、ゆっくり順番に考えていこう〕
 もしも及川のチョキと真実のパーをぶつけたとすると。残りのパー2枚に真実のグー、チョキがぶつかってくる。すると、この3試合では2勝1敗だが、既に1敗しているので、最終的には2勝2敗1分けで、収支は±0。
 及川のチョキと真実のチョキをぶつけると、パー2枚にグーとパーがぶつかってくる。すると最終的に1勝1敗3分けとなり、及川の収支は−2となる。ちなみに真実は±0で、育覧が+2だ。
 及川のチョキと真実のグーをぶつけると、パー2枚にチョキとパーがぶつかってくるのだから、最終的に0勝3敗2分けとなり、及川の収支は−4、真実は+3、育覧は+1となる。
〔このパターンは最悪ね。絶対避けないと。……って、ああっ!!〕
 及川は再び目を見開いた。
〔これ…どのパターンになっても、実相さんはチップを失わない! だから何も考えずにカードが出せたんだ!〕
 なんてことだ。及川は真実の余裕の笑みを見た。ニコニコとこちらに手を振っている。この至近距離で手を振る意味はなんだ。
〔いや待って! 確かに負けないけど、でも、実相さんとしては最後のパターン…実相さんの収支が+3となる最強パターンを狙ってくるはず! そのためには、グーを私のチョキとぶつけないといけない。つまり実相さんは、私がいつチョキを出すか、確実に読まないといけない〕
 それはかなりシビアな状況だ。いくらノーリスク・ハイリターンとは言え、もしキーであるグーを出したなら、真実がここまで余裕の笑みでいられるだろうか? 少なからず緊張感を出すはずだ。だが、いまの真実にはそれがない。
〔どういうわけかわからないけど、たぶん実相さんは、私がパーを出すと確信したんだ。だから、グー以外のどちらかを出した。だから、余裕の笑みを浮かべている。ならば…〕
 ならば、及川の出すべきカードはチョキだ。ここでチョキを出せば、及川−4、真実+3という最悪の事態は回避できる。
「……お2人のカードが出揃いましたね」
 2人のカードに手を伸ばし、育覧がオープンする。
「及川さん、チョキ。真実お姉ちゃん…チョキ。よって、引き分けです」
 勝った…! 及川は思わずニンマリとした。
「及川さん」と真実。「勝った、と思ってるかもしれないけど、それはどうかしら?」
「え?」
「考えてみて。わたしのカードはチョキ。及川さんのチョキとわたしのチョキがぶつかったら、どうなる?」
「………」
 思い出した。
 この場合、真実は±0だが、及川は−2となる。3回引き分けが生じるので、親である及川が育覧にチップを2枚渡さないといけないのだ。
「あ…」
「残念ね」
 チップを収支に合わせて交換し、2セット目は終了した。
「でも、結局実相さんは±0じゃない。最強のパターンを狙ったんでしょうけど、残念ね」
「…そうね」
 及川の負け惜しみに、真実は小さく答える。どうも釈然とせず、及川が聞いた。
「ちなみに、なんで私がパーを出すと思ったの?」
「それは秘密」
 と真実が言った。
 本当のところ、真実は及川がチョキを出すとわかっていた。おそらく、確率を頭から切り離せばすぐに「順番が関係ない」と気付くだろうと思ったから。そして余裕の笑みを浮かべれば、チョキを出すと思ったから。だからチョキを出した。真実は、まさにこのパターンを狙っていたのだ。
 だが、その理由を話すことは、今は出来ない。
 実を言うと、及川の言う「最強パターン」でも本当は構わなかったが、出来ればこのパターンの方が真実にとってありがたかった。少なくとも、全員が±0となるパターンだけは、避けたかったのだ。
 なんとか避けることが出来て、真実は内心ホッとしていた。

 そして3セット目が始まった。今度の親は真実だ。
 第1試合は、2人ともパーを出し引き分け。
 続く第2試合で、早速2人は考え込み始めた。
〔ふぅむ〕
 澪は、自分の手元にある1枚のメモを見た。
〔及川が言ってた『最強パターン』って、たぶんこれだよな。真実も普通に頷いてたから、たぶん2人とも、このゲームはカードを出す順番が関係ないって気付いたんだな〕
 澪のメモには、P、C、Gの文字と数字が並んだ表が書いてある。澪が限定ジャンケンを考えてから、一生懸命書いたメモだ。最終的な収支に注目すればカードの順番が関係ないことぐらい、澪もすぐに気がついた。もっとも、育覧には説明しなかったが。
〔あの時は、確率的に考えてもいいと思ってたからなぁ…〕
 確率を頭から捨て、手元のメモをもう一度よく見る。
 育覧に説明したときは、カードを出す順番にも注目し、全部で400通りであると説明した。だが、カードを出す順番を考慮しないと、パターンは劇的に減る。順番を考慮せず、カードの組み合わせだけを考慮した場合、限定ジャンケンの1セットで起こりうるパターンは、なんとたったの7通りなのだ。
〔たぶん、真実はもう7通りしかないって気付いてるし…及川も気付いたのかな? 最強パターンとか言ってたし〕
 及川は、あの状態での「最強パターン」と言ったつもりだったが、実は子の状態で得られるチップの最大数は+3なのだ。
 チップを得るためには、相手に勝たないといけない。しかし、5試合中1回は必ずあいこになるので、実質4試合。4試合中何回まで勝てるか考えると、実は3回しか勝てないことがわかる。
〔パーが3枚もあるせいで、4回勝つのは不可能。グー、チョキ、パーで1回ずつ勝っちゃったら、残りは双方ともパー2枚を手元に持つ事になるから、あいこが2回生じる〕
 これが「最強パターン」だ。
〔自分が子のときに3回勝てば、チップは+3となる。親のときに3回勝てば、チップ+2だ〕
 そのとき、及川がカードを伏せて立ち上がった。
「どうしたの? トイレ?」と真実。
「違うわよ」
 及川は憮然として、自分の席に置きっ放しのカバンから手帳を取り出した。元の席に戻ると、真実に見えないよう机の下でなにやら書き込みを始めた。
 5分ほど格闘したあと、こんな表が出来上がった。

(親,子)(数字は獲得チップ数)
(P,P)(P,P)(G,G)(C,C):(−4、±0)
(P,P)(P,P)(G,C)(C,G):(−2、±0)
(P,P)(P,G)(G,P)(C,C):(−2、±0)
(P,P)(P,G)(G,C)(C,P):(+2、−3)
(P,P)(P,C)(G,P)(C,G):(−4、+3)
(P,P)(P,C)(G,G)(C,P):(−2、±0)
(P,G)(P,C)(G,P)(C,P):(±0、±0)

 及川が書き上げたのは、「限定ジャンケン」で起こりうる全てのパターンの一覧だ。パー同士のあいこは必ず1回起こるので省いて書いた。残り4試合を、手の組み合わせだけに注目して書くとこのようになる。
〔なにこれ。たった7通りしかないの?〕
 しかも、親と子の圧倒的な立場の差が明らかになる。親は7通り中1通りでしかチップが増えず、5通りでチップを失う。子も1通りでしかチップが増えないが、チップを失うのも1通りであり、残りの5通りでは増減しない。
〔ちょっと待って。失われたチップはどこに行くの?〕
 その答えはすぐにわかった。出題者である育覧に行くのだ。
〔7通り中6通りで、あの小娘はチップを手に入れるわけか〕
 このゲームは出題者にとって圧倒的に有利なゲームだと、及川ははっきりわかった。
 では、この表を踏まえてどうすればよいか。実は、前提は大して変わらない。「いかに相手のチョキを、自分のグーで潰すか」を考えれば十分である。実際、親が子のチョキを潰せば、親は+2になれる。子である及川は、自分のチョキを死守さえすれば、確実にチップを失わない。
〔すると問題は、いつ実相さんがグーを出すかだけど?〕
 及川は真実をチラリと見た。真実もまだカードを出しておらず、及川を観察していた。
 自然、目が合った。
「そろそろ、考えはまとまったかしら?」
「そうね」
 及川は答えて、カードを1枚、机に伏せた。出したのは、パーだ。チョキやグーは、お互いにとって切り札。こんな序盤ではどうしても出しにくい。まだ第2試合目なのだ。
 カードを出した及川の表情を見て、真実もカードを出した。
「2人のカードが出揃いました」と育覧が手を伸ばす。「オープンです」
 めくられて登場したのは、2枚ともパー。
「引き分け、ですね」
 及川は軽く安堵のため息を漏らした。真実は黙って、育覧にチップを1枚渡した。

 次は第3試合。セットの佳境である。
〔持っているカードは、2人ともグー、チョキ、パー1枚ずつ。普通のじゃんけんと変わらないわね〕
 と及川は思った。
 ここまで、2人ともパーしか出していない。真実は次もパーを出すだろうか。
〔3回連続でパーを出すはずがない……という考えは、単純すぎるかしら? どのみち、今は実相さんにとって不利な状況だ。チップを失わないたった2つのパターンのうち1つが、既に潰されてるのだから〕
 となれば、真実は何が何でももう1つのパターンを狙うはずだ。それを防ぐにはどうしたらよいか。簡単だ。(P,G)(G,C)(C,P)のいずれかの組み合わせを起こさせなければいい。
〔…言うのは簡単なんだけどね…〕
 手札のカードを見ながら、及川はため息をついた。
〔でも待って。これらが起こらなければいいのだから、私のパーを実相さんのグー、パーにぶつける、私のグーをグー、チョキにぶつける、私のチョキをパー、チョキにぶつける。この6つのどれかを行なえばいいってことか〕
 自分のグーで相手のチョキを潰す以外にも、5通りの方法がある、ということだ。及川は手札を見て、
〔だから、言うのは簡単なんだけどね…〕
 と、うな垂れた。
 そのとき、カサ、と音がした。及川が顔を上げると、机の上にカードが1枚伏せてあった。真実が出したのだ。
「もう出したの?」
「ええ」
 見てわからない? と言いたげな目で、真実が答える。
「……私がなんのカードを出すか、わかったってこと?」
 真実はそれには答えず、口角を上げてニヤリと笑う。無言の肯定、というやつだろうか。真実は手札を伏せて置くと、「早くしてね」と言いながら、青い蝶のヘアピンを留め直し始めた。
 何故こんなすぐにカードを出したのか。及川は首を傾げた。そういえば、さっきの2セット目でもサクッとカードを出していたような。しかし、それは真実が子だったからだ。今は親だ。慎重に行かなければ、確実にチップを失う。
〔……あれ? なにか変。いまは私が子なんだから、私もサクッとカードが出せるべきじゃない?〕
 何故出せないのだろう。自分が優柔不断で、決断力がないからか。真実にはそれがあるのだろうか……。何故、こちらが何を出すのか、読めるのだろう?
 そのとき、真実がつぶやくように言った。
「どうして私の考えが読めるんだろう……とか考えてる?」
「んなっ!?」
 及川は驚いて、口をあんぐりと開けた。
「ど、どうして……」
「だって及川さん……すぐに顔に出るんだもん」
「なっ!?」
「うん、僕もそう思ってた」
 と澪が言うと、及川はさらに「えっ!?」と驚いた。
「ウソでしょ?」
「んんん、細かい思考までは読めないけどね。何かに気付いたっぽいなーとか、混乱してるなーとかはわかる」
 何かを考えるたびに、目を見開いたり、首を振ったりしていたのだから、バレて当然だ。ついでに言うと、及川が真解を好きだということも、澪はとうに気付いていた。しょっちゅう、目をハートにして真解を見ていたから。
「か、仮にそうだとしても、まだカードを出していない状態で、私がどのカードを出すか、わかるはずがない。第一、私はまだ、どのカードを出すか決めてないんだから!」
 確かにそれもそうだ、と澪は思った。表情を見てわかるのは、現在考えていることだけだ。未来の思考までは読めない。それを読むためには、相手の考え方を熟知する必要がある。真実は、それが出来ている?
 それにそもそも、どうして真実は、今ここで「顔に出る」なんて言ったのか。そんなことを言えば、及川が顔を隠してプレイしてしまう。実際、既に及川は顔を伏せ、さらに左腕で顔を隠していた。これでは、表情を読むことが出来ないではないか。
〔真実があんなことを言った理由は……ああ言うことで、及川の思考をコントロールすること、だろうか?〕
 つまり、誘導だ。
〔落ち着いて考えよう、私〕と及川は思った。〔とにかく私は、チョキを死守することだけ考えればいい。なら、チョキを最後まで取っておけば? そこまでの間に、実相さんがグーを出してくれるかもしれない〕
 及川はカードを1枚、提出した。
「あら、早い」
「どうせ、私は子。適当に出しても、チップを失うことはまずないんだから、何も考えずに出したっていいでしょ?」
「…………」
 事態を静観していた育覧が、身を乗り出してカードをつかむ。
「では、オープンです」
 出てきたカードは。
「及川さんがパー、真実お姉ちゃんがチョキ。よって、真実お姉ちゃんの勝ちです」
 やばい、と及川は思った。なるべくそれを表情に出さないよう努めながら、ポケットからチップを1枚取り出して真実に渡す。真実がニヤリと笑った。
「やばいって思ってる?」
「どうしてわかるのよ!」
 そりゃわかるだろ、と澪は思った。別に、表情を見たわけではない。今の勝負で、真実はまた一歩、自分がチップを獲得できるゴールに近づいた。何故こんなことが出来るのだ? 澪は首をひねった。

 3セット目、第4試合。
 及川の手札はグーとチョキ。真実の手札はグーとパー。この“試合”だけに限定して考えれば、真実の不敗は決定である。真実はグーを出しさえすれば、勝利かあいこのどちらかになる。しかし、この“セット”で考えると、そう簡単な話ではない。
 真実がこのセットで勝つためには、真実のグーと及川のチョキをぶつけるか、真実のパーと及川のグーをぶつけないといけない。つまり、この試合で確実に勝たないといけないのだ。
 一方、及川はその逆を行けばよい。グーのあいこを作るか、及川のチョキで真実のパーを潰せばよい。そうすれば、真実−2、及川±0という結果に持ち込める。
 試合が始まると、真実はすぐにカードを1枚伏せて置いた。
「えっ」
 さすがに澪も及川も驚いて声を上げた。
「なんでわかるんだ、真実。及川の思考が読めるのか?」
 真実は答えずにニヤリと笑って、
「念のため言っておくと、不正はしてないからね?」
 不正が出来るのは、後から出す場合だ。先出しで不正は施しようがない。カードをオープンする直前にすり替える……という手もあるが、オープンするのは育覧だ。真実にすり替える隙はない。
 いったい何故、真実はこちらの手が読めるのか。及川はジッと、真実の提出したカードを睨んだ。及川に透視能力でもあれば、そうすることに意味はあるだろうが、そうではないから意味がない。
 そう思ったとき、及川はふと、あることに気がついた。
 ……だが、そのことに“いま”気がついても意味がない、と考え、それを振り払った。
〔……実相さんが何をどう出そうとも、どのみち私が出すべきカードは決まってる。チョキとグーしかなくて、チョキを最後まで守る作戦でいるのだから、グーだ。……それとも、この作戦が読まれてる?〕
 しかし、読めるはずがない。表情を隠しているから、ではない。死守するのは、チョキである必要がないからだ。及川の行動からは、チョキを守ろうとしているのか、グーを守ろうとしているのか、わからないはずなのだ。
 それに守るにしても、守る方法は色々あるはずだ。例えば、真実は第3試合でチョキを出した。結果的に言えば、真実は自分のチョキを守ったことになる。
〔それともまさか、適当に出してるだけとか……〕
 まさかと思いつつ真実の表情を伺うが、ニヤニヤとこちらを見ているだけだ。
 仮に真実が適当に出していようがいまいが、及川としては真実の所得チップ数を何が何でも減らす必要がある。
 何故なら、次に出題する及川のゲームは、チップが多ければ多いほど有利なのだ。だから、少しでも相手のチップを減らしておいた方が、次のゲームでは及川が圧倒的優位に立てる……。
〔ん? 次のゲーム?〕
 及川は、何かをつかみかけた。
〔……〕
 そして、黙ってカードを1枚出した。
「出揃いましたね」と育覧。「では、オープンです」
 2枚のカードがめくられた。
「及川さんがグー、真実お姉ちゃんもグー。よって、引き分けです」
「!」「!」
 及川も澪も、逆に驚いた。引き分け。つまり、真実の負けが確定した。
「なに?」
 真実は澄ました顔で、育覧にチップを1枚渡した。
「んん、てっきり真実は、及川に勝つものだと思ったから……」
「なに言ってるの?」
 真実はニヤリと笑った。
「勝つわよ。もちろん」
 言いながら、ポケットからチップを1枚取り出し、及川に渡した。
「第5試合は、勝負する前から決まってるから。私の負けよね?」
「え、ええ、そうね」
 及川は素直に、チップを1枚受け取った。

所有チップ数【真実6枚、及川8枚、育覧16枚】

Countinue

〜舞台裏〜
あー難しいよー、と思っているキグロです。こんにちは。
真解「なんだその挨拶」
ボク、基本的にゲームって苦手なんです。
真解「衝撃的な告白だな」
パズルは得意なんだけどね、対人ゲーム…特に心理戦って苦手なんです。将棋とかオセロとか、勝ったためしがない。運が関係するトランプとかだと、割と勝てるんですが。
謎事「それでミステリって書けるものなのか?」
だから言ってるでしょ。『摩探』はミステリではなく、パズル小説だと。
真解〔そういう意味だったのか〕

そういえば、先日本屋に行ったとき。
真解「なんだ?」
適当に本を物色していたら、
『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』
というラノベを発見し、凍りつきました。
真解「……」
謎事「……」
謎「……」
思わず立ち読みしてしまいました。
真解「…で?」
うーん、まあ、うん。あれだ。なんだ。
どうして真実をブラコンって設定にしたのか、中学時代の自分に疑問を抱かずにはいられません。
真解〔本当だよ〕
どうも最近、妹をテーマにした漫画・ラノベが(一部で)流行ってるようです。
もしかしたら、中学時代の自分には先見の明があったのかもしれません。
ってわけで真解、頑張れ。
真解「嫌だよ!」

ではまた次回。

作;黄黒真直

限定ジャンケン編その3を読む

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