摩訶不思議探偵局〜ハートの奪い合い〜 事件関係者リスト
実相真実(みあい まさみ)
相上育覧(あいうえ いくみ)
及川美雪(おいかわ みゆき)
霧島 澪(きりしま れい)


ハートの奪い合い〜限定ジャンケン編その3

 育覧が持ってきたゲーム「限定ジャンケン」は、全4セット行なう。そしていよいよ、その4セット目が始まる。
 1セットごとに親を交代するため、今回の親は及川である。
〔……なんとなく、実相さんの狙いが読めたような気がする〕
 直前のセットで、及川は何かをつかんだ。
 真実は、あたかも及川の考えが読めているかのように振舞っていた。実際に読めているのかどうかは、まだよくわからない。だが、少なくともわかったことがある。
〔実相さんは、「勝ち」を狙っていない〕
 カードをあまりに早く出すから、てっきり読めているのかと思った。にも関わらず、さっきのセットで真実は負けた。読み間違えたのでなければ、勝ちを狙っていなかったということだ。逆に、読めていないのだとしたら……早く出せる理由がわからない。適当に出しているとしか、思えない。適当に出しているのならば、それは「勝ち」を狙っていないということだ。
 どちらにせよ、真実は勝ちを狙っていない。さっきまで、まるで読めていたかのようにカードが出ていたのは、ただの偶然。及川に対して、「表情からカードを読んでいる」などとのたまったのは、「読んでいる=勝ちを狙っている」と思わせるためのブラフだ。
 そして勝ちを狙っていないのならば、真実の狙いは1つしかない……。そう思いながら、及川はカードを1枚出した。それを見て、真実もすぐに出す。
「オープン」
 と言いながら育覧がカードを裏返した。2枚とも、パー。
「引き分け、ですね」
「でしょうね」と真実。
 すぐさま、第2試合が始まった。
 さてどうなるのかな、と澪は思った。
〔理由はわからないが、真実は勝ちを狙っていない。及川も、たぶんそのことには気付いたみたいだし〕
 澪は及川の顔を見た。いつの間にか、表情を隠すのを忘れている。黒い長髪と落ち着いた雰囲気の大和撫子のような美人なのに、表情がコロコロ変わって可愛らしい、と澪は思った。
 何故真実は勝ちを狙っていないのか。そのくせ、真実は「私は勝つ」とさっき宣言していた。この矛盾はなにを意味する?
 澪は首をひねりながら、手元のメモ用紙を見た。及川も、自分の手帳を見ながら考えた。

(親,子)(数字は獲得チップ数)
(P,P)(P,P)(G,G)(C,C):(−4、±0)
(P,P)(P,P)(G,C)(C,G):(−2、±0)
(P,P)(P,G)(G,P)(C,C):(−2、±0)
(P,P)(P,G)(G,C)(C,P):(+2、−3)
(P,P)(P,C)(G,P)(C,G):(−4、+3)
(P,P)(P,C)(G,G)(C,P):(−2、±0)
(P,G)(P,C)(G,P)(C,P):(±0、±0)

 及川には、真実の狙いがハッキリと読めた。だが、その狙いを潰せなければ意味がない。真実の狙いを潰すにはどうすればよいか。
〔実相さんは、ここまでずっと、最初の2試合でパーを出してた。今回もパーを出すなら、私はチョキかグーを出すべき。でも、その裏をかいて、チョキかグーを出してくるかも知れないから、だとしたら私はパーを出すべき。だけどさらにその裏をかいてくるかもしれないから……〕
 三すくみのゲームでは、考えれば考えるほどわからなくなっていく。
〔……いいや、まさか4連続でパーばかり出すわけないわよね〕
 及川はカードを1枚伏せた。出したのは、パーだ。
 するとすぐに真実もカードを出した。
「では、オープンです」
 出ていたカードは。
「及川さんがパー。真実お姉ちゃんもパー。よって、引き分けです」
「んなっ」
 及川は目を丸くした。
「はいざんねーん。私の狙い通りね」
 真実がニヤリと笑う。
「どういうことですか?」
 事態を全く飲み込めていない育覧が聞いた。
「んん、そうか。今わかった」と、澪。「真実は自分ではなく、育覧ちゃんのチップを増やそうとしているのか」
 真実がニヤッと笑う。育覧だけがわけがわからず、「え、え?」と混乱していた。
「どうしてですか?」
「簡単なことよ」と及川。「実相さんはおそらく、次のゲームであんたからチップを奪う気でいるのよ。次のゲームは、実相さんとあんたの勝負だから」
「あっ……」
「もちろん」澪が付け加える。「次は及川のゲームだから、たぶん及川に有利なゲーム。とすると、育覧ちゃんから奪うのは難しいかもしれないけど……」澪は真実を見た。「たぶん、奪う自信があるんだろう」
 育覧と真実が目を合わせる。真実は相変わらずニヤニヤ笑っていた。
「あるいは」澪が続けた。「次のゲームでは、育覧ちゃんのチップを及川に奪わせるつもりなのかもしれない。そして最後に、真実が出題するゲームでそのチップを奪い返す……」
「あれ、ちょっと待ってください」と育覧。「それじゃ、この『ハートの奪い合い』って、最後に出題する人が一番有利なんじゃないですか?」
「そんなことはないわよ」真実がすかさず答えた。「私のゲームで、2人がチップを奪われないようにすればいいだけなんだから。何番目に出題しようとも、出題は1回、プレイは2回経験するんだから、みんな条件は同じよ」
 先に奪うか、あとに奪うかの違いである。最初の出題者である育覧は、最初になるべく多く奪って、あとで奪い返されないように死守すればよい。一方、最後に出題する真実は、最初はチップを守り、あとで奪えばよい。朝三暮四の故事のようなものだ。
「それで」と澪。「真実の狙いは『全員±0の事態を回避すること』だ。だから、今の試合は真実の狙い通りにことが運んでしまった、ということだ」
「なるほど……」
 及川は頭を抱えた。こうなってしまった以上、仕方がない。±0には出来ないのだから、あとは被害が最小限になるパターンを狙うしかない。するとそれは……及川(親)が+2、真実(子)が−3になるパターンだ。そのためには、(P,G)(G,C)(C,P)という組み合わせを作ればいい。
〔なんだか、さっきとまるで逆ね〕
「とりあえず及川さん」と真実。「チップ、彼女に渡して」
 忘れていた。及川はポケットからチップを1枚取り出して、育覧に渡した。
 チップを受け取りながらも、育覧は複雑な気分だった。いま奪えても、あとで2人が全力で奪い返しに来る。自分はそれを必死で守らなければならない。持つ者の弱さと言うか、チップは天下の回り物と言うか。
「残りは3試合ね」
 と真実が笑った。

 4セット目、第3試合。
 及川は苦しい立場に立たされていることを、理解した。
 先ほどの3セット目では、及川は3つの組み合わせを起こさせなければよかった。つまり、1つでも崩せばよかったのである。一方いまは、3つとも起こさなければならない。つまり、1つでも崩れたら負けるのである。
〔用意したゲームがまずかったなぁ〕
 と及川は今更ながら後悔した。及川が用意したゲームは、チップが多ければ多い方が有利。そのせいで、育覧にチップを渡してしまうと、及川が不利になる。もし、優劣がチップの枚数に関係のないゲームを作っていれば、真実の狙いに乗ったとしても、及川に全く痛手はなかったのだが。
 苦悩する及川を見ながら、真実はすぐにカードを1枚伏せて出した。真実の狙いは完成している以上、何を出すか悩む必要がない。及川は歯噛みしながら真実を見た。真実は澄ました笑顔で、及川を見据えている。悩む必要がないということは、考えなしに出せるということだ。
〔……あれ? ってことは…〕
 及川は気付いた。
 考えなしに出しているのならば、それは無作為(ランダム)に出しているということだ。つまりその現象は、確率によって支配される……。
〔って、だからなんなのよ!〕
 真実の現在の手持ちは、グー、チョキ、パー1枚ずつ。ランダムに出すのなら、確率はどれも3分の1だ。せっかく確率が使える状況になったのに、これでは意味がない。
〔くぅ……どうしたらいいのよ〕
 真実が出したカードを悔しそうに見つめる。と、及川はさっき気がついたあることを思い出した。
〔そうだ……確か、さっき、私はカードを見ていて気がついた〕
 直前の3セット目、第4試合。及川は、真実のカードをジッと見てきて気がついたのだ。
 カードの裏面に、汚れがついていた。
 たぶん、油か何かだ。
 ポテトチップスのような油っぽいものを食べながらプラスチックのカードをいじっていると、カードに指紋がつくことがよくある。まさにそれだ。
〔あのとき、実相さんはグーを出していた。つまり、同じ汚れがついていれば、そのカードはグー!〕
 再び、カードを観察する。汚れは……見当たらない。
〔ということは、これはグーではない、ということ。グーでないなら、私が出すべきはグーかチョキ〕
 どちらを出すべきか。これもまた、大きな問題である。及川は、3連続で真実に勝つ必要がある。真実がパーならチョキ、チョキならグーを出さねばならない。
 しかし、真実が考えなしに出しているならば、どちらなのか知る手段はない。
 及川は真実の顔を睨みつけながら、カードを1枚机に置いた。
「カードがそろいましたね」と育覧。「では、オープンです」
 ゲームが終わりに近づき、育覧にとってもチップがどの程度稼げるか、明らかになりつつある。やや緊張した面持ちで、カードがめくられた。
「及川さんがチョキ。真実お姉ちゃんがパー。よって、及川さんの勝利です」
「やたっ!」
 及川は小さくガッツポーズを作った。
「まだ喜ぶのは早いんじゃないの?」
 及川にチップを渡しながら、真実が言う。だが、及川は鼻で笑ってみせた。
〔実相さんはわかっていない〕なるべく表情に出さないよう注意しながら、及川は心中でほくそ笑んだ。〔この時点で、私の勝ちは確定した〕
 次に真実がカードを出せば、それがなんなのか、及川には即座にわかる。汚れがあればグー、なければチョキだ。
 真実の狙いが完成している以上、もはや真実はそこまで真剣にこのゲームに挑んでいないだろう。ならば、カードの汚れなどという些細な事に、気付いていないはずだ。
〔だから、このゲームはもう、私の勝ち……というか、2人の相打ちで終わることが確定したのよ〕
 表情を見られないよう、及川は顔を伏せた。

 4セット目、第4試合。
 試合は第5試合まであるが、第5試合は勝負の前から結果がわかるため、実質これが最後の試合である。
 ここでも、真実は即座にカードを出した。及川は、そのカードを観察する。
 汚れは、ない。
〔なら、あのカードはチョキ!〕
 及川はグーのカードを出した。
「え、はやっ」と澪。「いいの? これ、実質最後の試合だよ?」
「霧島くんが気にすることじゃないでしょ」及川は真実を見据えたまま言う。「これで、ゲームセットよ」
「では」と育覧がカードに手を伸ばした。「オープンです」
 さて、どうなるのだろう。実質、育覧はこのゲームに参加していないが、これでもドキドキしながら展開を見守っていたのである。育覧は既にチップを6枚も稼いでいるが、果たしてどこまで増えるのか。
 カードがめくられた。
 出てきたカードは。
「及川さんがグー。真実お姉ちゃんもグー。よって、引き分けです」
「……へっ!?」
 及川は思わず立ち上がった。
「なんで!?」
「なんでって言われても……」似たようなやり取りを、前にもした気がする。「わたしは、適当に出しただけよ。及川さんこそ、どうしてグーを出したの? わたしがチョキを出したと思った?」
「……」
 及川は小さく頷き、それから真実の顔を見た。ニヤリ、と真実が笑った。
「まさかあなた…」及川が真実を指差す。「気づいてたの? カードの汚れに」
「カードの汚れ?」
 澪が机の上に置かれていたカードを何枚かとって、見る。
「なんかね」と真実。「油汚れみたいなのがついてたのよ。グーのカードに」
「ん、そんなバカな。いつも、カードの扱いには注意してたはずだけど……」
 カードの裏表を見る。澪が手にしているカードには、特に汚れはない。そもそも、澪の手中にグーのカードがない。グーのカードはいま、2枚とも机の真ん中にある。
「もしかして」と育覧が言った。「あの時じゃないですか? この間の土曜日、作戦会議をしたときに……」
「あ、ああ! そうか!」パン、と手を叩いた。「ポテト食べながらカードに触ってたから、それで……」
 注意していたつもりだったが、うっかり汚してしまったようだ。だが、注意していた証拠に、他のカードには目立つ汚れは一切ない。
「原因なんてどうでもいいわ」と及川。「問題は、どうして実相さんのグーのカードが汚れてないかってことよ。あなた、汚れに気付いて拭いたってこと?」
「そんな事してないわよ」
 真実は軽くため息を吐きながら、机の真ん中に手を伸ばした。
「汚れたグーのカードは、ここにあるの」
 そう言って、机の真ん中にあったグーのカードを……及川が提出したグーのカードを裏返した。
「あっ!」
 及川がカードを手に取った。そこには確かに、汚れがある。澪も及川の後ろに回りこんで、それを確認した。
「んん、あとで拭いておかないとね」
 その暢気な声に及川は澪を殴りそうになったが、グッと堪えてカードを机に置き、椅子に座り込んだ。
「及川さんは気付いてなかったみたいだけど」と真実。「育覧ちゃんは、使用したカードを回収したあと、適当に再配布していた。つまり、無作為(ランダム)にカードを配っていたの。ということは、汚れのついたグーが自分の所に来る確率は、常に2分の1」
 真実は意地悪そうな目で、及川の顔を覗きこんだ。
「確率を使うなら、ここで使うべきだったわね」
「ぐっ……」

 ともあれ。
 これにて、「ハートの奪い合い」の第1ゲーム「限定ジャンケン」が終了した。
 4セット目では、及川−2、真実±0となり、結局2人とも、最終的な収支は−4となった。

「じゃあ次は、私の出題ね」
 ポケットにチップをしまうと、及川は育覧と席を交代した。過ぎたことは仕方がない。気を取り直して、このゲームでチップを稼ごう。
〔脅威なのは、あの小娘ね。結局、8枚もチップを与えてしまったし〕
 表情を隠そうともせず、及川は育覧を睨みつける。育覧は縮こまり、澪の方をチラリと見た。
「あの、及川。あんまり彼女にプレッシャーを与えないでくれるかな?」
「イヤよ」
 言いたいことはハッキリ言うタイプのようだ。
「プレッシャーなんてかけてないで、早くゲームを出題してよ」
 真実が促すと、及川は渋々と言った感じで立ち上がり、宣言した。
「第2ゲーム、『チップの扉』」
「チップの扉?」
 聞いたことがない。オリジナルのゲームだろうか。
「『20の扉』というゲームは知ってるかしら? 20Q(Twenty Q)とか、20の壁とか、色々な名前があるんだけど」
 及川が聞くが、2人とも首を振る。澪も知らないようで、首を傾げていた。
「そう。じゃ、まずはそこから説明しましょうか。『20の扉』というのは昔ラジオで放送されていたゲームで、簡単に言うと、『出題者が考えた正解を、解答者が当てる』ってゲームね」
「考えた正解?」
「そう。例えば、出題者が『チワワ』を正解に選んだとする。もし解答者が『チワワ』と答えられたら、解答者の勝ち。答えられなかったら、出題者の勝ち」
「あの」育覧が手を挙げた。「答えられるわけないと思うんですけど?」
「説明を最後まで聞きなさい。解答者には、20回まで質問できる権利が与えられている。その20回の質問で、解答者は何が正解かを見抜く。ただしその質問は、『はい』か『いいえ』で答えられるものに限る。そして出題者はその質問に対して、『はい』『いいえ』『どちらでもない』のいずれかで答える。例えば正解が『チワワ』なら、解答者の『それを飼っている人はいますか?』に対して出題者は『はい』と答える、といった感じね。もちろん、出題者はここでウソをつくことは出来ないわ」
 出題者の答えに「どちらでもない」が含まれるのは、例えば正解の「チワワ」に対して「それはネコより大きいですか?」などと聞かれると、はいともいいえとも答えられないからだ。チワワより小さなネコもいれば、大きなネコもいる。さらに言えば、「チワワより大きいか?」などと質問が来ても、やはり答えられない。
「それと、1回目の質問は何を聞けばいいかわからないだろうから、出題者は最初に『これは○○です』と簡単にヒントを出す。例えばさっきのチワワなら、『これは生き物です』といった具合にね。これが、『20の扉』のルール。ここまではいいかしら?」
 2人とも、大きく頷く。及川は先を続けた。
「私が出題する『チップの扉』も、基本的にはこれと同じルール。でも大きく違うのは、質問するたびにチップを1枚、場に提出しないといけない、ということ」
「場?」真実は訝しげに及川を見た。「あなたじゃなくて?」
「そう、私じゃなくて。良心的でしょ?」ふふん、と笑う。「1つ質問するごとに、チップを1枚場に出してもらう。そしてそのチップは、ゲームが終了したときに、正解者に全て与えられる。もし2人とも正解できなかったら、場に出たチップは全て、私が貰う」
「なるほど、ね」
「ただし、質問は2人交互に行なうこと。そして、質問するときはチップが必要だけど、解答するときはチップは不要。解答するときは解答すると宣言して、『それは○○ですね』と聞くこと。あと、質問は耳打ちとかではなく、相手にも聞こえるように言ってもらうわ。それに対する答えもそう。だから、どちらかが質問すれば、それは2人の情報として共有されるわけ。……ここまでが大まかなルールだけど、何か質問は?」
「解答権は、質問権と一緒に回ってくるの?」
「そうね。だから、毎回自分のターンの時に、質問するか、解答するか、決めてもらうわ。それから、当たり前だけど解答権は1回きりで、解答したあとの質問も出来ないからね」
 うまいな、と澪は思った。大まかなルールはごくシンプルだ。及川が出題し、2人が解答する。1つ質問するごとに、場にチップが1枚出される。正解者が出れば、そのチップは正解者に。出なければ、チップは全て及川に行く。
 シンプルなので、澪はすぐに気付くことが出来た。
 間違いない。及川は、このゲームでチップの総取りを狙っている。
〔チップの枚数分の質問で、正解を当てるゲーム。ということは、正解の選び方によって難易度はいくらでも上がる。しかも質問しなければ正解しようがないから、解答者はチップを出さざるを得ない。そして出した以上は、的確な質問を繰り返して正解に近づかなければならない。すると、解答者は全てのチップを場に吐き出さざるを得ない〕
 解答権は1回しかないから、チップを奪われないためには、なるべく多くのヒントを得たいと考えるのが普通だ。そして多くのヒントを得るためには、多くのチップを場に出さなければならない。解答にチップはいらないから、質問でチップを使い尽くせる。しかし、もしチップを使い尽くして間違えたなら、そのチップは全て奪われる。もし2人がチップを使い尽くした状態で間違えたなら……及川は、チップを総取りすることが出来る。
 チップ枚数30枚。真実がどんなゲームを出そうとも、及川の勝ちは確定すると言っていい。
「あと、細かいルールが3つ。解答するときは、種類まで答えること」
「どういう意味ですか?」
「例えばさっきのチワワだと、『イヌ』と答えたのでは不正解になる、という意味。『チワワ』と答えてくれないとダメ」
「わかりました」
「2つ目は、これは私への枷だけど、正解は解答者が絶対に知っている物よ」
「!」
 澪は(そして真実も育覧も)驚いた。誰も知らないような物を正解に持ってきているのでは……と思っていたからだ。もしそうなら難易度は桁外れに高いが、絶対に知っている物なら難易度は低い。
「知っているかどうか、どうしてわかるの?」
「もちろん、確証はないけど、絶対知ってるわよ。知らないはずはないわ」
 どういう意味だろう。真実はさらに質問しようとしたが、
「これ以上はヒントになるから、言わない。聞きたいならチップを出して」
 と及川が言ったので、口をつぐんだ。
「最後の1つは、質問順ね。さっきも言ったけど、質問は交互に行なってもらう。で、先に質問するのは、チップを多く持っている方」
 それはつまり。
「わたしってことですか?」
 育覧が答えた。
「そう」
「……わかりました」
 及川は椅子に座ると、机の上で両手を組んだ。
「以上で説明は終わりだけど、何か質問は?」
 2人とも、何も言わない。及川はそれを確かめると、おもむろに席を立った。そして自席に置いてあるカバンから、ピンク色の便箋を一通取り出した。学園の近所の文房具屋で売っていて、少し前にクラスで流行っていたものだ。
「正解を書いた紙が、既にこの中に入っている。これを、ゲームの間、霧島くんに持っていてもらうわ」
 自席から戻ってくると、及川が澪に便箋を渡した。ピンク色の可愛らしい便箋なので、パッと見だとラブレターを渡している図のようにも見える。
 澪は受け取った便箋を繁々と見つめた。封がしてあって、中身を取り出すことは出来ない。持ち上げて蛍光灯の灯りに透かしてみたが、中身は見えなかった。透かし見防止の処理が施された便箋なのだ。
「それじゃあ」席に座ると、及川は宣言した。「第2ゲーム『チップの扉』、始めましょうか」
 そしてすぐに、最初のヒントを告げた。
「第1のヒント。『これは、生き物です』。……それじゃ、そこの小娘。最初の質問は?」
「え? あ……」
 いきなりゲームが始まってしまって、育覧は動転していた。もう少しゆっくり、ルールをかみ締めたかった。
 いや、ルール自体はシンプルでわかりやすい。
 だが、どうすればいいのかがわからない。
 育覧はチラリと澪を見た。澪は口を開きかけたが、
「霧島くんは黙ってて。何も言っちゃダメよ!」
 と及川に怒鳴られ、黙り込んだ。
 だが、澪は口を挟みたくて仕方がなかった。
 何故ならば。
 澪は、気付いていたからだ。
〔……このゲームには、必勝法がある〕

所有チップ数【真実6枚、及川6枚、育覧18枚】

Countinue

〜舞台裏〜
ようやく「限定ジャンケン」が終わりましたー!
謎事「最終的に、カードの汚れが勝負を決めるって……思いっきり『カイジ』のパクリじゃね?」
黙れ! それしか思い浮かばなかったんだよぉ。
真解〔泣くなよ〕
正直に言うと、今回の「限定ジャンケン」を書く前に『カイジ』の「Eカード編」を観直したので、知らず知らずに影響を受けている可能性は大です。
真解〔パクリは小説家として失格じゃないのか?〕

さて、次は「チップの扉」です。古いゲームを模倣したものですが、ご存知ですかね。
謎「わたしは聞いたことありますが」
個人的には、小さい頃に家族旅行の時なんかに暇つぶしにやった記憶があり、ちょっと懐かしいゲームでもあります。
真解「面白いのか?」
んー、当時は楽しんでた記憶がありますが、いまやったらどうなんだろう? でも、子どもの語彙力や質問力、推理力を高めるゲームとして、良いのではないかと。

そしてそして。『ライアーゲーム』に登場する名台詞「このゲームには、必勝法がある」を遂に出せました!
これを出したいがために書いていたようなものです。
謎事「マジかっ!?」
半分冗談。
真解〔半分は本気なんだな……〕

ではまた次回。

作;黄黒真直

チップの扉・問題編を読む

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