メビウスの輪
それは、裏と表がつながっている輪
表を辿っていても、いつのまにかに裏に来ている…
これは、我々の住んでいるこの世界も同じ
表の世界で生活していても、ちょっとした弾みで…………


メビウスの輪v恋人の条件v
こんにちは。わたしは語り手のメビウス。
さて、今回の話はとある若い青年を襲ったある信じられない出来事。
青年は目が見えなかったが、恋人もいて、幸せな毎日を送っていた。
だが、そんなある日、彼に驚くべき出来事が起こり、その日から、彼の生活は一変した……。
今回の物語は、今まさに思春期で、「誰かいいヒトいないかな?」と考えている者達に送る。
メビウスの輪v恋人の条件v

「こんな僕だけど…付き合ってくれないか?」
「ええ。もちろん」
 いま愛の告白をしたのは、高宮安治(たかみややすじ)。そして、告白されたのは唯村美代(ゆいむらみよ)。
 この告白シーンは、いまから2年ほど前の話である。
 高宮が「こんな僕」と言ったのは他でもない。彼は目が見えないのだ。
 だが、唯村にとって、そんなことはどうでもよかった。自分を愛していてさえくれれば、目が見えなかろうが、なんだろうが、全く関係がなかった。

 そんな熱い2人の仲は、2年以上経っても、冷める事はなかった。
 2人は、現在同棲中。まだ誰も口にはしていないが、誰もが心の中で「結婚を前提とした付き合い」と認識していた。
 そんな中、悲劇が起こった。
「今日は、どっか行く?」
「そうだなぁ…。最近、休みの日でもほとんど出かけてないもんな…」
 ある休みの日の朝の会話だった。
「じゃあ、ドライブにでも…どう?」
「そう…だな」
 こうして、2人はドライブに行くことになった(もちろん、唯村が運転する)。
「どこ行く?」
「そうだなぁ…どうしようか?」
 走りながら会話を交わしていた。
 それがまずかったのかもしれない。いや、相手の方がまずかったが、発見が送れたのはこの会話のせいかもしれない。
 突然、対向車線から車が突っ込んできたのだ。
「きゃっ!?」
「うわっ!?」
 ばっぎゃぁああああぁあん!
 と爆音を轟かせ、2台の車は見るも無残な姿へと一瞬で変貌してしまった。
「きゃああぁっ!!」
「だ、誰か、早く救急車を!」
 辺りは、大混乱に巻き込まれた。


「手術中」のランプが消えた。
「安治さんも、美代さんも、なんとか一命を取り止めました。あとは、意識が戻るのを待つだけです」
「よかった…」
 2人の両親は、それを聞いて一安心した。しかし、早く意識が戻ってくれないと、後に障害が残る可能性ある。早く戻ってくれ…。2人の両親は、必死に願った。
 だが、唯村の両親に、衝撃の事実を知らされた。
「実は……美代さんの事なのですが…」
「え?」
「運転席に座っていたため、対向車からの衝撃が激しく、顔に大きな傷跡がついてしまったのです…。そして、その傷跡は一生…残ると思われます」
「えっ…そんな……」
 その事実を唯村自身と高宮が聞くのは、そう遠くない未来だった。
「そんな……そんな………」
 唯村は深い失意に襲われた。
「大丈夫だよ。僕がついてる…」
「う…ぅぅ……」
 唯村は泣きだした。

 数日後、今度は高宮が衝撃の事実に気付いた。
 初めは、別にきのせいだと思っていた。まさか、そんなことがあるわけがない。だが、その事実は少しずつ真実味を増し、ついには完全に確証を得れた。
 なんと、高宮は事故の衝撃で、両目に光が宿りだしたのだ。
「み……見える…。見える…ぞ…。み……見えるぞおおぉっ!!」
 高宮はすぐに唯村に、両親に、医者にそのことを言った。
「高宮さん…本当に、見えるんですか」
 医者が半信半疑で問いだした。
「本当ですよ! なんなら、視力検査でもなんでも受けますよ!」
 いろんな検査をしたところ、どうやら本当に気のせいではなかったようだ。
 ほとんどの人物は喜んだが、唯村だけはあまり喜ばなかった。
「どうしたんだ? 美代。何故喜んでくれないんだ?」
「だって…安治がわたしの顔を見えるようになったら…わたしの顔の傷を見たら…わたしの事を、嫌いになりそうで…」
「大丈夫だよ! そんな傷跡なんて、僕らの愛には関係ない!」

 高宮は豪語したが、やはり関係あった。
 唯村が心配した通り、退院後、高宮はいつまでも帰ってこなくなった。
〔安治…まさか…誰か別の女と付き合ってるんじゃ…〕
 でも…安治に限ってそんなことは……。などと悠長な事を考えていた唯村が甘かった。
 数ヵ月後、高宮は唯村の前から消え去り、それきり音信不通になってしまった。
「安治…そんな…嘘でしょ…? 安治……安治いぃっ!!」
 唯村は、またも深い失意に襲われた。

 一方そのころ、高宮は別な女性と同棲していた。
 今度の女性の名は、壱平葵(いちひらあおい)。この上ない美人だった。
「ねぇ安治…」
「ん?」
「あの女の人…いいの? ほっといちゃって」
「い〜のい〜の。あんな女。キミの方がよっぽど素敵だよ」
 壱平のことを、高宮は初めは理想的な女性だと思っていた。
 だが、徐々にその理想は崩れていった。
「ねぇ安治…。ちょっと、お皿、洗っといてくんない?」
「えぇ?」
「いいでしょ。やってよ…」
「ちっ。わかったよ…やるよ」
 そう。壱平は尻に敷くタイプだったのだ。
 ことあるごとに高宮に命令を下し、自分は何もやらなかった。
「ちょっとは家事もしたらどうだ!?」
 高宮がこう言うと、
「あ!? うっせんだよ!!」
 と怒鳴り返す。
 高宮はついに、壱平と別れた。美人は三日で飽きるとは、本当だった。

 顔が良いだけじゃダメだ。性格もよくないと。
 そのとき、高宮の頭に、一瞬唯村の顔が横切った。
 ダメだ、あんな女。顔が良くない。
 もっといい女はいないのだろうか?
 そして、すぐに別な女性が見つかった。
 今度の女性の名前は、丸原辰美(まるはらたつみ)。美人で、性格もよかった。
「僕と、付き合ってくれないか?」
「ええ。いいわよ」
 高宮は元々スタイルがよかったのかなんなのか、もてた。
 例によって、2人はすぐに同棲生活を送りはじめた。
〔辰美なら、顔もいいし、性格もいい。文句のない女だ〕
「どうしたの? わたしの顔をずっと見て…」
「いや、なんでもないさ」
「?」
 確かに、丸原は美人だったし、性格も良かった。だが、やはり一つ欠点があった。まるで子どものように、物をすぐにねだった。
 初めのうちは、高宮もそれが可愛らしくて良かったのだが、それがずっと続くと、さすがに嫌気がさしてきた。
 そう、金が足りなくなって来たのだ。
〔くそっ。なんだってんだ。オレが一生懸命貯めた金だというのに…〕
「ねぇ、安治ぃ。わたし今度これが欲しい」
「ん? 服だと…? ダメだ」
「えぇ。なんでぇ? 買ってよぉ」
「ダメだ! 金がねぇんだ!!」
「えぇ。欲しい!」
「ダメだと言ったら、ダメだっ!!」
 そして、2人は別れた。

 高宮の理想は、ますます高くなっていった。
 そして、いつもいつもその理想に合う女性と付き合っていた。
 あるときは美人で性格がよく、物をねだらないが、代わりに自分で物を買いまくり、すぐに借金を作るような、金遣いの荒い女性。
 あるときは美人で性格がよくて物をねだらず金遣いも荒くないが、スタイルが悪い女性。
 あるときは美人で性格がよくて物をねだらず金遣いも荒くなく容姿も良いが、頭が悪い女性。
 あるときは美人で性格がよくて物をねだらず金遣いも荒くなく容姿も良く頭も良いが、食べまくる女性。
 高宮は次々と付き合っては別れ、付き合っては別れと、ギネスに載るのではと思われるほどそれを繰り返した。
〔くそっ。何故だ!? 何故良い女がいないんだ!? みんなどこかに欠点がある…。くそっ……完璧な女…〕
 そのとき、忘れかけていた顔が…唯村美代の顔がふと浮かんだ。
〔美代…? いや、だが、美代は………顔に傷跡が…〕
 だが、気付いた。
 美代の傷跡など、そんなもの、関係ない。
 美代は美人だ。そこにちょっとぐらい傷跡がつこうが、関係ないじゃないか。
 現に、目が見えるようになる前、美代のことを愛していたではないか。顔なんて関係ないという、立派な証拠なのではないのか?
 高宮は自分に問い掛けた。
 そうだ。理想の女とは、美代のことだったのだ。
「美代……。いまどこにいるんだ? 美代…美代……」
 だが、合わなくなってからもはや計り知れないほどの年月が経っている。いまさら、どうやって捜すと言うのだ?
 仮に見つけても、なんと言って声を掛けるのだ?
 美代を捨てた自分に、美代を捜す資格などない。
「美代……美代………美代ぉ……………みよおおおぉぉぉおぉおぉおぉっ!!」


「安治…?」
 美代の声だ。
「安治…?」
 また聞こえた。
「み……よ……?」
「安治!!」
 今度は同時に複数の声が聞こえた。
 美代と……高宮の両親の声だ。
「安治!? 気がついたの!? 安治!!」
「あ……う…?」
 わけがわからぬまま、高宮は返事をした。ここはどこで、自分は何故こんなところにいるのか?
 薄っすらと目を開けた。
 …が、何も見えない。
〔あ…あれ? …なんで真っ暗なんだ…?〕
「安治さん、気がついたんですか?」
 聞きなれない男の声がした。…いや、何度か聞いたことのある声だ。医者の声だ。
「あ…あの…僕は……いったい…?」
 高宮はゆっくりと起き上がった。
「覚えてないんですか? あなたは事故にあわれたんですよ。そして、1ヵ月以上も寝たきりだったんです」
「事故…? 1ヵ月…?」
「ええ。唯村さんとのドライブ中に…」
 ということは、いままでのことは全て夢だったのか…?
 目が見えるようになり、傷跡が残った美代の顔を見て美代を捨て、次々と女を乗り換えた……。
〔そうか…全部夢だったのか…そう…だよな。あんな事故で、目が見えるようになるわけないしな…〕
「でも…よかった…。安治が気がついて…。よかった…ぁ………」
 唯村は泣きだした。
 そんな唯村を、高宮は手探りで抱きしめた。
 そう、理想の女性とは、唯村なのだ。これ以上、何もいらない。唯村こそが、理想の……。
 そんな思いに浸っていたためだろうか。高宮は気が付かなかった。
 だが、高村が衝撃の事実に気付くのも、もはや時間の問題だろう。
 唯村が嘘泣きをしているということに。
 唯村は、目も見えず、ずっと眠ったままの高村に愛想がつき、他の男に乗り換えていたということに……。

教訓;高すぎる理想は、逆に自らを不幸におとしいれるのかもしれない。

〜〜〜〜あとがき〜〜〜〜
またしても、前回からの間がすごい長かったですね…。すみません。
さて、いかがでしたか? 今回のメビウスの輪は。
たまにはいいかなと、恋愛物をやって見ました。
いやしかし、本当に世の中にはいる(と思う)んですよ。
え? 誰がって? 全員ですよ。
まぁ、別に全員あったわけじゃないですから、どうかわかりませんが、たぶんいますよ。捜せば結構。
見たくないけど。

今回の物語、本当は高宮が叫ぶシーンで終わらせるつもりだったんですけど、それだとさすがに最後が予想できちゃうかな? と思い、読者の心理の裏をついたエンディングにしてみました。
他にもいろいろエンディング考えたんですよね。
顔の傷を見て消え去った高宮を連れ戻すために、唯村は壱平達に頼んでああいう演技をしてもらった、とか。
最後に唯村も含めていままでの女全員出てきて、高宮をタコ殴りにする、とかいろいろ(いいのか、打ち明けて)。
その中で、一番衝撃的なエンディングにしました。なにしろ、最初っから衝撃でしたからね。
この衝撃も、転んで頭をうった後、視力が戻って唯村の顔を見たらすっごいブスで、思わず逃げ出した、とか。
事故で高村の視力が戻ったかわりに、唯村は両足を失った、とかいろいろ(だからいいのか、打ち明けて)。
別に構わんでっしゃろ。
では、いつになるかわかりませんが、また次回あいましょう。

作;黄黒真直

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