メビウスの輪
それは、裏と表がつながっている輪
表を辿っていても、いつのまにかに裏に来ている…
これは、我々の住んでいるこの世界も同じ
表の世界で生活していても、ちょっとした弾みで…………


メビウスの輪⇔多重人格⇔
ようこそ。黄黒真直作、メビウスの輪へ。
わたしは語り手のメビウス。別に、メビウスの輪を造った(考えた)人物とはなんの関係もない。
今回の話しは、多重人格の人の話し。
別に記録小説でもなんでもない。ちょっとホラーの入った小説。
ゆっくり、お楽しみください。
メビウスの輪⇔多重人格⇔

 男は不思議な夢を見た。真っ暗なところで1人で立っていた。
 ふと、遠くの方から誰かが走ってくるのが見えた。誰だろう?男は目を凝らして見る。そして驚いた。向こうからやってきた人物は自分にそっくりだった。
 自分にそっくりにな人物はなおも近づいてくる。どんどん近づいてくる。男はよけようとした。しかし避けられなかった。そして…

 男の名前は君辻和裕(きみつじかずひろ)。突然目が覚め、ベッドの上でぼ〜っとしながら、今見た夢を思い出していた。
(しかし…変な夢だったな…。あの走ってきた男は誰だろう?ぼくなのか?)
 ぶつかる寸前か、それとも直後か。定かでない事がなんとなく気にかかったが、気にしない事にした。
「さてと…。夢を考えてたってしかたがない。支度するかぁ」
 君辻はそうつぶやいて朝食をとり、会社へ出かけた。なんとなく気になっていた夢も、そのころには忘れかかっていた。
 会社にはいつも早い方でつく。出世するため、いろいろとやっているのだ。もっとも、こんなことが出世に関係するかどうかはわからないが…。
 その朝もいつも通り早かった。普段と変わらぬ爽やかな朝。君辻は社内の自分の机につく。そして仕事を始めた。その頃には、今朝の不思議な夢もすっかり忘れていた。
 昼近くなり、君辻は昼食をとりに食堂へいった。
(さて…今日は何を食べるかな?)
 そんなのんきな事を考えていた。
 ふと時計を見ると1時を過ぎていた。
(!?何!?どういう事だ!?)
 君辻は驚き、動揺した。なぜたった今まで12時前だったのに、いきなり1時過ぎになったのか?
 どうせあっちの時計が間違ってるのだろう。そう考え、自分の腕時計を見てみた。すると、なんとそっちも1時過ぎ。
(!?どうなんてんだ!?)
 そういえば、さっきまで空腹だった腹も、満腹になっている。
(……………?)
 君辻には、なにも解らなかった。
(帰ったら、病院に行こう…)
 そう考え、仕事にもどった。
 しばらくして、上司に呼ばれた。どうやら、書類にミスがあったらしい。
「おい。この書類、若干だがミスがあるぞ。ちょっと慌てていたみたいだなどうした?いつもきっちりやってるのに…………………」
 君辻は、上司から10分ほど注意をうけた(どうやら、細かいミスでも長々と注意するタイプのようだ)。
「わかったか?」
「え?」
 君辻ははっとした。上司の話しをまったく聞いていなかったからだ。いや、君辻は始めの方は聞いていた。しかも、真剣だったし、ぼ〜っとしていた訳でもない。気がついたら聞いているのか?と聞かれていた。
「どうした?聞いていなかったのか?」
「いえ……」
「まあいい。仕事に戻れ」
「……………?」
 君辻には何も解らなかった。
 仕事中も君辻の記憶は時々飛んだ。そして、記憶がところどころ飛びつつ、君辻は終業時刻に即家へ帰り、病院へ向かった。

病院。
「どうしました?」
 ここは、予約無しでも大丈夫な便利な病院。君辻は、今日の記憶がとんだことをはなした。
「記憶が飛ぶ?」
「はい」
「若年性ボケかな…?でも、そんな感じもしないし…」
(そんな感じって…)
 君辻はこの医者が少し心配になったが、今は気にしないことにした。
「記憶が飛ぶ…」
 医者は少しうなってから
「最近、ショックな出来事はありましたか?嫌なことでも、うれしかったことでもいいですから」
 と聞いた。
 しかし、君辻にはそんな記憶はない。とりあえず「ありません」とだけ答えておいた。
「そうか。もしそうだったら、それが原因なのだが…」
 医者は少し悩み「また明日来なさい」といって、君辻を帰させた。

 次の日も、記憶が飛ぶ現象は治らなかった。それどころか、余計悪化した。もちろん、君辻は定時ジャストに退社し、病院へいった。
 君辻は、病院で会社での事を話した。
「そうか。悪化したか…」
「はい…」
「なにか、解らなかったか?」
「いえ…なにも…」
「そうか…」
 といってから、君辻はふとあることを思い出した。
「そういえば、今日、同僚が口調が変わったって言ってました」
「なに?口調が?」
「はい」
「………もしかしたら、あなたは多重人格かもしれませんな…」
「多重人格!?」
 君辻はもちろんのこと驚いた。
「な…なぜ?」
「理由はわからんが、多重人格なら説明がつく。もう一人の人物になっている間は記憶が無いし、口調も変わる」
「そうですか…」
「なにか、心当たりは無いか?」
 もう一度、そう聞かれ、君辻はあの夢を思い出した。関係ないとは思いつつも、そのことを話した。すると医者は驚いた表情で「それだ…」といった。
「え?それだって…まさか、これが原因なんですか?」
「それが原因ではないがな…。調べてみたところ、あなたは一卵性双生児だったようじゃないか?」
「ええ。確かに親はそう言ってます」
「生まれたあとすぐ、方っぽが亡くなった」
「ええ」
「それですよ」
 君辻には、まだ理由が解らない。医者は、説明を始めた。
「つまり、その死んだ方っぽが、未練を残していた、そして、今になって君に乗り移り、その未練を晴らそうとしているのだよ」
「そんなことがおこるんですかぁ!?」
「昨日、テレビでやってたぞ」
「……………」
「まぁ、気にするな。ともかく、そうなってしまったんだ」
 一瞬、双方とも黙り、医者がまた切り出した。
「これはもう、お寺か神社に行くしかないね。しかし、成仏させるのは結構大変だと思うよ」
 と、医者が言うと、君辻は驚いた表情で
「なに!?なんだそれは?成仏?お化けでもいるのか?」
 と、聞いた。
「え?………ああ、そうか。もう一人の人格になったのか」
「もう一人の人格?」
 君辻’は、またも聞いた。
「そうですね…。なんと言うべきか…。単刀直入に言うか。あなたは、多重人格です」
 というと、君辻’は目が飛び出そうなほど目を見開き、
「なんだと!?どういうことだ?おれが多重人格だと!?」
 と叫んだ。
「ええ。それと、あなたはもう死んでる人間なのです。早く成仏しなさい」
 医者が言うと、君辻は
「え?わたしが幽霊なんですか?」
 と言ってきた。
「あ、また変わったのか…。やりずらいなこりゃ…」
 医者は、少々呆れたようだ。
 君辻は医者と少し話してから帰った。医者は最後に「治したいのなら、お寺へ行きなさい」と付け加えた。

 さて、次の日から君辻の無茶苦茶な生活は始まった。医者にいってから、どうも心が入れ替わることが多くなったのだ。仕事中、食事中、会話中、どんな時でもおかまいなしに心が入れ替わる。相手も解ってはいるが、やりずらいことこの上ない。ついには、会社側から治るまで休んでいなさい、とまで言われた。
「治って帰ってきたら、机がなくなった、なんてことはないですよね?」
「もちろんないから安心しておけ」
 と会社はいったが、安心できる訳が無い。
 だが、気にしないで、君辻は次の日からありとあらゆるお寺に行った。時には、有名な降霊術師を呼んだが、なぜか駄目だった。
「もしかしたら、あなたがあなたの双子の霊だ、と知っているから、心のどこかで成仏させたくない、離したくない、と思ってるのかもしれません」
 と、降霊術師に言われた。
 そう言われては仕方が無い。だが、どうしても消したい。
 が、とても無理だった。
 うまくコントロールできればいいのだがそんなこと出来る訳がない。一番困るのが、人と話している時に意識が入れ替わることだ。
(くっそう…。どうにか何ねぇのかよ!)
 君辻は考えた。だが、名案は浮かばない。意識が入れ替わる感覚も短くなってきた。
 一時は自殺も考えたが、思い止まり、考え直した。
(なんか…なんか良い方法は無いのか!?)
 と、君辻は考えた。
 なんどもあの医者に診てもらったが、意味が無い。それに、医者が話している時に意識が入れ替わるのだから、たまったもんじゃない。
(なんかい良い方法は…)
 と、君辻は考えた
(なんでこんなことになっちまんたんだ?)
 と、君辻’は考えた。
(たしか、双子の兄弟の周りを走ってたら、ぶつかっちまったんだよな…。くそっ!)
(成仏してくれ…)
 と、君辻は考えた。
(成仏させてくれ…)
 と、君辻’は考えた。
 何度も何度も、これと似たようなことの繰り返し。
 何日も何日も…。
 そして、ある日、君辻は何故別の魂が自分の所に入ってきたか考えた。
(何故だ?…もしかして、実はぼくが本当は死んでいて、今まで借りていたのか…?)
 と、君辻は考えた。
(もしかして、おれはこいつにこの体を無意識に貸していたのか?ってことは、もう期限ってことなのか?)
 と、君辻’は考えた。
(もしかして…ぼくは既に死んだ人間だったのか…?)
 と、君辻は考えた。
(いや、そんな事はないか……。いや、だが、もしかしたら、本当は本当に君辻和裕なのかもしれない)
 と、君辻’は考えた。
(いや…ぼくは君辻和裕だ…。ちがうわけがない……だが…)
 と、君辻は考えた。
 そして、そのうち頭が混乱してきた。訳が分からなくなってきた。頭の中が真っ白になってきた………。
(ぼくは…一体…)
(おれは…一体…)
「誰なんだああぁぁ!?」
 その後の2人を知るものはいない。

教訓;生命の存在は、はかり知れないものである。

あとがき

こんにちは。書いておいて、教訓を考えるのを忘れていたキグロです。
とっさに考えたのが上。なんだこれは…(ぉぃ)
でも負けない(でも勝てない)。
前回、”好評だったら”次回もだす。と書いておいて、好評か不評かわからないうちに書いてしまいました。だって書きたかったんだもん。
ちなみに現在、メビウスの輪は、3個ぐらい話しを考え付きました。
つまり、あと3回は絶対にあるって訳だ。
では、また次回、御会いしましょう。
作;黄黒真直[kiguro2@yahoo.co.jp]
inserted by FC2 system