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マヨネーズで真珠を作ってみる
1;問題提起
キグロは、雑学マニアである。そのため、我が家には雑学関係の本がたくさんある。
雑学の本を読んでいると、9割がた「へぇ」で終わってしまうのだが、たまに「本当か??」と身を乗り出し、自分で検証したくなる雑学がある。
そして今回そう思った雑学が、これだ。
「マヨネーズから真珠が作れる!?」
『話を盛り上げる究極の雑学』(ハテナスタジオ編・角川文庫)に載っていた雑学である。
以下は、この本からの引用である。
-----ここから-----
 まず、広口のビンを用意して水を張り、マヨネーズを小さじ一杯とうま味調味料、和風だしを少量ずつ加えます。これに消石灰(水酸化カルシウム)を小さじ一杯入れて金魚の飼育に使うポンプで空気を送ります。しだいに水が濁ってきますが、この状態がアコヤ貝の中と同じになっており、うま味調味料と和風だしは貝が持つうま味成分、消石灰は貝に含まれるカルシウム、そしてマヨネーズは真珠の光沢をつくる成分の、それぞれ代わりの役目を果たします。
 次に、真珠の核にするために、ボタンなど小さな玉を糸につけて水中につるします。その後は、消石灰を毎日小さじ一杯ずつ足しながら、四日間待つだけです。水中から引き上げると、つるしてあったボタンに真珠と同じ層が付着しており、これを磨くとあの神秘的な輝きが出てくるというわけです。(中略)一度試してみてはいかがでしょうか?
-----ここまで-----
「試してみてはいかがでしょうか?」と言われて、試さないわけにはいかない。
さぁ、早速やってみよう!

2;事前考察
その前に、ちょっと調べて、考えてみる。
調べたところ、真珠の主成分は、炭酸カルシウムだそうだ。
消石灰を水に溶かした物は、「石灰水」と呼ばれる。小学校の理科で登場した、「息を吹き込むと白くなる液」だ。
息を吹き込むと言う事は二酸化炭素を吹き込む、と言う事。
無色透明の水酸化カルシウム水溶液に二酸化炭素を通じると、白色の炭酸カルシウムを生じる。これが「白濁」の正体だ。
おそらくは、ビンの中でこの反応を起こし、そして生じた「白濁」を核の回りにつける、と言う事なのだろう。
……って、そんな方法でできるのなら、小学校の理科の授業で、バンバン真珠ができてしまいそうだが……?
また、インターネットでこの実験について簡単に調べてみたところ、「しだいに水が濁ってきますが」の「しだいに」というのは、約40分間である事がわかった。
だが、水や和風だし、うま味調味料の詳しい量の説明が、なかなか見つからない。
…まぁいい。とりあえず、適量でやってみることにしよう。

3;準備
まずは、材料の購入から。上の文章より、必要な材料は以下の通りだ。
うま味調味料、和風だし、ビン、マヨネーズ、消石灰、エアポンプ、真珠の核になる物、糸、割り箸
我が家ではうま味調味料等を使用しないので、買ってこなければならない。
近くのスーパーへ行き、AJINOMOTOの『味の素 赤袋』(¥138)と、同社の『ほんだしいりこだし 和風だしの素』(¥171)を購入。
スーパーで商品を見ながら、「だしなら自分で作ってもいいか?」とも思ったが、とりあえず購入。
また、エアポンプは近所のホームセンターより780円で、ビンは100円ショップで105円で購入した。
問題は、消石灰(水酸化カルシウム)である。
植物を育てるために、酸性土壌を中和するために土に混ぜる「石灰」が売っている。
石灰には生石灰と消石灰の二種類があり、酸性土壌を中和させる石灰は、消石灰の方である。
が、実際にお店に行って見てみると、不純物がやたら多く含まれているので、購入を辞した。
色々探し、高校の先生や友人たちにもこの実験の事を話しているうちに、後輩のS.Sからこんな助言が得られた。
「この間おせんべいを食べていたら、生石灰の乾燥剤が入ってましたよ」
生石灰には、水を吸収しやすい性質がある。そのため、乾燥剤として使用されるのだ。
以前に生石灰乾燥剤を生ごみと一緒に捨てて火事になる、と言う事件が多発した事から、てっきり製造中止になっていると思い込んでいたが…実はまだあったのか。
生石灰と水を反応させると、熱と共に消石灰を生成する。すなわち、乾燥剤を濡らせば消石灰が手に入るのだ。
持つべきものは、せんべい好きの後輩である。ありがとう。
早速スーパーへ行き、『柿の実南京』(¥207)と言うお菓子を購入。
しかし、乾燥剤目当てでお菓子を買うなど、長い人生でこれが最初で最後だろうなぁ…。
グリコのオマケを目的で買うのとは、わけが違う。
材料一覧
写真1 絞めて1608円なり


4;実験
と、言うわけで、材料は揃ったので実験開始だ。
まず、乾燥剤である生石灰を、粉にしなければならない。
「開けないでください」と言う乾燥剤の注意書きを無視し、中身を出してすり鉢で粉々にする。
生石灰は予想以上に硬く、なかなか砕けない。
今回の実験でやる分には、おそらく砕く必要はないだろうが、砕いた方が早く反応を起こすと思われるので、砕く事にした。
次に、ビンの7分目ほどまで水を入れ、そこにマヨネーズ、うま味調味料、和風だし(の素)、そして生石灰を混入。
しばらく割り箸でよくかき混ぜ、観察する。
本には、「しだいに水が濁ってきますが」と書いてあるが、この時点で既に濁っている。
生石灰は水に溶けやすいはずだが、もしや溶け残ってしまったか?
そして、エアーポンプを取り付け、空気を送る。
が、ここで予想だにしない事態が発生!
マヨネーズによって粘性が出来た水が、エアーポンプの空気で大きな泡を作り、ビンの外に溢れ出る……。
慌てて上からサランラップをかけて蓋をしたが、果たしてこれでいいのだろうか。
とりあえず、この状態で1時間強放置。テレビを見て帰って来ると、すっかり水が澄み切っている。
濁らんではないかっ!
よく見ると、底の方になにやら粉が沈殿している。もしかして、もう消石灰が炭酸カルシウムになってしまったか?
再び割り箸でかき混ぜて、ムリヤリ白濁させた後、割り箸にボタンを吊るしてビンに入れた。
こうして、実験装置が出来上がった。
ビン(上から)
写真2 よく見ると表面にマヨネーズが浮いている。

このまま、あとは消石灰を1日1杯加えつつ、4日間待つばかりである。
補足;今回の実験でわかったが、乾燥剤として使われている生石灰は、小さじ1杯半である。
乾燥剤2袋では足りないので、さらにもう一袋、購入してきた(それでも足りないが)。


さて、4日が経った。どうなっているだろうか。慎重にボタンを引き上げてみると…。
何も付着していないボタン
写真3 ???
全然ついてないじゃん!!

(クリックでものすごく拡大します)


わずかに、ボタンの穴の中に白い粉が付着しているかな? と言う感じである。
確かに「水中から引き上げると、つるしてあったボタンに真珠と同じ層が付着して」いる。
この粉は、おそらく炭酸水素カルシウムだろう。
だが、「これを磨くとあの神秘的な輝きが出てくる」とはとても思えない。そもそも磨けないじゃないか!
試しに再び水酸化カルシウム溶液につけて1週間ほど放置したが、全く変化がなかった。

と、言うわけで、残念ながら
   実 験 失 敗
である。
前半であれだけ引っ張っておいて、オチがこれと言うのは申し訳ないが、事実なので仕方がない。
メインの実験より、準備の方が長かったが、申し訳ない。

5;考察
さて、失敗してしまったわけだが、何故失敗してしまったのか。それを考えなければ科学ではない。
真っ先に思いついたのが、
可能性1;生石灰が消石灰にならなかった
可能性2;和風だしではなく、和風だしの素を使ったのが悪かった
の2つ。
可能性1を検証するため、液性を調べてみたところ、完全な強アルカリ性だった。
もし生石灰が生石灰のままだったら、液体は強酸性であるはずである。強アルカリ性なのは、生石灰が消石灰になった証拠と考えていいだろう。
可能性2はどうだろう。
和風だしも、和風だしの素も、成分は同じはずである。成分が同じであれば、化学的には同じもの、と見なせるはずだ。
和風だしの素には、「(和風だしの素は)煮るときに入れるのがポイント」と書いてあった。
普通の和風だしは、煮る前に作っておき、だしがでたらカスを取り除いて煮る物を入れる。
すなわち、和風だしも和風だしの素も、煮る物と混ざるタイミングは同じなのだ。
すると可能性2も潰える事になり、私が考えた可能性ではない、と言う事になる……。

6;感想
この実験は、発明家の酒井弥(さかいみのる)氏が考案したと言う事だが、彼は成功したらしい。
彼が設立した「酒井理化学研究所」と言うところにメールで質問したが、残念ながら返事はいただけなかった。
本来、科学の実験と言うのは、たった1回の実験で結論を出してはいけない。
材料は文字通り腐るほど余っているし、何回も条件を変えて実験を繰り返し、それから結論を出すべきなのだが…。
正直、飽きた。

実際には、このレポートに載せた実験の前に、1回、学校の理科室を借りて実験を行っている。
ビンを使わずビーカーを使い、割り箸の代わりに磁石でかき回す機械(名前を忘れた)を使い、ボタンの代わりにハンダを使ったが、

写真4 反射して見づらいが。

この通り、こびり付いてはいるが、真珠には見えない。
しかも、触っただけで簡単にボロボロと崩れてしまった。


結局、真珠は作れなかった。冒頭の本を書いた人は、実際にやったのだろうか?
事前考察の過程でわかった事だが、この実験は『発掘! あるある大事典』の第4回放送にて紹介され、有名になった物らしい。
ならばと思って同番組のHPに行ってみたが、「納豆捏造問題」の後だったため、HPは既に消えていた。
記念すべき第1回目の実験も、これにて終了である。
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2007年08月09日 レポート公開 inserted by FC2 system