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缶のプルタブを開けるのに必要な力を測定する

1;問題提起
女性に嫌われる女性と言うのは、得てして男性にモテるものである。
その代表格が、いわゆる「ぶりっ子」というものだろう。
「ぶりっ子」というのは死語のようで、では今はなんと言うのかと考えたが思い当たる語彙がなかったため「ぶりっ子」と書くが、
要するに「男性の前では猫を被る女性」の事である。
女性の前では低音で話し、ゴキブリを平気で叩き潰すようなキャラなのに、
男性の前では甘ったるい声で話し、オフィスにハエが闖入しただけでキャーキャー騒ぐような女性を言う。
そんなぶりっ子の典型的な行動パターンの1つに、「缶ジュースのプルタブが開けられない」と言うものがある。
力が足りないのか、不器用なのか不明だが、とにかくプルタブが開けられず、近くにいる男性に「開けてくださぁい」と頼むのだ。
しかし、ここでふと疑問が沸く。
「プルタブが開けられない」と言うのは、果たしてどれほど非力なのか?
プルタブを開けるのに必要な力の大きさを測定する。これが、今回の実験の目的である。

2;準備
さて、何を用意すれば良いか。
まずは缶ジュースである。
本来なら、様々な種類の缶(スチール、アルミの差のほかに、ジュース、炭酸飲料、清涼飲料水……など)を比較して調べるべきだが、
ぶっちゃけ面倒なので、今回はスチールとアルミの区別だけをすることにする。
問題は「どうやってプルタブを開ける力の大きさを測定するか」であるが、実はこれは簡単だ。
バネばかりを使えば良い。
バネばかりといえば、吊り下げた物の重さを量るための装置だが、実は「物の重さ」とは「地球が物を引っ張る力の大きさ」なのだ。
なので、バネばかりで何かを引っ張れば、引っ張った力の大きさを知ることが出来る。
本当の問題は「バネばかりはどこに売っているのか?」である。
で、近所のホームセンターに行ったが、売っていなかった。
どこに売っているのかなぁ、と「バネばかり」でネット検索したところ、Amazonに売っていた。
さすがアマゾン。なんでもあるぞアマゾン。
「売ってないのは家と土地だけ」という今考えた宣伝文句を差し上げるので、実験器具をタダで提供してくれないだろうか。

5kgバネばかり
図2.1 シンワ測定 パイプ手秤5kg 1995円

さて、あとは缶ジュースである。缶ジュースは、同じ物を2つ買うべきだろう。
何故なら、「開けるときの、缶の上面とプルタブの角度」を調べておきたいからだ。
というわけで買ってきた。

森永ココア3缶
図2.2 森永ココア。ちなみに、スチール缶である。

……何故3つも買ったのか、疑問に思うだろうか。
私も思う。
近所の自販機で買ってきたのだが、なんと2本目を買ったときに、「アタリ」が出たのだ。
残念ながら、このときカメラを持っていなかったので撮影できなかったが、本当に当たったのだ。
「もう1本プレゼント♪ 30秒以内に選んでね☆」
とアニメ声で言われて、思わず同じ物をもう1本買ってしまったのである。
どうせなら、アルミ缶を買うべきだったと、買ってから後悔した(ちなみにこれは、スチール缶である)。

3;方法
缶とバネばかりを買って真っ先に気がつくのは、フックが太すぎてプルタブの下に入らないことである。

フックが太くて、プルタブの下に入らない
図3.1 右手でフックを持ち、左手で撮影をする私は、右利きだろうか、左利きだろうか?

そこで、プルタブにビニールテープを結び、それを引っ張る事にした。

プルタブにテープを通し、それをフックで引く
図3.2 ビニールテープは、家に置いてあった物

さらに、ケータイを段ボール箱の上に置き、
ケータイのカメラでバネばかりの目盛りを録画しながら、バネばかりを引っ張る。
得られた映像から、プルタブを開けるために必要な力を求める事にしよう。
なお、今回の実験では、バネばかりが指した最大の力の大きさを、実験結果とすることとする。

4;実験その1
さて、まずは普通に缶を開けよう。開けるときの、缶の上面とプルタブの角度を調べるためだ。
ケータイのカメラで録画し、コマ送りで缶が開く瞬間の画像を探す。それがこれである。

缶を指で開ける瞬間
図4.1 缶を指で開ける瞬間

肝心のところが親指に隠れて見えないが、どのみち缶の淵に隠れて見えないので、気にしないものとする。
画面に分度器を当てて角度を測ると、角度はおよそ40°であった。
では、「方法」で示した方法でプルタブを開け、バネばかりが最大値を指す瞬間を探そう。
なんとなく予測が立っていたが、この「最大値を指す瞬間」は、プルタブが開く瞬間であった。
そしてその値は……

缶をバネばかりで開ける瞬間
図4.2 おわかりだろうか?
画像から、2.30kgである!

上の写真は、バネばかりのバネが戻る、まさにその瞬間の画像である。
写真をクリックしていただくと、前後約0.133秒の連続写真を見ていただくことが出来る。
また、測定結果を「2.3」ではなく「2.30」と書いたのは、有効数字の考え方があるからである。
このバネばかりは、0.05kg単位で目盛りが振ってある。
なので、「2.35でも2.25でもなく、2.3ピッタリである」ということを強調するため、こう書いた。

……ところで。この「2.30kg」がプルタブを開けるために必要な力かと言うと、違う。
そもそも力の単位は「N(ニュートン)」である。「kg」ではない。
どういうことか、と言うと、こういうことである。

「重さ」と「質量」と言うものを聞いたことがあると思う。
「重さ」とは、「地球が物を引っ張る力の大きさ」であり、その単位はkg……ではなく、Nである。
「質量」とは、「物体そのものが持っている“何か”の量」であり(何の量なのかは、現代物理学でもまだわかっていない)、その単位はkgである。
また、地球上では重さと質量の間に、
   重さ=質量×約9.81
という関係が成り立つ。この約9.81は重力加速度と呼ばれ、単位はm/s2である。
(重力加速度の細かい値は、地球上の場所によって微妙に異なってくる。また、月や火星では全く異なる値を取る)
そして、ここら辺が高校で物理を習った人が(教員も含めて)混乱するところなのだが……。
一般的に市販されている体重計や秤は、すべて「質量」を表示している。
高校の先生によっては、
「単位がkgとなっているが、あれは間違いで、本当は重さの単位のNを使わないといけない」
と言ったりもするが、正しくはkgで間違いない。
体重計は、得られた「重さ」を9.81で割った値を表示しているのだ。
体重計に乗って「体重60kg」と表示されたら、それは質量が60kgと言うことであり、
地球から受けている重力の大きさは、60×9.81=588.6Nなのだ。
だから、今回表示された2.30kgと言う値は、プルタブを引っ張った力の大きさを9.81で割った値なので、
力の大きさに直すには9.81倍してやる必要がある。
というわけで、プルタブを開けるのに必要な力の大きさは、2.30×9.81=22.563≒22.56Nである!

などと難しいことを書いたが、プルタブを開けられない人は、2.30kg以上の物を、指の力で引っ張れないと理解すればよいだろう。
要するに、質量2.30kgの物を持ち上げるのに必要な力が、22.56Nなのである。

5;実験その2
さて、「その1」で実験したココアの缶は、スチール缶である。
次は、アルミ缶で実験してみよう!

ペプシネックス アルミ
(左)図5.1 どちらかと言うと、コカが好き (右)図5.2 確かにアルミ缶である

というわけで、アルミ缶を購入。先ほどと全く同様の実験を行うと……

フレームアウト寸前
図5.3 いかがだろうか?
画像から、2.60kgである!

(画像を見ると、赤い線が2.55と2.60のほぼ中間あたりにあるように見える。よって、“四捨五入”の考え方から、2.60とした)

ギリギリでフレームアウトしてるかしてないかの瀬戸際だが、たぶん平気だろう。
何故フレームアウトしそうになったかというと、カメラを良く見ていなかったのが一番の原因だが、
缶の開き方にも問題があった。
缶が一気に開かずに段階的に開いてしまい、少しずつ手元が狂ったのである。
よく思い出してみると、普段缶を開けるときにも、
「プシッ……パシッ!」
と2段階で開いているような気がする。
意図的にこのように作られているのだとすれば、それはおそらく、開けるのに必要な力を軽減するためであろう。

なお、バネばかりでは2.60kgと表示されるたので、開けるために必要な力は
   2.60×9.81=25.506≒25.51[N]
である。

本来であれば、今回のような実験結果を正確に出すには、同様の実験を最低3回やって、平均を出す必要がある。
が、面倒なのでここまでとしよう。

6;結論
というわけで結論!
缶ジュースのプルタブを開けるのに必要な力の大きさは、おおよそ24Nであり、
これは質量で言えば2.45kg程度である。

スチール缶とアルミ缶の測定結果は、それぞれ2.30kgと2.60kgだったので、その中間を取って2.45kgとした。

7;考察
今回の実験の目的は、「プルタブを開けるのに必要な力を測定すること」であったが、
元々の動機は「プルタブを開けられない人は、どれほど非力なのか?」と疑問に思ったことだ。
初めは「2.45kg以上の物を持ち上げられない!」と結論付けようと思ったが、
よく考えたら、物を持ち上げるのは「腕の力」である。缶を開けるために必要な「指の力」ではない。
では、指の力は日常生活のどこに登場するか、と考えてみると……。
おそらく、握力ではないだろうか。
ここでいう「指の力」は、「指を曲げる力」である。物を握りつぶすときにも指を曲げるので、おそらく使う筋肉は一緒だ。
缶を開けるのは人差し指であるが、他の4本も同じ力を持っていると仮定すると、
プルタブを開けられない人の握力は、最大でも
   2.45 [kg]×5=12.25 [kg]
ということになる。
総務省統計局の統計によると、これは8歳の男女の握力の平均とほぼ等しい
(参考;http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/eStatTopPortal.do)

ちなみに、20歳から40歳くらいでは、男性は48kg前後、女性は29kg前後が平均となっている。
つまり、缶のプルタブを開けられない女性は、日本の成人女性の平均の半分以下の握力しかないことになる。
よほどの虚弱体質か、あり得ないほど不器用か、そのどちらかでないと、「プルタブが開けられない」などと言う事態にはならないだろう。

8;感想
今回の実験は、簡単なのですぐ終わる予定だったのだが、予想外に長い時間かかってしまった。
バネばかりを買ってからレポートを仕上げるまで、2ヶ月近くかかっている。
何故こんなにかかったのか、謎である。

バネばかりといえば、今回バネばかりを買うとき、何kgの物を買えばいいのか、悩んだ。
悩んだ原因は、私は「力の大きさ」を実感として理解していないからだろう。
高校で物理を習うと、「N(ニュートン)」なる奇怪な力の単位を教わり、それを使って計算を進める。
しかし「1Nがどのくらいの大きさなのか」が今ひとつイメージできず、
なんだか物理の計算が味気ないものに感じてしまうのだ。
今回5kgのバネばかりを買い、バネばかりを引っ張ったり、身の回りのものの重さを量ったりしたおかげで、
「1kg」や「1N」のイメージがなんとなくついた。
高校生のとき、体重計を使うなどして、積極的に「1Nがどのくらいの大きさなのか」を調べればよかったと思った。

今回の結果から、「プルタブを開けるのに必要な力が24N」とわかったので、
高校生の皆さん、24Nに関しては実感がわくようになったのではないでしょうか。

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2011年03月31日 レポート公開 inserted by FC2 system