メビウスの輪
それは、裏と表がつながっている輪
表を辿っていても、いつのまにかに裏に来ている…
これは、我々の住んでいるこの世界も同じ
表の世界で生活していても、ちょっとした弾みで…………



メビウスの輪♪幸福な人生♪
ようこそ。黄黒真直作、メビウスの輪へ。わたしは語り手のメビウスです。
あなたは今、幸福ですか?それとも、不幸ですか?
この小説は、不幸なあなたにささげます。幸福な人も、一度、読んでみてください。
メビウスの輪♪幸福な人生♪

「おれは……不幸だ…。なんて…不幸…なんだ……」
 男は、薄い意識の中、そんなことを考えていた。
 男の名前は秋田光次郎(あきたこうじろう)。自殺未遂で、病院に運ばれたところだった。
「おれは…不幸だぁ…」
 秋田は薄い意識の中、なんどもつぶやいた。
 ことの発端は両親の突然死。
 秋田はそろそろ親孝行しようと、両親を連れて旅行へ行く途中だった。車で高速道路を走っていると、酔っぱらい運転か、寝ぼけ運転か、後ろからトラックが突っ込んで来た。
 奇跡的にも運転席にいた秋田は助かったが、後部座席に座っていた両親2人は死んだ。秋田はやっと親孝行を出来るようになり、最初の孝行だったのだから、ショックも相当なものだった。そのショックが大きすぎたのが原因で、秋田は仕事をする気力が無くなり、リストラにあい、仕事を失った。その矢先、詐欺にあい、家を奪われた。
 そして、秋田はほとんど一文無しになってしまった。
 そのため、秋田は自殺しようと川に飛び込んだ。が、、飛び込んだところにだけ岩があり、打ち所が良く、死には至らなかった。
「おれは……不幸だ…」
 数週間後、秋田は退院した。本当なら、治療に数ヶ月はかかる怪我だが、驚くほど早く治った、と言って、医者は驚いていた。
「はぁ……」
 秋田はため息ばかりでた。
 とりあえずほとんど無い金を使って、秋田は小さな小さな安いのボロアパートを借りた。
「はぁ……」
 秋田の口から出るのはため息ばかり。食事もまともに取れず、本当に窮地に立たされていた。
 さらに数週間がたった。
 秋田は就職先が見つからず、家賃も払えなくなってきた。
「はぁ……」
 秋田はここ数日、まったく何も食べていなかった。
ドンドンドン!
 と、ドアを叩く音が聞こえた。
「秋田さん!秋田さん!」
 その声は大家の声だった。
「ああ…。大家さん……。家賃…もう少し待って下さい…」
 が、大家には小さすぎて、その声は聞こえなかった。
「秋田さん!いないんですか?良いお知らせですよ!」
「良いお知らせ?」
 秋田には何のことだか解らなかった。秋田は、どこかの懸賞に応募したり、なんかのオーディションに応募した記憶もない。人間違いだろう…そうとも思ったが、このアパートに秋田という人間は、自分以外にいない。なんだろう?と思いつつ、秋田はドアを開けた。
「ほら、これ、保険会社から」
「保険会社?」
 秋田はどこの保健にもかかっていない。ますます訳が分からなくなってきた。
「はぁ…どうも」
 だが、とりあえず受け取っておいた。
 ドアを閉め、鍵をかけ(と言っても、こんなところに泥棒は入らないのだが)秋田は部屋に戻った。
「どれ…」
 封筒を開け、中身を見た。するとそこには、保険金の受け渡し証明書があった。
「え…?あ…。そうか…保健の事をすっかり忘れてた…。ありがとう…」
 そういって、秋田は銀行にお金を引き降ろしに行った。どうやら、一応銀行には入っている用だ。
 銀行で通帳を見るとなんと…
「え?どういう事だ…?お金が…大量に増えてる?おかしいな…なんでだろ?保健は数十万だし、利子にしては多すぎる…。銀行側のミスかな…?」
 善良な秋田は銀行員にお金が余分に大量に入っているということをいった。
「え?増えてますか?ちょっとお待ちください……………」
 銀行員は席を立ち、後ろへいった。
 しばらくして帰ってくると、こんなことをいった。
「保険金、利子以外に増えていることの事でしたね?これは、ご両親の遺産でございます」
「えっ!?」
 このことには秋田は驚いた。しかも、それがちょっとではないのだ。どうやら、秋田の親はもうすぐ定年退職だから一生懸命働き、たくさん貯金していたらしい。
「これなら…今のアパートの家賃何十年分って払えるぞ…」
 秋田は口の中でそうつぶやいた。
 秋田は心をおどらせたまま、とりあえず必要な生活費と家賃分だけをおろした。
 秋田は銀行から出た後も、心がおどっていた。何しろ、何十万、何千万、何億という大金が、一瞬で手に入ったからだ。
(これからどうしようかなぁ……)
 しかし、急に現実的になり考えた。
(たしかに、このお金は大金だ…だけど、無限じゃない…。今のうちに就職先を見つけよう)
 そして、秋田は就職先が見つかるまで、あのアパートで暮らすと、自分で目標(?)を立て、就職活動を行い始めた。
(あと何年かかるかな…?)
 しかし、意外とすんなり就職先が見つかった。しかも、エリート会社で給料も高い。
(ラッキー♪まじかよ。本当かよ!?)
 秋田は幸せの絶頂だった。
 ほんの数週間前まではもう絶望的で、自殺までしようとしたのに…。
「こんど入社した秋田君だ」
「よろしくお願いします」
 秋田は礼儀も良く、一瞬にして社内中の社員に好印象を与えた。
 入社数週間がたち、すっかり仕事場にもなじめた秋田。
「よ、今夜一緒に一杯やるか?」
 仕事場の先輩からは毎週末そう声をかけられる。
「はい。よろこんで」
 この先輩に対する接し方が、また好印象を与えた。
「秋田、仕事早いなぁ、おまえ…」
「いやぁ…。それほどでも…」
 秋田は毎日どんどん仕事がはかどった。おかげで、入社してから仕事が終わらず残業…なんて事は一度も無かった。
 そして、秋田はどんどん昇格していった。昇格するにつれ、どんどん昇給もした。
 秋田は重役まで昇り詰めた。
「おい秋田。今夜一杯やろうや。おまえの昇格祝いだ」
「あ、よろこんで」
 秋田はいくらえらくなっても先輩への礼儀は忘れなかった。それがまた更に好印象を与え、みんなから恨まれることは一切無かった。
「秋田、昇格おめでとう!おれより2年も遅く入社したのにおれより上にいくなんてなぁ」
「おれなんか、秋田より4年も先輩だぞ!?すげえなぁおまえ…」
「いやぁ…。ははは…」
 先輩達からいつもそう言わる秋田。照れ笑いをするしかない。
「そのうち、社長になっちまうんじゃねぇか?」
「さぁ…?どうなんでしょうね?」
「でもすげえなぁ。女社員の注目の的だぜ。おまえ」
「あ、そうなんですか?」
「憎い野郎だぜ…」
 秋田はもちろんの事もてた。容姿はそれほど良くないにしろ、頭がいいし、偉いし、性格も良く、その上優しい。秋田は何人もの女性を釘付けにした。秋田は、その釘付けにされた女性の中で、美人で優しく、性格もいい人を見つけた。頭はそれほど良くないみたいだったが、秋田にとっては、そこがまたよかった。秋田はどんどんその女性に引かれていった。
 そして、2人は結婚した。
 秋田の結婚した女性は西葉子(にしようこ)と言って、みんなから美人美人と言われ続けた人で、もちろんもてていた。
 女性にもてる男性と、男性にもてる女性。どこからみても、最高のカップルだった。
(幸せだなぁ…)
 秋田は心の奥底からそう思った。これ以上の幸せは絶対にない。
 金もあり、大きな家も買い、文句のつけられない女性と結婚し、会社では上の方にいけて、良い部下に恵まれる…。強いて文句を言うならば、両親がいない、と言うことだろうか。しかし、これ以上の幸せを望んではいけない…。秋田はそう考えた。

 結婚して数ヶ月がたった。
 ふと、秋田は何故か宝くじが買いたくなった。
(まあ、お金もあるし、1枚ぐらいならはずれても良いだろう…)
 そう考えたが、何故か3枚購入した。
 その宝くじは自分で番号を決める物だった。
(何番にしよう…。そうだなぁ…)
 秋田はふっと浮かんだ数字をでたらめにならべた。
 結果発表の日。たった3枚なんだから、外れるだろう…。そう思いながらも、新聞を広げ、結果発表の欄をみた。
 秋田の買った宝くじは1等の数字が1つ、2等の数字が2つ、3等が3つ…となっていた。
(えっと、まずは1位から……)
 秋田は1位から見た。1枚目、はずれ。2枚目…
(え!?なに…)
 秋田はもう一度番号をよ〜く見た。
(2、4、3、7………。あってる…当たったよ…)
「当たったああぁぁ〜〜!!」
「え!?何等が!?」
 秋田の妻、葉子が驚いてやって来た。
「1等!」
「うっそ〜!?3億円!?」
「ああ!」
「やった〜〜!!」
 しかし秋田は冷静に、
「ちょっとまて、残りの二枚も見てみる」
 と言って、残りの2枚も確認した。するとなんと…
「!?すごい!残りの2枚、両方とも2等だ!」
「え!?本当!?ってことは、2等が1億5千万なんだから…」
「全部合計して6億円!」
「うっそぉ〜〜〜〜〜!?」
「早速、換金してくる!」
「ちょっと待って、一緒に行くから!」
 秋田は胸がおどった。
(なんか、前もこんなことがあったな…。いっきに大金が入ってくる…。あれは…そうだ、親父達の遺産相続の時だ…。あの時は驚いたなぁ…)
 秋田夫婦は早速換金して、それをすぐに銀行に預けた。
「やったわね」
「うん」
 その大事件は、何故か会社中が知っていた。
「秋田!おまえ、宝くじで合計6億円手に入れたんだって!?」
「え!?なんで知ってるんですか?」
「おれの妻のところに、おまえの妻が電話して来たんだよ」
「おれの妻のところにも電話して来たぞ」
「あ…あいつ…」
 秋田はその日、いつもにまして注目の的だった。
「なぁ、6億円も当たったんだからさ、おごってくれよ」
「ああ、おごってくれや」
「う〜ん……。まぁ、いいよ」
「本当か!?」
「うん。みんな、毎日頑張ってるしね。特別に」
「ぃやったぁ〜!ありがとう!」
 この事がきっかけで、どんなことがあってもケチらない、いい人、となり秋田はますます人気が高まった。
 しかも、こういった事が秋田にとって、ストレスにや、プレッシャーにならなかった。

 数週間たち、ほとぼりがさめたころ、秋田はまた前と同じ宝くじを買いたい衝動にかられた。
(まぁ、6億円も手に入ったんだし、1枚ぐらい良いか…)
 と考えたのに、今度は何故か5枚購入した。しかも、全て同じ番号。
(これで当たったらすごいよな…)
 葉子に宝くじを見せると、
「あなたなら絶対に当たるわよ!何等になるかは解らないけど…」
「う〜ん…。相当確率ひくいからなぁ…」
「どのぐらい?」
「どのぐらいだろ…?全部で8桁なんだから、これで当たる確率は…」
 みなさんで計算して下さい。
 さて、結果発表の日が来た。
 秋田夫婦は新聞を広げ、結果発表の欄を見た。
「まずは1等から」
「えっと、2、8、4、1……………!?」
「え…」
 秋田夫婦は絶句した。なんと、1枚当たったのだ。さらに、全て同じ数なのだから…
「全部で15億円!?」
 秋田夫婦は同時に叫び、顔を見合わせ、抱き合って喜んだ。
「早速、換金しに行こう!」
「ええ!」
 この事には、相手もびっくり仰天。そこにたまたまいたスクープカメラマンがそれを撮影。新聞に売り込んだ。もちろん、秋田はあまり許可したくなかったが、葉子が許可した。
「これでわたし達、有名人ね!」
「ああ…」
 秋田はそれしか言いようが無かった。
 秋田は次の日会社に行くと、部下、上司、女社員問わず、みんなから話し掛けられた。
 どうやら、葉子から電話があったか、新聞を読んだようだ。そのどちらでも無くとも、この会社に来れば噂を聞くだろう。
「秋田、すごいですねぇ」
「いやぁ…」
「どうして当たったの?」
「さぁ…?」
「今度、コツを教えてよ…」
「いや…コツなんてないし…」
「お告げでも聞いたの?」
「いや…聞いてない…」
 秋田はその日1日、質問責めだった。
(今日は仕事がはかどらなさそうだ…。まぁ、うれしい悲鳴だな…)
 秋田はそういう事にしておいた。

 秋田はどういう訳か、また宝くじを買った。そして、また当たり、またスクープカメラマンと出会った…。
 そして、テレビにまででた。
 もはや、秋田の周りで秋田を知らない者はいない。
(ここまで来るとすごいの一言しか言えないな…)
 会社でもどんどん偉くなっていった。

 そしてそれから数ヶ月がたった。
 秋田一家に新しい仲間が増えた。子供が産まれたのだ。
「可愛いお嬢さんですよ」
 秋田は、本当に心の底から幸せになった。
 それから数年後、宝くじがジャンジャン当たり、今や日本中で有名人になっていた。
 そして、その名は世界にまで轟きかけていた。
 秋田はふっと仏壇を見た。
 そこには父と母が…。
「母さん、父さん…。いま、ボクは母さんと父さんがくれたお金を元に、こんな大きな家も建てて、会社でもとても偉くなって、大金もあり、愛する妻子がいて、良い部下に恵まれています…。ボクはいま、とても、とても、幸せです…。文句のいいようがありません…。強いて言うなら、母さんと父さんがいないことだけです…」
 そういった時に、大きな地震が起こった。突然起こり、秋田の部屋にあったタンスやクローゼットなどが秋田に向かって倒れて来た。
「うわああぁぁぁ!?」
 秋田はタンスやクローゼットなどの下敷きになった。
(な……そんな…重い…くそ…)
「ふぅ…。大きな地震だったね。ねぇ!?光次郎さん」
 隣の部屋で葉子の声が聞こえた。
「ぐ……が…」
 秋田は声が出せなかった。
「そういえば、大きな音がしたけど、どうしたの?」
 そういって、葉子がドアを開けた。そして、悲鳴をあげた。
(な……なぜ…だ…。この…部屋の…物だけ…が…倒れたのか……なぜ…なぜだ…せっかく……ここまで幸せに……なった…の…に……。おれは……不幸だ…。なんて…不幸…なんだ……)
「おれは…不幸だぁ…」
 秋田は薄い意識の中、そうつぶやいた。
 しかし、愛する妻子に莫大な遺産が残せたのだから、幸せなのかもしれない…。

教訓;人生の中で、幸福の量と不幸の量は同じである。

あとがき

金は天下の回り物。
この諺からヒントを得た今回の小説、いかがでしたか?
金は天下の回り物ってのは、今お金を持っている人はいつかはそれを失い、今お金を持ってない人はいつかそれを手に入れる、って意味です。念の為。
不幸な人はいつかは幸福になる。が、幸福な人はいつかは不幸になる…。人生、幸福の量と不幸の量は同じなのです。
しかし、ある物を幸せにするか、それとも不幸にするかはあなた自身です。毎日3度の飯が食えるだけで幸せになる人もいれば、天下統一でもしないと幸せになれない人もいます。莫大な遺産を愛する妻子に残して死ねれば、若くても幸せかどうか…?それはあなたが考えて下さい。

そうそう、余談ですが、数字8桁の宝くじが1等になる確率は(1等の数が1種類で『00000000』もある場合)、1億分の1です。
%に直すと0.000000001%です。多分…。0が多いんで、間違ってるかも。数学苦手だし。
誰か、得意な人、教えて…
それを当てたんだから、秋田はすごい男ですよ。しかも、5枚。
一度、そんな経験をしてみたい物だ……。ハッ。でもこの小説の通りになってしまうかもしれない……。
まぁ、そんな事はどうでもいいや。(ぉぃ)
あ、良ければ感想ください[kiguro2@yahoo.co.jp]です。
ではまた次回。
作;黄黒真直


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