摩訶不思議探偵局〜ハートの奪い合い〜 事件関係者リスト
実相真実(みあい まさみ)
相上育覧(あいうえ いくみ)
及川美雪(おいかわ みゆき)
霧島 澪(きりしま れい)


ハートの奪い合い〜少女のジレンマ編

 真実の提案で始まったゲーム大会「ハートの奪い合い」も、いよいよ最後のゲームとなった。3つ目のゲームのルールは、目の前の机に置かれたB5のプリントに書いてある。
 澪は、黙って腕時計を見ていた。中学生向けの、黒いデジタル時計だ。真実と及川が教室を出て行き、今は小学6年の少女、相上育覧と2人きりだ。黙っていても、不思議と気まずい感じはしなかった。2人とも、ゲームのことで頭がいっぱいだからかもしれない。
 その沈黙を、育覧が破った。
「1分経ちました?」
 澪はこくん、とうなずいて、
「ん、経ったね」
「では」と、育覧が紙をめくった。及川に渡されたものと同じく、正方形の紙は真っ白で、B5の紙には文章が書いてある。
 澪と育覧は、その紙を覗き込んだ。育覧は紙を横向きにして、2人に見やすいように置く。「ん、ありがと」とお礼を言い、澪は文章を読んだ。
 そこには、ワープロでこう書いてあった。

 ラストゲーム『少女のジレンマ』
 今から、次の1番か2番のどちらかを選び、正方形の紙(解答用紙)に番号を書いてください。

1.相手プレイヤーに、自分のチップを2枚渡す
2.相手プレイヤーから、相手のチップを2枚貰う

 もし、2人が選んだ番号が異なれば、番号に書かれた通りの行動をとってください。
 もし、2人が選んだ番号が同じなら、出題者(実相真実)にチップを1枚ずつ渡してください。
 制限時間は、紙をめくってから15分です。
 制限時間が過ぎても解答していない場合、所有チップを全て実相真実に渡してもらいます。なおこの場合、解答したプレイヤーはチップ交換を行ないません。


「えっと……?」育覧は、大きな瞳で澪を見つめた。「これは、なんですか?」
「少女のジレンマ、って書いてあるね」
 そうだけど、そうじゃなくて。育覧は眉をひそめ、困惑した。
「1番か2番を選んで、この紙に書けばいいんですよね?」
「うん、そうらしい」
「……でもこれって、2番を選べば良いんじゃないですか?」
「そうだね」
 澪はうなずいた。育覧はさらに混乱する。
「えーと……あれ? でも、及川さんも2番を選んだら、真実お姉ちゃんにチップを渡さないといけない、ってことですか?」
「うん」
 再び澪はうなずく。育覧は頭を抱えた。
「と言うことは、なんとかして及川さんに2番を選ばせず、わたしだけ2番を選ぶようにしないといけない。でも、そんなことは不可能ですよね?」
 澪は何が面白いのか、ニコニコして話し出した。
「育覧ちゃんは、『囚人のジレンマ』って知ってる?」
「囚人……? いえ」
「有名なパズルだよ。こんな話だ」
 澪は一呼吸置くと、数学教師が定理を証明するような声で、説明を始めた。
「ある犯罪組織のメンバーが2人、逮捕された。警察は2人から犯罪組織の情報を引き出そうとしたが、2人は口を開かない。そこで警察は、2人を別々の部屋に通し、2人にこう話した。
『もしお前らが2人とも組織のことを話さなければ、2人とも懲役5年とする。
 もし片方だけが組織のことを話したら、話した奴は無罪放免とする。逆に、話さなかった奴は懲役15年だ。
 そして、もし両方とも喋ったら、2人とも懲役10年とする』
 ……さて、育覧ちゃんがこの囚人だったら、どうする?」
「えっと……?」
 育覧は首を傾げて、考えはじめた。胸元に垂れた三つ編が、腕の方に流れる。
「2人とも話さなかったら、懲役5年。2人とも喋ったら、懲役10年……。なら、2人とも黙ってるのが、一番良いんじゃないですか?」
「でも、自分が黙ってても、相手が喋っちゃったら、自分は懲役15年で、しかも相手は無罪放免なんだよ?」
「…………いえ、でも、同じ組織のメンバーなんですよね? 2人とも黙っているのが一番良いんですから、2人は協力して黙ってるべきだと思います」
 澪は優秀な生徒を褒めるように微笑んで、
「すごいね。その通りだよ」
 だけど、と静かな声で続ける。
「果たして相手は、そう思うだろうか?」
「え?」
「自分が相手を信じても、もしかしたら相手は自分を裏切るかもしれない。自分を裏切って、全て話してしまうかもしれない。そしたら相手は無罪放免で、自分は懲役15年だ。なら、それを避けるために、自分だけでも喋った方が良い……ってことになるよね?」
「……」
「つまりね。これは『相手を信じられるかどうか』が鍵になっているんだ。お互いに『絶対喋らない』と信じあうことが出来れば、2人とも懲役5年と、一番軽い罰で済む。でも、『もしかしたら相手が話すかもしれない』と疑心暗鬼に駆られたら、2人とも喋って、懲役10年となってしまう。本当は2人とも黙っている方が良いのに、疑心暗鬼に駆られることで、不利な行動を取ってしまう」
 これが囚人のジレンマだ、と澪は締めくくった。
「それで」と育覧は机の上の紙に目を落とした。「このゲームは、どうしたらいいんでしょう?」
 相手にチップを渡すか、相手からチップを貰うかを選ぶ。ただそれだけの、至極単純なルールだと言える。
「さっきも言ったとおり、もし2人がチップ欲しさに2番を選んだら、2人ともチップを失うことになる」
「でも、1番を選んだら、確実にチップを失うことになりますよね? なら、2人とも1番を選ぶ理由がないことになりますから、2人とも2番を選んで、チップを失う……」
 どう足掻いても、チップを失うことになる。
「……か、勝てませんよ、霧島さん!」
「いや、大丈夫」
 慌てる育覧とは対照的に、澪は落ち着いた声音で答えた。
「このゲームには、必勝法がある」
「ひ、必勝法?」
「状況を整理しよう」
 澪はそう言って、自分のシャーペンを手に取り、B5の紙の余白になにやら書き始めた。
「いま、3人のチップの枚数は、こうだ」

・現在のチップ枚数【育覧13枚、真実11枚、及川6枚】

「はい、そうですね」
「すると、現在のトップは育覧ちゃんってことになる」
「はい。…あっ、そうか。わたしと真実お姉ちゃんのチップ差は2枚ですから、1枚くらい失っても平気なんですね!」
 澪は笑みを少し引きつらせ、「いやいや、違うよ」と答えた。
「2人とも同じ番号を選んだ場合は、2人とも1枚ずつチップを真実に渡す。だから、真実はチップを2枚得るんだ。そしたら、こうなる」

・2人とも同じ番号を選んだ場合【育覧12枚、真実13枚、及川5枚】

「真実の勝ちだ」
「あ、そうか……」
「一方。育覧ちゃんが2番を、及川が1番を選んだ場合は、こうなる」

・育覧2番、及川1番の場合【育覧15枚、真実11枚、及川4枚】

「わたしの圧勝になりますね」
「うん」澪はうなずき、「そして最後のパターン。育覧ちゃんが1番、及川が2番を選んだ場合は、こうなる」

・育覧1番、及川2番の場合【育覧11枚、真実11枚、及川8枚】

「最終的なチップの枚数だけに注目すると、起こりうるのはこの3パターンだけになる」
「はい」
 と育覧は素直に答えつつも、ここからどうすればいいのかが全くわからない。
「囚人のジレンマとかのこういうゲームでは、『相手がどう考えるか』を考えることが重要になる。この3パターンしか起こらないことは、及川もすぐに気付くだろうから、もし育覧ちゃんが及川なら、どのパターンが一番良いか、を考えてみるんだ」
「わたしが及川さんなら……?」
 育覧は紙を覗き込んだ。及川は、どのパターンでもチップの枚数が一番少ない。つまり、どのパターンになっても負けることが確定している。
「どのパターンでも負けるので、どれが良いとも言えないのでは?」
「いや、違うよ」澪は首を振った。「育覧ちゃんはルールを1つ、忘れてる」
「え?」
「先週、真実が『ハートの奪い合い』のルールを説明したとき、こう言ったのを覚えてる? 『最終的に、獲得チップ数が最も多い者が勝者。でも1位が2人のときは、この話はなかったことにする』」
「なかったことに…って、このゲームを無効にするってことですか!」
「そう」
「え、ま、待ってください」育覧は食い入るように紙を見た。「ということは、及川さんが選ぶのは……」
 1位が2人のパターン。すなわち。
「最後、3つ目のパターンですか!」
「その通り」
 澪はニコリと微笑んだ。
「真実も迂闊だった。通常ならこのゲームは真実が必勝するゲームだけど、今回はたまたま、隙が出来た」
「真実お姉ちゃんも、意外とおっちょこちょいなんですね!」
 微笑みながら、澪はうなずく。
「だから育覧ちゃんは、1番を選べばいい。及川は2番を選ぶから、1位が2人で、今回の話はなかったことになるってわけだ」
「わたしも、真解お兄ちゃんを諦めなくて良いってことですね!」
 当然、及川も真実も諦めなくて良いってことになるのだが、澪はその点に関しては突っ込まなかった。
〔本当のことを言うと〕と澪は思った。〔及川が1番を選ぶ可能性は、ないわけじゃない。及川が育覧ちゃんを勝たせようと思ったら、そうなる〕
 もし育覧が勝てば、真実は真解から手を引くだろう。すると及川にとって、ライバルが2人から1人に減るのだ。及川が、ゲームに負けても勝負を続ける気でいれば、1番を書く可能性が全くないわけではない。
 だが澪は、その点に関しても言及しなかった。制限時間が近いのだ。
「さて、そろそろ15分だ。早く書いちゃって」
「はい」
 育覧は正方形の解答用紙に、ペンを走らせた。紙に大きく、一本線を描く。
『1』

 その数分後。
 真実は正方形の紙を2枚、誇らしげに高々と掲げていた。その様子を、育覧も澪も、及川も、愕然とした表情で見ていた。
 放課後の教室。閉めたカーテンの隙間から、鏡のように室内を映す窓ガラスが見える。風がカタカタと窓を揺らした。運動部の掛け声は、いつの間にかに聞こえなくなっていた。
「と、言うわけで」
 真実が勝ち誇った笑みを浮かべ、宣言した。
「2人が選んだのは、1番! よって、2人とも同じ番号を選んだので、2人からチップを1枚ずついただきます!」
「なんで……」
 及川が震えた声を出す。
「なんでよっ!?」
「文句なら育覧ちゃんに言ってよ。1番を選んだのは彼女なんだから。あ、というか及川さん自身か」
 くくっ、と真実が笑う。怒りの矛先をどこに向けていいのかわからず、及川は歯軋りした。
「さてさて。最終結果はどうなったかしら?」
 ご丁寧に2人からチップを1枚ずつ受け取り、真実は尋ねた。2人は何も答えなかったが、真実は勝手に話を進めた。
「わたしのチップは13枚。及川さんは5枚。育覧ちゃんは12枚。ということは! 『ハートの奪い合い』の勝者はこのわたし、実相真実に決まりましたー!」
 パチパチパチ、と真実は自分で拍手した。だが他の3人は無反応だ。
「……なによ。文句あるの? この雰囲気じゃわたし、悪者みたいじゃない」
「こんな……」
 及川がふらつく足取りで、真実に歩み寄る。
「こんなバカみたいなゲームで、実相くんを諦めろっていうの……!?」
「ええそうよ。嫌なら参加しなけりゃ良かったのよ。どうせ、わたしを負かす自信があったんでしょうけど、わたしの方が一枚上手だったってことね。あ、及川さんよりは、8枚も多く取ってるか」
 きゃは、と真実が目を細めた。及川の口から、ギリギリと嫌な音が鳴る。
「ふ……」
 目を血走らせ、及川が叫んだ。
「っざけんな、バカァッ!!」

 パァン!

 クラッカーが鳴ったような音がした。次いで、金属の落ちる音。澪は一瞬何が起こったかわからなかったが、目の前の状況を見て、すぐに理解した。
 及川が、真実の頬を力いっぱい平手打ちしたらしい。
 真実は右を向いたまま俯いている。左の頬が、次第に赤みを帯びてきた。前髪を左に留めていたヘアピンが、無くなっている。
 及川は一度目を見開いたが、すぐにまた鋭い光を宿す。踵を返すと自分の席のカバンを引っつかみ、何も言わずに教室を出て行った。
 険悪なムードに、澪は何も言えず、ただ立ち尽くしていた。真実は左手で自分の頬を撫でると、無表情のまま、床に落ちた青い蝶のヘアピンを拾い上げた。ほこりを払うと、前髪を左に留める。及川と育覧から回収した4枚の紙を自分のカバンに突っ込み、
「じゃ、澪くん、また明日。カーテン開けるの忘れないでね。あと、送り狼にならないでね」
 平坦な声でそう言って、カバンを持って教室から出て行った。
 いま出て行ったら、どこかで及川と鉢合わせするんじゃないかなー、と澪は場違いなことを思った。
「……えっと、育覧ちゃん」
 澪は傍らに立つ少女の名前を呼んだ。
 だが、そのあとが続かなった。
 続けられなかった。
 育覧は、泣いていた。
 直立不動のまま、両手を握り締め、下を向いて涙を拭こうともせず泣いている。ポタポタと床に雫が落ちた。
 澪はまだ中学3年生である。泣いている少女の扱いなど、心得ていない。どうしたらいいかわからず、澪は育覧の頭に右手を乗せた。ピクッと育覧の肩が揺れ、三つ編が小さく跳ねた。
「その、なんというか……よく頑張ったよ、育覧ちゃんは」
 変な慰め方だな、と澪は自分で思った。気の利いたセリフが言えそうもないので、黙ってひたすら、頭を撫でてやる。すると育覧はこちらを向き、両手でしがみ付いてきた。動揺しながらも、澪は左手を彼女の背中に回し、ひたすら頭を撫で続けた。
 三つ編が、ゆさゆさと揺れた。

 その夜。
 澪は自分の部屋から、真実のケータイに電話した。
『どうしたの、澪くん?』
 真実の第一声は、明るいものだった。
「どうしたのって、わかってるでしょ? 僕が何を言いたいか」
 澪はベッドに仰向けに寝転がりながら、話す。
「なぁ、真実。いったい、どんな手を使ったんだ?」
『なんのこと?』
「決まってるでしょ。『ハートの奪い合い』だよ」
 半身を起こして、続ける。
「今回のことは、真実が提案したことだ。ならそこには、真実が絶対勝てるトリックがあったはずだ」
『そんなのないわよ』ケラケラと真実が笑う。『だって、いくら企画がわたしでも、3つのゲームのうち2つは、あの2人が考えてきたのよ? どこにトリックが入り込む余地があるのよ』
「ある」
 澪は断言した。
「確かに、3つのゲームのうち2つは、真実が決めたことじゃない。でも、それ以外のことはほとんど真実が決めた。『ハートの奪い合い』のルールも、最後のゲームも、出題順も」
『ま、そうね。でもそれが何? ルールを決めたのは確かにわたし。でも、わたしに有利なルールなんて、どこにあった? 出題順にしたって、最後だから有利ってことはないはずよ』
「………」
 確かに、そうなのだ。澪はあれから……泣きじゃくる育覧をなだめ、駅まで一緒に帰ってからずっと、「ハートの奪い合い」について考えていた。
 真実が、真解を簡単に諦めるはずがない。だから、このゲームはライバルを潰すために用意された物であるはずだ。ならば、「ハートの奪い合い」のルールのどこかに、真実にとっての必勝法が眠っているに違いないのだ。
 しかし、それが全く見当たらない。
「一番の疑問は、『少女のジレンマ』で何故及川が1番を選んだのかってことなんだ。まともに考えて、あの状況で及川が1番を選ぶはずがない」
 先述したとおり、及川が1番を選んだ理由は、一応説明がつく。ライバルを減らすためだ。だが、真実が勝利宣言をしたあとの及川の行動を見ると、及川は本当に真解から手を引きそうな様子だった。ゲームに負けたら、素直に勝負から手を引く性格のようなのだ。
『……及川さんは、ルールを見た時点で自分の負けが確定しているのに気がつき、適当に番号を書いた。これじゃダメ?』
「ダメだな」
 真実は、そっかぁ、と小さく呟いた。
『でも澪くん。そんなこと考えて意味あるの?』
「ん?」
『確かに、「少女のジレンマ」はわたしが考えたゲームだから、わたしが何か仕掛けたかもしれない。でもね、「少女のジレンマ」でわたしが得たチップは、たったの2枚よ? もし育覧ちゃんとのチップ差が4枚以上あったら、わたしは負けてたわ』
「……そう、問題はそこなんだ。どうしてあのとき、真実のチップは11枚で、育覧ちゃんのチップは13枚だったのか?」
『偶然だと思うな、わたしは』
「僕はそう思わない。特に、前のゲームが『チップの扉』だったから」
『どういうこと?』
 澪は一度咳払いして、
「真実は『チップの扉』で4回しか質問しなかった。チップは6枚持ってたんだから、あと2回質問できたはずなのに、だ」
『それは、答えがわかったからよ』
「違うな。答えがわかっても、適当な質問をあと2回して、育覧ちゃんからチップを搾り取った方が賢明だ。けど、きみはそうしなかった」
『それは、その2回の間に、育覧ちゃんが答えに気付く可能性を恐れたからよ』
 確かに、それはあり得る。澪の攻撃の手が一瞬緩んだ隙に、真実は反撃した。
『ま、確かにあの時、「少女のジレンマ」を成立させるのにちょうど良い、とは思ったわよ。でも、だから何? わたしは、及川さんがどんなゲームを持ってくるか、知らなかったのよ。もし全然違うゲームだったら、どうやって枚数を調整するつもりだったのよ。だから、あの枚数になったのは、ただの偶然よ』
 いや、偶然ではあり得ない。澪は思った。「少女のジレンマ」で真実が得られるチップは2枚。真実はなんらかの方法で、3人のチップ枚数を「少女のジレンマ」が成立する枚数にしたに違いないのだ。
 だが、どうやって? 「限定ジャンケン」も「チップの扉」も、真実は説明を受けるまでルールを知らなかったはずなのだ。なのに、チップの枚数を操作することなんて、出来るのか?
〔例えば、真実と及川が共犯だったのなら、それもあり得る。でも、及川が真解を好きなのも確かだろうから、及川には真実に協力する理由がない。それに、あのビンタは演技ではないと思う〕
 黙り込んでいると、電話の向こうでピチャピチャと水音がするのに気がついた。澪は一瞬身を硬くして、目を泳がせながら尋ねた。
「んん、真実。いまどこにいる?」
『お風呂だよ。わたしはいま、全裸で同級生の男の子と話しています』
 澪は真実の裸を想像しかけ、慌てて
「わかった。じゃ、また明日」
 と言って通話を切った。
 携帯電話をベッドに放り、仰向けに横たわる。脳裏に浮かぶぼんやりした白い体を掻き消すように、深呼吸した。
 2度3度、深く息を吸い込むと、動悸が治まった。澪は天井で光る、白くて丸い蛍光灯を見た。
〔疑問点は、2つ〕目を閉じて、考える。〔1つ、『少女のジレンマ』で、何故及川は1番を選んだのか。2つ、どうやって真実はチップ枚数を操作したのか〕
 その2つがわかれば、自ずと真実の必勝法も見えてくるだろう。
〔でも、この2つが、わからないんだよなぁ……〕
 だが、解き明かさないわけにはいかない。澪は、不思議な使命感を抱いていた。

Countinue

〜舞台裏〜
ようやく「ハートの奪い合い」の問題編が終わりました。いやー、長かった、長かった。
真解「結局『問題編』と『解答編』に分かれてたんだな」
そうなのですよー。果たして、真実が仕掛けた必勝法とは、いったい何か?
手がかりは全て、ここまでのどこかで提示されています。
是非皆さん、推理してみてください。

謎事「っていうか、本当にオレ達、本編に登場しないんだな」
んー……さすがに、主人公が出てこないってのはまずいかね。
謎「もし真解が登場せずに事件が解決するのなら、『摩探』に真解がいる意味が無くなってしまいますよね?」
真解〔それはそれで、事件から解放されるのなら嬉しいけど〕

ではまた次回。

作;黄黒真直

真相編を読む

本を閉じる inserted by FC2 system