メビウスの輪
それは、裏と表がつながっている輪
表を辿っていても、いつのまにかに裏に来ている…
これは、我々の住んでいるこの世界も同じ
表の世界で生活していても、ちょっとした弾みで…………


メビウスの輪†天国に一番近い人生†
ようこそ。キグロ作、メビウスの輪へ。
今回のテーマは天国。
あなたは死後、天国へ行くために何をしてますか?
食事の前に祈る?一日五回、土下座する?豚肉を食べない?神を祭る?それとも何もしていない…?
今回の小説は天国へ行きたいという方におすすめします。
メビウスの輪†天国に一番近い人生†

 ヒトはいつか必ず死ぬ。
 そしてヒトは死後、天国か地獄に行く。
 天国に行きたいという人は、地獄に行きたいという人より圧倒的に多いことだろう。
 あなたは天国に行きたいですか?
「はい」
 ならば、悪いことは絶対にしてはならない。泥棒や殺人はもちろん、人を騙したり、人を疑うのもいけない。虫だって、殺しちゃいけない。自殺もいけない。
「はい」
 天国へ行きたいのに、悪事を起こしてしまったら、その何十倍も償いなさい。そうすれば、神様も、閻魔様(えんまさま)も許してくださる。解りましたね?
「はい」
 まぁ、動物を料理する場合はしょうがないがね。
「はい…」
 少年の名は、桟道宗太郎(さんどうそうたろう)。いまは夢の中だ。
 桟道は毎日がとても辛かった。
 両親は小さい頃に亡くなり、今は祖父母の家で暮らしているが、祖父母もだんだん病気がちになってきて、世話がやける。学校も、ついつい休みがちになってしまう。
 掃除、洗濯、炊事、勉強…。家事全般から生活面まで、全て自分1人でこなしていた。それだけならまだしも、さらにそれが3人分なのだから、たまったもんじゃない。
 学校でも、友達の1人もいない。これという趣味も無く、毎日がつまらなかった。
 そんな桟道は、いつの日か、何故か死後の世界に憧れていた。死後、天国へ行きたい…。そう願っていた。だからこそ、こんな夢を見たのだろう。
「………。なんか…変な夢を見たな…」
 桟道は1人つぶやいた。
「………悪いことは絶対にしてはならない。泥棒や殺人はもちろん、人を騙したり、人を疑うのもいけない。虫だって、殺しちゃいけない。天国へ行きたいのに、悪事を起こしてしまったら、その何十倍も償いなさい。そうすれば、神様も、閻魔様も許してくださる…」
 桟道は、つぶやいた。
(そうか……)
 桟道は天国に行く為に善良になることを決心した。
「宗太郎…朝ご飯を早く作ってくれ」
「はい」
 祖母にいわれ、桟道は朝食を作り始めた。
 と、流しの上にクモが現れた。
(あ…クモだ…しかもデカイ)
 桟道はクモが嫌いだった。
(う…でも殺すわけにも行かないし……外に放そう…えと…どうしよ?ティッシュか新聞紙で…)
 桟道は結局ちりとりを持ってきて、それにクモを乗せ、外に放した。
(ふぅ、やれやれ…)
 それから朝食を作り、食卓に並べた。
「いつもすまんねぇ」
「いえ…」
 桟道は、いつもこんな感じだった。
(今日も…学校には行けないな…)
 桟道は誰のせいで学校に行けないのか知っていた。だが、いいつけを守って、恨むことはなかった。どっちにしろ、学校に行ったって楽しいことは無いのだから、恨む必要は無いのだが…。

 それから5年の月日が経った。
 桟道は、いまだに天国へ行くための努力をしていた。
 全ての人に、優しく接し、助けた。人を恨んだり、疑うことは絶対にしなかった。
 高校にこそ、行けなかったが…。
 そんな中、桟道の祖父が死んだ。
(おじいちゃんは…天国に行ったのかな?地獄に行ったのかな…?)
 不謹慎にも、そんな事を考えた。
 祖父が死んでも、まだ祖母が残っている。
 祖母はボケはしなかったが、寝たきりの生活になっていた。
「すまんね。宗太郎…」
「大丈夫。別に苦労してません」
 桟道は心からそう思った。……いや、そう思う、努力をした。その結果、心からそう思えるようになった。
 桟道は必死で介護した。
 だが、ある日急に具合が悪くなった。
「ちょっと待ってて下さいね。医者を呼びますから…」
 桟道は急いで医者を呼んだ。
「どうしましたか?」
「桟道美田湖(みたこ)の孫ですけど、祖母の具合が急に悪くなって…」
「ああ。桟道美田湖さんですね。すぐに行きます」
 医者が来た時には、すでに虫の息。
 まもなく死亡した。
 祖父が死んだという精神的ショックが死因の一つだろう、と医者は言った。
「ありがとうございました…」
「いえ…。お力になれなくて、残念です」
 桟道は1人になった。
 桟道は急に寂しくなった。
(………)
 1人で泣いた。

 いつしか桟道は、医者になろうと思っていた。それも、WHOのように、世界を駆け回れる医者に。
 高校に行き、大学に行き、留学して、勉強した。
 もちろん、いつもトップだった。
 だけど、何故か友達は出来なかった。
(そういえば、友達と呼べる人がいない…)
 桟道は気がついたが、別に誰も恨まなかった。もちろん、自分も。
(………。ま、いっか)
「いいのかよ」と言ってくれる人すらいなかった。

 勉強の甲斐(かい)があったのか、桟道はWHOに見事入れた。
 そして、アフリカの方へ行き、病気の子供たちの治療に努めた。
 どういうわけか、桟道の手にかかると、ほとんどの子供が治る。
「桟道さん、どうしてあなたが診ると、みんな治るんです?」
「世界中から薬を集めているから…としか言いようがありませんね」
「え?」
 桟道はなんと、WHOの収入を、必要最低限しか使わず、残りは全て治療費に当てていたのだ。
「本当に…!?」
「ええ」
(これぐらいしないと、子供の頃ついたたくさんの嘘や、殺した虫の償いができないしね……)
 歯を磨いている時は水を止めるなんてのは、桟道の家では当たり前。お風呂にはペットボトルを浮かべて水の量を減らし、自分で作れる物は、なんでも作る。料理も、毎日貧相な物である。
「すごいですね…」
「ええ。まぁ…。このぐらいしないと、いけないような気がして…」
「はぁ…」
 桟道は節約に節約を重ねたので、莫大な財産があった。それらを全て、医療費に当てていた。そう、全ては今までの全ての償いをするために。
 当然ながら、みんなに感謝されていた。
「先生、ありがとう(を、向こうの言葉で)」
 と言う声を、毎日のように聞く。
 桟道はうれしかった。
 WHOの収入を必要最低限だけ使い、後は全て医療費に当てる。
 そして、世界の子供たちの病気を治す。
 すると給料が入る。
 それをまた必要最低限だけ使い、後は全て医療費に当てる……。
 桟道は、ずっとこれの繰り返しだった。
「すごい寄附量ですね…桟道さん……」
「ええ…まぁ」
「なんか、全精力を医療に注いでると言うか何と言うか……医療の為に産まれてきたって感じですね」
「ははっ。確かにその通りですね」
 事実、本当にそうだった。

 そして、何十年もの月日が経った……。
 桟道は……死んだ。
 急に。パッタリと。
『自分の財産は、全て、医療費にあてて下さい』と言う遺言書を残して。

 桟道はハッと目が覚めた。
(ここは……どこだ?)
 とてもとても大きな川が桟道の目の前に流れていた。
 そして、その向こう側には綺麗な花畑……そう、天国だ。
 桟道は無意識のうちにその川を渡った。服も、髪も全く濡れなかったが、桟道は別に不思議に思わなかった。
「おめでとう。ここは天国だ」
 どこからか、声がした。
「え?天国…?」
「そうだ。君は、わたしが言った事を全て守った…驚いた事に…な。そして、天国へ来たんだ」
 桟道はあたりを見渡した。
 見渡す限りの綺麗な景色。争いの全くない世界。食べ物は豊富にあり、とても平和。
 しかし、桟道はすぐに気がついた。気がついてしまった。
 見渡す限り綺麗な景色なんじゃ無い。争いが全く無いんじゃない。食べ物が豊富にあるんじゃ無い。とても平和なんじゃ無い。
 景色が汚されようが無いのだ。争いが起こりようが無いのだ。食べ物が減りようが無いのだ。平和が乱されようが無いのだ。
 だって、そこには”誰も居なかった”のだから……。
「な…だ…誰も…いない…??」
「当たり前だろう。虫の一匹も殺さず、生涯嘘を付かず、人を疑わない人間など、いるわけが無い」
「な…そ……それじゃぁ…オレは……これから…ずっと…この孤独の世界で生きていくのか………??」
 もう、声もしなくなった。
「そんな……バカな…。う…嘘だろ…?こんなことなら…地獄へ行った方がマシだったかも……。いや、地獄は…もっと辛い…ハズだ……」
 桟道は生きる気力を無くした…が、無くしたところでどうにもならない。だって、もう死んでるんだから。

教訓;死を恐れろ、今を生きろ。

    〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜
こんにちは。キグロです。
今回の題名、あるドラマを真似したのは言うまでもありません。
いかがでしたでしょうか?なんだか、やっと教訓らしい教訓が書けたというか…ま、書きたくて書いてるから、内容がどうだろうと気にしないんですけどね(ぉぃぉぃ
少しは気にしろって??そんな、いちいち気にしてたらノイローゼで倒れるって(そんなバカな
ま、いいや(なにが?

しかし…天国に行けそうな条件をいろいろと並べてみたけど…とても行けそうにないな、ボク…。
でも負けない。
……………虫の一匹も殺すなって言われてるけど……一歩踏み出すだけで、何十匹と言うノミやダニを踏んづけてるんだよね…。
ま、神様もそのぐらいは見逃してくれるだろうよ。
では、また次回、会いましょう。

         作;黄黒真直

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